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今週のひとこと

環境に依存せず、自力本願の経営で、

利益の確保を目指す企業姿勢の確立と

体質づくりこそ、儲かる経営の基本である。
 





◆価格転嫁より"価値転嫁"

2017年4月に予定されていた消費税率10%への引き上げが延期されることが決まった。日経平均株価は連日続伸し、なかでも消費関連株の上昇が目立っている(2016年6月1日現在)。

消費税率が上がる際、よく耳にするのが「駆け込み需要」や「反動減」といった言葉であるが、本来、企業が着目すべきことは何か。それは、顧客に提供する"価値"である。多くの企業が増税分の価格転嫁に神経をとがらせているのが実情かもしれないが、本当に重要なのは"価値転嫁"だ。顧客が求める価値に絞り込み、その価値を上げることである。

例えば、ダイソンの掃除機が登場した時のことを振り返ってみると、今でこそ、他の多くのメーカーもサイクロン式掃除機を取り扱っているが、当時のダイソンの掃除機は高価で運転音が大きいという、いわゆるデメリットもあった。それでもダイソンの掃除機が売れたのは、消費者が掃除機の価値を「吸引力」に置いていたからだ。強力な吸引力のために、値段の高さや運転音の大きさが問題にはならなかったのだ。

顧客は価格転嫁だけでは離れない。価値転嫁をしないから離れていくのである。価値不転嫁の反動は突然、対処しがたい障害となって現れよう。常に自社の価値を磨いておきたいものだ。


戦略総合研究所 パブリッシング
吉永  亮





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『パイプハウス』やプレハブ住宅の原点となった『ミゼットハウス』を開発し、「建築の工業化」の先駆者となった大和ハウス工業は2015年、創業60周年を迎えた。 代表取締役会長・CEOの樋口武男氏は、創業100周年に売上高10兆円を達成すべく、新たな事業価値の創出に余念がない。 未来へ向けた会社の在り方とリーダーの心構えを聞いた。




創業者に教え込まれた「社会の公器」の会社

若松 大和ハウス工業は、故石橋信夫氏が「建築の工業化」を企業理念として1955 年に創業。プレハブ住宅の原点となった『ミゼットハウス』を世に送り出すなど、常に日本の住宅業界をけん引してきました。さらに、商業建築やリゾートホテルなど多角的な事業展開を推進し、現在では166社を擁する大和ハウスグループを形成。創業100周年となる2055 年には、グループ売上高10兆円を目指していらっしゃいます。

樋口 2015年は創業60周年で、グループ売上高は2.8兆円(2015年3月期、連結)。まだ、創業者の石橋信夫から託された「創業100周年に売上高10兆円の企業グループ」という目標の3分の1 にも達していません。創業100周年には私は117歳になります。そこまで生きる自信はさすがにない(笑)。できることなら前倒しして、10兆円を達成してもらいたいですね。

若松 石橋氏との出会いや、社長に就任された経緯などを教えてください。

樋口 20 歳の時にサラリーマンのままで人生を終わらせないと決意しました。自分で会社を興し、上場して社長、会長として終生働こうと。大学を卒業して鉄鋼商社に就職したのは、実学を勉強しようと思ったから。しかし、ぬるま湯的な環境に幻滅し、「このままではあかん」と転職先を探しました。当時、週刊誌で「モーレツ会社」「不夜城」などと書かれていた大和ハウス工業を知り、「ここしかない」と直感。歩合制セールスの面接に行き、「私は結婚しており子どもも生まれるから、正社員として採用してほしい」と頼み込みました(笑)。
こうして大和ハウス工業の社員になり、創業者の石橋オーナーと出会ったわけです。現在の私があるのは、石橋オーナーとの出会いがあったから。石橋オーナーが会社のトップでなかったら、私はとうの昔にクビになっていたでしょう。

 


