視察先概要　～卸機能をコアとした、下流領域への事業多角化～

2014年5月21日、「ヘルスケアビジネス成長戦略研究会」では、「ヘルスケアビジネス市場での事業多角化」をテーマに視察型勉強会を実施した。今回、視察させて頂いたのは、岩手県の株式会社三協医科器械様である。
同社は、医療機器ディーラーから介護・予防サービス分野への事業多角化に成功されたモデル企業であり、現在では、医療機器・材料の販売に加え、介護・福祉用具の販売・レンタル、高齢者介護施設・フィットネスクラブ運営を手掛けておられる。

多角化の経緯　～その現実・事実は、本当に対岸の火事か？

多角化の経緯は、「薄利多忙からの脱却」。医療費抑政策により薬価引き下げが続いた結果、地元の薬卸会社が全て大手資本に吸収・合併された。また、自治体病院の統廃合・病床の削減が進む中、医療機器・材料価格の引き下げや、地場・全国ディーラーとの価格競争による消耗戦（販売すれど利益は出ずの状態）が待ち受けているいるのではないか？と考え、本業の医療機器ディーラー事業以外の収益源を求めるにいたったとのことである。
1993年に別会社として、介護・福祉器具・用具の販売・レンタル会社である株式会社サンメディカルを立ち上げ介護分野に参入。2000年の介護保険制度開始と同時に、介護施設運営にも進出し、デイサービス事業所、グループホーム、小規模多機能型居宅介護施設、有料老人ホームを毎年１事業所のペースで新規に立ち上げておられる。また、筋肉の衰えを防ぐことが介護予防に繋がるとの観点から、デイサービス事業とシナジー効果が見込めるフィットネス分野にも進出された。

多角化成功のポイント　～やる・やらない・やりたくないを決める～

同社の多角化成功の一番ポイントは、新規事業進出に際しての、明確な価値判断基準にある。以下は、同社の「新規事業進出の条件」である。

　要するに、「やること」「やらないこと」「やりたくないこと」が、新規事業進出前か
　ら明確に定義されており、そのフィルターを通過しない新規事業は手掛けないことが徹
　底されているのである。
　ちなみに、現在の同社グループの年商は約40億円、従業員数は約280名である。本業で
　あった医療機器・材料関連の売上は現在では全体の約60％と、多角化した介護・予防事
　業の事業が拡大・成長している。事業拡大の一因としては、介護保険制度の開始という
　社会的な追い風はあったかもしれないが、介護保険制度開始の前から、既に介護・福祉
　分野に進出されており、そのことで、同業の医療機器ディーラーが価格競争による粗利
　率低下や業界再編の脅威にさらされる中で、医療機器ディーラー事業といった単一事業
　ではなし得なかった、安定的かつ多面的な収益基盤を確立するにいたっておられる。

まとめ　～未来を先見し、今を変える～

同社は、本業である医療機器・材料の卸機能をコアとしながらも、福祉・予防分野の下流領域で事業多角化に成功された。医薬品卸業界の再編を対岸の火事と片付けず、今後の自社が属する業界動向を冷静に先見し、他社に先んじて自社の変異を決断されたことが、同社の成長過程からみると最大の転換期であったと推察する。医療・介護業界は、常時制度リスクが付きまとう業界である。だからこそ、法改正に焦点をあてた対処療法的な事業展開ではなく、「マクロな潮流の本質を押さえ、未来をイメージした上で、今なすべきことをする・正しい経営判断を下す」といった先見力の重要性を今回の視察を通じ改めて学ばせていただいた。

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株式会社三協医科器械様

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