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今週のひとこと

ピンチはチャンス。考え方を見直そう。

ピンチの時こそ成長のチャンスが

潜んでいる。

☆ 新たな取り組みと、オリジナルの価値

 マーケティングにおける史上最大の失敗と言っても過言では無いほどに語り継がれている出来事があります。それは、1985年のコカ・コーラ社による「ニュー・コーク」の発売です。

 米国のコーラ飲料市場において、シェア1位を長年獲得していたコカ・コーラ社は、1970年代から1980年代に、ライバルのペプシコ社が仕掛けた、消費者を対象にペプシ・コーラとコカ・コーラを飲み比べ、どちらが美味しいかをヒアリングするキャンペーン「ペプシ・チャレンジ」によって、シェアが低下するという苦境に見舞われていたのです。そこで状況を打開すべくコカ・コーラ社はコカ・コーラの味を変更し、「ニュー・コーク」として発売することを発表しました。その際、今までの「コカ・コーラ」と「ニュー・コーク」がスーパーの陳列棚に並ぶと一般消費者が混乱してしまうのではないかと危惧し、オリジナルの「コカ・コーラ」の販売を停止し、「ニュー・コーク」のみを販売する決断を下したのです。

 そして、「ニュー・コーク」が発売されると、消費者から"今までのオリジナルのコカ・コーラはどこにいった"という声が全米中にあふれ、わずか3ヵ月後には従来の「コカ・コーラ」を再導入するという結果になりました。
 コカ・コーラ社は、打倒ペプシを意識するあまり、自社ブランドを昔から支持してくれていた顧客の、声なき声を無視するという決断を下してしまったのです。「コカ・コーラ」にはオリジナルならではの良さがあったにも関わらず・・・。

 4月が新年度という企業も多いことでしょう。新年度は新しい組織となり、新しい人材が入り、新しい仕組みや新しい取り組みを行うなど、様々なことが新しくなったと思います。常に変化を求め、新たなことに取り組んでいくことは大切ですが、それまでのオリジナルにも良いところがないかを確認してみてはいかがでしょうか。オリジナルの持つ良さを生かす方法が見つかるかもしれません。

経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント
小出 哲央

「生産性カイカク」3つのアプローチ―「働きがい」のある会社をつくる

「働き方改革」と真摯に向き合う地域の中堅・中小企業が増えている。人手不足への強い危機感によるものもあるが、「ピンチでなくチャンス」と状況を前向きに捉え、「1人当たり付加価値と社員モチベーションの向上」へチャレンジしている企業が増えているからだ。

こうした一連の動きは、まさに「生産性が戦略の最重要テーマの1つ」になる時代の到来を示唆している。マクロ視点でいえば、日本の労働生産性はOECD(経済協力開発機構)加盟35カ国中22位(2015年、日本生産性本部)と低迷しているのである。

私は、攻めの戦略テーマとして「生産性カイカク」モデル(あえてカタカナ表記にしている)をつくろうと提唱している。そのポイントは次の3つだ。

1.「突き抜ける」ビジネスモデルをつくる

子育て製品メーカーA社は生後18カ月までの赤ちゃんを顧客ターゲットに絞り込むことで、高付加価値を実現。生後18カ月までのニーズはどこの国でも同じであることから横展開が可能で、海外でも高いシェアを誇っている。一方、歯科医向け製品を販売するB社は、クリニック専門チームによる「クリニックサポート」を通じて、連続増収、顧客数増を実現している。

「絞り込み」と「専門化・サービス化」。これが、突き抜けるビジネスモデルの1つの鍵となる。

2.人づくり―リ・コミュニケーション

工事専門企業C社は、業界が下り坂といわれる中、増収増益、社員数増を実現している。その最大の理由が「動画学習」という人材育成におけるコミュニケーション革命である。動画を通じた「技」の習得で、新人が10年在籍者の半分の時間で一定の仕事ができるようになり、やりがいアップ→定着率向上→採用の応募増という善循環へとつながっている。

3.「働きがい」へ積極的に投資する

私が先日訪問したD社は、社員の休憩室を大胆に改装した。コンセプトは2つ、「格好良く」そして「職場が見えるガラス張り」。理由は、「親の仕事ぶりを家族にも見てもらえる環境をつくること」にあった。職場の「家族参観」を実施した結果、社員のモチベーションが格段に向上、業績も右肩上がりである。

先述したように「働き方改革は企業変革のチャンス」である。ぜひ、経営者の最重要マターとしての取り組みをお願いしたい。


タナベ経営 常務取締役/
ヘルスケアビジネス成長戦略研究会 アドバイザー

中村 敏之  Toshiyuki Nakamura
「次代の経営者育成なくして企業なし」をコンサルティングの信条とし、100年発展モデルへチャレンジする企業の戦略パートナー。豊富な現場経験に基づく「ビジョンマネジメント型コンサルティング(VM経営)」は具体的で、クライアント企業から分かりやすいと大きな信頼を得ている。関西学院大学卒。

