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今週のひとこと

3年先・5年先の一回り大きな組織図を

描いてみよう。

そして、足りない人材をどうするか、

今から手を打とう。





☆ 自分の欠点は、自分では気づかない?!

 筆者のクライアント企業である、受注型ビジネスのメーカーA社の話です。
 A社の強みは、製販一貫体制による顧客のニーズ・納期に対する素早い対応です。お客様から信頼され、仕事量も多いのですが、利益が出ていません。
 その理由を探るために、営業部・企画制作部・製造部、各部のリーダーにヒアリングをしたところ、次のような話をされました。


 ・営業部長

「私たちは、お客様のニーズをしっかり把握し、信頼も獲得している。しかしながら、企画制作部から斬新なアイデアが出てこないため失注することがある。また、製造部は納期の融通がきかない」。

 ・企画制作部長

「部内では、業務効率化やコスト削減を意識して、仕様の標準化を進めており成果もあがっている。しかし、営業部のヒアリングが不足しているため、お客様のニーズとのミスマッチが発生し、やり直しになったり、製造部からは技術の説明や、アドバイスが無かったりと、新しいことに取り組めない」。

 ・製造部長

「メンバーの多能工化を積極的に進めており、メンバー間の連携はよくなってきている。一方で、営業からの無茶な納期での依頼や、わが社の技術を考慮していない企画制作部からの仕様などに翻弄されて、新たな技術の研究に取り組めていない」。

全社の重点が不明確で、それぞれのチームがバラバラに動いている。皆さんの会社でも同じようなことが起こっていませんか。

A社では重点を明確にするために、「利益にこだわる」という方針を打ち出しました。そして、各部門のリーダークラスによるプロジェクトチームを組成し、得意先ごと、案件ごとの原価を細かく算出。コスト構造を徹底的に分析しました。その結果、A社の社員個人、チーム、そして全社の視点が変わり、高収益体質へと変わりました。

 成果があがらないのは、誰の責任でもなく、自分自身の責任です。
 そして、そのことを気づかせてくれるのが、周囲との会話・コミュニケーションなのです。


コンサルティング戦略本部
コンサルタント
大金 雄一郎





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強いチームは求心力と遠心力がある

2016年シーズンのプロ野球は、北海道日本ハムファイターズの日本一で幕を閉じた。が、話題性で言えば広島東洋カープ(以降、広島カープ)に軍配が上がるのではないだろうか。関西大学・宮本勝浩名誉教授の試算によると、広島カープのセ・リーグ優勝の経済効果は、広島県内だけでも約331・5億円に上る。これは過去の他球団の優勝と比べ、非常に大きな額だそうである。

思えば、昨シーズンの開幕前の順位予想で、ほとんどの野球解説者が広島カープをBクラスと予想した(最下位に挙げた人もいた)。ところがそんな下馬評をひっくり返し、広島カープは2 位の読売ジャイアンツに17・5ゲーム差のぶっちぎりで、25年ぶりのリーグ優勝を決めた。しかもエースの前田健太投手を米大リーグのロサンゼルス・ドジャースへ放出した状況での優勝である。

広島カープの方針は、「大型補強に頼らないチームづくり」。フリーエージェント(自由移籍)の権利を行使した選手を引き止めないことでも有名だ。親会社を持たない市民球団のため、強化資金が潤沢ではない事情もあり、ファーム(2 軍)で若手を育てながら勝つことが求められた。それが花開いたともいえる。

一方、広島に恩返しがしたいとの思いから、メジャーの高額年俸を蹴ってカープに復帰した黒田博樹投手、阪神タイガースから古巣の広島に戻った新井貴浩選手など、ベテラン勢も大活躍した。これは「広島でまたプレーしたい」という、損得勘定では測れない求心力の表れだ。ベテランの動機付けと気迫に他の選手が刺激されてシナジー(相乗効果)を生み、外国人選手のクリス・ジョンソン投手が沢村賞を受賞するなど、選手・コーチ陣・監督・球団職員、そしてファンと地域を巻き込んだ一体感が優勝へ導いたといえよう。

企業も今後、広島カープのような組織づくりが主流になるのではないか。トップの強力なリーダーシップの下で日本人の男性正社員を中心とした同質のメンバーが成果を生む時代から、多様性に富む異質のメンバーが活躍する時代になるということだ。すなわちリーダーが人材それぞれの長所を発見し、組み合わせることで掛け算式に化学反応を起こし、チームとしての成果が上がる。それが自社の成長を加速させる遠心力となる。

とはいえ、個人が集まっただけの〝集団〟では、十分なシナジーは発揮できない。企業の理念、使命(ミッション)という求心力があってこそ、本当に強い「チーム」が生まれるのだ。

