2017.11.10







海外展開するか否かは
10年先を見据えた高度な経営判断である


タナベ経営 コンサルティング戦略本部/
本部長代理 戦略コンサルタント

海外ビジネス コンサルティングチーム リーダー
巻野 隆宏 Takahiro Makino
企業の持続的な変化と成長をサポートする戦略構築に取り組んでおり、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。海外ビジネスコンサルティングチームのリーダーとしても、成長戦略の構築を提言している。

ビジネスチャンスは海外にこそある

6%――これは世界のGDP(国内総生産)に占める日本の割合を示した数字である。皆さんはこの数字を多いと思われるだろうか?少ないと思われるだろうか?国内マーケットで戦っている企業は、この「6%」を取り合っているのだ。※

この割合は年々減少しており、内需も今後さらなる縮小が見込まれている。生産年齢人口(15〜64歳)はすでに減少しているが、2019年ごろには世帯数も減少すると予測されている。他にも、2019年に予定されている消費税増税や2020年以降の東京オリンピック・パラリンピックの反動など、先々を見据えると、内需を牽引する要素は今のところ乏しい状況にある。

一方、全世界の人口は70億人を超えている。そのうち、アジアの人口は全体の60%を占め、今後も増加が見込まれている。インドの人口はまもなく中国を抜き、世界一になる見通しだ。アフリカの人口増加率も非常に高く、特にナイジェリアの伸びが顕著である。GDPの成長率を見ても先進国が1%台であるのに対し、新興・途上国は4%以上と非常に高い。また、年間の訪日外国人客数が2500万人に届こうかという勢いで増加していることも背景に、海外でのジャパンブランドの人気は一段と高まっている。

このように海外に目を向けると、地政学的リスクは確かにあるものの、まだまだビジネスチャンスが存在しているといえる。

ただし、間違ってはいけないのが、海外展開は国内事業からの逃避ではないということだ。事実、「海外進出を拡大する方針を有する企業の約6割が、国内事業も拡大する方針」というデータがある(ジェトロ)。この比率は、大企業より中小企業の方が顕著だ。一方、「今後とも海外展開は行わない」「現状を維持する」と答えた企業では、国内事業拡大方針は約4割にとどまっている。

いずれにせよ、海外事業と国内事業の相乗効果で成長戦略を描くという考え方が大切である。
※ 内閣府「国民経済計算(2014年)」より



取り組みが不十分な企業に共通する問題点

このように海外ビジネスにチャンスがあるとは分かっていても、全く、もしくは十分に取り組めていない企業が多々存在するのが現実である。どのようなことが原因なのだろうか?これらの企業に共通する問題点は、次の3点だ。

1点目は、なぜ海外事業へ取り組むのかが明確になっていないこと。「国内事業は縮小する。だから海外に進出する」という動機はあると思うが、海外事業に取り組む意義がなければ「何としても海外で事業を立ち上げる」という強い意思を持てない。まずは「何のために」という目的を明確にすることからスタートしたい。

同時に、どの国で何を売るのかも明確にする必要がある。展開国の選び方は、その業界における先進国を選択したり、逆に未開拓の国を選択したり、距離の近さからアジアを選択したりとさまざまだが、明確に展開国を設定することが大切である。展開国が決まれば、販売する商品やサービスがマッチするかを実際に現地で踏査する。その際に忘れてはいけない着眼点が、その国の文化に触れること。販売する商品やサービスに関する調査だけでなく、その国の文化、生活習慣、人々の考え方に触れることが大切になる。

2点目は、収益を上げるビジネスモデルが見えていないことが挙げられる。先日、タナベ経営の海外ビジネス研究会で講演いただいたある方は、「世界で戦うには利益率が2桁なければ戦えない」と話されていた。海外のグローバル企業と戦うためには2桁の事業利益率を確保するビジネスモデルが必要なのである。

コストを抑えるためのサプライチェーン全体での工夫や、提供価値を最大限に引き上げるための真の顧客価値の再設定で、高収益ビジネスモデルを組み上げなければならない。自分たちが良いと考えていても、海外のものの考え方や生活習慣からは価値と捉えられないものもある。ジャパンブランドが受け入れられる部分もあるが、逆に品質が悪い、ニーズとマッチしていないなどと受け取られる部分もあり、「価値なし」と判断されることもあるのだ。その意味でも展開国の文化を知ることは非常に重要である。

