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今週のひとこと

こうなってもらいたいという、あるべき

姿をまず明確にしよう。経営理念、行動

基準、期待される社員像に沿って、指導

基準をしっかり持とう。





☆ 若者の"やる気スイッチ"はどこにある?

さまざまな調査機関が新入社員の意識調査といったアンケート結果について公表していますが、「周囲の人たち以上に頑張りたい」と答える若い人たちの割合が減ってきていることが実感できます。

熱血指導、24時間働けますか、といった昔ながらの精神論は、今日ではパワーハラスメントやブラック企業とされてしまう風潮が強くなっています。最近の若者はよく分からない、どう指導すればいいのか、どうすれば仕事に打ち込んでくれるのか、彼・彼女たちの"やる気スイッチ"はどこにあるのか。これらのことは、多くの経営者や人事担当者に共通した悩みでしょう。

皆さんの会社には経営理念があると思います。その経営理念は社内に浸透していますか。全社員が経営理念に基づいて判断し、行動しているでしょうか。

今週は、新入社員が入社された企業も多いと思います。
「働き方改革」という言葉を毎日見聞きすると言っても過言ではない今、経営理念を判断基準として、あらためて社内で共有化することで、若者のどこかにある"やる気スイッチ"を押すことができるかもしれません。


コンサルティング戦略本部
コンサルタント
小出 哲央





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カルビー本社にて
(左)カルビー 代表取締役社長兼COO 伊藤 秀二 氏
(右)タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦

「問屋を極める、究める」。業界の常識を変革し続ける独創経営

『かっぱえびせん』『ポテトチップス』『じゃがりこ』など、数多くのロングセラー商品を生み出したカルビー。売上高は約2461億円(連結、2016年3月期)、国内スナック菓子市場でシェア5割以上を占めるトップ企業だ。発売から長い年月を経てもなお、商品が新鮮さを失わない秘訣(ひけつ)はどこにあるのか。代表取締役社長兼COOの伊藤秀二氏にブランディングの要諦を伺った。



商品にライフサイクルはない革新が成長を生み出す

若松 カルビーグループの2015年度(連結、2016年3月期)の売上高は2461億2900万円(前期比10.8%増)。国内スナック菓子市場でシェア53.2%(※)を占めるトップ企業です。ロングセラー商品も数多くありますが、中でも『かっぱえびせん』は発明に近い商品ですね。
※ カルビーグループ決算説明会(2015年4月1日~2016年3月31日)資料より。カルビーとジャパンフリトレーの合計(2016年3月期実績。出所:㈱インテージSRI調べ、全国全業態、金額ベース、2015年4月~2016年3月)

伊藤 発売は1964年にさかのぼります。創業者・松尾孝は、コメの高騰が続く中、米国から大量に入ってきた小麦からあられを作るアイデアを思い付き、試行錯誤の末に『かっぱあられ』を開発。その後、創業の地である広島近郊で取れる小エビを丸ごとつぶして混ぜ込んだ『かっぱえびせん』が誕生しました。「あられはコメから作るもの」という常識を覆す商品であり、その意味では発明に近いといえます。

若松 そのお話を聞くと、カルビーという社名が「カルシウム」と「ビタミンB1」を組み合わせた造語であることもうなずけます。ここ数年は『じゃがりこ』の再ブレークや、『フルグラ』が発売から20年以上たった2013年度にシリアル市場で3割以上のシェアを獲得するなど、発売からの期間が長い商品が活性化していますね。

伊藤 1991年に発売したフルグラの売上高は、2010年度まで年間30億円程度と、ブレークし切れない状況が続いていました。それが2013年度は、ほぼ100億円に達する爆発的なヒットを記録。要因はいくつかありますが、消費者の生活スタイルの変化が大きいと思います。朝食を1人で簡単に済ませる人が増えたことで、手軽に食べられるフルグラが再評価されました。

若松 時代のニーズや顧客価値にフォーカスした需要を掘り起こせば、既存商品も成長する余地は十分にあるわけですね。

伊藤 メーカー側は常に市場開拓に取り組んでいますが、実はお客さまも新たな市場を創っている。この2つが重なって爆発的なヒットが生まれるのが最近の特徴ですね。時間はかかりますが、顧客にとっての価値がどこにあるかを探して、丁寧に顧客価値と商品をつなげることが肝要です。

若松 「顧客価値との一体化」ですね。マーケティングの常識では、商品は導入期、成長期、成熟期、衰退期というライフサイクルをたどるとされますが、カルビーは良い意味でこの常識から外れています。商品のライフサイクルをどう捉えていらっしゃいますか。