どんな事業が、どんな商品が、世の中の多くの人の役に立ち、喜んでいただけるかをベースに考えるべき。私はそれを忠実に行っているだけです。

若松 石橋氏との出会いは運命的だったのですね。人生ドラマは「遺伝、偶然、環境、意志の産物」ともいわれますが、まさにその言葉の通りであると感じます。

樋口 本社で全国の資材購買を担当していたとき、当時社長であった石橋オーナーに呼び出され、釣書を見せられました。「私はもう結婚しています」と言うと、「そうか」との返事。その後もまた呼び出されて釣書を見せられたので、「前にも言いましたが、私には子どももいます」と答えると「そうやったな」と笑っていました。その頃から、石橋オーナーに父親のような尊敬と親しみを感じるようになりました。他の社員は「本社には怖い社長がいるから、できるだけ地方勤務をしたい」と言うほど恐れていましたが、私は本社勤務がよかった。石橋オーナーは、筋の通った話ならしっかり聞いてくれると確信していました。
私は決してごまをすらないため、損をしたこともたくさんあります。それでも自分の信念をずっと貫くことができたのは、石橋相談役が会社のオーナーだったからです。

若松 樋口会長はオーナーではありませんが、強烈なオーナーシップを感じます。私は経営コンサルタントの立場から、企業組織には、オーナーシップが不可欠と提言しています。企業規模が大きくなると、「城はわが身の精神」がだんだん薄れる傾向にありますね。大和ハウスグループを経営する中で、オーナーシップとどのように向き合っておられるのですか。

樋口 グループ全体の社員数が3 万人くらいで売上高が1 兆円を超えたころ、石橋オーナーが「社員が3 万人もいる会社は、社会の公器や。社員の後ろには家族がいる。協力会社にも社員とその家族がいる。皆を路頭に迷わすことは断じてできん」とおっしゃいました。その言葉が今でもすごく好きですね。石橋オーナーは戦地で負傷して2年近く療養生活を送り、帰国を勧められたにもかかわらず、部下のいる部隊に戻ろうとしたが、他地域に転出していたため別の部隊に復帰。その後、ソ連兵につかまり、シベリアに抑留されました。その気概は終生変わらず、仕事に対する情熱と、部下とその家族に対する想いには、いつも圧倒されました。2003 年に81 歳で亡くなられたとき、一代で1兆円企業を築いたのに、資産は自宅と自社株だけ。社会の公器としての企業育成、「人財」育成に徹した人でした。
私は46 歳から役員になり、大和団地社長としての8年間など、通算すると役員を31年間務めています。その間、多くの企業トップと会ってきましたが、手前みそではなく「石橋オーナーよりすごい」と思う経営者には会えていない。だから、自分はとても幸せだと思います。

大和ハウス工業株式会社 代表取締役会長・CEO 樋口 武男(ひぐち たけお)氏
大和ハウス工業株式会社 代表取締役会長・CEO 樋口 武男(ひぐち たけお)氏
1938年兵庫県出身。関西学院大学法学部卒業後、鉄鋼商社に入社するも事業家を目指し、厳しい修業を求めて63年大和ハウス工業に転職。常務、専務などを経て、93年多額の有利子負債に苦しむ関連会社の大和団地社長に就任。マンツーマンの対話から現場に「やる気」をみなぎらせ、2年目で黒字化、7年後には復配へと再建させる。2001年4月大和ハウス工業と大和団地の合併を機に社長就任。就任後は、大企業病の克服に注力し、バブル時代の負の遺産をすべて処理するために一時的に赤字へ転落するも、その後V字回復を果たし、同社を業界トップメーカーの地位に導く。04年4月代表取締役会長兼CEOに就任。著書に、人生の師と仰いできた創業者石橋氏への感謝の気持ちと二人で歩んだ日々が綴られている『熱湯経営「大組織病」に勝つ』や、『先の先を読め 複眼経営者「石橋信夫」という生き方』、『私の履歴書「凡事を極める」』など。

