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今週のひとこと

まずは、「こうなりたい」という望みを持とう。

やがてそれが「こうなるんだ」という意志となり、

「必ず実現できる」という強い信念に変わる。





☆ 将来のチャレンジに向けた基礎固め

私は今、ダイエットをしています。このダイエットを始める半年前から、「体重は変わらずも筋肉質な体づくり」を目指し、ほぼ毎日15分程、腹筋運動や腕立て伏せなどの筋力トレーニングを行ってきました。ところが、ある時、その「変わらなくてもよい」体重が「重い」と感じたのです。

このダイエットが成功するかどうかはともかく、少なくとも、この半年間は地道に筋力トレーニングに励んできましたので、もし成功しなくても、毎日のトレーニングを続けている限り、体重が大幅に増える「反動」はないと思っています。この半年間の筋力トレーニングという『基礎固め』の上に、ダイエットという『チャレンジ』をしているからです。

このことを経営に置き換えると、将来に向けてチャレンジをしたいことがあるのであれば、基礎固めの期間を考慮し、体制面や人材面、資金面などについてしっかり準備をしておけば、チャレンジの成功可能性はきっと高まるはずです。
成功可能性を高める『基礎固め』は何かを考え、それがすぐに始められることであれば、今日からでも始めてみてはいかがでしょうか。


コンサルティング戦略本部
チーフコンサルタント
中島 望





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阿波製紙の本社中庭にて。 後ろのモニュメントは初めて導入した製紙機械の乾燥用ロール(ヤンキードライヤー)
阿波製紙の本社中庭にて。 後ろのモニュメントは初めて導入した製紙機械の乾燥用ロール(ヤンキードライヤー)
(左)タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦 (右)阿波製紙 代表取締役社長 三木 康弘 氏

紙を超える紙を創造する100年企業

特殊紙メーカーとして、自動車をはじめ幅広い産業を陰から支えてきた阿波製紙。東証2部上場、売上高約170億円、従業員数655名(ともに連結、2016年3月期)。紙の可能性を追求し、新市場を切り開いてきた5代目社長・三木康弘氏に、100年を超えて変化を続ける要諦を伺った。



和紙から特殊紙へ時代に合わせて変身

若松 当社との長いご縁、ありがとうございます。阿波製紙は特殊紙メーカーとして2016年2月に100周年を迎えられました。おめでとうございます。

三木 ありがとうございます。阿波製紙は、1915(大正4)年11月10日に有志7名が発起人大会を行い、翌16年2月12日に設立しました。松浦徳次郎が初代社長となった後、1920年に私の曽祖父に当たる三木與吉郎(よきちろう)(第12世)が2代目に就任。私は5代目で、1992年に29歳で会社を継ぎました。

若松 阿波製紙の事業沿革を拝見すると、「和紙」から「特殊紙」メーカーへと転身を図られています。事業戦略のターニングポイントをお聞かせください。

三木 徳島県は和紙の原料となる楮(こうぞ)や三椏(みつまた)の産地であり、当初は和紙、中でも半紙やちり紙を製造していました。手すきが主流だった時代に、技術者を招いて機械すきによる量産体制を確立して会社は成長しました。ところが、終戦を機に市場環境が変わりました。
終戦間もない頃、洋紙の流入によって和紙需要は縮小。事業転換を迫られる中、目を付けたのが特殊紙でした。1949年にセルロイド原紙など特殊紙の原料となるコットンリンター(綿実繊維)を手掛ける会社を立ち上げ、設備投資や大卒社員の採用によって品質の向上を図ると、1950年からの朝鮮戦争特需で一気に注文が入り、事業が軌道に乗りました。

若松 和紙需要がなくなるという危機感とニーズへの対応が、新規事業を生み出したわけですね。そうした歴史や事業などを、100周年を機に「創業の精神」としてまとめられました。

三木 私自身は若くして会社を引き継いだため、先輩方からさまざまな話を聞かせていただきました。しかし、先輩方が会社を去るにつれて過去を知らない世代が増え、全社員の知るべき歴史が共有されなくなってきた。これは大変なことだと思い、事業の原点や歴史を伝承していく一環として明文化しました。

若松 英国の元首相ウィンストン・チャーチルは「過去をより遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡せるだろう」と言いました。歴史が長い会社は、過去に学ぶところが多いものです。明文化は過去をさかのぼる作業ですが、現在や未来の社員のために歴史を刻むわけですから、未来をつくることにも通じる大切な仕事です。

