2017.02.03





201609_monogatari-07

ダイレクトコミュニケーションで課題マーケットを攻略

ターゲットの共感を得るメッセージ設定と効果的な販促ツールの活用で顧客の裾野を広げる


家庭用ミシン『コンパル700』

国内需要の減退で、かつての4 割程度に縮小した家庭用ミシン市場。ブラザー販売は課題であるマーケット拡大に向け、幼稚園を通じたチラシ配布とウェブサイト、イベントなどを連動させるプロモーションを展開。従来と違う切り口でユーザーの心をつかんだ。

家庭用ミシンでシェアナンバーワン

ブラザー販売は、東証1部上場の電機メーカー・ブラザー工業の国内マーケティングを担うグループ会社だ。ブラザー工業は連結売上高約7459億円(2016年3月期)の8割強を海外で稼ぐグローバル企業。今では売り上げの約7割を占めるプリンター・複合機のイメージが定着しているが、その礎を築いたのはミシンである。

国産ミシンの誕生は1928年。その第1号は、ブラザー工業の前身である安井ミシン兄弟商会が開発した「麦わら帽子製造用環縫ミシン」だった。1932年には、家庭用ミシンの量産に成功して市場を拡大させた。現在の国内家庭用ミシン市場の年間販売台数は約60万台。ブラザーのシェアは家庭用ミシン国内市場の3割に上り、シェアナンバーワンを誇っている。また米国での販売会社立ち上げ(1954年)を皮切りに、欧州、豪州、アジア、中近東、アフリカへと販路を広げている。

「グローバルな視点で見るとミシンは成長産業といえますが、国内に目を向けると市場は成熟しています。ミシンは必需品で一家に一台という時代もありましたが、現在は趣味の色合いが強い」と、ブラザー販売取締役・ホームファッション機器事業部長の安井宏一氏は市場環境を説明する。

ブラザー販売 取締役 ホームファッション機器事業部長 安井 宏一氏
ブラザー販売 取締役
ホームファッション機器事業部長 安井 宏一氏

新たな手作りファンの創造が急務

かつて家庭用ミシンの国内年間販売台数は200万台に上った。それが現在は、前述のように縮小している。顧客の中心は子育てを終えた世代であり、若い世代の開拓が欠かせない状況だ。

一方、製品の高機能化は格段に進んでいる。周知の通り、ブラザーグループは情報機器や事務機器、工作機械などを総合的に手掛けており、ホームファッション機器事業部が扱う製品にも、それらの技術が生かされている。例えば、写真が刺(し)しゅうできる高機能ミシンや、スキャナーを内蔵し、本体だけで紙や布を好きな形にカットできる『スキャンカット』など、手作りの可能性を広げる製品づくりは得意分野だ。

「製品ラインアップだけでなく、ユーザーサポート機能も以前より充実していますので、若い方にも作る楽しみを感じながら使っていただきたい」と安井氏。さらに同事業部の営業部・営業推進グループマネージャーの高瀬豊和氏は、「市場を広げるには、継続的に使ってもらうことや、より好きになってもらうことが大事。それには、ユーザーが時間や手間をかける目的と理由に着目したサポートが必要です」と話す。

高機能化したミシンや新しいユーザー価値を提供するスキャンカットを、いかに新規の手作りファンの創造につなげるか――。その課題解決に向けた取り組みを紹介したい。

ブラザー販売 ホームファッション機器事業部 営業部 営業推進グループ マネージャー 高瀬 豊和氏
ブラザー販売 ホームファッション機器事業部
営業部 営業推進グループ マネージャー
高瀬 豊和氏

新たなミシンファンをつくる幼稚園プロモーション

2015年にブラザー販売とタナベ経営SPコンサルティング本部は、幼稚園マーケットにおける販促プロモーションを開始。第1弾として、幼稚園や小学校への入園・入学を控えた子どもの親へ向けた手作りの良さの発信と、通園・通学バッグなどの手作りをサポートする「入園入学準備ママ応援」キャンペーンで、ミシン需要の喚起に取り組んだ。

同プロモーションでは、先輩ママのアドバイスや手作りレシピなどを掲載した特設サイトを開設。さらに全国約30万世帯のママへ、「手作りの良さ」を訴求するメッセージ性の高いチラシを幼稚園を通じて配布し、ターゲットの幼稚園ママに向けたメッセージを確実に届けた。

一連のキャンペーンを担当したホームファッション機器事業部の広域法人部・商品企画グループの鈴木梢(こずえ)氏は、「プロモーション効果は高かった。多くの方に特設サイトに来ていただきました」と成果を語る。

コンテンツマーケティングの手法を取り入れ、特設サイトには入園・入学ママ向けの情報を充実させた。実際に、特設サイトのユーザー平均滞在時間は例年の2倍以上となったほか、手作りの作品と子どもの笑顔を撮影した「スマイルフォトコンテスト」の応募数は通常の数倍の応募があり、大きな反響があったという。キャンペーンは2016年度も引き続き実施する計画だ。ただ、ミシンの売り上げという点では「課題も見えてきた」と鈴木氏は言う。