どんな事業が、どんな商品が、世の中の多くの人の役に立ち、喜んでいただけるかをベースに考えるべき。私はそれを忠実に行っているだけです。 樋口 武男氏




理念に合った変化を促し基軸となる人財を育てる



若松 石橋氏は「世の中に必要とされるものを事業にする」と宣言されました。大和ハウス工業の事業の原点は、そこにあると感じます。

樋口 「何をしたら儲かるか」という発想では駄目です。どんな事業が、どんな商品が、世の中の多くの人の役に立ち、喜んでいただけるかをベースに考えて事を興すべき。私はそれを忠実に行っているだけです。

若松 事業の原点は「世の中のためになる」ということですが、これだけ大きな規模の企業グループですから、事業構造も成長に伴って変革されてきたわけですね。

樋口 世の中は変わる。人の生活も変わる。だったら、一歩先の変化を先取りするような経営をしていくべきです。当社の場合、変化の方向性が「世の中の人の役に立ち、喜んでもらえる」というキーワードに適合しているかどうかを吟味することが私の使命です。

若松 事業の軸足となる「本業」と、変化としての「多角化」を、どのように関連付けてこられたのですか。

樋口 どんなに会社が大きくなろうとも、事業が変わっていこうとも、基軸になるのは人。人を育てないと、会社に未来はありません。サステナブルな成長を目指し、幹部となる人財を育成しよう と努めています。

若松 それが「大和ハウス塾」ですね。

樋口 そうです。講師は外部から起用し、私は中間発表と最終発表を聞いて講評します。最終発表の前に参加者全員と面談し、「この人財は」と思った人物にはポジションとチャンスを与えています。私も石橋オーナーからのテストを何度も受けました。大和団地の再建は最終テストだったと思っています。1993 年、大和ハウス工業の専務を務めていたときに石橋オーナーに呼ばれ、「大和団地がこんな状態やねん」と打ち明けられました。そして「この会社は私がつくり、一部上場にまでさせた。つぶすわけにはいかん。再建に当たってくれ」と頼まれましたが、新聞でも" 泥舟" と書かれた会社。「そんな力はありません」とお断りしたら、ものすごい剣幕で怒られました。石橋オーナーに本気で怒られたのはそれ1 回きりです。

若松 大和団地の社長に就任し、現場に「やる気」をみなぎらせて、2 年目で黒字化、7 年後には復配を達成し、見事に再建されました。

樋口 石橋オーナーの言葉に「勘は先で、理論は後」があります。現場を踏んできた人間の勘を重視するという、現場主義者の石橋オーナーらしい考えです。私もそれに忠実に従いました。当時 のスローガンは「サナギからスタート」。SANAGIのS(スピーディに)、A(明るく)、N(逃げず)、A(あきらめず)、G(ごまかさず)、I(言い訳せず)をキーワードに、徹底した現場主義を貫くことで、なんとか最終テストに合格することができました(笑)。


 未来に貢献する「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ」事業

【図表】21 世紀の世の中の役に立つ新規事業のキーワード
【図表】21 世紀の世の中の役に立つ新規事業のキーワード

若松 大和ハウス工業の新規事業コンセプト「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ」も、先見性の高い戦略キーワードです(【図表】参照)。「明日、不可欠の事業」。樋口会長は、こうした言葉選びがうまいですね(笑)。

樋口 アは安全・安心、スはスピード・ストック、フは福祉、カは環境、ケは健康、ツは通信、ノは農業を指します。この「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ」が、21 世紀の社会に役立つ新規事業のキーワードです。

若松 全くの新規事業については、ベンチャー企業への出資も行っていらっしゃいます。

樋口 高齢化が深刻な問題になっており、その打開策の一つとしてロボットスーツが注目されています。当社は10 年ほど前から筑波大学発のベンチャー、サイバーダインに出資。総販売代理店として『ロボットスーツHAL® 福祉用』をリース販売しています。 また、大型リチウムイオン蓄電池の開発を行うエリーパワーにも出資。太陽光や水力、風力といった自然エネルギーで発電した電気をためて使うシステムを導入すれば、環境面で社会に大きく貢献することができます。

