2017.02.10







「地域ナンバーワン」がLTV獲得の条件

タナベ経営 コンサルティング戦略本部 副本部長
小売・販売店の未来のビジネスモデルを学び活かす研究会 戦略ドメインリーダー

福原 啓祐 Keisuke Fukuhara

人事、営業、財務戦略のコンサルティングを中心に、上場企業から中小企業まで幅広い臨床経験を持つ。また、企業再建の経験も豊富で、万年赤字のホテルを1 年で黒字化。破綻懸念のあった企業を正常化するなど、企業変革の実績も多数。

タナベ経営 コンサルティング戦略本部 部長
小売・販売店の未来のビジネスモデルを学び活かす研究会 戦略ドメインサブリーダー

山本 哲也 Tetsuya Yamamoto

製造業の営業職を経てタナベ経営に入社。営業力強化や営業管理システム構築のコンサルティングを得意とする。また、幹部人材対象の人材育成研修も数多く担当。「戦略力×実行力が業績を決める」というモットーのもと、成果直結型のコンサルティングを実践している。


縮小する新車販売市場

日本自動車販売協会連合会の統計によると、2015年の国内新車販売台数は前年比9.3%減の504万6411台であった。500万台はキープしたものの、消費税と軽自動車税のダブル増税により軽自動車の販売(同16.6%減の189万6101台)が苦戦した影響を受けた。中古車市場も同様で、2015年の中古車登録車数は同0.5%減の373万2148台と、2年連続で過去最低の台数になった。
マーケットが縮小しつつある中、さらに2016年6月には消費税再増税の延期が決定され、当初に期待された駆け込み需要もなくなった。カーライフ業界を取り巻く環境は、今後も厳しさが加速していくと推測される。
こうした環境や人口減少、ライフスタイルの変化(保有車の使用期間長期化、若者のクルマ離れなど)に対応し、いかに付加価値を提供できるか。同質化が進む中でどのように差別化を図るのか。そこに持続的成長の鍵が潜んでいる。

顧客との関係を深めLTVを獲得

カーライフ業界において持続的に成長していくには、顧客との接点を強化してロイヤルティーを上げ、LTV(顧客生涯価値)を獲得することが不可欠である。そして、LTV向上のためには、地域の顧客に選ばれる存在になる必要がある。もちろん、価格を安くして選ばれるということではない。自社の提供する商品・サービスやその品質を評価してくれる顧客にとって「なくてはならない存在」になることである。
ディーラーであれば、車を販売して終わるのではなく、オイル・タイヤ交換や点検を通して定期的に接点を持つ。顧客との接点を増やしながら関係構築を図ることが、修理・板金や車検、さらには現車の下取り、新車購入、別の中古車への乗り換え需要などの獲得につながるのである。(【図表1】)

【図表1】LTV を獲得する仕組みの例(新車ディーラーの場合)
【図表1】LTV を獲得する仕組みの例(新車ディーラーの場合)

また、蓄積した販売データや顧客情報に基づき、セキュリティー、ETC、カーナビなどの装備品やメンテナンスパック、保険などのサービスを提案し、クロスセルを行うことも重要だ。車の保有期間の長期化によるメンテナンス需要が今後ますます増えるからである。ニーズをつかみ、的確な提案をすることで、CS(顧客満足)の向上を図ってLTVを獲得しなければならない。次に、ビジネスモデルによってCSを向上させている企業を紹介しよう。

