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今週のひとこと

部下に、できない理由を弁解させて

はいけない。どうすればできるのか

を考え、答えさせよう。





☆ 「なぜ?」ではなく「どうやって?」
  ― 部下とのコミュニケーションのポイント

こどもがテーブルからコップを落とした時、「コップが落ちた」と言い訳をすることが多いでしょう。本当は、コップを持つ手が滑ったり、手を当てたりしてしまい「落とした」のでしょうが、責任を回避しようと自分の行動ではなく、自分と関係の無い事象にしてしまうことがあります。では、こどもの言葉に対し、親が返す言葉で一番多いものは何でしょうか。それは、「なぜ落としたの?」です。険しい表情でそう言われてしまうと、こどもは「ごめんなさい」としか言えません。

部下育成も同じです。部下がミスを起こした際、「なぜそんなことをしたのか」と聞くと、「すみません」としか返ってこないでしょう。そして、それが繰り返されると、部下は無意識に防衛本能を働かせ、ウソや言い訳じみた返答をしてしまいがちです。
しかし、ここで「何のためにそうしたのか」と聞くと、相手の考えを聞くことができ、問題の解決にもつながります。


「なぜ(Why)」という言葉を、人や、その人の行動に対して使うと否定をしているような関係性になってしまいます。「なぜ」よりも、「何のために」を心掛けてください。そして、同じことを繰り返さないためにも、次は「どうやって(How)」するのかを考えさせ、学びの機会としてみてはいかがでしょうか。

コンサルティング戦略本部
コンサルタント
井上 禎也





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滋賀県大津市にあるオプテックスグループ本社のエントランス前にて。
タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(左)と、オプテックスグループ 代表取締役会長兼CEO 小林 徹氏(右)

センシング技術のファーストコールカンパニー
― 開発力とセグメント力で未見のニッチ市場を開拓 ―


卓越したセンシング技術(必要なものだけを検知する技術)をコアコンピタンスとするオプテックスグループは、防犯・自動ドアセンサーで世界をリードする開発型企業だ。同社は世界15カ国に拠点を構え、グループ会社29社を展開。約80カ国に製品・サービスを供給している。ROE(自己資本当期純利益率)8.7%、自己資本比率78%(いずれも2015年12月期連結決算)という健全経営を実現する同社の経営方針について、代表取締役会長兼CEOの小林徹氏に伺った。



世界初・遠赤外線による自動ドアセンサーを開発

若松 オプテックスグループは屋外用防犯センサーで世界シェア40%、自動ドアセンサーでは30%(国内シェア60%)を誇るファーストコールカンパニーです。1979年に創業され、その翌年に世界初となる遠赤外線を利用した自動ドアセンサーの開発に成功。わずか3年でトップシェアを獲得されました。世界初の発明はどのように生まれたのですか。

小林 私は前職で(波長が短い)近赤外線に関するモノづくりに携わっており、赤外線技術研究会(現・一般社団法人日本赤外線学会)に所属していました。日本各地の大学の先生や大企業の研究者と交流する中で、主に軍事用として使われていた遠赤外線を知り、「民生品に活用できないか」と興味を持ちました。その後、展示会でわれわれのセンサーを見た人から「自動ドアに応用できないか」と打診されたのが開発のきっかけになりました。

若松 当時の自動ドアは、ゴムマットを踏むことによって開閉する足踏み式が主流でした。遠赤外線を利用することによる競争力は、どこにあったのですか。

小林 足踏み式は重さによってドアが開閉するため、比較的軽い子どもや女性は検知されにくいというデメリットがありました。また、ハイヒールの刺激や雨などによる浸水によって壊れやすく、埋め込み式のためメンテナンスや交換が大変だという課題もありました。非接触の遠赤外線センサーにすることで、人を検知する精度が上がり、故障も減って、メンテナンスが簡単になったと大変好評でした。

若松 新しい技術で、既存製品の不満、不便、不快を解決したわけですね。まさに技術によるソリューションであり、オプテックスグループのビジネスモデルの原点となるアプローチです。

小林 ただ、遠赤外線には温度や湿度の変化で誤作動が起こりやすいデメリットがありました。高温多湿の日本の夏に使用できる遠赤外線センサーの開発は難しいチャレンジであり、開発に成功した後も改良を続けました。売り上げは1年目が700万円でしたから、当然赤字。改良を続けながら販路を広げて2年目は1億8000万円、満足できるレベルの商品ができた3年目には5億円まで拡大しました。珍しい要素技術への着目と、自動ドアに加えて遠赤外線をセキュリティーと組み合わせ、防犯用センサーのマーケットを開拓した点が早期に黒字化できたポイントです。

