2017.12.15

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人事の戦略機能を強化する


介護関連業界における人材競争力

【図表1】は、介護関連企業でよく見られる組織図である。大きな特徴は、「人事の専門機能がない」ということだ。

ご存じの通り、介護事業は労働集約型産業であり、複合型の介護施設では介護収入に占める人件費の割合が平均70%以上と高い業態である。「経費=収益を上げるための投資」と捉えると、介護関連業界にとって最大の投資先は人材であり、事実、介護施設の優劣を決める最大要因は「サービス力=人材力」である。

確かに、介護施設は介護報酬が厚生労働省によって定められているため、厳しい収益構造にある。極力、間接人員の削減が求められるなど、人事の専門機能を設定したくてもできないという事情もある。しかしながら、「人材競争力=企業競争力」でありながら、それに対して「専門的に考える部門」がないというのは、戦略推進力を発揮していく上では、マイナスと言わざるを得ない。

これは介護関連企業の事例だが、自社に置き換えてみるとどうだろうか。

人事の専門部門を持つ、持たないにかかわらず、人事部門が十分に機能を発揮している中堅・中小企業はごく少数派というのが筆者の実感である。多くは、管理部門・総務部門の一部として、労務管理や人事制度の運用・調整といった管理業務が中心になっており、戦略的・企画的な機能まで有するところはほとんどないように思われる。

【図表1】介護関連企業の組織図
【図表1】介護関連企業の組織図


人事部の機能とは

人事部門の機能について、中堅企業A社の業務分掌で再確認してみる。(次頁【図表2】)

自社の実態と照らし合わせてみるとどうか。人事管理機能は有しているが、人事企画(=人事戦略)機能、人材開発機能がないというのが実情ではないだろうか。企業によっては経営トップが人事戦略機能を担っているというところもあるが、その状態では企業規模が拡大するにつれて、社員一人一人の特性を把握することは難しくなり、実際の仕事ぶりも見えにくくなるものである。

また、中堅・中小企業には社員を大切にし、「愛情」を持って人材育成に取り組んでいる素晴らしい経営者が多い。その一方で、過度な温情から適正な人事が行われず、戦略が推進されないケースもよく見られる。例えば、新規事業の戦略リーダーを、明らかにその事業には精通していない古参の幹部に任せるなど、理屈では割り切れない人事上の意思決定がされることもしばしば見られる。

確かに、社員に対する"情"は必要であり、人事において過去の実績に裏付けられた納得感は必要である。しかしながら、企業の競争環境が厳しくなる中で、適材適所の人材配置が成果に与える影響が大きくなっているのは紛れもない事実である。そうした中で、経営トップ以外に、客観的・専門的な判断によって戦略推進を促す適材適所の人材配置を企画し、経営トップに提案することができる人事戦略機能が必要となる。

【図表2】A 社の人事部業務分掌
【図表2】A 社の人事部業務分掌


人事戦略を担える人材をいかにして育成するか

人事戦略機能を社内に備えるに当たっての一番の壁は、その機能を担える人材が社内にいないことである。人事戦略機能を担うためには、人事に関する専門スキルはもちろんのこと、①事業戦略・経営戦略に関する知識、②社外の人事・人材情報を収集するネットワーク、③トップ・社員とのコミュニケーション能力、などが求められる。

特に、事業戦略・経営戦略に関する知識を持った人事担当者が少ないのが実態である。これに対して、社外から人事スペシャリストを採用する企業は多いが、自社の企業文化・人材に精通した社内の人材がその役割を担うことができれば、より理想的だ。

では、いかにして社内で人事戦略を担える人材を育成していくのか。まずは、中期経営計画において人事戦略を立案することで、事業戦略・経営戦略に関する理解を高めること。次に、人事部門の評価に売上高や利益、組織における戦略実行度などを導入することで、人事部門をコストセンターから価値創造部門へと進化させること。そして、将来的な人事の戦略リーダー候補として、現在ラインのリーダーを担っている社員全員に対して、人事の評価、給与、採用、教育などに関する訓練を受けさせることなどが必要である。

そうした意味では、「事業と経営の分かる人事」「人事の分かるリーダー」が、企業の人事戦略機能の強化に必要な条件であるといえる。

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  • タナベ経営
  • コンサルティング戦略本部 副本部長
  • 川島 克也
  • Katsuya Kawashima
  • 経営全般からマーケティング戦略構築、企業の独自性を生かした人事戦略の構築など、幅広いコンサルティング分野で活躍中。企業の競争力向上に向けた戦略構築と、強みを生かす人事戦略の連携により、数多くの優良企業の成長を実現している。