事例:㈱ユーポス

ユーポスは、1995年に大阪市で創業し、2015年に創業20周年を迎えた車買い取り専門のフランチャイズチェーンである。9店舗からスタートし、2016年6月現在、関西を中心に全国86店舗(直営店4店舗を含む)を展開している。
同社の特徴は、独自のビジネスモデルにある。一般的な中古車買い取り・販売会社は、車を買い取ると自社の販売展示場で展示し、売れるまで在庫をストックする。販売管理費がかかるため、顧客から高額で買い取ることが難しくなる場合が多い。一方、同社の場合、中古車オークションを手掛ける関連会社・ベイオークのオークション会場へ、買い取った車をすぐに出品する。これによって在庫リスクが解消され、販売管理費の削減や相場変動のリスク回避が可能となるため、高額買い取りを実現できるのだ。
同社は、車を売りたい一般ユーザー(顧客)との接点を増やそうと、広告にも注力している。俳優の竹内力や、サンリオのキャラクター「ハローキティ」を起用したユニークなテレビCMは、同社の知名度向上に大きく貢献している。
また知名度アップとともに力を入れているのが、リピート率アップにつながる顧客満足度の向上だ。24時間対応の「お客様相談窓口」の設置で、顧客の要望や意見をスムーズに吸い上げる仕組みを構築しているほか、従業員の研修カリキュラムを充実させ、買い取り時の接客にも心を配っている。高い査定力と営業力で愛着のある車をいかに買い取るかが、同社のビジネスモデルの肝だからである。
多くの自動車買い取り会社は、買い取り価格の説明を数分で終えるが、同社は顧客に納得してもらうことを重視し、1~3時間をかけて実施している。車の査定内容を詳しく把握してもらった上で買い取るという姿勢が顧客満足度向上につながり、2012年および2014年のオリコン日本顧客満足度調査「Oricon CS Award」を受賞するなど、高い顧客満足度を獲得している。
社名「U-POHS」の由来は、「お客さま(USER/YOU)、中古車(USED CAR)」の U と、「店(SHOP)」を反転させたPOHSの組み合わせで、「お客様のための買取店」を表すという。同社は今後も、独自のビジネスモデルによる高額買い取りと広告による知名度アップ、明確で納得性の高い査定システムにより、顧客満足度の向上に挑戦し続ける。

ES・CSを追求して地域ナンバーワンに

LTVが高く「地域ナンバーワン」といわれる企業の多くは、常に全従業員が顧客視点で物事を考えるようにするため、ES(従業員満足)向上の取り組みも行っている。ES・CSを追求し、地域ナンバーワンポジションを確立している企業の取り組み例は【図表2】の通りである。次の3つのキーワードを軸に顧客数を増やし、業績を伸ばしている。
①自律型従業員をどう育成するか
②女性従業員の活躍をどう促すか
③地域密着をどう図るか
サービスを提供するのも、顧客満足度を高めるのも、最終的には自社の従業員である。つまり、LTVの向上も「従業員の能力」によるところが大きい。そこで、経営理念を浸透させ、同じ価値判断基準のもと、全従業員が一丸となって顧客を獲得していくため、従業員育成に投資する企業が増えている。

【図表2】ES・CS 向上の取り組み例
【図表2】ES・CS 向上の取り組み例

事例:愛媛トヨタ自動車㈱

1937年に設立した愛媛トヨタ自動車は、トヨタ自動車系列のディーラーである。
同社は、横田英毅氏が代表取締役社長に就任した1994年から、自社の存在価値を「社会的責任」「社会貢献」とし、ステークホルダーの優先順位を、①従業員、②顧客、③ビジネスパートナー、④業界・地域社会、⑤社会的弱者と定義。「自ら 考え 自ら 発言 自ら 行動 自ら 反省」を行動指針に、社員がやりがいを実感できる組織づくりを目指している。
同社の取り組みの特徴は、ESを上げるためにCSアップに注力していることだ。CSを高めるためにESを上げようと取り組む企業は多いが、同社は逆である。顧客から感謝の声をもらうと、従業員にやりがいが生まれ、満足度が上がる。「CSが上がると、ESが高まる」=「従業員に働きがいを感じさせられる」から、CS向上に努めているのである。
同社では、「100年続く企業になるために最も重要なことは人材育成である」との考えから、さまざまな社会貢献活動を実施。例えば、1998年に始めた「出前授業」では、小学校の校庭で児童をハイブリッドカーや福祉車両に乗せたり、衝突の疑似体験をさせたりしている。
海外支援活動では、インドネシアに消防車や救急車を寄贈し、エンジニアを派遣して現地で自動車整備の指導を実施。タイの山岳地帯へ赴き、古着や子ども服、玩具、絵本を贈る支援も行っている。こうした社会貢献活動で、従業員に学びの機会を与えているのである。
また、女性向け車種のプロデュースのため、2012年に立ち上げた女性スタッフによる部門横断型の「CoCo ほわプロジェクト」は、現在では女性目線の店づくりや改善事例の共有など、全スタッフを巻き込んで社内を活性化している。
こうした取り組みが評価され、経済産業省「平成26年度 おもてなし経営企業選」に選出された同社は、今後も従業員の「やりがい」を差別化の源泉とし、顧客の信頼を得ることでLTVを高めていく。
愛媛トヨタ自動車のように、全部門横断でプロジェクトを立ち上げ、現場に近い従業員から意見を吸い上げて改善提案に役立てるといった取り組みを行う企業は少なくない。顧客からよく感謝される従業員を評価・表彰するなどして、従業員にやりがいと自主性を持たせ、環境に左右されない強い企業体質をつくり上げていただきたい。