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今週のひとこと

喜ばれて儲かる会社となろう。

世の中の困っていることを見つけ、

それを満たそう。

☆ 離婚経験がスキルになる!?
  ―「人財」を軸に新しいビジネスモデルを生み出そう

 関東に、離婚に関係する女性向けの不動産店舗を運営しているA社があります。ターゲットを離婚予定、もしくは最近離婚した女性に絞っているのです。A社が提供するサービスの内容は、女性・シングルマザー目線での夜道のチェック、近隣住民、教育機関、こどもが遊ぶ公園などの調査から、離婚前の人生相談、離婚届を出すタイミング、離婚届の証人代行、ファイナンシャルプランナーによる生活設計・資金計画など、一見、不動産とは関係が無いと思えるサービスも幅広く提供しています。

 実は、離婚は不動産物件の売買に関わる上位の要因であり、A社が提供する各種サービスが、結果として物件の売買に繋がっているのです。例えば、「離婚を考えているので、旦那には内緒で売却査定をして欲しい」という相談が後を絶たないというのです。
 さらに、A社の店舗が徹底しているのは、店長からスタッフにいたるまで、全員が離婚を経験したことのある女性で構成されていることで、顧客の気持ちが分かるスタッフが、きめ細かな対応を行っているのです。

 結果としてA社は、大手の不動産会社と競合することもなく、高い成約率を誇っています。自社の強みや、固有技術を考える場合、一般的には、商品力や技術力に目が行きがちですが、今一度、会社の宝とも言える「人財」に目を向けてみてはいかがでしょうか。そこから、新しいビジネスモデルが生まれるかもしれません。

経営コンサルティング本部
コンサルタント
石川 一平

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人材の多様性が会社を強くする

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企業規模が拡大するにつれて進んでいく組織の官僚化。社内を活性化させて企業価値を向上させる組織デザインはどのようなものか?金融業界での実務経験をはじめ、アナリスト、外資コンサルティングファームのパートナー、社外取締役の経歴を持ち、企業戦略に精通する首都大学東京大学院の松田千恵子教授に、日本企業の課題と改革のポイントを伺った。


経営を規律付けする社外取締役の存在

若松 松田先生は首都大学東京大学院で教鞭を執られるほか、いくつかの企業で社外取締役を務めてこられました。グループ経営やコーポレートガバナンスに精通していらっしゃる先生にぜひお聞きしたいのは、企業価値を向上させるにはどのような組織デザインを行うべきかについてです。日本では2015年6月からコーポレートガバナンスコードが適用され、上場企業を中心に社外取締役を選任する動きが広がっています。こうした現状についてどのような考えをお持ちでしょうか?

松田 コーポレートガバナンスコードでは、上場企業に対して2名以上の独立社外取締役の選任を求めています。もともと日本企業は自前主義ですから、ほんの数年前まで日本を代表する企業であっても外部人材の活用に対して否定的な見解でしたが、今は当然のように社外取締役を置くようになりました。客観的な立場から意見を言う社外取締役の存在は、非常に重要だと思いますね。

若松 ほとんどの経営者は正しい意思決定に努めていますが、内部人材だけでは業界の常識や経験の範囲内で決断しがちです。また、ワンマン経営者の場合は反対意見が出にくいことも事実です。

松田 有能な経営者であるほど、セルフガバナンスを働かせて自分を律しています。ですが、それはとてもつらいことですよ。私はよくダイエットに例えますが、1人でダイエットするのはつらいものですよね。ですが、一緒に取り組んでくれ、自己流に陥らないよう見守ってくれる伴走者がいるとダイエットは長続きします。そのような存在が社長には必要だと思います。上場企業に限らず、社長が規律付けしていく上で外部人材の存在は大きいと思いますね。

 社長職に限らず、人間は弱いものです。私は「性悪説」ではなく「性弱説」と言っていますが、人間はそんなに強くない。ですから誰かが見ていてくれていると、出来心の抑止力になりますし、何かを決めようとする意思決定の助けになり得ます。また、株主をはじめとするステークホルダーの目線を社内にもたらしてくれる存在でもあります。社外取締役は、意思決定のアドバイザーとしても、経営に対するモニタリング機能を果たす上でも、重要な存在と言えます。

「会社の目指すところ」から組織をデザイン

若松 取締役会の究極の存在意義は、少し荒っぽい表現ですが、退任させることができるかどうかにあります。1人の取締役が強権発動するのではなく、取締役会全体として選任・退任を決定することが前提です。それには客観性のあるバランスで取締役を選出することが不可欠です。取締役会ではっきりと意見が出せる、最適な人材のバランスについてはいかがでしょうか?