自社はこれからどんなチームを創るのか、どこまで成果を出せるのか。それは、チームリーダーの考え方(求心力)と器(遠心力)で決まるといえるだろう。


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タナベ経営 常務取締役/
人材マネジメント研究会 アドバイザー

大川 雅弘 Masahiro Okawa
大手機械メーカーの技術開発部門を経てタナベ経営に入社後、北陸支社長、取締役を経て2011年より現職。企業の進化を支援するコンサルタントとして上場・中堅・中小企業の経営全般のコンサルに従事し、従来の発想にとらわれない独創的な手法で数多くの企業を優良企業に進化させている。信条は「進化の中に感動があり、感動こそが企業の若さを生む」「難しいことを分かりやすく言うのが本物のコンサルタントである」。著書に『企業進化への挑戦』(ダイヤモンド社)ほか。






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しなりのある組織づくり

タナベ経営 コンサルティング戦略本部 部長
人材マネジメント研究会 リーダー

森井 修
Osamu Morii

企業規模・業種にかかわらず、一貫して「人」を中心としたコンサルティングに従事し、組織・人事をはじめ、バックオフィスの課題に対し、実践的な改善策をアドバイス。豊富な体験に基づいたコンサルティングで、多くの企業から高い評価を受けている。人材マネジメント研究会リーダーとしても、幅広く活躍中。

基本を忘れた"疲弊組織"

売上高経常利益率が10%を超える優良メーカーA社の悩みは、人材の定着が進まないことだ。生産性を追求し過ぎて収益率優先の経営に陥り、人的資源に関してもコストで見る感覚となって「人材育成を行う費用も時間もない」と思い込み、誰もそのことに気付いていないのが要因だった。

バブル崩壊後、国内マーケットが縮小均衡に陥る中で、こうした例は珍しくない。企業は付加価値の分配を再検討せざるを得ず、賃金体系は年俸制や成果報酬など、個人成果主義の考え方に基づいたものとなった。だが、行き過ぎた個人成果主義は、共に働く仲間や部下を構う余裕を社員から奪い、組織全体を疲弊させている。

この個人成果主義の反動として、近年は組織に成果を求める方法が話題に上っている。社員個人に対して、細かい基準で評価することは良くないとする説もあるほどだ。

また最近は、メンター(育成者)制度をはじめ現場での人材育成の仕組みを導入する企業も多い。一見、新人の育成に注力しているように見えるが、逆に考えると、メンターの役割を制度として明確にしなければ、社会人や企業組織における基礎を教える、教わるという「組織運営の基本」が機能していないことの表れでもある。これも、組織が疲弊してしまっている証左ではないだろうか。

私は、新卒入社から3~5年が経過した若手社員を対象に、キャリアデザインを考える研修を引き受けることが多い。その経験から言えば、会社やリーダーから「働くこと」についてモチベーションフォローを受けている社員は少なく、チームワークを発揮する土壌(社風)づくりを行う前に、組織マネジメントの在り方を問う必要があるように思われる。

例えば、A社のように生産性基準を設けてクリアさせるというマネジメントは、社員に働く目安を与える一方で、「仕事ができる人」「できない人」という格差意識を植え付ける可能性も高い。「稼げない人」というレッテルを貼ったり、貼られたりすることが、組織への貢献につながることは少ない。

また個人成果主義を導入していなくとも、自社の成長性に不安を抱く社員は自らの既得権を守ることを第一に考えるため、およそチームワークとは程遠い組織になってしまっていることが多い。

個人の知識をチームの知恵にする「しなりのある組織」

では、どのような組織を目指すべきか?

まずは、チームをけん引する役割を担う上司と部下の関係を改めることが必要だろう。結論から言えば、上司と部下という上下関係ではなく、「リーダーとフォロワーの関係」に構築し直すということである。

近い未来のことすら見通しにくい現在の環境下では、戦略を練り、実践しても、成果の見えないことが多い。リーダー1人の知恵で、全ての難局を切り抜けることは不可能に近い。リーダーだけに「強くあれ」と言うのは酷な話である。

より現場に近いメンバーが解決のヒントを握っていることもある。チームが達成や解決の困難な課題に直面したとき、「こうすれば解決できるかも?」と進言できるフォロワーの存在がチームワークを生み出す。1人の強いリーダーが複数のメンバーをけん引するリーダーシップの形から、メンバーのフォロワーシップがリーダーを支えるチームワークの形への転換が必要なのだ。

