"次代へ挑む" ファーストコールカンパニーの取組み

朝日酒造株式会社

朝日酒造株式会社

  • 取締役社長 細田 康 氏

株式会社タナベ経営

  • 取締役副社長 長尾 吉邦
  • 新潟支社長 遠藤 俊一

30年周期で訪れる変化へ敏感に対応

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長尾 タナベ経営のコンサルティングを活用いただき、ありがとうございます。御社は創業184 年を迎えた酒造メーカーの老舗です。まず、朝日酒造の歴史を紹介いただき、100 年を超える経営が実現できた経営技術を教えてください。

細田 創業は1830 年です。そこから90 年間は、「久保田屋」という造り酒屋を家業として営み、近隣への商いを行っていました。当時は、大きめの樽に酒を詰めて店へ納め、お客さまは徳利を持参して店から酒を購入する仕組みだったので、商圏が広域に及ぶことはありませんでした。1920 年に、朝日酒造株式会社を設立。瓶詰め商品の生産を始めるようになり、商圏は新潟県全域に広がりました。
 法人化してからの約90 年は、設立から先の大戦後までの30年、その後の30 年、さらに次の30 年と三つの時代に区切ることができます。ただし、草創期に打ち立てられた「召し上がってくださるお客さまのために、優れた設備を導入して品質向上に努める」という考えは、どの時代にも貫かれてきた企業DNAだと思います。
 最初の30 年に、木樽からホーロー樽への切り替えや衛生面の充実、酒を配達する貨物自動車の導入などをいち早く実施しました。また、販路の面では、小売業者を組織化して「朝日山会」をつくったり、ほかの酒造メーカーと一緒に卸売業を立ち上げたりもしました。昔からこうした投資を積極的に行っていたのです。
 戦後の30 年は、統制が解かれていく中、シェア拡大に取り組んだ時代だと思います。効率的な大量生産ができる蔵への転換をはじめ、精米工場や瓶詰め工場などの設備も一気に入れ替えました。シェアの拡大は、多様な裾野を広げることでもあるので、1960年代、70 年代に炭酸入りの酒をつくったこともあります。拡大とともに、多様なニーズに対してどのような酒が適しているのかを確かめるチャレンジを繰り返した時代でした。この時代の終盤に、日本酒のピークアウトが訪れました。
 低成長時代に入ってから、『久保田』を売り出しました。シェア拡大から高付加価値戦略へ切り替えた30年といえます。「幻の名酒」と呼ばれるような酒を超える高付加価値商品をつくるための設備投資を意欲的に行った時代です。販路チャネルの切り替えも実行しました。「事業寿命30 年」を意識していたわけではないのですが、結果として、それに沿って歩んできたようです。

長尾 顧客価値の追求を軸に変化していく。まさしく、変化を経営してきたことが、184 年の歴史を積み重ねる秘訣のように感じます。

【経営理念】
我が社の経営目的は、我が社の社会的存在価値を高めることである

イノベーションを起こす人材として社長就任

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長尾 長寿企業には造り酒屋が多いといわれますが、逆につぶれている会社も多いといえます。造り酒屋の数は、どのように変遷しているのですか?

細田 昭和30 年ごろは全国に4000 ほどありましたが、現在は1600 前後まで減りました。そのうち、黒字を出している会社は50%にすぎません。日本酒の消費量も、この30 年間で約3分の1に減りました。2000 年からの14 年間を見ても、半分近くに激減しています。典型的な構造不況業種といえるでしょう。

長尾 そのような業界の状況の中にあって、約30 年前に『久保田』という大ヒット商品を世に送り出しました。これによって大きく成長し、高収益を誇る経営基盤を築いたわけです。この「久保田システム」とは、どのようなものですか?

細田 まさに「久保田を売るための仕組み」ですが、久保田だけが売れればよいという考え方ではありません。小売業者のショップブランド(店格)を向上させるための啓蒙活動と表現したほうがよいでしょう。「顧客開拓のために、どのようなショップブランドを確立すべきか」を、久保田という商品を通して一緒に考える取り組みです。

長尾 現在、日本酒を取り巻く環境変化は、30 年周期で捉えると第4次の転換期を迎えます。どのように環境認識をされていますか?

細田 30 年前との比較から始めましょう。80 年代の初頭は、冷蔵庫がどの家庭にもほぼ普及し切っていた時期。消費者は冷やして喉越しを楽しむ術をすでに知っており、冷やさなくても味わえる日本酒や焼酎から、缶ビールへと主役が移っていました。その後も、缶入りのアルコール飲料が増える過程で選択肢が一気に増加し、お客さまは品質が優れているだけでは、日本酒を飲んでみようと思わなくなりました。
 また現在は、飲んで感動したら、それを人に伝えて共有したい欲求に満ちた時代でもあります。単純に飲酒率が下がった、消費者の好みが多様化したというレベルの話ではなく、今まで受け身だった人たちが、発信する側に回っている。これは大きな環境変化です。

長尾 そのような変化の中、細田社長は12 年12 月に社長就任を果たされました。184 年続く会社で、後継社長が全くの非同族。こうしたケースは、同族の後継者がいない場合などに採用される「非積極的な選択」であることが多いですが、朝日酒造の場合は、平澤修会長の「積極的な選択」があったのだと思います。

細田 私は、学生時代はカビや細菌の研究に取り組み、社会人になってからもメーカーで免疫学などを含めた研究に従事しました。その後、縁があって朝日酒造に入社。製造関係からスタートし、営業と情報システムの業務を経て、営業部長から役員となり、社長に就任しました。「イケイケドンドン」とはいかない低成長時代だから、理系でマイナス面を抑えられる私のような人材が必要になったのだと認識しています。