若松 ソリューション技術を駆使して、マーケットのないところにマーケットを創造した。独創性とベンチャースピリットですね。そして、掛け合わせ、組み合わせの技術で立ち上がりが早かった点も非常に大切です。

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鳥の目と蟻(あり)の目でニッチトップ企業へ

若松 現在は、センシング技術を生かしてセキュリティー、自動ドア、FA(ファクトリーオートメーション)という3本柱を中心に事業を展開されています。タナベ経営では「1T3D戦略」と呼び、1つの技術で3つのドメイン(事業領域)を攻略するナンバーワン戦略として提言しています。

小林 ある大学の先生が冗談で「センサーは千差万別」とおっしゃっていた通り、使う人や用途によってセンサーを変えることが重要です。どのセンサーにも一長一短がありますから。

若松 センサーの特性と目的を掛け算することでバリエーションが広がっていきます。マーケットを細分化して専門性を高めることで商品のラインアップは広がり、総合力が高まります。私たちも「高度の専門化と高度の総合化」を経営理念に掲げています。本来、専門化と総合化の並列は矛盾するもの。しかし、実際の経営においては、この両方が競争力を高める源泉となります。大変共感します。

小林 当社ではこれを「鳥の目と蟻の目」と表現しています。開発においては全体と細部、この2つの視点を持つことが大事です。私は資金も経営資源もない、"無い無い尽くし"から起業しました。トップシェアを取らない限り事業の継続は難しいので、開発する「もの選び」は特に重要でした。商品の種類やお客さまをセグメントした上で、体力に合ったところを狙う方法は今も同じです。

若松 シェアの観点は重要です。売上高の大きさは市場規模に比例するため、企業本来の競争力は測れません。経験科学上、中堅企業がシェア20%を超えるとトップ企業に近づくと提唱していますが、オプテックスはシェア30%を目標に置かれています。30%までいくとプライスリーダーになれます。シェアが粗利益を決め、その粗利益を確保する上でも値決めは非常に重要です。実際、オプテックスの粗利益率は50%を超えています。

小林 新しいことに挑戦する体力を維持するため、損益分岐点比率70%を基準の1つに置いています。これを意識して、製品の値決めやビジネスモデルの考案を行っています。またトップシェアを取ると、知名度が上がって営業が楽になる。小さくてもいいから、まずはトップシェアを意識したセグメントをつくることが大事だと思います。"千切り経営"と言いますか、物事の原因を細かく突き止めていけば、課題を必ず解決できます。ここは蟻の目でしっかりと見ていくことです。

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海外売上高比率70%地域特有のニーズに合わせる

若松 海外においてもトップシェアを獲得されています。売上高に占める海外比率が約7割に上るなど、名実ともにグローバル企業です。

小林 現在は15カ国に営業拠点があり、販売先は約80の国・地域に広がりました。社員の半数は海外の人材です。

若松 事業分野も広がり、かつ海外拠点が増えてくると、海外マーケットでの地域密着戦略とグループ全体としての組織戦略のバランスが大きなポイントになりますね。

小林 現状は自動ドア、セキュリティー、FAというモノづくりの3本柱と、営業面ではEMEA(欧州、中東、アフリカ)と米国、アジア、日本という地域に分けて統括するマトリクス組織です。2017年1月にホールディングス化しましたので、今後は地域や市場を細分化して専門化する一方、持ち株会社であるオプテックスグループを中心に全体最適を目指していきます。

若松 今後は、どのような組織を目指してデザインされていくのですか。

小林 4つの事業会社をさらに分社化していきます。例えば、自動ドアとシャッターなど商品をより細かく分けたり、セキュリティーでは原子力発電所のような高性能を求めるハイエンド用と、家庭用に分けたりするなどです。商品によってニーズや販路が全く異なりますから、事業会社として独立させることで特有のニーズに応えられる体制に変えていきます。また、分社化することで事業会社間の融合もしやすくなると期待しています。昨今、あらゆる技術が出てきています。その流れに対応できる組織に変えていかなければいけません。一方、情報システムや資材の共有化、生産体制の一本化など効率化にもグループ全体で取り組んでいきます。