若松 事業や会社への出資を見極めるポイント、着眼点は何ですか。

樋口 経営者の人となりと技術の革新性です。そして、世の中の役に立ち、喜んでもらいたいという理念を共有できるかどうかも重要なポイントになります。

若松 大和ハウス工業は2010 年に新しいセグメンテーションへ移行されました。その資料を拝見すると、全く別の会社に生まれ変わり、脱皮したかのように感じます。

【図表2】大和ハウス工業の 2014 年度事業別売上高構成比(%)
【図表2】大和ハウス工業の2014 年度事業別売上高構成比(%)


樋口 最近は業界という区分もだいぶ不明瞭になっていますね。大和ハウス工業は住宅業界に属していますが、戸建住宅事業の売上高比率は13.2%しかありません。(【図表】参照)

若松 「祖業に固執せず、柔軟に事業を革新していく、変化の名人だな」と感心いたしました。

樋口 世の中が変化しているのだから、企業も考え方ややることを変えるべき。ヒントは人口動態をよく調べることです。日本の人口は約1 億2800万人※1で、安倍首相は『出生率を1.8 にアップして1 億人を下回らないようにする』とおっしゃっていますが、それを実現する体制はこれからです。
日本の人口は統計上、2100 年に約5000 万人※2を割り、江戸時代と同じレベルになるといわれています。結婚しない人が増え、仲間同士で近隣のマンションに住んで、盆や正月は一緒に海外旅行を楽しむようになる。そのように時代は刻々と変わっていくのです。


若松 すると、樋口会長は住宅業界の未来をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。

樋口 現在は住宅の余剰ストックがあふれ、業界の状況はかなり厳しい。ただし、高齢者は増加し、一人暮らしも増えています。そこにチャンスを見いだせます。「世の中の多くの人の役に立ち、喜んでもらう」というキーワードのもと、そのような環境に対応する商品の開発に尽力し、海外市場の開拓も進めたいと考えます。

㈱タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

大和ハウス工業の戸建住宅事業の売上高比率は13.2%しかないと聞き、「変化の名人だな」と感心しました。 若松 孝彦




リーダーに必要な「公平公正、無私、ロマン、使命感」

若松 最後に、全国の社長、リーダーに向けたメッセージをいただければと思います。社長業とはどのような仕事でしょうか。

樋口 私が自分に言い聞かせているのは、「上に立つ人間が持つべきは、公平公正、無私、ロマン、使命感」。それを企業のトップが持たないと、社員のモチベーションが上がらないからです。会社には営業担当者もいますし、技術担当者も、生産担当者もいます。そのような人たち一人ひとりが頑張りがいのある職場環境をつくるためには、トップの公平公正、無私な姿勢が不可欠。学歴や肩書で社員を評価するような管理職や役員が存在してはいけません。派閥がなく、実績に応じて地位も給料も上がる風土を築けば、上にごまをすることなく、部下とお客さまを見るようになるものです。加えて必要なのが、「世の中の役に立ち、多くの人に喜んでもらいたい」というロマン、使命感を抱き続けることですね。

グローバルな視点で捉えれば、売上高10 兆円以上の企業は約50 ~ 60 社です。約3 兆円規模の大和ハウスグループは、世界から見ればまだまだ" 中小企業" です。3 兆円の売上高を達成できれば素直に喜んでもいいが、10 兆円という踏破すべき頂を見据えて「何が世の中の役に立ち、多くの人に喜んでもらえるのか」をこれからも追い求めていきます。それが、当社で永久欠番の肩書である「相談役」、石橋信夫の夢でもありますから。

若松 社長業としての原点を確認することができました。本日は誠にありがとうございました。





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①フーフタイム計量カップ … 牛の蹄洗浄剤専用計量カップ。
②アレルバックス … コンパニオンアニマルのダニアレルギー対策品。
③DC ガードSP専用計量カップ … ペレット状の牛混合飼料専用計量カップ。持ちやすさやデザイン性を考慮した。
④OTC 乳軟押し出し器 … チューブの軟膏薬を最後まで使うための補助用具。
⑤クールダー … 夏場の牛の暑熱対策用に開発。牛の首に巻いて使用。
※ ③④⑤ OPD プロジェクトにより開発