伊藤 私は、「商品にライフサイクルはない」と考えています。成長期から成熟期に至った商品はそのまま維持できる、あるいは成熟期の中でも成長できると。
ただし、それには新しい挑戦が必要です。例えば、かっぱえびせんに「山わさび味」といった変わり種を投入するなど、消費者を飽きさせない挑戦です。変化を嫌って守りに入ると販売数は下がるもの。現状を1%でも超えようとする努力が、商品ブランドの成長につながります。

若松 非常に共感します。多くの企業のコンサルティングを手掛けてきた経験から、100年企業の共通点は「理念(クレド)」を基軸に「変化を経営する会社」であると私は定義しています。カルビーも顧客価値の変化に合わせてブランド価値を磨き続け、トップシェアを獲得されたのですね。

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『フルグラ』は食物繊維がたっぷり入ったシリアル(穀物加工品)。ヨーグルトとの相性も抜群

新事業開発には「分権」が必要

若松 2011年からアンテナショップ「Calbee+(カルビープラス)」を展開されています。一消費者としての感想ですが、カルビーの印象が変わりました。商品ができる過程を間近で見て、出来たてのおいしさを体験できる「コト価値」のマーケットに着眼した新事業といえます。

伊藤 Calbee+は社員の提案から生まれた店舗で、どのような店にするかは社員に全て任せました。開店前は「お客さまが来てくれるだろうか」と心配でしたが、ふたを開けてみると、とても多くのお客さまが並んで購入してくださいました。
お客さまと直接、接する機会ができましたし、百貨店で販売するような高価格帯商品の開発にもつながった。何より、並んで買ってくださるお客さまの姿を見たり、声を聞いたりすることは、社員にとって良い経験になっていると思います。

若松 私たちは「モノ余りでコト不足の時代」と表現していますが、今はモノが余っている半面、コトとしての新たな価値が不足しています。顧客の声や反応と間近に接することで新しいアイデアが生まれ、カルビーという会社や商品の価値が高まるきっかけになるのではないでしょうか。

伊藤 そうした展開に期待しています。新しいアイデアは、現場から生まれるものです。だから、私は得意先や自社工場を回ることに力を入れています。自分の目で現場を見て判断するためです。
しかし、判断した後は現場に任せなければなりません。いわゆる「分権」です。現場が自主的に取り組んでいるところにトップが口を出すと、社員はその仕事が自分の仕事だと思えなくなってしまいます。トップのメッセージを現場に伝えつつ、どう任せるかという「任せる技術」が大切です。

若松 トップが全てを見ることができない企業規模になったら、分権が不可欠です。「自由闊達(かったつ)に開発する組織」を創るためには、権限と責任を持って事業や商品を生み出す「戦略リーダー」を育成していかねばなりません。これが100年企業の条件でもあります。

伊藤 分権化するためのプロセスとして、透明化や簡素化も必要です。トップが持っている情報をオープンにしないまま現場に任せると最悪の事態を招きかねませんし、仕組みや決裁権限などが複雑だと分権できません。自社の判断基準を理解している人材が、現場で感じ取ったニーズやトレンドを踏まえ、自分たちで仕事を進めることができる環境を整えることです。
幸い、食品分野は技術革新によって市場が極端に変わることはありません。例えば、携帯電話市場でガラケーがスマートフォンに代わったように、急激に縮小することは少ないのです。しかし、お客さまと融合する努力を怠れば、少しずつ市場は小さくなっていきます。

若松 劇的な市場変化がない分、顧客のちょっとした変化を見逃さない努力が欠かせませんね。

伊藤 例えば、『じゃがりこ』はおやつとして食べる人が大多数ですが、お湯をかけてポテトサラダ感覚で食べたり、細かく折ってスープに入れて食べたりする人もいます。ジャガイモを蒸(ふか)してつぶし、棒状に固めた『じゃがりこ』は、素材や作り方からすれば、ご飯の代わりに食べてもおかしくありませんが、子どもがそんな食べ方をすると叱られるでしょうね(笑)。しかし、具材のバランスを変えて、時間をかけて食事のイメージをつくっていけば、そうした用途が広がるかもしれません。

若松 生活スタイルや食は変化していきます。変化する顧客価値のあくなき追求。そこに軸を置き、恐れずに挑戦されていく姿勢に共鳴します。

伊藤 人口減少に伴い国内市場の縮小が懸念されていますが、食の変化に着目して現代の食事に何が必要かを考え続けることで、新たなジャンルが見えてくると思います。消費者が満足していない部分は残されているわけですから、そこをどう捉えるかが大事ですね。

