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今週のひとこと

高収益体質をつくるには、まず利益の源泉をしっかり押さえ、

スピーディーな対策と行動をとることである。

自力本願のスピード体質が利益を生む。





◆研修参加者の「やる気のスイッチ」を入れるには?

私は日頃のコンサルティングのなかで、企業研修に携わる機会が多いのですが、研修ご担当者の、
 「参加者に主体的に参加してもらえる研修にしたい」
 「次の研修では、やる気のある人だけ集めて実施したい」
―といった声をよく耳にします。


果たして、最初から「やる気の無い人」が、存在するのでしょうか?
なかには、強制的に研修へ参加させられているメンバーもいるかもしれませんが、基本的には研修に参加する必要性があるから、そこにいるわけです。


ところが、研修を実施するにあたり、そのカリキュラムや教材といった内容ばかりに注力し過ぎて、肝心の「場の環境を整える」ことが疎かになっている研修ご担当者が少なくないと、私は感じています。
 例えば、近年では参加者の主体性を引き出し、協働効果を高める「ファシリテーション」手法が注目を集めていますが、研修のはじめに「アイスブレイク」を組み込み、参加者の緊張感を和らげ、研修に集中して参加することができる雰囲気をつくる、といった簡単なことを行うだけでも、研修の雰囲気はガラリと変わります。そして、参加者の皆さんの「やる気のスイッチ」はONとなり、主体的に参加するようになります。


最近、研修がマンネリ気味と感じておられる皆さんは、一度試してみてはいかがでしょうか?


コンサルティング戦略本部 アソシエイト
野田 勤





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新潟クボタ 代表取締役社長 吉田 至夫 氏 × タナベ経営 コンサルティング戦略本部 新潟支社長 遠藤 俊一

農業の垂直統合ビジネスモデルで高収益を実現
―6次産業化を推進するソリューションカンパニーへ



高度成長の黎明期に創業 紆余曲折の末に多角化へ

遠藤 新潟クボタの今日までの歴史や成長の過程についてお聞かせください。

吉田 当社は1964年、新潟の農機販売会社4社が久保田鉄工(現クボタ)の資本参加を得て合同で設立した企業です。この年は東京オリンピックが開催され、日本の高度成長が本格的に始まろうとしていた頃で、当社も農業の近代化と機械化の波に乗って設立当初から順調に発展。第1次オイルショックの73年には食料不足の不安から農機ブームが起き、そこから数年間は毎年売上高が倍増していくような急成長を遂げることができました。
 ところが、農家の生産性向上の一方で国の減反政策が始まったことにより、やがて年間100億円くらいをピークに売上高が頭打ちになったのです。1970年代後半からは、売り上げ横ばいと経費増で利益率が下がる低迷期がしばらく続きました。このままではいけないと、当時営業本部長だった私は、元号が昭和から平成に変わった89年を機に、自社の新しい事業計画を立案。農機販売だけではない、事業の多角化に取り組み始めました。
 目を付けたのは、農家の視点に立った事業施策の数々です。1993年の大冷害によりコメ不足となり、米価高騰で農機が飛ぶように売れて国内最高出荷額を記録したこともありましたが、必ず反動で売れなくなると予測して多角化を推し進めました。農機の整備サービスやコメの輸出といった今日の当社にとってエポックメーキングな事業は、この時期に着眼したことです。


遠藤 農機の整備サービス事業にはかなり大きな投資をされたそうですね。

吉田 1996年に敷地面積7000坪の大型サービス拠点「中央サービスセンター」を新潟市秋葉区に開設しました。建設に当たっては当時の年間粗利益額を大きく超える投資が必要になり、親会社のクボタから相当な危機感をもって見られました。悪いことに、米価急落と減反再開がほぼ同時期に重なって本業の農機販売が落ち込み、翌97年は創業以来最大の赤字を計上してしまいました。
 しかしその後、懸命に再建計画を練り、借入金と在庫の削減に重点を置いて各事業にまい進した結果、どうにか経営を立て直して現在に至っているわけです。


国内メーカーとして初の170 馬力を実現した「M7シリーズトラクタ」
国内メーカーとして初の170 馬力を実現した
「M7シリーズトラクタ」


農業のあるべき姿に着眼しコメの輸出を開始

遠藤 国産米の輸出事業に本格参入したことが、近年大きな注目を集めています。その発想の原点として、現在の日本の農業と新潟クボタは、どのような関係にあるとお考えですか?

