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今週のひとこと

方針を全員に徹底しよう。

自らの役割が明確になった時、

人はイキイキと仕事をする。

☆ 経営者が営業メンバーと会話することで見えてくること

 経営上の課題の一つとして「営業・販売力の強化」をあげる企業が多く見受けられます。では、そのために何が必要なのか経営者にお聞きすると、「提案営業を実践させる」と言われる方が多いです。

営業活動においては、大きく、
1.営業活動の事前準備
2.現場での傾聴力と顧客の悩みを実現する提案力
3.事務のスピードアップ
―の3つのことについて意識する必要があります。

 提案営業は、上記「2」にあたるところですが、「1」や「3」は提案営業と直接的には関係ありません。
 例えば、営業力を高めるための研修を行い、提案営業のやり方をレクチャーされたとします。しかし、営業担当者は話を聞きながら、「提案をしたいが、そんなことを考えている時間がない」「顧客を訪問する時間がとれない」と思っている人も少なくありません。

 提案営業がうまくできない根本的な要因には、営業の進め方が型決めされていないことや、営業事務における社内のサポート体制が明確になっていないことがあげられます。そうした状況の中で、提案営業を行うよう指示をしたり、いくら研修を行ったりしても解決しません。解決するためには、経営者が営業メンバーと本音で会話することで根本的な原因を掴むことです。

 例えば、営業チームと他部門との連携状況や、うまくいっていない原因を現場の意見を聞きながら明確にし、解決していくことで、営業メンバーが力を発揮できる環境をつくってあげることが必要なのです。その延長線上に提案営業があり、真の営業力を発揮できる会社への変革があるのです。

コンサルティング戦略本部
コンサルタント
石丸 隆太

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伝統と革新でメード・イン・ジャパンのサービスを世界へ

1890年に開業した帝国ホテルは、日本における西洋式ホテルのパイオニアだ。東京、大阪、上高地(長野県)に直営ホテルを有し、長い歴史の中で培った経験と、時代を先取りしたサービスを展開。年商約560億円、従業員約2000名の東証2部上場企業である。東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には開業130周年を迎える。帝国ホテルはこれから何を目指し、どのような変貌を遂げていくのか。代表取締役社長の定保英弥氏に展望を伺った。


信頼のブランドを支える一体感と総合力

若松 帝国ホテルは1890年に「日本の迎賓館」として開業して以降、国内外の要人をはじめ多くの方々が利用する、日本を代表するホテルです。定保社長は大学卒業後に入社されたそうですが、学生時代からホテル業界に関心があったのですか。

定保 父が航空会社に勤務していた関係で、子どものころにドイツと香港で計10年間を過ごしました。その影響もあり、「海外と接点のある仕事をしたい」という気持ちを持っていましたが、ホテル業界で受験したのは帝国ホテルのみ。実は海外で生活していたころ、一時帰国した際に帝国ホテルに宿泊したことがありました。重厚感ある空間が印象に残っていたことも受験のきっかけでした。

若松 帝国ホテルには歴史の重みを感じさせる独特の雰囲気が漂っています。近年、大規模な外資系ホテルの開業が相次ぎ、競争が激化していますが、そうした環境下でも独自のポジションを築き、高い支持を集めています。ブランドの源となる"帝国ホテルらしさ"について、非常に興味があります。

定保 一言で表すのは難しいですが、常連のお客さまから「新しいホテルもすてきだったけれど、帝国ホテルに来ると安心する」と声を掛けていただくことがあります。非常にうれしいことですし、この信頼感が1つのキーワードではないかと思います。「帝国ホテル東京」は客室が931室、レストランやバーは合わせて17店舗ありますが、この規模であっても100室程度のホテルと同じようにきめ細やかなサービスをご提供しようと心掛けています。

若松 落ち着いた心安らぐ空間がリピート客を生み出しているように感じます。ですが、こうした深い信頼関係を築くことは容易ではありません。どのようなことに取り組まれたのでしょうか。