個人の知識をチームの知恵として発揮できる組織。それを「しなりのある組織」と呼びたい。事業戦略を推進するチームワーク(組織人材力)を最大化する「しなりのある組織づくり」に向けて、組織マネジメントはどうあるべきかを考えてみたい。

本誌で取り上げたスープストックトーキョーの母体であるスマイルズは、「世の中の体温をあげる」という企業理念の下、100億円企業を目指すのではなく、「2億円の事業会社を50社つくる」というユニークな事業計画を立てた。そして、1つの成功事業に頼るのではなく、社会にどのような商品・サービスを提供すべきか、社員一人一人が考える「全社員社長会議」といった仕組みによって、数々の事業を生み出し続けている。

危機感をあおることをやめ、社員をわくわくさせる。これが、自社をどうしたいかについて一人一人が考えることにつながり、主体性を生む。スマイルズの理念と方針に共感をもたらす組織づくりが、社員の主体性を、ひいてはチームワークを育てているのだ。まさしく、「しなりのある組織」の好例といえよう。

逆に言えば、個人が何も考えなくてもよい会社に主体性やチームワークは生まれない。極端な言い方をすると、リーダーがメンバーに課題を丸投げして責任を取らない、またはメンバーがリーダーに任せ切りで支援しない。この「合わせ鏡」のような構造が、チームワークに欠けた組織の典型である。

そうならないために何をすべきか?

まずは、責任の捉え方を変えてみよう。責任を英語で表記すると「Responsibility」。この単語を分解すると「応える能力」(Response+Ability)になる。つまり責任とは、取ったり、果たしたりするものではなく、「応える」ものと解釈すべきなのだ。

顧客やリーダーから何かを求められたとき、または促されたとき、いつでも応える用意ができている。この姿勢こそ、「責任に応える」ことである。仕事に真摯(しんし)に取り組み、得た経験を大切にし、蓄積を重ねていくことでしか、この能力は高まらない。

前述した若手社員対象の研修で、よく「自分が何を期待されているか分からない」という悩みを聞く。その場合、私は「チームのために自分は何ができるのかを考え、仕事に取り組むことが大切だ」とアドバイスしている。

責任に応える人材とは、課題解決の現場において、専門性もさることながら、経験から学んだ知識を生かし、フォロワーシップを発揮してリーダーを支える人材だ。こうした「一人前の人材」を育成することが、しなりのある組織づくりの第1条件である。

「何かお手伝いしましょうか?」「どうしましたか?」といった声掛けを職場で見なくなったのは、いつからだろうか。顧客が困っているのに「その業務は私の担当ではありません」と対応することが"あるべき姿ではない"という基本を、教えないままになっていないだろうか。いま一度、自社を省みていただきたい。

しなりのある組織の運営マネジメント

最後に、社員一人一人が責任に応える組織風土づくりにおいて、必要な運営マネジメントのポイントを2つ挙げる。

1.「見ないふりをして見る」コミュニケーション
リーダーの意向が強すぎると、メンバーは自分の意見を言わなくなる。上司が「立場をわきまえて意見しなさい」と言えば、良いアイデアも一切出てこなくなるだろう。しかし、メンバーの自由にさせるだけでは、チームが空中分解してしまう。
リーダーは見て見ぬふりをするのでなく、「見ないふりをして見る」ことだ。「危ない」と感じたときにだけ注意を促すくらいの姿勢が肝要である。

2.事業運営に必要な決裁権限の明確化
社長が決裁権限を独占し、事業部長には何の権限もなく、経費の使用ルールを決めているだけ。こうしたケースはよくある。
トップが決めることは何か、リーダーに任せることは何かを明確にし、権限を委譲しなければ、企業はある一定の規模から成長できなくなる。事業センスのある人材がうまく活躍できるステージを用意できなければ、組織に「しなり」は生まれない。

1986年に男女雇用均等法が施行されてから約30年。「専業主婦世帯」と「共働き世帯」の数が逆転してから約20年が経過し(【図表】)、男女ともに働き方が多様になってきた。また、製造業や建設業、小売業、サービス業などを中心に外国人の雇用も進む昨今では、それぞれの人が持つ知識や経験は、これまで以上に多種多様である。



タマネギは何枚もの皮が重なったものであり、芯があるわけではない。1枚ずつむいてしまえば、最後はバラバラになる。組織も同様だ。故に、勤続年数や性別、国籍にかかわらず、一人一人が責任に応えるフォロワーシップで結束したチームをつくることが重要なのである。こうした「しなりのある組織」だけが、今の時代の閉塞感を打ち破る事業推進を可能にするだろう。

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【図表】専業主婦世帯数と共働き世帯数の推移

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