吉田 日本では今、少子高齢化や後継者不足で農業従事者がどんどん減っています。バブル崩壊以降のデフレ経済もあって衰退産業の1つと見られがちですが、実はそのような状況でも日本の農業総産出額は2013年で8兆4668億円と世界の農業大国と比べても高水準にあるのです。しかし問題なのは、農産物の生産に関する非常に高い技術や特長を生かした輸出を、日本がこれまでほとんど行っていなかったこと。こうした輸出を民間の力で進めることができれば、農業全体の閉塞感を断ち切ることができるのではないかと考えました。

遠藤 それがコメの輸出事業に着目したきっかけですね。しかし、収益を得る事業に育てるのは難しかったのではないですか?

吉田 グローバルなネットワークを有するクボタが、この事業の開始を決断してくださったことが、最も重要な点だったと思います。
 もともと日本における「コメ事業」は、ある意味で聖域になっています。実際、当社がコメ事業を始めてすぐに、農業関連の多方面から中止の要請が舞い込んできました。「本当に大丈夫なのか?」と、クボタの重役たちが当社へ聞きに来たほどです。
 それでも私は、「農家は販売先が増えて間違いなく喜んでいる。それに、いったん始めた事業をすぐにやめるわけにはいかない」と、あくまで継続を主張しました。結局、コメの輸出はひとまずクボタの冠を付けず、「新潟農商」という株式会社を新たに設立して行うことになりました。


遠藤 事業の立ち上げ時から大変なご苦労があったわけですね。そこを乗り越えてからコメ事業は順調に伸びましたか?

吉田 とんでもありません。新潟農商は設立から黒字になるまで15年ほどかかりました。それだけコメ事業が難しかったということですが、今ではクボタグループ全体の中でも「先見の明があった」と言われるほどに成長しましたから、世の中は分からないものです。

遠藤 新規事業は3年間赤字が続いたり、5年で投資が回収できなければ早々に撤退すべきともいわれます。そのようなことは意識されませんでしたか?

吉田 確かにビジネスではそうした考えも重要だと思います。その一方で、松下幸之助氏が言ったように「失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる」という考え方もあります。グループ全体で考えれば、まだ経営余力があったので、私は成功するまでこの事業をやり続けることを選択しました。

新潟クボタ 代表取締役社長 吉田 至夫 氏 新潟市出身。早稲田大学政治経済学部卒。1976 年日本経済新聞社に入社し、1983 年退職。新潟クボタに入社し、営業本部長を経て2002 年に社長就任。13 年3 月より新 潟日本香港協会の会長を務める。
新潟クボタ 代表取締役社長 吉田 至夫 氏
新潟市出身。早稲田大学政治経済学部卒。1976 年日本経済新聞社に入社し、1983年退職。新潟クボタに入社し、営業本部長を経て2002 年に社長就任。13 年3 月より新潟日本香港協会の会長を務める。


日本の農業にとって海外市場はホワイトスペース

遠藤 国産米の輸出を成功させる道筋は確実に明るくなっていると思います。これから農業ビジネスに臨もうとする企業は、どのような点に注意すればよいでしょうか?

吉田 農産物の輸出は1つの大きな流れになってきているので、タイミングとしては事業化して海外に進出するよいチャンス。ただ、マーケットはよく吟味する必要があります。当社はクボタの後ろ盾があったのでコメ激戦地である香港に参入できましたが、こうした市場への参入は資本力が弱いと無理があります。中小企業の場合は、経済発展のさなかにあるモンゴルやカザフスタンなど比較的市場規模の小さい国を目指すのがよいでしょう。どちらも親日的ですし、新規参入しやすい市場です。発想を転換してみることが大切です。

遠藤 まずはマーケットの見極めが大事なのですね。農産物ビジネスにうまく参入できたとして、それを収益に結び付けるポイントは何ですか?

吉田 1つは日本の農業の実態を正確につかみ、課題の解決を図ることでしょう。先述した通り、農業従事者の高齢化や若手の減少はもちろん、農家の資本力が非常に弱いことが大きな課題です。日本の農家は諸外国に比べて過小資本であるが故に、生産や流通をコントロールできなくて苦労しています。
 これらの課題解決を考える際、倉庫の建設などによって農産物の流通量と価格の維持を図ったり、ICT技術を使って生産の見える化・データ化を進めたり、企業の資本力で農家の弱点を補うという形で取り組めるビジネスはたくさんあります。当然、ある程度大きな投資が必要になりますが、高い生産技術を持つ農家が元気なうちに密に連携し、Win-Winのビジネスモデルを確立できれば成功する可能性は高い。そうなれば仕掛けた企業は必ず収益を確保できるでしょう。