「職域市場」の攻略

タナベ経営
コンサルティング戦略本部 本部長代理 戦略コンサルタント
ヘルスケア コンサルティングチーム

松室 孝明 Takaaki Matsumuro
慶應義塾大学卒業。化粧品メーカー勤務を経て、2005年タナベ経営に入社。ヘルスケア関連の中堅企業を中心に、業績アップに向けた戦略立案・営業力強化、新分野進出・新規事業開発、ビジネスモデル・収益構造改革など、「数字を変える」ためのコンサルティングを中心に幅広く活躍。座右の銘は「結果の出ない努力は無駄である」。

コンサルティング戦略本部 東京本部 部長 チーフコンサルタント
ヘルスケア コンサルティングチーム

木内 健介 Kensuke Kiuchi
大手メーカーにて商品の企画開発、ブランドマネージメントなどに携わった後、タナベ経営入社。主に新規事業展開、事業戦略設計などで活躍中。クライアントの強みを引き出し、生かすことを信条とし、地に足の着いた展開で成果につなげることを得意とする。

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I.事業環境

2020年以降、「縮小経済」「少子高齢化」の加速という大きな環境変化が避けられない状況にある一方で、業界のプレーヤー数は減らないであろう。すなわち供給過多の状況がより一層深刻化することは明らかである。

このような背景の中、企業が持続的成長を遂げるためには「生産性改善」が必須といえる。近年、「働き方改革」「休み方改革」「健康経営®※1」「ホワイト企業」といった言葉が取り上げられているが、良い人材を確保し、生産性の高い仕事をしていくことが「勝ち組」となる必須条件となる。

2015年度に企業が負担した法定外福利費(従業員1人1カ月当たり2万5462円、日本経団連調べ)の内訳を見ると、給食やショッピング、介護・育児支援などを含む「ライフサポート」(前年度比4.8%増の6139円)への支出の伸びが目を引く。2008年度(6504 円)以来7年ぶりに6000円台を回復したほか、法定外福利費全体に占める構成比は24.1%。1990年度(24.0%)以来25年ぶりの高水準だ。(【図表1】)

フリンジ・ベネフィット(賃金・給料以外の経済的便益)を充実させることで、従業員の健康増進や採用力の強化、人材の離職防止を図りたいという企業のニーズが見て取れる。

以上のことから、「福利厚生」をマーケットとして捉えると拡大傾向にあり、採用・離職防止の観点から見ても拡大していくことは明らかといえる。つまり「福利厚生」は成長マーケットであるのだ。

II.勃興期のビジネストレンドとして注目されている「職域市場」

こうした動きに伴い、成長マーケットとして期待を集めているのが、オフィスで働く従業員に商品・サービスを提供する「B to E」(Business to Employee:企業対従業員間取引)、いわゆる"職域販売"(クローズドマーケット)である。

もっとも、職域販売そのものは以前から存在している。生命保険外交員による各種保険商品の販売や、オフィスで乳酸飲料を出張販売する「ヤクルトレディ」、会議や食堂などを間借りして化粧品や健康器具・宝飾品・衣料・寝具などを特別価格で販売する催事、あるいは百貨店の外商部門などが中元・歳暮カタログを顧客法人の職場で回覧してもらうといったものだ。

しかし最近になり、企業のオフィスを"店舗"、そこで働く従業員を"潜在顧客"と捉え、新たなビジネスモデルによって職域販売に乗り出す企業が増えている。

職域市場のニーズは、魅力ある職場・働きやすい職場をつくり、優秀な人材を確保することで生産性を改善したい、となる。一方で参入しようとする企業の意図は、既存市場はすでにレッド・オーシャン(競争が激しい既存市場)であり、収益性が低く持続的成長も見込み難いことから、ホワイトスペースを探している状況にある。従来の「モノ」売りではなく従業員・職場の課題にフォーカスしたホワイトスペースに対して、「コト」を提供することが求められている。ポイントは次のように「職域×課題」で市場を創造することである。

1.職域×ウエルネス

オフィスで働く従業員は運動不足・不健康になりがちである。オフィス家具大手のイトーキは、「平成27年度東京都スポーツ推進モデル企業」にも選定されたワークサイズ※2の取り組みが評価されている。いつもの何気ない行動を変えるさまざまな仕掛けによりオフィスを「健康になる空間」にする、社員の健康増進を促す取り組みを実施。「健康オフィス」という新しいジャンルの市場を生み出した。

2.職域×子育て

働く女性の離職理由で最も多いのが「育児・子育て」である。この課題に対して2017年4月から、ニチイ学館と日本生命保険は企業主導型保育所※3の全国展開を始めている。また一般社団法人全国子育てタクシー協会は、仕事などで子供の通園・通学・通塾の送迎ができない場合の代行をする「ひよこコース」というサービスを始めている。

「子育て環境の整備」はまだまだ途上にあり、国・地域から企業へと市場が拡大している。直接利用者にアプローチすることも重要であるが、同様に企業にアプローチし、福利厚生メニューの1つとして、一部負担するよう働き掛けることでB to CからB to B to Cへ、さらなる市場の拡大が進むといえる。