定保 大事にしているのは、ハードウエア(施設)とソフトウエア(サービスや組織)、ヒューマンウエア(人材)のバランスです。いずれも高い品質が求められますが、中でもヒューマンウエアが重要だと私は考えています。

若松 ヒューマンウエアといえば、フランス料理のシェフで総料理長だった村上信夫氏や客室係の竹谷年子氏をはじめ、帝国ホテルは世に知られる逸材を幾人も輩出してきました。社員がブランド人材になる。これも"帝国ホテルらしさ"ですね。

定保 客室係やシェフ、ソムリエ、バーテンダーなど、現在もホテルスタッフをお目当てに訪れるお客さまが大勢いらっしゃいます。社員一人一人が顧客を持っているような感じです。

若松 当社が毎年開催している「経営戦略セミナー」でも、「帝国ホテル大阪」を利用させていただいており、「ハードウエア・ソフトウエア・ヒューマンウエア」のバランスのよさに感心させられます。記憶、印象に残るホテルなのです。これは人材が理念や仕事の使命を深く理解している必要があります。

定保 企業理念に「創業の精神を継ぐ日本の代表ホテルであり、国際的ベストホテルを目指す企業として、最も優れたサービスと商品を提供する」とあります。この心持ちが特定の人材に限らず受け継がれています。帝国ホテル東京には、2000人ほどのスタッフがいますが、特別な事態が起こった時には素晴らしい総合力を発揮する。こうした一体感が、お客さまに安心していただける空間につながっていると思います。

若松 「一体感」、いい言葉ですね。社員に理念が浸透しているからこその表現です。だからイレギュラーな場面でも、現場で的確な判断が下せるのでしょう。「使命」「一体感」「現場力」。簡単にまねのできない、ファーストコール(顧客から一番に声が掛かる)の価値を生み出す競争力であるといえます。

定保 社員は一生懸命に働いてくれますが、それ以上に、お客さまに育てていただいている側面も大いにあります。先代からずっとごひいきにしてくださっている、長いお付き合いのお客さまが数多くいらっしゃいますし、国内外の著名な方が来られることも多い。そうした方々と接し、期待以上の価値を提供しようとすることで人材は成長していくものです。帝国ホテルには、成長の機会が豊富にあると思います。新しいホテルが次々と進出してきますが、外観などのハードウエアに比べて、ヒューマンウエアは一朝一夕では整いません。

若松 なぜ、創業から127年を経ても、帝国ホテルのブランド力が色あせないのか。その理由が見えてきました。

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期待以上の価値を提供しようとすることで
人材は成長していくものです

体験から学び、現場力を高め帝国ホテルクオリティーを磨く

若松 2013年に社長に就任されてから4年たちましたが、マネジメント上ではどのようなことを大事にされていますか。

定保 社長就任後も4年ほど東京総支配人を兼任していました。そのころは、朝はまずレストランを回ってお客さまにお会いしてから打ち合わせなどを行い、その後、チェックアウトされたお客さまのお見送りやチェックインされるお客さまへのごあいさつという毎日でした。ホテルのマネジメントとグループ全体の経営では立ち位置が変わりますが、兼任時代は総支配人として現場に重点を置いていました。私共の本業はホテル業ですから、サービスを尽くしてお客さまにご満足いただくことが最も大事なこと。ファンづくりの最前線に立つ総支配人という立場で経営に携われたことは、良い面が多かったと思います。今でも現場に顔を出したり、営業担当者と同行したりするなどして現場の声を聞くように心掛けています。

若松 私は多くの経営者とディスカッションしますが、現場を軽視したり、現場から外れたりする経営者はいません。「現場が大事」と声をそろえて言われます。人材育成においても、基本となるのはやはり「現場力」です。

