わが社のビジネスに活かす生成系AI

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わが社のビジネスに活かす生成系AI
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2022年11月にリリースされ、わずか5日間で100万人のユーザーを獲得したといわれるOpenAI社の「ChatGPT」は公開から2か月で1億ユーザーにまで成長※1し、まさに生成系AIの火付け役となったといえます。登録するとすぐに使い始められる手軽さと、アウトプットされる文章の違和感のなさから、使ってみて驚いた方も多いはずです。プライベート、ビジネスの双方で活用するケースが増え、書店でもその活用ノウハウのまとめた書籍が見られるようになりました。また、ビジネス利用においては、各種連携ツールやシステムが日々リリースされています。そして、今年の3月頃からChatGPTと連携して、違和感の無いわかりやすい返答ができる機能を実装したシステムが登場しており、今後はさらに生成系AIを導入する企業は増えていくでしょう。
一方で、多種多様なシステムが出てくると、区別が難しくなります。中堅中小企業のクライアントに対して、基幹システムの刷新や業務システムの導入で要求分析やシステム選定を行うことが多い立場から、生成系AIの概要と自社のビジネスに活かすためのポイントを以下のように考えています。

※1 株式会社野村総合研究所 日本のChatGPT利用動向(2023年4月時点)

1.生成系AIとは

(1)従来AIとの違い

従来のAIは、需要予測、文章識別、画像識別など、作業の一部を高速かつ高精度に実行するというタスクに活用されていて、人間のクリエイティビティが必要とされる領域には進出が難しいとされていました。これが、近年では生成モデルという技術を使うことでAIによってオリジナルの音楽、画像、文章を作成できるようになっています。先述の「ChatGPT」は生成した文章が自然な表現であり、言われないとAIが作成した事実を人が判別することが難しいレベルに達している点から、今後AIの活用領域が一気に広がると期待されています。

(2)生成系AIの全体像

様々な種類の生成系AIがリリースされていますが、何を生成するかで整理すると全体像を捉えやすいです。

①文章生成
②画像生成
③音楽(音声)生成
④動画生成

今後は生成系AIがより汎用化されることで、上記の枠組みにとらわれないアウトプット(例えば、テキストで指示すると、音声付き動画を生成する、画像付きの資料を作成するなど)もできるように進化するでしょう。

(3)生成系AIを可能にした代表的な技術

生成AIの基本となる技術はエンコーダーデコーダーモデルといわれるものです。文章や画像のデータをエンコーダーによって特徴量に圧縮し、その特徴量をデコーダーによって復元するという処理を行っています。この特徴量を微妙に変化させることで、オリジナルの文章や画像を生成しています。文章生成においてはTransformer、BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)、GPT(Generative Pre-trained Transformer)が有名です。Transformerはセルフアテンションという機能を持っており、情報・文章の単語に"重みづけ"をすることができます。それにより文章をより深く理解することができるようになっています。またBERTは事前学習とファインチューニングという仕組みを使っており、学習用データで事前学習を行うことで、その後専門タスクに特化するためのチューニングに必要な学習用データや時間を削減できるというメリットがあります。また、GPTはTransformerを多層化することで、ファインチューニングに必要なデータをさらに削減し、zero-shot学習(特に参考情報なしで指示した内容に沿った出力を行う)を実現できるようにしています。

2.生成系AIの課題とリスク ~正しく知って、正しく活用~

(1)生成系AIの課題(今後期待されること)

活用する領域を拡大するためには、インプット形式の多様化がひとつのカギであると考えています。現状の生成系AIはテキストをインプットに、画像やテキストをアウトプットするものが主流です。しかし、我々人間は、耳を通して音声をインプットしたり、目を通して映像をインプットしたりすることができます。今後、音声データや映像データをそのままインプットできる機能が充実していくことでより人が行っていた仕事を代替できるようになるでしょう。また、人間の脳を直接マシンにつなぐ、ブレインマシンインターフェース(BMI)による指示も可能になれば、以心伝心でAIが仕事をしてくれる未来も期待できます。
上記のような機能面以外にも、インフラ面での課題も指摘されており、大規模な計算処理を安定して実行するためには、計算リソースの確保(ハード、ソフト、電源)が必要とされています。これに対しては、経済産業省がスーパーコンピューターの開発費用を補助するなどの動きも出始めています。※2

※2:さくらインターネット、生成AI向けクラウドサービス開始へ

(2)生成系AIのリスク

生成系AIのリスクも指摘されており、企業機密や個人情報の漏洩、個人の権利(著作権や肖像権など)侵害、幻覚(ハルシネーション)などが挙げられます。生成系AIに入力したデータはAIの学習に利用されるため、文章生成の際に、機密情報や個人情報を含む内容が第三者に提供されるリスクがあります。また、著作権のある書籍や画像、個人情報を含むSNSの投稿などが無断されたとして、米国では著名な作家やコメディアンが訴訟を起こすという事例も発生しています。他にも、AIが事実と異なる情報を提示する「幻覚」という事象も確認されており、ユーザーが妥当性や出典を確認するなど適切なリテラシーを持つことも重要視されています。