遠藤 新潟クボタは、コメの輸出のほかにも新しいビジネスを仕掛けています。

吉田 2015年の夏に、新潟市内の複数の農業生産法人と共同で特例農業法人「NKファーム新潟」を設立し、輸出用のコメや小麦などの生産をスタートしました。そこでは「クボタスマートアグリシステム」という先端農業機械を利用したICT農業を採用し、これまでにない効率的な農作業と生産物の品質向上、収穫量アップに取り組み始めています。

遠藤 自社の収益を確保しながら、農業を6次産業に育てるけん引役を担っているのですね。

吉田 本業以外の事業は収益がようやく出始めたところで、まだ6次産業のほんの一部でしかありません。本当に成功している6次産業というのは、世界最大のパスタ輸出国でありながら、原料の小麦の輸入も世界最大であるイタリアのパスタ産業のようなケースだと思います。
 日本のコメ分野では、例えば大手製菓会社に参入してもらったりして、もっとグローバルに幅広く展開していくべきです。当社はこの分野で長く事業をやっているため、発想が固まりがちな面があります。新しいアイデアで農業に参入する企業が増えて農家や企業間のコラボレーションが広がれば、さらに大きなビジネス市場に育っていくと考えます。


タナベ経営 コンサルティング戦略本部 新潟支社長 遠藤 俊一 「今、何に取り組むべきか」の的確な判断に基づき、熱い思いを持ったコンサルティングを展開。 クライアントの成長に貢献することを使命とし、ビジョン・戦略構築、収益構造改革、人材育成 などを通じ、数多くの企業から高い評価を得ている。
タナベ経営 コンサルティング戦略本部 新潟支社長 遠藤 俊一
「今、何に取り組むべきか」の的確な判断に基づき、熱い思いを持ったコンサルティングを展開。クライアントの成長に貢献することを使命とし、ビジョン・戦略構築、収益構造改革、人材育成などを通じ、数多くの企業から高い評価を得ている。


あくなきチャレンジ精神で自社と地域の成長を目指せ

遠藤 新潟クボタは、農業の川上から川下までを手掛ける垂直統合のビジネスモデルを確立しています。タナベ経営が提言する「経常利益率10%」の達成を目指すなら、どのような取り組みが必要でしょうか?

吉田 経常利益率10%は並大抵の数字ではありませんよ(笑)。しかし、達成への思いだけはしっかりと持ち続けるようにしています。その実現へ向けた具体的な活動方針として、2013年に50周年を迎えたことを機に中期5カ年計画を新たに設定しました。
 その中で目標に定めたのは、現在の県内農機販売シェア6割を8割にまで高めることや、農機サービス事業をこれまで以上に拡充させることなどです。また、最近の家庭菜園人気を踏まえ、農業をやってみたい一般の方をターゲットにしたビジネス提案や市場開拓も考慮しています。
 いずれにしても農家と当社、提携企業それぞれの強みを生かして連携し合うことを前提に、日本の農業全体の発展をにらんだ幅広いビジネスを積極的に進めていきたい。そして、農業ならどんなニーズにもワンストップで応えられる「農業ソリューションカンパニー」になることが、利益率を着実に高める秘訣だと考えています。


遠藤 最後に、新潟という地域からグローバルなビジネスを展開される立場として、「地方創生」を成功させる要因について聞かせてください。

吉田 地方創生には、地元企業が増収増益に懸命に努力して、人材採用を増やすことが一番だと思っています。それができないと若い人は働く場所がなく、東京をはじめとした都会へ出て行ってしまうのは必然。この流れをくい止めるために、何でも東京のまねをしたり東京経由にしたりせず、地方は地方らしい、地元でできるビジネスを伸ばすべきですね。

 ただ、地方企業がそれに取り組む上で、全国どこでも同じような自治体の創生ビジョンに乗っかるだけで満足しては絶対にダメです。自らのリスクで知恵を絞り、トライアンドエラーを繰り返すことが何より大切でしょう。そうした活動を続けていけば会社の勢いや個性が育ち始めてそこで働く魅力が増し、若い人も集まってくるはず。つまり、個々の企業のチャレンジ精神こそが地方創生につながると、私は信じています。

遠藤 地方企業も失敗を恐れず、可能な限り新規事業にどんどん挑戦することが大事なのですね。しかも、継続させる強い意志を持って臨むことも重要であることがよく分かりました。本日はありがとうございました。

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※ 本記事は、2015年7月の「FCCフォーラム」対談をもとに再構成したものです。