若松 マーケットに近い部分は子会社化する一方、バックヤードやインフラ的な部分は持ち株会社がコントロールすることで、より開発に集中していくということですね。
その一方で、2015年は英国のガーダソフトビジョンや京都のシーシーエスを子会社化するなど、M&Aにも積極的に取り組んでいらっしゃいます。ただ、これらはもともと別の企業ですから、社風やカルチャーを共有することがなかなか難しい。裏返せば、「そこを押さえると成功する」という意見もあります。
グループ全体の規模が大きくなる中、小林イズムといいますか、オプテックスの考え方をどのように共有されているのですか。

小林 2016年の夏に一時期中断していたIGBC(インターナショナル・グループ・ビジネス・カンファレンス)を復活させました。国内外のグループ会社の社長や幹部が70人くらい集まって4日間にわたり相互理解を深めるもので、各社が置かれている市場環境や新しい事業開拓について知る良い機会となりました。

若松 IGBCは組織横断的な取り組みであり、次世代の経営者育成といった面でも効果が期待できますね。そこでオプテックススピリットの「夢を持て」「創造せよ」「成長せよ」「自己を確立せよ」「外部を活かせ」「ゆとりを持て」の精神を浸透していくのですね。

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  • オプテックスグループ 代表取締役会長兼CEO
  • 小林徹(こばやし とおる)氏
  • 家電メーカー・防犯機器メーカー勤務を経て1979年にオプテックスを設立、代表取締役社長に就任。2017年1月より持ち株会社体制へ移行し、オプテックスグループ代表取締役会長兼CEOに就任。1980年に遠赤外線を用いた自動ドア用センサーを世界で初めて開発し、『世の中のお困りごとを解決し、安全・安心・快適な社会づくりを創造』をキーワードに「社会にないものをつくる」「人のやっていないことをやる」ことを実践している。2004年には藍綬褒章を受賞。
  • タナベ経営 代表取締役社長
  • 若松孝彦(わかまつ たかひこ)
  • タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。


他社ができない分野を極めソリューション型企業へ脱皮

若松 コアコンピタンスであるセンシング技術を生かした機器や装置の開発に加え、近年はソリューションの提案へと事業領域を広げられています。今後の展開についてお聞かせください。

小林 われわれの標語は「安全・安心・快適な生活環境の創造」ですが、現状のセキュリティーには事後通知の範囲を超えていないものが多い。われわれは事前抑止をコンセプトにしており、事故や事件が起こる前に防ぐことを目指しています。城に例えると、「外堀を固める」といえますね。

若松 根本的な課題解決を目指すということですね。特に注力していく分野はありますか。

小林 今後もセンサー技術を深掘りしていきますが、われわれにしかできない分野を極めていくことが1つ。比較的、参入障壁が低い屋内用よりも、誤作動しやすいため高い技術力が求められる屋外用で圧倒的な強さを出していきたい。また、センシングだけでは目に見えないため何が起こったのか分かりませんが、カメラを加えることでより高いソリューションを提供できます。モノとインターネットをつなげるIoTではなく、当社ではセンサーとインターネットをつなげる「IoS」。通信技術が進歩したことで、ソリューションという視点においてはビジネスチャンスが増えているといえます。

若松 今、マーケットには非常に多くのニーズ、シーズがあるわけですから、先見性を持った社員や戦略リーダーを育てていくことが大事です。

小林 まずは中間層の育成が課題ですね。グループ全体で高い理念を掲げていますが、それを実現するために各社員がどう行動するかというところまで十分にブレークダウンできていません。そこを引っ張る中間層を強化し、継続的に発展していきたいと考えています。

若松 あと2年で40周年を迎えられますが、オプテックスグループのビジョンをお聞かせください。

小林 持続的成長をする会社であってほしいと思います。私自身は発明が好きなので、世の中にないものを発明して受け入れられ、それによって売り上げが上がることの喜びを大切にしています。会社の規模が大きくなると、そればかりを優先することはできませんが、基本的には「世の中にないものを生み出す喜び」を社員にも味わってもらいたいと願っています。

若松 オプテックススピリットが国を越え、グループ全体がソリューション型グローバル企業として、ますます発展されることを祈念しております。

PROFILE

  • オプテックスグループ㈱
  • 所在地:〒520-0101 滋賀県大津市雄琴5-8-12
  • TEL:077-579-8000(代)
  • 設立:2017年(旧オプテックス:1979年)
  • 資本金:27億9827万円
  • 売上高:277億9300万円(連結、2015年12月期)
  • 従業員数:1287名(連結、2015年12月末現在)
  • 事業内容:各種センサーの製造・販売
  • http://www.optex.co.jp/group/


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    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所