若松 ものづくりへのこだわりと、顧客価値に合わせる柔軟なマーケティング。それがカルビーの企業文化なのでしょうね。原材料の生産から直営店の運営まで垂直統合されていますから、ニーズに合わせるバリエーションは豊富にある。商品とニーズをどうマッチングされるのか、今後も非常に楽しみです。

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カルビー 代表取締役社長兼COO
伊藤 秀二(いとう しゅうじ)氏

法政大学経営学部卒業後、1979年にカルビー入社。1999年関東事業部長、2002年執行役員(消費者部門担当)を経て、2004年取締役執行役員じゃがりこカンパニーCOO。2006年取締役常務執行役員CMOマーケティンググループコントローラー。2009年代表取締役社長兼COO就任、現在に至る。

6年間で売上高が1000億円伸長、操業度を上げ効率化を推進

若松 新商品や新市場を開発する「イノベーション」に加え、「コスト・リダクション」を改革の柱とされています。業績を拝見すると、2009年度から2015年度の6年間で売上高が1000億円拡大しており、加えて総資産経常利益率は毎期10%以上。これらは強い意志がないと達成できない成果です。
コスト・リダクションに取り組む上で、変えた点はありますか。

伊藤 今まで国内は、「売れた分だけ作る」という発想でした。食品は鮮度が大切ですから、出来たてを届ける意味で、食品メーカーとして正しい方法です。しかし、生産ラインの操業度は65~70%程度。それをフル稼働することで原価を下げ、「たくさん売る」という考え方に変えたことで業績が向上しました。原価を下げてたくさん売れば利益が出る。その利益をお客さまに還元すると、さらに買っていただけます。

若松 カルビーはジャガイモなど原材料の生産から行っていますから、歩留まりが重要です。歩留まりは消化率で決まるため、全部消化し切った方が利益は出るわけですね。

伊藤 考え方を変えたことで販路も変わりました。以前はディスカウントストアなどとの取引には消極的でしたが、今は「お客さまがそうした店で買いたいなら積極的に売ろう」と考えています。国内の販売先にも開発余地があったわけです。

若松 チャネルが広がったのですね。イノベーションのストーリー力と業績への展開力。その両方に長けていると感じます。

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タナベ経営 代表取締役社長
若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。
関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

グローバル戦略を推進海外売上比率3割目指す

若松 今後も積極的に海外展開を進めていくのでしょうか。

伊藤 売上高に占める海外比率は約12%(2016年3月期)ですが、伸び率は高く、2011年3月期(約3%)の約4倍へと拡大しました。今後は30%まで海外比率を高めたいですね。
カルビーのユニークな商品を展開する余地は十分にあると思いますが、現地に合ったマーケティングが不可欠。各国の現地スタッフを責任者にしています。

若松 食は地域の特徴が顕著に表れる分野の1つですから、海外各地の顧客価値に合わせるためにも分権が必要ですね。

伊藤 海外事業においては、特に分権が重要。北米で人気のスナック菓子『ハーベストスナップス』は、現地法人の社長に米国人を起用したことで大ヒットした好例です。当初、日本人がデザインしたパッケージで展開していましたが、ヘルシーフードという限定的なマーケットから出られずにいました。そこで、現地化に伴ってパッケージデザインやマーケティングを任せたところ、人気に火がついたのです。

若松 日本企業は商品に自信を持っているだけに、現地化に対する認識が遅れている側面もあります。現地の感覚に合わせるには、それぞれの国・地域に任せる覚悟が必要ですね。

伊藤 大事なことは「米国人が選ぶデザイン」であること。当社に限らず、日本の食品メーカーの商品がおいしいのは間違いありませんが、味やデザイン、ネーミングも含めて、極端に言えば「全て現地に合わせる」くらいの覚悟が必要です。その方がお客さまとの接点が大きく広がります。

若松 攻守のバランス、その中で挑戦する経営姿勢がカルビーの持続的成長につながっているように感じます。分権によって、各商品の海外も含めた市場を活性化し、企業の総合力をさらに高める「自立・透明・シンプルな経営」の推進を祈念しております。本日はありがとうございました。

米国で人気を博すスナック菓子『ハーベストスナップス』
米国で人気を博すスナック菓子『ハーベストスナップス』

PROFILE

  • カルビー㈱
  • 所在地:〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-8-3 丸の内トラストタワー本館22F
  • TEL:03-5220-6222
  • 設立:1949年
  • 資本金:120億800万円
  • 売上高:2461億2900万円(連結、2016年3月期)
  • 従業員数:3728名(連結、2016年3月末現在)
  • 東証1部上場
  • http://www.calbee.co.jp/