定保 私自身、入社してすぐにベルマンや客室の清掃、調理など、さまざまな現場を経験しました。研修期間は1年半ほどありましたが、最後の数カ月は長野県にある上高地帝国ホテルで徹底的に接客の基本とオペレーションを叩き込まれたことで、ホテル全体の運営を理解できるようになりました。現在も、総合職の新入社員は上高地帝国ホテルで研修をした後、レストランなどで現場研修を行っています。誰がどのような形でホテルを支えているのか、自分の目で見る、体感することが大切だと考えています。

若松 あらゆる現場を経験する。これが、総合力につながっているように感じます。どの現場のスタッフも「帝国ホテルブランド」を背負っているわけですが、社員教育において特に重視している点はありますか。

定保 東京総支配人時代から、「当たり前のことを当たり前にやる」基本プレーの徹底を大事にしてきました。スポーツ選手も基礎ができている人ほど成績を残しますし、長い期間活躍できる。仕事も同じだと思います。ホテルマンとしての技術は必要ですが、それ以前に社会人としての基本を身に付けることが大事。そこで、「挨拶、清潔、身だしなみ、感謝、気配り、謙虚、知識、創意、挑戦」という9つの実行テーマを掲げて徹底しています。社員教育については「人材育成部」という専門の部署を設置し、階層別・職種別の研修を定期的に行っています。

若松 人材育成部の設置がヒューマンウエアに対する帝国ホテルの姿勢が表れています。ホテルというビジネスは欧米から導入されたものですが、人材を磨くことでメード・イン・ジャパンのホテルとしてブランド価値を高めています。日本品質のサービスを追求した結果、さまざまなサービスが(帝国ホテルから)全国に広がっていますね。

定保 レストランのバイキング(ビュッフェ)形式、ホテル内ランドリー、ホテルウエディング、ショッピングアーケード、ホテルハイヤーなどは帝国ホテルから始まりました。

若松 日本のホテルサービスのパイオニアです。時代が必要とするサービスを日本に合う形で実現してこられました。大事なのはメード・イン・ジャパンの在り方を追求すること。どこに軸足を置いてビジネスを拡大させるかを考える上で、帝国ホテルから学ぶべき点が多くあります。

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帝国ホテル東京のメインロビー。 季節ごとに変わる装花が 訪れる人の目を楽しませている

"日本のために大事な仕事をしている"という使命感から事業は広がっていく

若松 2017年3月期(連結ベース)の売上高は560億3100万円、経常利益は51億6500万円。2020年には東京オリンピック・パラリンピックという大イベントが控えています。経営戦略上の重点課題や新たに挑戦したいテーマはありますか。

定保 中期経営計画では、「安全性の追求」「帝国ホテルブランドの向上」「顧客満足の追求」「イノベーションへの挑戦」という4つを、重点課題として挙げています。まずは安全性の追求。地震や火事はもちろん、食材の表示や食品アレルギーへの対応、緊迫する海外情勢に対するリスク管理など、安心してゆっくりと過ごしていただける安全な環境をつくることが基本です。全ての課題の基盤となる最重要課題として取り組んでいきます。その上で、顧客満足の追求やブランド力を向上させてファン拡大を図っていきます。現在、メインの顧客層の世代はもちろんですが、次の世代のファンを開拓していくことが必要です。おかげさまで、これまで親と子、孫と世代を超えて代々ごひいきにしていただいているお客さまは少なくありません。何世代にもわたってご愛顧いただけるよう努めていきます。

若松 2020年に向けて、今は顧客層を拡大するチャンス。この時期にリピーターを増やすことができれば、その後の成長につながります。

定保 東京都内のホテルは宿泊客の7割以上を外国人が占めるところも多くありますが、私ども帝国ホテルは年間で平均しますと国内のお客さまが5割を占めます。ようやく国内のホテル業界は上向いてきましたが、リーマン・ショックや東日本大震災後には非常に厳しい局面に立たされました。その際、私どもが比較的早く回復できたのは、日本全国からいつも定期的にお越しいただいていたお客さまが、途切れることなく来てくださったから。お客さまに助けていただいた経験から、人と人とのつながりでホテルが成り立っていることを痛感しています。

若松 長い歴史の中で積み上げてこられた、顧客との強い信頼関係がうかがえます。これは引き継いでいくべき伝統でもあります。一方、パイオニアとしての革新の部分、イノベーションについては、どのような挑戦を視野に入れているのでしょうか?

