2017.10.20





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京町家に新たな価値を吹き込む
社員の個性を最大限に発揮



2016年に創業60周年を迎えた八清は、建売住宅の販売から京町家のリノベーションへ業態を転換して業績を伸ばしている。
京都らしい街並みと住文化を受け継ぐ伝統的な京町家に、新たな価値を見いだした代表取締役の西村孝平氏に独自の戦略を聞いた。


京町家をよみがえらせ現代へ伝える

山本 タナベ経営が主宰する「住まいと暮らしビジネス成長戦略研究会」にご協力いただき、ありがとうございます。早速ですが、「八清」という社名の由来からお聞かせください。

西村 西村家は私で8代目になります。5代目の清吉(曽祖父)は、仲の良い友人同士で名前に「八」を付けた愛称で呼び合い、曽祖父は八清と呼ばれていました。父の由蔵はその話を覚えており、1956年に会社を創業する際、八清を社名にしたそうです。

山本 なるほど、「八」には末広がりの意味もありますからね。さて、昨年創業60周年を迎えましたが、これまでどのような事業を行ってこられたのでしょうか?

西村 創業時は繊維製品の卸売が主な事業でしたが、高度成長期真っただ中の1962年に不動産業を始めました。転業した詳しい経緯は分かりませんが、この54年間のほとんどは不動産業を営んできました。
私は1975年に入社し、建売住宅の営業から不動産の仕事を覚えました。住宅不足だったので家を建てれば売れる時代でしたが、「土地が買えなければ、次の仕事がない」という状況に危機感を抱いていました。

 その後、中古住宅や京町家のリノベーション販売に乗り出されています。何がターニングポイントになったのでしょうか?

西村 住宅業界には「築30年で土地値」という言葉があり、30年たつと家の価値がなくなるといわれています。ですが、木造住宅の寿命が30年というのは取り壊した住宅の平均年数であり、住めなくなるわけでも、確かな根拠があるわけでもありません。
中古住宅の販売に関わりだしたのは1999年。建築規制に引っ掛かり、建て売り用地として仕入れた建物をやむなく全改装して売り出したところ、あっという間に売れたのです。これは衝撃的でした。
この一件で、「価値ゼロ」とされる建物でもユーザーニーズに合った改装を施せば売れると気付いたのです。それが大きなターニングポイントになりました。

山本 リノベーションによって商品価値を上げるというビジネスアイデアが生まれた瞬間ですね。

西村 そこから、建物に強度を加え、設備や間取りを変更してよみがえらせた築20年以上の中古住宅を『リ・ストック住宅』として発売し始めました。

 その後2001年、初めて京町家を販売しましたね。

西村 不思議なもので、建て売り事業をしているときは古い住宅を取り壊して最新の住宅を建ててきたのに、それとは真逆の古い家を残す事業に転換したわけです。

山本 建て売り事業をやめて京町家の再販事業に特化するのは一大決心だったのではないでしょうか?

西村 すぐに転換したわけではなく、建て売りから京町家へ徐々に切り替えていきました。社員は伝統構法を知りませんから、伝統構法のできる大工を探してレクチャーを受けたりもしました。
京町家のビジネスについて、本格的な手応えを感じたのは2002年、京町家のオープンハウスを開催したときです。そのとき、建売新築物件のオープンハウス時の約10倍もの人々が訪れ、「町家に、こんなにたくさんの人が訪れるのか」とそのポテンシャルを実感。ビジネスとして十分に成り立つと確信しました。


八清 代表取締役 西村 孝平氏
八清 代表取締役 西村 孝平氏
1950年京都市上京区生まれ。1975年八清に入社、2002年代表取締役就任。京都不動産コンサルティング協会や龍谷大学、佛教大学などセミナー講師歴多数。著書は『マンション管理評価読本:価値を上げる管理の常識』(学芸出版社、共著)。趣味は月に100㎞走るジョギング。

古い柱や梁はあえて残し、経年美を生かす
古い柱や梁はあえて残し、経年美を生かす

新築に近づけるのではなく経年美を生かす発想

西村 一般的に、建売住宅の中心となる客層は30~40代。賃貸から脱出して家を買う人たちで、最低限の住居と駐車のスペースがあれば良いといったニーズですよね。一方で、京町家の場合、(建売住宅にはない)京町家の価値や良さを感じていただける方々が客層になり、ファミリー層から年配の方々まで、幅広い世代がいらっしゃいます。

 古さや歴史の詰まった京町家に魅力を感じている層がターゲット、ということでしょうか?