3.職域×時短

昼食を食べに行く、夜食を買いに行く手間を省く(時短)サービスとして、会議室や空きスペースで弁当を社内販売するデリバリー型の社員食堂(スターフェスティバル「シャショクル」)や、契約企業のオフィスに冷蔵庫・専用ボックスを設置し、健康的な総菜やご飯、スープを常備する"ぷち社食サービス"(おかん「オフィスおかん」)、同じく専用の冷蔵庫で良質な野菜サラダや有機ドリンクを提供するサービス(KOMPEITO/ コンペイトウ「OFFICE DE YASAI」)などの事例がある。先駆けとして知られるのが、江崎グリコが1999年から始めた、"富山の置き薬"方式で菓子を販売(置き菓子®※4)する「オフィスグリコ®※4」(2016年6月1日よりグリコチャネルクリエイトに移管)である。

仕事をしながら健康に、という新しい食事スタイル(=新しい市場)が創造されている。

Ⅲ.職域市場特有の魅力

先述の通り、職域市場は「成長マーケット」であることは明らかであり、また次に挙げる通り職域市場ならではのメリットもある。持続的成長と生産性改善という矛盾した課題を背負う今の企業にとって、非常に魅力ある市場といえる。

1.ライバル不在のクローズドマーケット

職域市場は企業・従業員を顧客対象として商品・サービスを提供する市場である。対象が絞られていることから、一般的な不特定多数を対象とするオープンマーケットに対して「クローズドマーケット」といわれている。そこにはライバルとの競争による顧客の奪い合いは存在しない。

2.集客コスト不要

特定の企業とその従業員を対象とするため、集客に対する費用がかからない。参入企業から出向くことはあるが、集客活動自体が存在しないマーケットである。

3.固定費不要

不特定多数が対象ではないため、店舗を構えて販売する必要がない。つまり固定費がかからないマーケットといえる。

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IV.参入のポイント

このクローズドマーケットに参入していく上でポイントとなるものは何か。その「成功のための条件」として次の4点が重要となる。

1.自社の経営資源を生かす

「事業の立ち上げスピード」「他社との差別化」「参入難易度」の点から、新たな市場ではあるが、既存事業との親和性を含め自社の経営資源を活用することが重要である。なお、経営資源は必ずしも「自社の強み」でなくとも構わない。遊休資産、余剰人員も経営資源となり得る。

2.対象企業・従業員の抱える課題を明確化

職域市場における企業の抱える課題(=マーケット)の着眼点には、大きく次の3点がある。

(1)健康増進・採用・定着などに関する企業の抱える課題(健康支援マーケット)

(2)働き方改革・出勤形態・労働時間といった従業員の労働に関する課題(働き方支援マーケット)

(3)子育て・受験・介護といった従業員の生活に関する課題(生活支援マーケット)

この3点をさらに細分化し、ターゲットを明確化する必要がある。先述の事例のように「ウエルネス・子育て・時短」といった切り口でどんな時にどのような課題が発生するかに絞り、参入を検討することが重要である。

3.脱自前主義

フォーカスすべきは、企業または従業員の抱える課題に対する「最適なソリューションの提供」である。自社ができる範囲に限定したソリューションだけでは十分な満足度・成果を得られないことが多い。自前主義で全て解決できるに越したことはないが、専門性の高い企業と協力し、「最適なソリューションの提供」を実現すべきである。

4.事業のパッケージ化

モノ(単品商品)の提供ではなくソリューションというコト(事業としての商品・サービス)を提供する。そのためには、「事業(=コト)のパッケージ化」が必要である。

また参入企業のメリットも次の通りである。

・事業の水平展開の容易性、かつ拡大のスピード化を促進する

・複数の商品・サービス、複雑なサービスなどをパッケージ化することで提供しやすくなる

・B to B to C、B to B を想定した場合は特に、提供の効率化・容易性につながる

この1~4の流れを図にすると、【図表2】の通りとなる。「職域市場」は成長マーケットであり、潜在需要・解決すべき課題も多くマーケット自体に魅力がある。さらに参入企業にとってもクローズドで効率性の高いマーケットである。そこで成功するためには、先述した「成功のための4つの条件」を押さえることが重要だ。「職域×○○」の切り方によってホワイトスペースとなり得る。新しいサービスが新しい市場を創り出す。職域ビジネスを新たな成長エンジンとして、持続的成長×高い生産性を実現していただきたい。

※ 1「健康経営®」はNPO法人健康経営研究会の登録商標
※ 2 ワークサイズとはワーク(仕事)とエクササイズ(運動)を組み合わせたイトーキの造語
※ 3 内閣府が2016年より開始した、政府が企業に対して推奨している保育所形態。企業が主体となって保育所を設置し、利用者は企業の自社従業員のみならず、複数企業乗合や地域住民への開放も可能で、一定の基準を満たせば認可保育所並みの助成金を受けられる
※ 4「置き菓子®」「オフィスグリコ®」は江崎グリコの登録商標

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