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紙の可能性を追求し事業領域を広げる

若松 現在は、自動車関連資材、水処理関連資材、一般産業用資材という3本柱で特殊紙事業を展開されています。

三木 売上高は自動車関連資材が約102億円、水処理関連資材が約50億円、一般産業用資材が約18億円といったところですが、市場戦略や事業戦略を目指したというよりも「ご縁」を生かした結果です。
例えば、自動車関連資材は1960年から開発をスタートしましたが、始まりは祖父の三木與吉郎(第13世)が社長を務めていた徳島バスからの開発依頼でした。当時、導入直後の箱形バスの不具合が続く中、同社の技術者だった祖父の義弟はエンジン用フィルターに問題があると考え、米国では濾紙(ろし)にコットンリンターが使用されていることを突き止めました。そこで当社に相談が持ち込まれ、いろいろと教えてもらいながら開発を進めたのです。

若松 その技術が国産車のエンジン用フィルターのスタンダードになっていますね。水処理関連資材への参入のきっかけはいかがでしたか。

三木 日本の繊維メーカーがポリエステルの短繊維を開発し、当社にアプローチしてきてくださいました。それを紙に加工したところ、そこそこ良い製品はできたのですが、当時はほとんど売れませんでした。
用途展開を模索していたところ、「純水をつくる水処理膜モジュールの歩留まりが悪い」という話を耳にしました。詳しく聞くと、水処理用フィルターの素材として使われている乾式不織布は分厚く目が粗いため、濾過(ろか)面積が少なくて造水効率が悪く、水の純度も不安定とのことでした。
この乾式不織布に代わる素材の開発依頼を受け、当社が提案したのがポリエステル100%の合成繊維紙。改良を重ね、これが急速に広まりました。また造水コストを下げることにも寄与し、水処理膜市場が拡大しました。最初からうまくいったわけではありませんが、期待を込めて設備投資を行ってきた成果が出たのです。

若松 これらは現在でいうところの「オープンイノベーション」ですね。顧客課題からテーマを設定して、顧客と共に事業開発していることがポイントであると感じます。

三木 水処理関連資材も一般産業用資材も、偶然のご縁からお客さまが求めているものを一緒に開発した結果、市場の拡大とともに柱となる事業に成長していきました。今後は偶然の確率を高めていく活動をしていかなければなりません。

若松 顧客課題を解決する開発スタイルが風土として根付くといいですね。タナベ経営の創業者・故田辺昇一は、「人生は遺伝・偶然・環境・意志の産物」と言いましたが、ご縁に意志が加わって、現在の事業拡大につながったのだと思います。

阿波製紙㈱ 代表取締役社長 三木 康弘(みき やすひろ)氏
阿波製紙㈱ 代表取締役社長
三木 康弘(みき やすひろ)氏
1963年生まれ、徳島県出身。87年慶應義塾大学法学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に勤務。92年10月阿波製紙入社、同年12月より現職。94年からTHAI UNITED AWA PAPER 会長、2003年から阿波製紙(上海)董事長を兼任するほか、徳島ニュービジネス協議会会長、四国経済連合会常任理事、四国生産性本部副会長・徳島県支部長、四国ニュービジネス協議会連合会会長、日本ニュービジネス協議会連合会副会長を務める。2011年藍綬褒章受章。

株式上場でマネジメントの強化「紙を超える紙」の開発に注力

若松 2012年に東証2部上場を果たされました。ここ数年、上場を目指す企業は増加傾向にありますが、地方の材料メーカーに限れば株式上場にこぎ着けるケースは多くありません。上場後に経営は変わりましたか。

三木 資本政策の目的もあって株式上場したのですが、私個人で言えば、オーナーシップの自覚がいっそう増したように思います。自覚とは、株主に対する経営責任です。業績達成への責任感が格段に強くなりました。
また、役員や会社全体のマネジメント意識が向上しています。上場前は管理に甘い部分もあったのですが、株式上場へ向けた内部統制の仕組みづくりを通して透明性が向上しましたね。各部署の業務手順などを見える化したことで社内の仕組みを整理できました。

若松 私もコンサルティングで多くの上場アドバイスをしてきましたが、株式上場は手段であって目的ではありません。会社によって目的は違うのです。阿波製紙が上場という手段を使って経営改革を進めた意義は大きく、次の100年を目指す上でも節目となりました。今後は海外展開も含めて新たな市場開拓が必要です。

三木 エンジン用フィルターはグローバル化が進んでいます。当社は1994年にタイに工場を建設して96年から製造を開始。97年に通貨危機などもありましたが、今は海外に工場があるから成り立っている状況です。
日産自動車などはルノーと部材の共有化を図っていますから、より競争力を付けていかなければなりません。付加価値の高いものは国内で製造する一方、それ以外は海外での製造を進めてコスト競争に対応していきます。