西村 そうですね。建売住宅とは真逆で、京町家の場合、歴史=物語は付加価値になります。歴史がある方が家の付加価値は高く、知識が増えるほどその付加価値が分かってきて興味も深まります。われわれよりも、お客さまの方が詳しいこともありますよ(笑)。
とはいえ、車を置く場所がない、風呂が古い、食器洗浄機が付いていないなど、現代人にとっては不便に感じるところも多いはず。そこで2005年、モデルハウスをつくり、実際にお客さまのニーズを聞く機会を設けました。

山本 テストマーケティング期間を設けられたのですね。

西村 そうです。このときつかんだニーズを生かして、改善するところと残すところを決めていきました。例えば、古い柱や梁、壁はそのままの方が町家の良さを生かせるので、残すようにしています。
改装する際、私たちは新築を目指すわけではありません。経年すれば、確かにきずがついたり反ってきたりしますが、半面、味わいや美しさが深まり、価値が高まるという「経年美」の考え方を大切にしています。古い良さを生かしつつも、最新の水回り設備などニーズに応じて取り入れることで、現代にマッチする京町家を作り出しています。

山本 古いからダメではなく、古いから良いという価値観へうまく転換されています。

西村 性能や新しさといった、他社と同じ土俵で勝負をしないことです。例えば、新築の家は断熱効果を高めるためにペアガラスや二重ガラスを使いますが、京町家は無垢材を使うので反りやひずみができて隙間風が入ってきます。アルミサッシを入れると気密性は高まりますが、京町家の風情を損ねてしまいます。

山本 「脱スペック競争」と言えますね。機能性を追求する競争にはあえて乗らないという発想は斬新ですし、ある意味とてもぜいたくです。

西村 乗らないというか、乗れないというか(笑)。当社が求めるのは性能の高さではなく、味わいや個性のあるもの。この方針を支持してくれる客層は少数かもしれませんが、確実に存在します。そもそも快適な新築ではないのに、なぜ人々が町家を選ぶかというと、そこに性能の高さを求める訳ではなく、町家特有の味わいや個性に強烈な魅力を感じるからです。

山本 料理で例えると、八清が提供するのは、最大公約数的な「大衆料理」ではなく、こだわりの「一品料理」。こだわりの強い層へ向け、こだわりのものを提供するビジネスは今の時代にマッチしています。"10人中2人に響く"マーケット。ただし、その2 割で断トツのポジションを確立することが大事です。また、金融機関から再建築不可物件への融資を取り付けたのも西村社長です。

西村 そもそも、再建築不可物件に金融機関が融資をしないのは、「(建築基準法上)建て替えができない」という考えからです。しかし、京町家は建築基準法の施行前に建てられた家屋で、違法な物件ではありません。さらに、京都になくてはならない京町家にファイナンスを付けることは、金融界にとっても社会貢献になると説得しました。こうした活動が実を結び、京町家の用途は今では賃貸住宅の『京貸家』やシェアハウスの『京だんらん』、さらに宿泊施設の『京宿家』などへ広がっています。

個性を生かしながら、生き生き働ける環境が整う
個性を生かしながら、生き生き働ける環境が整う

タナベ経営 コンサルティング戦略本部 副本部長 山本 剛史
タナベ経営 コンサルティング戦略本部 副本部長
山本 剛史 企業の潜在能力を引き出すことを得意とする経営コンサルタント。事業戦略を業種・業態ではなく事業ドメインから捉え、企業の固有技術から顧客を再設定して事業モデル革新を行うことに定評がある。現場分散型の住宅・建築・物流事業や、多店舗展開型の小売・外食事業などで生産性を改善する実績を上げている。神戸大学大学院卒。

多様な個性を生かしチーム力を発揮

山本 八清では、手離れよく回転で儲ける不動産型と、ものづくりにこだわる建築型という、互いに相いれない水と油のような業務が見事に共存しています。

西村 以前は物件を販売する営業担当と、建築の現場を管理する工務担当に分かれていましたが、2012年に1つにまとめて「暮らし企画部」としました。
部内でも営業出身は効率を重視し、工務出身は腰を落ち着けてものづくりに取り組みます。どちらのタイプであっても、物件の仕入れ、加工、販売までの業務を、1人の担当者が一気通貫で行います。
また、京町家の改修方法はワンパターンではありません。どのように改修すればお客さまに喜ばれるかを担当者は模索し、設計事務所や工務店のメンバーと相談を重ねます。面白いもの、付加価値のあるものを作るためには、共同でものづくりを進めることが不可欠です。

山本 1人にワンストップで業務を任せながら、足りないスキルをチーム内で補完し合う土壌が出来上がっていますね。

 お話を伺い、チーム力を大切にされている印象を受けます。一気通貫で業務を担当するメリットは何でしょうか?