定保 将来も変わらず、帝国ホテルらしく帝国ホテルであり続けるために、しっかりと世界に通用する人材を育成していく。一方、企業としての発展を目指して、機会があれば新たなホテル事業にも挑戦していきたいですし、日本のお客さまに喜んでいただける場所や、海外からのお客さまに楽しんでいただける場所を提案していきたいと考えています。

若松 さまざまな業界で新しいビジネスが動き出しています。2020年の後も成長を続けられるかどうかは、ここ数年のビジネスモデル戦略が鍵を握るだろうと思います。

定保 2020年に帝国ホテルは開業130周年を迎えます。東京オリンピック・パラリンピックも控えており、経営者としてあらためて初代会長の渋沢栄一がどのような言葉を残しているのか、ひもといてみました。創業当時、文化や習慣が異なる外国人を受け入れることは、今よりも大変だったことは想像に難くありません。そうした中、渋沢は社員に「あなたたちが一生懸命サービスをしていれば、自国に帰った後も日本のことを懐かしく思い出す。あなたたちは、日本のために大事な仕事をしている」と語りました。この言葉を、現在にも通じるものとして私も皆に伝えています。やはりホテルで最も重要なのは人。これからも人材育成に愚直に取り組んでいきます。

若松 渋沢栄一翁の言葉は、帝国ホテルで働く皆さんの使命、仕事の原点を表しており、それを定保社長が発信されることで、社員に受け継がれていることに意味があります。今後も伝統と革新によって帝国ホテルらしさを磨き、130周年はもちろん、150年、200年と、ますます発展されることを祈念いたしております。本日はありがとうございました。

帝国ホテル 代表取締役社長 社長執行役員 定保 英弥(さだやす ひでや)氏
1984年学習院大学経済学部卒業後、帝国ホテルに入社。入社後1年半の研修期間中、フロント、客室、調理場、レストラン接客などホテルの最前線で経験を積む。その後、宴会部、営業部、ロサンゼルス案内所、宿泊部など多彩な現場を経験。営業部長、ホテル事業統括部長、東京副総支配人、帝国ホテルハイヤー取締役、インペリアル・キッチン取締役などを歴任し、2009年に第12代東京総支配人に。2013年帝国ホテル代表取締役社長に就任。2017年3月まで東京総支配人を兼任し、現在に至る。

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ・たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院 (経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

PROFILE

  • ㈱帝国ホテル
  • 所在地 :〒100-8558 東京都千代田区内幸町1-1-1
  • TEL : 03-3504-1111
  • 創業 : 1887年(開業は1890年)
  • 資本金 : 14億8500万円
  • 売上高 : 560億3100万円(連結、2017年3月期)
  • 従業員数 : 1976名 (2017年3月末現在)
  • 事業内容 : ホテル(東京、大阪、上高地)の運営、不動産事業
  • http://www.imperialhotel.co.jp/

新たなブランディング戦略で
ユーザーとの信頼を築く

国内一貫生産にこだわり、世界屈指のレンズを作るシグマ。 同社は従来の企業・製品イメージを一新したブランディング戦略によって、ユーザーの絶大な信頼を獲得した。 新たな企業イメージを打ち出した同社のブランディング戦略に迫る。

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ブランディング戦略を一新
ユーザーの"選びやすさ"を重視