松田 バランスは企業の性格や業種によって異なります。ただ、取締役会において社外取締役が圧倒的な少数派になるのは良くないですね。また、私の経験から言うと、取締役会が少人数では議論が行き詰まってしまいます。「会社の目指すところ」という言葉がありますが、取締役会はまさにそこを議論すべき場所。それには意思決定ボードのダイバーシティー(多様性)が担保できる規模・メンバーであることが理想です。

若松 会社の目指すところを議論し、そのための資源配分を決める上でふさわしい取締役会とはどのようなものか?ここが出発点になるわけですね。例えば、新しい展開を目指すなら、その分野に長けた人材を意思決定ボードに入れる必要があるなどです。そこを理解すると、人数だけに制約されない、会社にとって最適な取締役会の形が見えてきます。

松田 コーポレートガバナンスコード自体は形式的な側面も多いですが、いくつか日本の企業を良い方向に持っていくと期待される項目も含まれています。例えば、指名と報酬について語っている点。これまでは役員などの指名・報酬は社長の思うままでしたが、現在は指名・報酬委員会を設置する企業が増えています。その効果がこれから出てくると思います。

ホールディングスは株主の視点を持って

若松 コーポレートガバナンスでは、ステークホルダーへの情報開示が欠かせません。企業の収益力を測る指標としてROE(株主資本利益率)やROA(総資産利益率)などがありますが、情報開示する上で企業は何を重視すべきでしょうか?

松田 指標は何を選ばれてもいいのではないでしょうか。ただ、これまで日本企業はバランスシートを軽視する傾向にありました。売上高や利益を把握するだけでなく、投下資本に対するリスクとリターンをきちんと押さえないといけません。また、大事なのはキャッシュフローです。キャッシュフローは零細企業の方がきちんと管理できていますね。全ての流れが社長の頭の中に入っていますから。ですが、中堅企業になると、見えなくなってしまいがちです。社員は会社全体の動きが見えなくなりますし、社長が毎日チェックしなくても会社は回っていくため、おろそかになりがちです。

若松 中堅企業は承継時の税金対策として、分社によるホールディングス(持ち株会社)化を進めていくケースが非常に増えていますが、組織にマネジメントが追い付かない会社が散見されます。管理会計の見地から十分な検討をせずに会社を分散すると、本来抑えられるはずの経費が削減されないまま見えなくなってしまう点は問題です。本来の戦略・ビジョンに基づくホールディングス化は良いのですが、会計上の誘惑から導入するといびつな組織になってしまいます。

松田 邪な動機はいけませんね。ただでさえ日本の管理会計は遅れています。原価計算に偏り過ぎており、会社全体の状況を数値で見る仕組みは著しく遅れていると言わざるを得ません。その状態のまま会社をスライスして増やせば、混乱するのは当然でしょう。

若松 そうした企業をコンサルティングでお手伝いすることもありますが、数字に思想やスピリッツが不足しています。やはり、会社の価値、未来に向けての企業価値をしっかりとデザインした上で組織や事業、経営システムに落とし込んでいくことが基本です。

松田 まったく同感です。加えて1つ指摘しておきたいのは、ホールディングス化するならば、持ち株会社は自らが投資家だという意識を持たないといけませんね。事業会社で生きてきた人は投資家的な考え方を嫌いますが、株を保有している以上は株主として株式保有先を規律しないといけません。ですが実際は、良く言えば緩やか、悪く言えば放任のところが非常に多い。日本企業はこれまで株主目線で事業を考えてきませんでしたが、ここは大事な部分です。一般論ですが、ホールディングス化して別会社になると会社間のコミュニケーションが悪くなり、部分最適が加速します。その意味でも安易なホールディングス化は、近い将来の税金対策としてはメリットがありますが、遠い将来の企業価値が上がるかどうかは甚だ疑問です。

若い人材の登用・育成で会社の未来に活力を

若松 一方、ホールディングス化によって子会社が増えることは、社長教育の場としてメリットが大きいとも感じています。

松田 社長育成のために子会社の経営を任せるのは良いと思います。子会社社長のポジションをOB対策に使うのはいいかげんやめた方がいい。次世代経営者の育成の場とすべきです。そうした機会に経営経験を積まないと、事業の親玉としては優秀でも経営のできない社長になってしまいます。事業の親玉はひたすら連続的な事業の改善、右肩上がりの成長を目指せばよいのに対して、経営者は事業のみならず財務や組織といったさまざまな要素を見極めた上で、相反する利害の中で全体としての最適解を求めなければなりません。時には事業撤退や事業ポートフォリオの入れ替えなど非連続的な手も打っていく必要があります。

若松 自ら乗っている船を沈める決断は自らできませんから、所属する事業を永遠であると思い込みます。撤退戦略を描けないのが子会社や事業の親玉的リーダーの問題です。バランスシートやキャッシュフロー、経営資源配分について全社的、またはグループ全体で理解しないまま、損益を立てるだけで社長になっては正しい意思決定が下せません。

松田 プロ野球と同じです。名プレーヤーだからといって名監督になれるわけではありません。せっかくプレーヤーとして申し分のない経験があるのですから、マネジメントのトレーニングとして子会社の経営者にすることは非常に意味があると思います。