西村 それぞれの担当者に共感するファンがつくことです。まだまだこれからですが、個々を気に入ってくれたお客さまが家づくりを頼むようになりますから、社員には「もっと個性的にしなさい」と言っています。
ホームページ(HP)内のブログを活用し、どんな考え方、どんな方法で作っているか、積極的に情報発信しているのもそのためです。家づくりに対するそれぞれの考えなどを発信するには、普段から考えておく習慣が必要ですし、そのためには個々が知識を蓄積する必要があります。

 一人一人の個性を生かすことで、チームとして最大限の力を発揮しているのですね。社員が生き生きと働くために、どのような環境づくりをされていますか?

西村 一番大事にしたいのは、楽しく仕事をしてもらうこと。本人が楽しんでいるかどうかは、仕事にそのまま表れます。「八清の社員は楽しそうに仕事をしている」とお客さまに評価いただけることが、一番うれしいですね。

社員が生き生き働ける環境や制度が必要

 西村社長が人材育成で大切にされていることは何でしょうか?

西村 「任せる」こと。不満がないわけではありませんが(笑)、それでも社員に仕事を任せるようにしています。それによって仕事に対するしっかりした考えが醸成され、ファンを作り、心をつかめるようになります。
年々、多様な個性を持つ社員が増えつつありますが、基本的な会社の理念や考えは理解してもらい、その上で、一人一人に合うやり方や進め方で仕事に取り組んでもらえたらと考えています。

タナベ経営 コンサルティング戦略本部 人材開発部 アソシエイト 森 優希
タナベ経営 コンサルティング戦略本部 人材開発部 アソシエイト
森 優希
タナベ経営入社後、「人を活かし、育てる会社の研究会」のメンバーとして、クライアントを「より良くしたい」という熱い思いをベースに企業の人材育成を中心に活躍中。「前を向こうとしている人の支援をすること」をモットーに、常にポジティブ視点でコンサルティングを展開。明るいキャラクターとチャレンジ精神で、チームのモチベーションアップと活性化を実現し、多くの成果を生み出している。

自分の仕事をどれだけ面白くできるか

 人材が多様化する中で、人事制度や就業規則はどのように対応されていますか?

西村 仕事の評価軸は、「何時から何時まで働く」ということではなく、「自分の仕事を面白くできるか」です。面白い仕事なら時間を忘れて、知恵を絞って取り組めるし、お客さまはそれを敏感に感じ取る。だから、仕事を楽しくできるような環境づくりに努めています。
例えば、始業時間は8時でも9時でもよく、個人の判断で選べるようにしています。時短で働く社員もいますし、産休に入る社員もいます。住宅業ながら、日曜日を休みにしたのもそのためです。

 評価基準はどのように設定されていますか?

西村 売り上げ重視型をはじめとする評価基準を3 パターン用意し、融通の利く給与体系にしています。古い京町家に、新しい息吹を吹き込む自分の仕事をどれだけ面白くできるか多様性を求めているのに、融通の利かない体系に固執すると矛盾が生じますから(笑)。

山本 商品・サービスを変えなければ、新たに人の活躍する場も生まれません。ビジネスモデルを変革し、それに合わせて、組織や働き方もデザインするモデルケースであると言えます。

八清の今後のさらなるご発展を祈念いたします。本日はありがとうございました。

PROFILE

  • ㈱八清(はちせ)
  • 所在地:〒600-8096 京都府京都市下京区東洞院通高辻上ル高橋町619
  • TEL:075-341-6321
  • 設立:1956 年
  • 資本金:3000万円
  • 従業員数:27名
  • 事業内容:京町家の再生販売、中古住宅の再生販売(リ・ストック住宅、各種プロジェクト)、不動産コンサルティング、不動産の仲介・分譲・買い取り、不動産土地有効利用並びに相続対策、賃貸マンション・賃貸アパートの経営、マンションの管理業務、賃貸マンション・借家のあっせん
  • http://www.hachise.jp/