「特設サイトには『入園・入学ママサポーター店』として全国121店のミシン販売店を掲載し、販売店への送客を試みましたが、ユーザーが販売店へ行きたくなるような動機付けは、まだ弱いと思います」(高瀬氏)。そのため、今後は販売店への送客と販売実績をKPIに加え、キャンペーンをブラッシュアップしていく考えだ。

幼稚園への販促プロモーションのために作った特設サイト
幼稚園への販促プロモーションのために作った特設サイト

ターゲットに刺さるメッセージ設定で販売台数が大幅増

ブラザー販売 ホームファッション機器事業部 広域法人部 商品企画グループ 鈴木 梢氏
ブラザー販売 ホームファッション機器事業部
広域法人部 商品企画グループ 鈴木 梢氏

第2弾の取り組みのテーマは、「スキャンカット」の認知拡大と販売台数増である。パッチワークキルトやスクラップブッキング(お気に入りの写真を飾るペーパークラフト)が定着する欧米市場において、スキャンカットはパーツの裁断機として需要の高い製品だ。しかし、日本では市場がまだ育っておらず、苦戦を強いられていた。そのような中、一般個人向けの量販店ルート以外の新しいチャネルの開拓のため、さまざまな取り組みを実施していた。幼稚園・保育園の備品マーケットの開拓もその活動の1つだ。

幼稚園や保育園の先生は、色紙を切り抜いて壁飾りや教材などを製作する業務が多い。多種多様な模様を切り抜くのは大変手間と時間のかかる作業だ。だが、スキャンカットを使えば大量に、しかも、複雑な模様もきれいに切り抜くことが可能になる。作業時間が減れば、その分の残業も減る。確実にマーケットのニーズは想定されたが、思うように販売台数は伸びていなかった。

そのような状況が大きく変わった。成功要因は、配布した幼稚園向け専用のチラシである。タナベ経営と実施した、幼稚園教諭へのアンケート調査やグループインタビューから、スキャンカットでしてみたいことや実際に使った感想などを収集。実際に使用する先生たちの声を基に、「先生の心に刺さるキーワード」を散りばめた内容とした。「幼稚園で何に使えるか」「どんな課題を解決できるか」というソリューション型の販促ツールである。

「タナベ経営と取り組んだ2015年秋の『幼稚園の園長先生の会合』において約150枚のチラシを配布し、それが38台の販売につながりました。正直、驚きました。同様のイベントで過去にこれほど売れたことはなく、幼稚園マーケットの開拓に自信が持てました」と、狩野窪(かのくぼ)央(ひさし)氏(営業部・営業推進グループ)は振り返る。

さらに、幼稚園に教材などを販売する学納ルートの開拓にも成功。「学納ルートは未知の販売チャネルでしたが、タナベ経営が作成した各社の特徴をまとめたチャート表によって優先順位が明確になり、営業する際に非常に役立ちました」と狩野窪氏。

新しい販売チャネルの開拓と効果的な販促ツールの水平展開により、「販売実績は前年の約3倍になった」(高瀬氏)とのことだ。

カッティングマシン 『スキャンカットCM650W』
カッティングマシン
『スキャンカットCM650W』

ミシンの向こう側にある笑顔真の顧客価値の追求

「ミシンの向こう側には笑顔や幸せがある」と安井氏は言う。家庭用ミシンを使うとき、その先には必ず大切な誰かが存在する。出来上がったときの満足感、子どもや親の笑顔、友達や好きな人の幸せなど。大切な人の笑顔を想像する時間や幸福感こそ、ブラザー販売が顧客に提供したい価値なのである。

安井氏は、「お客さまがミシンで形にするもの――入園・入学アイテムもそうですが、その先には必ず大切な人の幸せや、なりたい自分の姿など、一段上の目的があります。そうした目的を実現できる機会を、ミシンを通じて増やしていきたい」と語る。

ブラザー販売 ホームファッション機器事業部 営業部 営業推進グループ 狩野窪 央氏
ブラザー販売 ホームファッション機器事業部
営業部 営業推進グループ 狩野窪 央氏

PROFILE

  • ブラザー販売㈱
  • 所在地:〒467-8577 名古屋市瑞穂区苗代町15-1
  • TEL:052-824-3311(代)
  • 設立:1998年(前身のブラザーミシン販売は1941年)
  • 資本金:35億円(2016年3月期)
  • 従業員数:343名(2016年3月末現在)
  • 事業内容:プリンターや複合機、電子文具などの情報機器事業、ミシンやカッティングマシンなどのホームファッション事業の国内マーケティング
  • http://www.brother.co.jp/bsl/


ターゲットとする顧客を明確にし、そこに向けて的確なメッセージを確実に送ることができれば顧客は必ず反応します。しかし、一方的に設定した"売り手都合"のメッセージではターゲットの心を動かすことはできません。今回、ブラザー販売は課題とする幼稚園マーケットに対して、アンケートやグループインタビューを重ね、顧客の声(事実)に基づいてターゲットの心を動かせるメッセージの設定と、それを表現する最適なクリエーティブ(広告表現)を実現できました。これらのことは、販促成果を高めるための重要な要素といえるでしょう。
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