2016年、創業70周年を迎える動物用医薬品メーカーの日本全薬工業。「次世代CC経営(※1)」を目指す取り組みの一つとして11年度に立ち上げたのが「OPDプロジェクト(※2)」だ。5年がたち、商品開発の新たなビジネスモデルとして着実に成果を挙げている。プロジェクトの中核メンバーである研究開発本部 開発部 開発企画チームの小川雅史氏に、プロジェクトの意義や商品開発の考え方、今後の展望などを聞いた。

※1 CC(コアコンピタンス)経営: ユニークな技術やスキルを創造し、組み合わせ、独自のシステムや手法に仕上げ、企業力を発揮し成果につなげる経営
※2 OPDプロジェクト: 医薬品を除いた主に牛や豚など産業用動物の混合飼料や雑貨をスピーディーに商品化するために、部門を超えて選抜された社員7名と経営判断を下せる責任者2名で組織された、新たなビジネスモデルと位置付けるプロジェクト



新たな価値をつくり出すために

日本全薬工業は、動物用医薬品業界で唯一、研究開発から製造・仕入れ・輸出入・販売までを自社で一貫して行っている。この独自性を強みとし、全国40カ所の営業拠点と4カ所の物流拠点による直販システムを確立。国内をはじめ、海外でも事業を展開している。

ターゲットとするのは、牛・豚・鶏などの産業用動物市場と、犬や猫などのペット=コンパニオンアニマル市場。前者は海外企業の参入や、畜産農家の後継者不足、消費人口の減少などで低迷傾向にある。また後者は市場規模の変動は少ないものの、ペットの家族化がさらに進み、人間と同様に長寿・高齢化への対応が大きな課題になっている。

こうした状況の中、同社は2011年度より「次世代CC(コアコンピタンス)経営」の構築を目指して本格的に動き始めた。この根底には、創業より変わらない「動物の価値を高める」という企業理念がある。その実現には動物に関わる全ての人に満足してもらうことが前提にあり、畜産農家や獣医師の役に立つ日本全薬工業ならではの新たな価値をつくり出すべく、さまざまな取り組みを進めている。

「OPD プロジェクト」とは

「OPD プロジェクト」は、新たな価値をつくる取り組みの一つとしてスタート。より短い期間で商品開発を行うために、研究開発本部の枠を超えて営業・製造・国際事業部などさまざまな部門がメンバーとなっている。取り扱う製品は、市場に出すまで通常は最低2~3年かかる医薬品を除いた、混合飼料や雑貨に絞り込んでいる。差別化が図れる価値の高い製品をよりスピーディーに開発していく、同社の新たなビジネスモデルとして立ち上げて5年。今では短期間での商品開発という目標を実現している。

日本全薬工業㈱ 研究開発本部 開発部 開発企画チーム 小川 雅史氏
日本全薬工業(株) 研究開発本部 開発部
開発企画チーム 小川 雅史氏


ありそうでなかった製品を開発


OPD プロジェクトは、営業が収集した顧客の声をダイレクトに商品開発に反映できるという利点がある。例えば、夏場の牛の暑熱対策につくられた『クールダー』は酪農家の声、『OTC 乳軟押し出し器』は「チューブの軟膏薬を最後まで使い切りたい」という獣医師の声を営業がくみ取って製品化した。『DC ガードSP 専用計量カップ』は、「正しい量の飼料を与えたくても正確に量れるものがない」という畜産農家の悩みを解決した。このような市場にありそうでなかった製品は多くの顧客に好評で、同社は開発手法に手応えを感じている。


商品開発の着眼点と発想

商品開発を進める上で着眼点とするのは、やはり営業の声だという。その声を確実に生かすために、顧客から受け取った要望や批評などを寄せる「きくみみ」という投函システムが社内サイト上にある。営業の声を全社員が知ることができ、発想のヒントを得る一つの手段になっている。