自動車と並びモノづくり大国・日本の象徴ともいえる精密機械。中でも、メード・イン・ジャパンのカメラは世界のエンドユーザーから羨望のまなざしで見られる製品である。

そんなカメラ業界において、独自の立ち位置で自社製品を提供してきたのが1961年創業のシグマである。同社は交換レンズメーカーとして、ニコンやキヤノンをはじめとした一眼レフカメラに利用できるレンズを開発・製造・販売してきた。

主に本社(神奈川県川崎市)で開発し、福島県磐梯町の会津工場で一貫生産体制を構築。設立間もない時期から、国内のみならず海外も含め幅広いマーケットに多数の製品を提供してきたグローバル企業でもある。その後、ストロボなどのアクセサリー機器も開発。デジタルカメラの開発も早い時期から行っており、2008年には米国・シリコンバレーのイメージセンサーメーカーを傘下に収め、自社でセンサーから開発するなど事業領域を広げてきた。

ところで、カメラ業界ではデジタルカメラの誕生以来、レンズに対する要求も厳しくなったという。カメラ本体の画像処理能力が高くなり、レンズもより精細に被写体を捉える性能が必要になったためである。もちろん、シグマでも技術を駆使してレンズ性能の向上に努めてきた。近年、製品の性能は大きく向上したが、市場からのブランドに対する評価まで変えるには至っていないという悩みを抱えていた。

そんなシグマが転換期を迎えたのは2012年だった。同社では製品ラインアップの分類方法を見直すとともに、ブランディングを一新したのだった。

「当社のレンズは性能が著しく向上したにもかかわらず、ニコンやキヤノンなどの有名ブランドと比べると、格下に見られていました。そこで従来の上位モデル、中位モデルといった性能品質による分類をやめ、撮影用途・特性に応じたカテゴリーに分類し、エンドユーザーがレンズを選びやすいようにしました。

さらに、製品作りに対する当社の姿勢などをウェブサイトやパンフレットなどで発信するなど、モノづくりに対する姿勢を前面に打ち出したブランディングを展開しました」

そう説明するのは、シグマのマーケティング部部長の新妻隆士氏。それは「Art」(アート)、「Contemporary」(コンテンポラリー)、「Sports」(スポーツ)の3つのコンセプトにレンズを分類し、シグマの企業・製品イメージの一新を図ったブランディングだった。

新開発の高品質レンズでユーザーの評価が一変

シグマが打ち出した3つのコンセプトをもう少し詳しく説明したい。「Art」は、品質の高い再現性が求められる際に利用してほしいレンズ群である。Artには光学性能重視で、アーティスティックな写真を撮る表現者向けのレンズをラインアップした。

「Contemporary」は使い勝手に優れ、広角から望遠までをカバーできる汎用性のあるズームレンズなどが中心。全方向にバランスのとれた、オールマイティーなレンズ群といえる。「Sports」は、動きの速い被写体や遠方の被写体の一瞬を描写できる望遠レンズや望遠ズームレンズなどである。

新コンセプトに対応して、レンズの販売方法も変化していく。価格的な魅力を訴求してきた従来の方法から、エンドユーザーが使用目的に応じてレンズを選べる販売方法に切り替えた。国内の量販店や海外代理店に対しても、同社の販売戦略を伝えることを徹底した。

そうした状況の中で、大きな変化が起きた。新しい開発コンセプトのうち、Artラインから出た高性能の35mmレンズが、本物志向のエンドユーザーの心を捉えたのだ。35mmレンズはカメラ愛好者の間では最もスタンダードなレンズだが、その鮮明な再現性がユーザーから好評を博し、人気が広まっていった。

「『有名カメラメーカーのレンズを超える品質』と、多くのユーザーから声が上がるようになったのです。評判はSNSなどを通じて広がり、当社の製品群のクオリティーの高さが広く知られるようになりました。

実際に使用するエンドユーザーに評価していただき、評判が広がったのは何よりもうれしいこと。ブランドイメージ向上という側面でも大きな効果がありました」(新妻氏)