長尾 いいえ、次の第4次30年のイノベーションを起こすのは、細田社長しかいないからです。「朝日酒造を一番変えることができるのは誰か?」という視点で社長に選ばれ、30 年スパンでの変革を託されたのだと私は思います。

事業を加速するダイレクトコミュニケーション

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遠藤 市場をリテール・広域・海外の三つに分けて事業を展開しておられますね。事業ごとの成長戦略と、それに付随するブランド価値をいかに拡張していくかについて、詳しく聞かせてください。

細田 リテールでは専門店チャネル、広域ではオープンチャネル、そして海外へのチャネルを展開しています。化粧品をはじめとする先行事例が示すように、専門店(酒屋)は減っていく傾向にあります。現段階では、チャネル構成の7割以上が専門店ではありません。
 以前の酒屋の役割を果たすのはコンビニエンスストアですが、そこでは日本酒の裾野が狭まっています。故に、「まず日本酒を知っていただく」ことが重要になり、日本酒になじみがなかったり、楽しみ方を知らなかったりする顧客層への発信が不可欠。それを担うのが、広域事業です。
 一方、リテール事業は、久保田を中心に据え、さまざまな飲み方や料理とのコラボレーションなどを専門店と一緒になって追求しています。広域活動で当社と知り合い、リテール活動を通してロイヤルカスタマーや支持者への道をたどっていただくのが理想です。
 海外事業については、今までは和食レストランができたエリアに入っていくのが定石でした。しかし、伝統を重んじるフレンチですら、バターをたっぷり使ったソースの時代から、素材を生かした料理方法へと変遷しています。そのような風潮もあって、海外の先進的なソムリエが日本酒に興味を示すようになり、日本酒が参入できる素地が整ってきました。さまざまなグローバル化が進む中、新潟の酒を世界へ発信する時代になったと確信しています。

長尾 朝日酒造は、ダイレクトコミュニケーションの強化に取り組まれています。まず、飲食店への普及活動を13 年からスタートし、急ピッチで推進しています。二つ目は、長岡という自然豊かな環境を生かした本社直売店の活用です。ここにお客さまを呼んで、久保田の良さを理解いただこうと努めています。三つ目は、関連会社の朝日商事が運営する直営店舗を通じて、お客さまと直接触れ合いながら、久保田に合う料理や商品を提供することです。
 これら三つのダイレクトコミュニケーションによって顧客創造を進めておられますが、次に求められるのは、新しい顧客に対し、どのような価値、商品を提供するかです。

細田 口に入るものですから、おいしさは絶対に外せません。酒そのもの、酒の飲み方、料理などを通して、これまでとは一線を画すようなおいしさを提供したいですね。さらに、蔵を使った体験価値を発信していきたいと考えます。

若手・中堅社員も参加し変化に対応できる中経を策定

遠藤 社長に就任されてから、第6次中期経営計画(中経)を策定しました。その際、中堅・若手社員もメンバーに加え、新しいイノベーションを起こすような中経づくりを目指されました。社長の人づくりの考え方、今後の教育システムの構想を聞かせてください。

細田 人づくりに王道はないと思いますが、造り酒屋の現場に息づく「杜氏を中心にしたオーケストレーション」は、人づくりの原点といえるでしょう。これは、誰かの役割が欠けるだけで、酒造りは進まなくなるという考え方です。それ故、人的なリストラに走ろうとは決して思わないし、人材の成長に大きな期待を抱いています。
 しかし、人材には限りがあるし、大企業のように多くの部門を経験させることは難しいのが現実です。それ故、幹部候補の中から、次世代を担うであろう人材を1本釣りし、育成プログラムを施していこうと考えています。そのような人材は、外部招聘ではなく、新入社員から社内でしっかりと育てたいですね。失敗も経験し、そこから学びながら大きく成長してほしいと思います。

長尾 細田社長に与えられたのは、断崖絶壁ともいえる、かなり危機感の高い状況です。それを打開するには、増収増益、顧客創造、コンセプトシフトの三つを達成しなくてはなりません。販売システムを売っていた会社から、お客さまに直接、酒を注いで新しいおいしさを提供する会社への変化です。
 今回の中経策定にはタナベ経営も協力させていただきましたが、その過程で、今起こっている変化の本質と方向性をメンバーに理解してもらえました。社長1年目の「変化の技術」として、高く評価できると思います。

細田 中経を精緻につくっても、基本的な認識が違っていたら、同じ行動を取れません。その意味では、策定メンバーに若手まで含めたのは良いことだったと思います。

遠藤 中経の策定メンバーに選ばれなかった中堅・若手社員も、タナベ経営の幹部候補生スクールなどで学び、自社の現状認識や価値判断基準のまとめなどができるようになりました。

細田 各部長が中経に基づいてそれぞれの単年度計画を作成していることが、価値判断基準の社員への浸透度を高めているのだと思います。

遠藤 「顧客の本質的な価値は何か」を肌で感じ取れるようになったことも大きな変化です。

長尾 社長に就任して今期が増収増益の1年目。変化と業績は一対であって、業績を上げることで変化が現実のものになります。これから30 年のイノベーションを起こし、ファーストコールカンパニーを実現してください。

PROFILE

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  • 所在地:〒949-5494 新潟県長岡市朝日880-1 TEL:0258-92-3181
  • 資本金:1億8000万円 売上高:83 億円(2014 年9月期、予想)
  • 創業:1830 年 従業員数:182 名(2014 年4月末現在)
  • 事業内容:清酒製造・販売業
    http://www.asahi-shuzo.co.jp/