PROFILE

  • (株)新潟クボタ
  • 所在地: 〒950-0951 新潟市中央区鳥屋野331
  • T E L : 025-283-0111
  • 設 立: 1964 年
  • 資本金: 1 億8000 万円
  • 売上高: 140 億円(2015 年12 月期)
  • 社員数: 411 名(2016 年1 月1 日現在)
  • 事業内容: クボタ農業機械・農業用施設機械の販売および修理・整備ほか http://www.niigatakubota.co.jp/


■column
「農家への恩返し」の志が新潟クボタの原動力
コンサルティング戦略本部 新潟支社長 遠藤 俊一


日本人の主食・コメを巡る環境が激変期を迎えている。2015年に改正農業協同組合法(農協法)が成立、「TPP」(環太平洋経済連携協定)も大筋合意に達した。18年には減反政策が廃止される。今後は約700ある地域農協の競争力強化の動きが本格化し、農地の大規模化や農業生産法人の規模拡大、企業の農業参入も進む。一方、世界的な和食ブームを背景に、コメの商業輸出が伸びている。輸出量は年間4516トン、金額にして14.3億円(ともに2014年)と、いずれも前年比約4割増と好調だ(【図表1】)。特に数量は10年間で11倍※に急伸している。

※ 公益社団法人米穀安定供給確保支援機構『コメ、コメ加工品の輸出動向』(2015年5月)より

世界の食市場は人口増加とともに拡大を続け、2020年には日本のGDPを上回る680兆円に達するとみられている。安倍政権は成長戦略分野の1つに農業を掲げており、20年に6次産業化の国内市場規模を10兆円、30年には農産物の輸出額を5兆円に伸ばす計画(日本再興戦略)だ。日本の食文化の代表ともいえるコメの海外展開で、農業関係者や全国自治体から注目を集めているのが農機大手のクボタ。同社は全国農業協同組合連合会(JA全農)と連携してコメの輸出を進めており、グループ全体のコメ輸出量は2012年の80トンから、14年には940トンと2年間で約12倍に急増。16年には約1万トンまで増やす考えだ。(【図表2】)

その輸出用米の集荷・流通を担うのが、新潟クボタと子会社の新潟農商である。日本産米の海外販路拡大を通じ、コメ農家の活性化、地域農業の振興を目指している。この背景にあるのは「農家への恩返し」という熱い志である。

新潟クボタは2015年、農業特区(アグリ特区)に指定された新潟市で農業生産法人(NKファーム新潟)を設立。輸出米用の生産や耕作放棄地での小麦生産に乗り出した。また、農作業の省力化・軽労化・低コスト化に貢献する「鉄コーティング湛水直播」、ICT(情報通信技術)を活用した圃場・栽培管理支援システム「KSAS」(クボタスマートアグリシステム)の普及にも力を注ぐ。

担い手の高齢化と後継者不足、コメ消費量の低迷、産地間競争の激化、農業構造改革の進展など、農家を取り巻く環境は厳しい。同社はこれらの課題を打破すべく、農機販売業から「農家支援業」へと事業領域を拡大することで、農業を成長マーケットへと転換させようとしている。同社の今後の取り組みに注目していただきたい。

【図表1】日本産米(商業用)の輸出実績推移
【図表1】日本産米(商業用)の輸出実績推移[/caption]

【図表2】クボタグループの精米輸出量推移(単位:トン)

【図表2】クボタグループの精米輸出量推移(単位:トン)





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超速時代に求められる経営判断


短期的経営判断

企業は、多様な課題に対し判断を迫られる。2 つの製品(商品)のどちらを生産(販売)するかという短期的な課題もあれば、将来的にどこのエリア・場所に進出(出店)するかという長期的な課題もある。

言い換えれば、結果が早く表れる「短期的経営判断」と、設備投資や新規事業など結果が表れるまで数年を要する「中長期的経営判断」という2 つがある。このうち、重要度を増しているのが短期的経営判断だ。環境変化のスピードがグングンと加速する現在、決断・決行・決着の迅速化を図らねば、たちまちマーケット(顧客)との決別を余儀なくされる。

短期的経営判断とは、意思決定の結果が1年程度で表れる判断をいう。売上高や経費をもとにした「利益」を基準に判断する。何年後にその利益が出るかという視点は特に必要ない。すなわち、どちらの製品(商品)が自社にとって多くの利益をもたらすか、という視点だけでよい。

ただし「利益」といっても、どの利益を見るかによって判断が異なるため注意が必要である。簡単な例で説明しよう。例えば、100 円で仕入れたフランクフルトを、労務費20 円(分給換算)のアルバイトが焼いて、150 円で売ったとする。この場合、