3.生成系AIの活用戦略を設計しよう

(1)「何のために使うのか」目的の明確化が最初の一歩

試しにChatGPTなどの生成系AIを使ってみることは悪くないですが、ビジネスや業務への適用を考える際にはより上位の戦略策定が重要です。無償のツールであればよいかもしれませんが、ビジネスユースに耐える機能ともなれば当然投資も必要となるでしょう。その場合にはやはり、わが社の経営戦略、事業戦略、部門目標に対してどういったメリットがあるかを、デジタル戦略として示す必要があります。生成系AIの活用においては他のシステム同様に、人手不足や人件費高騰に対する「省人化」、収益や生産性向上のための「効率化」、経営判断情報の「高度化」などが目的となるケースが多いかと思います。我が社のビジネスや業務上の課題を把握したうえで、生成系AIという手段をどこに適用するのか、それを設計していくことが活用のポイントとなります。

(2)社内での活用ルールを明文化する

生成系AIにはリスクがあると述べました。機密の漏洩や間違った情報の提供などは自社の競争力や製品・サービス品質確保において致命的なトラブルにつながる可能性もあります。会社として生成系AIを活用するために運用ルールやガイドラインを明確にしておくべきといえます。まだ新しい分野のため、経営、システム、法務、業務の各部署の代表者が活用方法やその場合懸念される事項などを議論し、海外や国内先進企業の事例なども参考にルールを整備していくワーキンググループを立ち上げることもよいでしょう。

(3)生成系AIの活用ナレッジを貯めて、共有する

ルールの整備が"守り"の観点だとすると、ナレッジの蓄積は"攻め"の観点といえるでしょう。生成系AI(特にChatGPTのようなテキストをインプットする形式のもの)はどういった指示を出すかによって、アウトプットの質が左右されます。AIに適切な指示を出すためのプロンプトエンジニアリングと呼ばれる概念も登場しました。つまり、AIにどう指示するかがノウハウになっていくということです。プロンプトのサンプルを標準搭載したシステムなども現れ、ノウハウの形式知化、システム実装が進んでいます。社内で生成系AIを活用した事例を共有するなどして、自社のビジネスや業務に沿った活用ナレッジを組織知としていくこともポイントになるでしょう。

(4)生成系AIを活用したツール

最後に、ビジネスで活用可能なツールをいくつか紹介します。

①生成系AI活用のガバナンスを強化するツール:
機能は様々だが特徴として、「入力した情報をAIの学習データとして提供しない機能」「社員のAI活用状況を管理できる機能」を有したものが多いです。リスクが少ない形で組織的に生成系AIの活用を推進していくことができるため、経営者、システム管理者は注目すべきツールといえます。

②文章&資料生成ツール:
用途が広く様々なシーンでの活用が増えています。文書の要約や議事録作成、ToDoの抽出などもできますし、文章の多言語翻訳、校正、レビュー、画像生成と組み合わせた資料作成などもできるようになってきました。また、ExcelのVBAなどのコードを生成することもできるため、プログラミング初心者向けにも活用が期待されています。ChatGPTの知名度もあり、一気に活用が広がっているツールのカテゴリーです。

③ナレッジマネジメントツール:
AIチャットボットに文章生成AIの機能を連携したものがリリースされていて、回答内容をより自然な文章でユーザーにわかりやすく提示することができます。主にバックオフィス系で運用されており、社内の既定やマニュアルを学習させ、システム部や総務部などの問合せ対応をチャットボットに代替させることで業務効率化を狙うことができます。

④画像生成ツール:
テキスト情報から画像を生成する機能が基本的に備わっています。用途としては、キャラクターやロゴデザイン、広告の作成やカタログ用の写真加工などマーケティング担当者の業務効率化、デザインの差別化などに活用されるケースが多いです。

まとめ

生成系AIの登場により、AI活用は業務効率化の枠を超え、顧客体験価値や満足度の向上にも活用することが期待されています。今後さらに多くのシステムやツールがリリースされることは間違いありません。「自社のビジネス、業務にどう活用するのか?」という目的意識を常に持ち、最新の情報をキャッチアップしていくことが企業の競争力を高めていくことに繋がっていくでしょう。

AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
マネジメントDX チーフマネジャー
坂野 薫

大手製造業の設計領域を中心に業務効率化活動を行うコンサルティング会社を経て、当社に入社。現在は、デジタル化における業務効率化をテーマに専門知識とノウハウを駆使し、戦略策定から具体的な実行推進支援までを企業の実情に即して提供。「考え続け、行動する」を信条に、スピード感と実行力のあるコンサルティングに定評がある。

坂野 薫
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