エンドユーザーの評価が高まることで、量販店や海外代理店などのシグマ製品に対する認識や販売方法は変わっていった。それに伴い、売上高も右肩上がりを続けている。

シグマ マーケティング部 部長 新妻 隆士氏
シグマ マーケティング部 部長
新妻 隆士氏

ブランディング戦略を踏まえた提案で売り場をサポート

エンドユーザーのシグマ製品に対するイメージが変化することで、売り場も大きく変わった。以前にも増して、什器なども製品群のイメージにマッチしたものが求められる。レンズを陳列する際に利用するスタンドも、高品質なレンズの特徴を表現した上質なデザインを付与しなければならない。

販売の一端を担うレンズスタンドの開発で連携しているのが、タナベ経営のSPコンサルティング本部である。量販店などの売り場で各種レンズを飾るレンズスタンドの開発を、約2年前から共同で行ってきた。

「タナベ経営の優れた点は、単なるノベルティーという視点ではなく、当社のブランディングの在り方を理解して提案してくれるところ。そこが経営コンサルティング会社ならではと感心しています。

ブランディングを理解されているので、当社製品に適した上質感のあるデザインのレンズスタンドを提案してくれますし、細かい要望や変更にも迅速に対応してくれるので助かっています。無理な要望の場合は、『難しい』とはっきり意思表示をされるところも、パートナーとしてやりやすいですね」(新妻氏)

タナベ経営は、シグマが力を注ぐブランディング戦略の重要性を踏まえた上でレンズスタンドの開発に当たり、製品イメージに沿ったデザインを提案してきた。そうした姿勢に、シグマはパートナーとして資質を見いだし、高く評価している。両社が開発したレンズスタンドは、国内の量販店のみならず海外の店舗でも広く活用されている。

ブランディングと連動した 上質感のある什器を開発
ブランディングと連動した
上質感のある什器を開発

シグマファンとのコミュニケーションを促進国内外で新たな市場開拓へ

製品の品質向上に伴って、ブランドイメージを一新することに成功したシグマ。しかし、デジタルカメラ業界全体の動向は決して予断を許さない状況という。スマートフォンのカメラ機能向上によって、コンパクトカメラが売れない時代になっているのだ。シグマ製品はデジタル一眼レフカメラ用の交換レンズが主体で、ハイエンドのユーザーが中心だが、高性能のコンパクトデジタルカメラも供給しており、危機感を募らせる。

「確かにデジタル一眼レフは売れていますが、一方でエンドユーザー数が少なくなってきているという状況もあります。今後は、デジタル一眼レフを初めて購入する方を増やしていかないと成長は望めません。今でも各種イベントに新製品のレンズを貸し出したりすることで、ファンとコミュニケーションを深める機会を設けていますが、それをさらに増大させることも必要でしょう。

また、コンパクトカメラの利用者であるライトユーザーの方に対しても、スマートフォンにはない優位性を訴求できる、具体的な施策を考えていくつもりです」(新妻氏)

国内市場ではファンとのコミュニケーションの機会の増加を打ち出すとともに、海外市場開拓の強化も図るという。特に購買力が増大するアジア諸国などの新興市場に対しては、さらに積極的に販売していく戦略を立てている。

高い品質の製品群と大胆なブランディングによって、シグマブランドを一新した今、新たな時代を築くための戦略から目が離せない。

PROFILE

  • ㈱シグマ
  • 所在地 :〒215-8530 神奈川県川崎市麻生区栗木2-4-16
  • TEL : 044-989-7430
  • 創業 : 1961年
  • 資本金: 1億円
  • 売上高 : 330億638万円(2016年8月期)
  • 従業員数: 1603名(2016年8月現在)
  • 事業内容 : デジタル一眼レフカメラおよびコンパクトデジタルカメラ、一眼レフ用交換レンズ、その他光学機器の製造、販売
  • http://www.sigma-global.com/

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    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所