①販売単価150 円(売上高)
②仕入れ100 円(変動費)
③労務費20 円(固定費)
④粗利益(①-〔②+③〕)
 = 30 円

―となる。そこへ、ある社長から「今後継続して大量に買い付けたい。手始めに1本120 円で売ってほしい」と注文が入る。受けるべきか断るべきか。この場合、

①販売単価120 円(売上高)
②仕入れ100 円(変動費)
③労務費20 円(固定費)
④粗利益(①-〔②+③〕)
 = 0 円

―となり、儲けがないため「断る」という判断になる。

だが、これを「限界利益」(売上高-変動費)で見るとどうなるか。限界利益(120 円- 100 円)は20 円。すなわち粗利益で見ると儲けはゼロだが、限界利益だと20 円の儲けが出る。限界利益を基準にすれば、「継続して大量発注が入る」ことを加味すると「受けてもよい」との判断になる。

現状の利益・費用と、選択肢の利益・費用との差額を算出し、迅速に判断していく方法を「差額原価収益分析」と呼ぶ。短期的経営判断では、このように利益を基準にして短期的な経営判断を行っていく。

判断基準は限界利益率

では短期的経営判断において、何を基準に判断すればよいのか。それは「限界利益率」である。簡単な例で確認しよう。

メーカーA社は、顧客Z社から部品aを、顧客Y社から部品bの生産を受注している。先日、来期の計画として、両社から増産依頼を受けた。だがA社の生産能力を考えると、両社の増産に対応することは難しい。Z社、Y社のどちらの依頼を受けるべきか、経営判断が迫られた。

部品a、bの収益構造を表したのが【図表】である。この場合、どちらに取り組むことが望ましいだろうか。利益を上げていくためには、基本的には利益率が高いものを拡販していくことがよい。

【図表】を見ると、「経常利益率」は部品aの方が高い。だが、経常利益率は固定費までを差し引いた利益率である。従って売上高が増加すると、固定費は変わらないため固定費の負担が少なくなり、経常利益率は上昇していくが、逆に売上高が減少すると固定費の負担が大きくなり、経常利益率は低下する。

一方、「限界利益率」を見ると、部品bの方が高いことが分かる。限界利益は売上高から変動費を差し引いたものであるから、売上高が変動すれば変動費も変化していく。部品aの売上高は「200万円」、部品bの売上高は「140万円」であるが、この売上高が変化しても、それぞれの限界利益率は変わらない。

今後、売り上げが増減しても、限界利益率の高い部品bを重点的に取り組む方が、経常利益は確保しやすくなる。よって、部品bの増産を優先するという経営判断が導き出せるのである。

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対策の優先順位

判断を行う上で必要な優先順位について少し触れておきたい。限界利益率の向上を検討するとき、変動費比率が高い場合と低い場合で、それぞれ具体的な対策の優先順位が違ってくる。それを次に整理する。

(1)変動費比率が高い(固定費比率が低い)

この場合は販売額(販売数量)を増やしても、利益にはあまり貢献しないことになる。そこで、まずは変動費の低減や値引きを避けることで限界利益率の向上に努め、同じ売上高でも限界利益額が残る体質にしていくことが、優先順位としては高い。

その上で、売上高(販売数量)を拡大していくとよい。なお、固定費の削減も効果的ではあるが、もともと固定費比率が低いため、優先順位としては高くない。

従って優先順位としては、

①限界利益率の向上
②売上高(販売数量)の拡大
③固定費の削減
―となる。

(2)変動費比率が低い(固定費比率が高い)

この場合は変動費比率が低く、限界利益率が高いために、売上高(販売数量)の拡大が利益増加と直結しやすくなる。そこで優先順位としては、売上高(販売数量)を増やしていくことを重視・検討していく。その次に、固定費の削減を検討する。

変動費比率自体は低いので、変動費の削減は優先順位が高くない。従って優先順位は、

①売上高(販売数量)の増加
②固定費の削減
③限界利益率の向上
―となる。

以上のように、自社の収益構造によって打つべき対策が異なってくる。短期的経営判断に当たっては、自社の収益構造をよく理解し、「利益」を基準に置いて、継続発展のための経営判断を行っていただきたい。

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  • タナベ経営 コンサルティング戦略本部
  • 部長
  • チーフコンサルタント
  • 稲岡 真一
  • Shinichi Inaoka
  • 収益モデルを研究テーマに、数多くの企業の業績構造を分析。その中から新しいビジネスモデルに即した収益構造をデザインし、確立することを得意とする。多くの中堅・中小企業の財務戦略構築推進指導などに携わり、クライアントの立場に立った真摯な取り組みが高い評価を得ている。


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    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所