また、柔軟で多様な発想があってこそ顧客の役に立てるという考えから、OPDプロジェクト内で、全社員を対象とする「プロダクトアイデアコンテスト」を2年前から開催。通常業務では商品開発に縁のない社員からも広くアイデアを募集しようというもので、第1回入賞案は製品化に向けて動き出している。このコンテストは「全社員が共通の価値観を持つ」ことを重要視する同社ならではの取り組みといえる。

そして、この価値観の共有を図るため、社員が日頃意識すべき行動を記した「ゼノアック・クレド」を策定している点にも注目したい。

2014 年に改定した第2弾となる「ゼノアック・クレド」
2014 年に改定した第2弾となる「ゼノアック・クレド」

タナベ経営を採用した理由

日本全薬工業とタナベ経営との協力関係は10年以上になる。「ノベルティーグッズの制作支援のほか、経営コンサルティングでも支援いただいています。これらの関わりの中で、タナベ経営ならではの総合力、ネットワークの強みを実感しました」と開発企画チームの小川雅史氏。商品開発から生産・調達まで幅広く対応できる点も決め手になったという。

また、同社には商品開発における独自のシステムがあり、複数のステージをきちんとクリアしたものでなければ日の目を見ない。小川氏は、「タナベ経営はわが社の全体感をつかんでいるので、継続的に仕事をお願いしています」と話す。


動物ありきから始まるブランディング

ブランディングにおいても、「動物の価値を高める」ことが最優先事項となる。動物の価値を高め、幸せになってもらうには、動物に関わる顧客に満足してもらうこと。情報発信やアフターフォローを含め、顧客が満足する製品をつくり、提供できれば、おのずと自社の価値も高まると考えている。ゼノアックという企業ブランドを構築するために製品を開発しているわけではないのだ。「動物の価値を高めるために、何をすべきか」。全ての取り組みは、ここから始まっている。


コンパニオンアニマルのアレルギー対策を推進

現在、力を入れている「コンパニオンアニマルのアレルギー対策」を、今後の商品開発においても全社的なテーマと位置付けている。背景にはペットの“人ひと化か ”が進み、アレルギー体質の犬や猫が増えていることがある。

こうした課題解決のための第1弾として、2014 年に世界初となる組み替えタンパク質製剤・犬アトピー性皮膚炎減感作療法薬『アレルミューン HDM』を発売。この独自の技術を使い、翌15年にはダニアレルギー対策の『環境用スプレー アレルバックス』を製品化。コンパニオンアニマルのアレルギー原因は数多くあり、それらに有効な医薬品の開発を進めるとともに、ガンなど人間同様の高度医薬品開発も今後の命題としている。


勝ち抜くヒントは「顧客の本音」にあり

マーケットインの手法においてニーズやシーズを意識するのは当然のことだが、今を勝ち抜くヒントはインサイト(顧客の本音)にあると同社は考えている。ニーズやシーズよりもっと根源的な五感に訴えてくる声だ。その本音をいかに企業や社員が密に連携して吸い上げるか―。この点を生き残っていくための欠かせない要素として挙げる。

さらに、営業だけでなく全ての社員が現場に足を運び、現場感覚を持ち続ける必要性を小川氏は強調する。顧客の本音にじかに触れることが、最終的に全ての人に満足してもらえる良い商品開発へとつながる。こうした意識と行動が、競争を勝ち抜いていく大きな力になるという。


タナベ経営に期待すること

あくまでも「動物の価値を高める」ために、タナベ経営への要望も次々と出している。日本全薬工業成長の礎となった畜産業界の支援もその1 つだ。「経営を実践的に学ぶ会」の開催や経営・関連業界情報配信の方法など、コンサルティング分野にまで広がった。

「進化し続けるタナベ経営と一緒に仕事をするのは非常に楽しいことで、ビジネスパートナーとして商品開発を含め、いろいろなコラボができれば面白いですね。タナベ経営からの提案も大歓迎ですし、コンサルティング能力とネットワークの強さで、畜産農家さんを応援する活動を一緒に進めていければと考えています」と小川氏は語る。

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