真の顧客の声を聞き未来顧客創造の可能性を広げる

「私たちは、本当の顧客の声に耳を傾けてきただろうか」

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1. 折れにくく、指先にフィットする『トリプラスクレヨン』
2. 色鉛筆に適した角度に削れる、便利なふた付きシャープナー
3. マーカーのキャップは万が一の誤飲に備え、気道を確保できるベンチレーション(通気)を設けるなどの工夫がされている
4. 万が一なめても安全な原料を用いた色鉛筆。強い筆圧をかけても折れにくいよう、芯には特殊なコーティングが施されている

新たな市場に参入した高級文具メーカーが、これまで耳にしていた"顧客の声"は、「本当の声」ではなかったことに気が付いた。販売店が売りやすいものや、自分たちの常識の範囲内で商品を提供するのではなく、本当のユーザー=子どもたちの姿に注目することで、未来にわたって長く愛される商品づくりを目指す。

老舗高級文具メーカーの意外な悩み

「ステッドラー」といえば、プロ志向のユーザーに選ばれる高級文具メーカーとして知られる。特に、デザインや製図に携わるプロフェッショナルから寄せられる信頼は大きく、同じペンを何十年と使い続けるファンも少なくない。

その歴史は、創始者のフリードリッヒ・ステッドラーが独ニュルンベルク市役所に鉛筆職人として届け出た17世紀(1662年)にまでさかのぼる。19世紀には法人化とともに近代的な工場を建設し、硬度が異なる12種の鉛筆、世界初となる色鉛筆の量産にも乗り出した。日本に支社を設けたのは1926年。英国ロンドンに次ぐ2番目の海外支店だったという。

製図デザイン用品市場に参入したのは意外にも最近で、1955年にプラスチック軸のシャープペンシルを発売したのが始まりだ。日本では「ドイツ製の製図用品」「精巧で頑丈」とのイメージが浸透し、同分野でトップクラスのシェアを占めるに至っている。

「"製図用品のステッドラー"として認知されているのは、日本と米国ぐらい。それ以外の世界のほとんどの国では、『鉛筆のメーカー』と認識されています。本社工場で生産する製品も半分以上が鉛筆。日本は製図デザイン用品に注力し過ぎたところがありました」と、ステッドラー日本の代表取締役・遠井孝夫氏は語る。

ステッドラー日本 代表取締役 遠井 孝夫氏
ステッドラー日本
代表取締役 遠井 孝夫氏

子ども向け市場への参入市場調査で新たな気付き

製図用品による売り上げ拡大路線から脱却すべく、同社は2006年より幼児向け製品ライン『ノリスクラブ』へ向けて力を注ぎ始めた。

発色のきれいな水彩色鉛筆、安全性を強く意識したデザインなど製品には自信があった。だが、当初は売り上げが伸び悩んだ。「国内競合他社とのちょっとしたスペックの違い」に問題があったという。

「例えば、国産メーカーの色鉛筆には、1本ずつに平仮名で色名が書いてある。当社の製品は、色名が書かれていたとしても英語であり、心遣いが足りなかったかもしれません。日本市場の中でも、やや特殊な子ども向け市場の常識に後発から切り込んでいくには何が必要か。頭を悩ませました」と営業部の部長・田中雅明氏は言う。

本来のデザインを隠し、箱に日本語の製品紹介を貼る。箱が傷まないようにビニールのラップで包むなど、日本のスタンダードに合わせた結果、小売店での取り扱いが増え、売り上げも順調に増加していった。

とはいえ、もともとのシェアがそれほど高くなかっただけに伸びしろは大きい。もう一段、弾みをつけるためにどうすればよいかを思案していたところ、「幼稚園マーケットを起点とし、子ども向け市場に裾野を広げませんか」とタナベ経営から販促プロモーションの提案があった。

プロモーション展開のポイントは、PDCAのPlan(計画)段階で販促プロモーション計画策定のための市場調査を行い、アナログにもデジタルにも広がる「今」の子どもたちの本当の姿を知ること。そして自信を持って市場に送り出す高品質な自社製品が、子どもからどのように評価され、興味を持たれているのかを直接、見聞きすることだった。

「私たちにとっても、本来のユーザーである子どもたちと触れ合える、またとない機会。とても魅力的な提案でした」と企画部企画課の課長代理・若林まどか氏は話す。

そこで早速、幼稚園の園長を対象としたグループインタビューを実施するとともに、協力先の幼稚園で「ステッドラー色遊びイベント」を開催。すると、思わぬ発見が続々と得られたという。