若松 自動車関連資材、水処理関連資材、一般産業用資材に続く第四の事業の柱づくりへ、どのように取り組んでいらっしゃいますか。

三木 今、注力しているのが炭素繊維です。炭素繊維を使った紙では世界でトップクラスだと自負しています。機能としては熱伝導性や強度に優れており、素材も活性炭や黒鉛などさまざまありますから、組み合わせを変えながら新しい機能を開発しているところです。

若松 用途開発としての具体的な展開をご紹介ください。

三木 新製品の1つ、『CARMIX熱拡散シート』は熱伝導性があり、半導体向けの放熱材料として電子部材市場に期待しています。機能的にも従来材料と同等以上であることに加えて、紙には曲げても折れないメリットがあります。

若松 (シートを触りながら)本当に曲げても折れませんね。紙の可能性に驚きます。常識にとらわれず、「これが紙でできるの!?」と"驚き"を与えるという開発精神を感じます。

三木 『CARMIX CFRTP マット』は鉄と同等の強度があります。ポリプロピレンやナイロンなどの熱可塑性樹脂繊維と炭素繊維を水中で均一に分散させ固めてマット化したもので、積層してプレスすることで複雑な成型が可能です。世界初の技術で、軽量でさびず、リサイクル繊維が使えるなどのメリットがあり、自動車向けを目指しています。

若松 環境配慮への要請はますます強くなっているので、循環型製品は付加価値が高くなります。

三木 紙は他の材料と組み合わせることができる中間素材で、限りない可能性を持っています。特殊紙・機能紙という言葉を積極的に使い、「紙を超える紙」をつくろうと日夜挑戦しています。

㈱タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
㈱タナベ経営 代表取締役社長
若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

新しいものを生み出し続けなければ会社は終わる

若松 顧客やマーケットが求める価値を実現しようとする姿勢が、従来の紙の概念を超える技術を生み出しています。いわば「超特殊紙」です。阿波製紙には、未知の分野に挑戦する文化がありますね。

三木 創業以来、「新しいものを生み出し続けなければ会社は終わる」という危機感を常に持っています。今ある商品で将来も飯が食えるという保証はありません。それを保証するのは会社ではなく、社員一人一人の活躍だと言っています。

若松 祖業である「和紙」だけをそのまま続けていたら、今日の阿波製紙はなかったでしょう。まさに、未知への挑戦が大切ですね。

三木 和紙から特殊紙への転換もそうですが、さらにさかのぼると、三木家や発起人に名を連ねた資産家は藍商人でした。藍から和紙への転換が先だったのです。
明治時代、徳島の藍染めのシェアは全国ナンバーワンでしたが、海外からインド藍や合成染料が入ってくると一気に衰退しました。こうした経営環境に対応し、危機感を持って製紙事業に参入して市場を切り開いていった。こうした歴史を見ても、1つの事業がずっと続くことはありません。衰退する前に次の事業をつくっていかないと会社は終わりを迎えます。

若松 拙著『100年経営』(ダイヤモンド社)では、「100年続く会社とは変化を経営する会社」と提言しています。阿波製紙も事業転換がうまい。染料から始まり、和紙になり特殊紙に変わり、さらに研究開発を進めて自動車や水処理などへドメイン(事業領域)を広げています。会社全体が危機感を持つと、マーケットの捉え方が変わるのです。

三木 100年という節目を迎え、あらためて何が大切かを考えると、やはり人材育成にたどり着きます。チャレンジ精神を養うためにも、「創業の精神」を伝承していきます。100年続いても、社員が社風や歴史を知らないようでは価値はないからです。
近年、当社の歴史や技術、製品をまとめたテキストを社内プロジェクトで作成しました。膨大な内容ですから、ここから抜粋して人材育成に活用していこうと取り組んでいます。

若松 創業の精神やその歴史を共有することで未来へのチャレンジ精神を育み、次の100年に向けて紙の可能性を広げていかれていることに大変共感しました。持続的成長による200年経営の実現を祈念いたします。本日はありがとうございました。

PROFILE

  • 阿波製紙㈱
  • 所在地:〒770-0005 徳島市南矢三町3-10-18 TEL:088-631-8100(代)
  • 設立:1916 年
  • 資本金:13 億8513 万円
  • 売上高:169 億8100 万円(連結、2016 年3 月期)
  • 従業員数:655 名(連結、2016 年3 月末現在)
  • 東証2 部上場
  • URL:http://www.awapaper.co.jp/
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    06-7177-4008
    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所