3点目は、誰が取り組むのか決まっていないことが挙げられる。海外事業においても人材不足が顕著である。海外事業が成功するか失敗するかは、何をやるかも大事であるが、それ以上に「誰がやるか」が重要になる。

まずはリーダーが自ら開拓する気概を持ち、先頭に立つ必要がある。併せて、実務を引き継いで、実際に事業として取り組む人材の確保も欠かせないが、ここに課題を抱える企業は多い。社内人材の育成やスカウトなどを活用し、「海外事業を何としても立ち上げる」という気概も一緒に引き継げる人材をいち早く見つけることが、海外事業成功の秘訣である。

海外ビジネスを成長エンジンとするためのポイント

あれらの課題を克服し、海外ビジネスを成長エンジンとするためのポイントとして次の3点を提言したい。

1点目は、「郷に入れば郷に従え」。海外では、国内では考えられない問題が発生する。日本で経験してきたステップが通じないことも多々あるだろう。日本は実店舗での商品購入から、Web通販での購入へと移行してきたが、実店舗が発達する前にWeb 通販での購入が主流になっている国もある。そうなると消費に対する考えが日本とは全く違ってくる。

また、高度経済成長期の「質より量」という考えと、高付加価値志向の「量より質」への移行が同時に起こっている国もあり、日本から見れば理解しがたい価値観を持っていることもある。まずは展開国を決めて、現地の文化を理解し、受け入れた上でビジネスモデルを構築することが大切である。

2点目は、「卵を1つのカゴに盛るな」。一品、一国、一代理店に偏っていては高収益ビジネスモデルを組み上げることはできない。海外事業を推進している企業は例外なく、点から面への展開、地道な新規顧客開拓活動を重視している。海外で売り上げを伸ばしている企業は、自ら海外で顧客数を増加させているのである。マネジメントがしやすいからといって、一代理店と独占販売契約を結んだり、特定の顧客とだけ商売をしている企業は少なくないが、代理店も顧客もその状況に安住し、積極的に販売しなくなってしまうことが多々ある。展開国や展開商品・サービスを積極的に広げていく行動力が、海外ビジネスを成功させるためには重要となるのである。

3点目は、「七転び八起き」。これまで海外ビジネスに取り組まれている多くの優良企業の経営者と話をする機会があったが、口をそろえて「初めは失敗の連続であり、最初からうまくいかないことを前提に取り組まなければいけない」と言う。海外ビジネスは長距離走だ。短距離走ではない。だからこそ、小さく始めて長く続けられる工夫と、中期的なゴールの設定が大切である。初めから全力疾走ではすぐに息切れしてしまう。とはいえ、永久に続くマラソンは完走できない。まずは、3年で単年度黒字化するなどの中期的ゴールを設定したい。

海外ビジネスの1・10・100

最後に、海外ビジネスのポイントを「1・10・100」にまとめたい。

まず「1」だが、これは「1人から始めるリーダーの覚悟」を表す。初めから複数人を海外事業に割けるほど人的余裕のある企業は少ないだろう。まずは1人で立ち上げ、なんとしても事業化させるというリーダーの覚悟と行動力が必要だ。

次の「10」は、「10年継続する強い意思」を表す。海外事業は10年継続できるかどうかが大きな分岐点となる。あるデータでは、海外撤退を経験した中堅・中小企業の半数以上が10年未満で撤退しているという。海外事業を10年継続させるために、資金面や収支面、モチベーションの観点からビジネスモデルを工夫する必要がある。

最後に「100」。これは「事業利益率10%×海外売上高比率10%=100%」を表す。海外のグローバル企業と戦うためには事業利益率10%が必要であり、そこから逆算したビジネスモデルを構築することが重要である。まずは海外売上高比率10%が1つのゴールになる。これをクリアすることで、次のステップが見えてくる。

海外へ展開するか否かは、自社の10年先を見据えた高度な経営判断といえる。10年先を見据えて海外へ展開すべきだと判断されたのであれば、前述のポイントを整理していただき、小さく早く挑戦されることを提言したい。