例えば、積極的に押し出している製品ではなかったマーカーが、「発色が良くて使いやすく、書きやすい」と園長が絶賛し、その場で子ども向け教材として購入された。

「水彩色鉛筆も、子どもに向かないのではと考えていたのですが、年長の子どもに大人気でした。園長先生のアドバイスで子どもたちの自由な発想に任せてみたところ、すぐに使い方を覚えて色塗りに熱中したり、色を溶かしてみたり、水鉄砲で色を消して遊んだりしていました。どうやれば良いかなんていうのは大人の発想で、こちらが使い方を教えなくても、子どもたちの世界がどんどん広がっていくのは大きな発見でした」(若林氏)

ステッドラー日本 営業部 部長 田中 雅明氏
ステッドラー日本
営業部 部長 田中 雅明氏

ゴールは「未来顧客の創造」

同社は、一般家庭で使ってもらうことはもちろん、幼稚園教材としてのニーズにも応えていく方針だ。取り組みが始まって半年ということもあり(2016年9月現在)、具体的な成果が見えるのはこれからだが、現状認識をしっかりと行った上で、策定した販促プロモーション戦略に沿って順調に進行している。

そうした中で、同社に今、大きな変革が訪れようとしている。

「結局のところ、私たちがこれまで聞いていた声は、販売店や問屋といった取引先の声。子どもの声を聞く機会はまずありませんでした。取引先は売りやすいもの、自分たちの常識の範囲内のものを販売しようとして、結果的にどうしても偏ってしまったところがあった。最初の調査段階の取り組みだけでも"目からうろこ"でした」とは田中氏の弁だ。

現在、ステッドラーは「ゆりかごから墓場まで」というスローガンを掲げ、全世代にブランドを浸透させようと戦略を練っている。

「この活動のゴールは、未来顧客の創造です。目先の結果につながらなくても、将来に子どもたちが当社の製品を買ってくれるようになれば、この取り組みは成功といえるでしょう」(田中氏)

「幼い頃に触れたものは、一生心に残ります。10年後、20年後に信頼され愛されるブランドとして残っていくために、子どもたちが色や絵を楽しみながら、もっと好きになってくれるような製品を開発したいですね」と若林氏も意気込む。

また遠井氏は、タナベ経営を「第2の企画部」だと思っていると話す。

「私たちメーカーは、どうしてもプロダクトオリエンテッド(=プロダクトアウト)的な発想で、良いモノを作れば売れると思いがちです。今回の取り組みでも、そうした思い込みがたくさん明らかになりました。大がかりなマーケティングをするには費用もパワーもかかりますから、おいそれとは実施できません。しかし、それらを別の視点から考え、アドバイス、正しい選択肢を提供してもらえるのは、実にありがたい。ぜひ、われわれの事業内容をよく知って、力を貸してもらいたいと思っています」(遠井氏)

ステッドラー日本 企画部企画課 課長代理 若林 まどか氏
ステッドラー日本
企画部企画課 課長代理 若林 まどか氏

PROFILE

  • ステッドラー日本㈱
  • 所在地:〒101-0032 東京都千代田区岩本町1-6-3
  • TEL:03-5835-2811
  • 設立:1974年
  • 資本金:3億円
  • 従業員数:42名(2016年8月末現在)
  • 事業内容:一般筆記具、製図・設計・デザイン用品、オーブンクレイの輸出入販売および国内卸売業
  • http://www.staedtler.co.jp/


ステッドラー日本の取り組みは、高品質な製品力と歴史を併せ持つメーカーによる新市場への参入事例だ。同社のように後発であっても、目まぐるしく変化しているマーケットの現状をしっかりとつかみ、顧客が求めている「コト」の解決・提案につなげるキーワード・メッセージを打ち出せれば、"売れる"仕掛けづくりは可能である。
本稿で触れた調査活動は、固定観念にとらわれていた現状を知った意味でも、同社にとって大きな財産となった。顧客の本当の声に耳を傾けない限り、ターゲット市場と自社商品をマッチングし、自社の強みに基づく販促プロモーションを行っても効果が出ない。未来の顧客創造は、顧客の声の"想像"から生まれないのだ。

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左から、飯田 和之(タナベ経営 SPコンサルティング本部 大阪本部長) 庄田 順一(タナベ経営 SPコンサルティング本部 課長)、東 加奈子 (タナベ経営 SPコンサルティング本部 主任 )、渡辺 啓太郎(タナ ベ経営 SPコンサルティング本部 SPデザインコンサルタント)

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    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所