若松 私たちもそのようなコンサルティングプログラムを提供するケースが数多くありますから、非常に共感します。経営者としてのトレーニングを積めば、新しいアイデアを持った若い世代に経営を任すことができます。世界と比較しても日本の経営者は高齢です。上場会社の平均は59歳、中小企業は60歳を超えるなど年齢が高くなっています。松田先生は「暴走老人」「逃走老人」という表現でご著書でも指摘されていますね。

松田 私の印象ですが、日本の社長の年齢は上がり過ぎています。海外では70代の経営者は非常に少ないですよ。40代、50代の働き盛りの世代が主流ですし、30代の経営者も決して珍しくありません。特に日本の大企業は社長になるまでのプロセスが長すぎます。早い時期に選抜してマネジメントを学んでもらい、40代、50代の方に経営者としてもっと活躍していただきたいですね。

若松 組織改革をしても、社長の年齢はなかなか若返りません。私はコンサルティングで承継のお手伝いをする機会も多々ありますが、ご子息・ご令嬢に代替わりすると周囲も若返って、会社全体に活力がよみがえります。私は300社以上の企業再生コンサルティングも経験していますが、再生を引き受ける条件として、経営者の若返り、次世代経営者の有無について重視してきました。

松田 日本の元気のなさの要因は、若手社員が活躍できないところにもあるように感じます。日々、学生と接していますが、いまの学生は「入社して10年間は雑巾がけ」と言われても納得しません。やる気の高い学生ほどライバルは海外の同世代だと考えていますから、このままでは活躍の場を求めて人材が流出してしまいます。

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新しい価値観を模索するためにも、「違うことを考える頭」がたくさんあった方が有利です。

ダイバーシティーが競争優位性を生む

若松 若手社員だけでなく、女性や外国人、障がいを持つ方など、多様な人材の活用は企業にとって大きな課題です。ダイバーシティーに取り組む企業が増えていますが、先生は現状をどのように感じていらっしゃいますか?

松田 企業にとって多様性が大事なのは基本ですから、どんどん推進していただきたいと思います。ただ、今はダイバーシティー=女性活用になってしまっている点は残念ですね。ダイバーシティーは女性だけではなく会社全体の問題です。ダイバーシティーを推進する部署の責任者に象徴として女性を登用するよりも、むしろ会社にとって花形部署のエース人材を選んでほしいと思います。社内の注目度が高まりますし、会社の本気度が社員に伝わります。また、日本企業における一番のダイバーシティーは中途採用社員です。自前主義がまだまだ強いですが、第三者の目を持った人材が身内になって働いてくれるメリットは計り知れません。これも、ほんの数名入れる程度ではダメですが、一定割合を超えると会社が大きく変わっていきます。

若松 タナベ経営では新卒と中途の採用がほぼ半々ですが、中途採用社員は一人一人違った経歴や知見を持っていますから話していても発見が多くて飽きません。その中から新しいアイデアが生まれることも多々あります。中途採用社員が増えていくと、ダイバーシティーが進んでいくことは間違いありませんね。

松田 もう1つ。「出戻り社員」についても強くお勧めしたいですね。何か問題があって退社された方は別ですが、外で武者修行をしたり新たな知識やスキルを身に付けたりした人材は喜んで採用すべきだと思います。

若松 なるほど。自社のことをよく知る客観的な目を持った貴重な人材と言えます。現状は、働き方改革の一環としてダイバーシティーに仕方なく取り組んでいる企業もありますが、私は顧客の価値の変化に会社の構造を合わせていく意味でも、必要だと考えています。現在、あらゆるマーケットにおいて女性消費者の影響力が大きくなっていると感じています。消費マーケットの要請、顧客価値への対応の観点からも必要なのだと。残念ながら「男性限定マーケット」は縮小しています。クルマ、パチンコ、スナックなどですね(笑)。だからこそ、女性活躍が重要なのだと、私は提言しています。女性管理職を何人にするなどの目標数値も必要なのですが、それ以上に経営の現実が変化してきています。

松田 人類の歴史は「蒐集」の歴史であり、資本主義は蒐集するのに最も効率的なシステムであったといわれます。一般的な言葉で言えば「所有」に対する欲望ですね。女性に比べて男性は所有欲が強いともいわれますが、「マイ」ホームや「マイ」カーなどに象徴されるように、所有欲が経済を成長させる1つの原動力だったことは確かです。しかし、この流れがそろそろ終わりを告げていることは、シェアリングエコノミーが広がっていることからも明らかです。所有欲を前提として成り立っている産業はこれから大変でしょう。そうした前提から抜け出して新しい価値観を模索するためにも、「違うことを考える頭」がたくさんあった方が有利です。ダイバーシティーが競争優位性の一環というのは、おっしゃる通りです。

若松 シェアリングエコノミーなどの価値観の変化に気付く感覚は、企業のものづくりや意思決定の鍵になります。ですが、社内の人材が偏っていると感覚は鈍ってしまうもの。多様性が会社の強みとなって高度なサービスを提供できるように、私たちも本質を追求していきたいと思います。本日はありがとうございました。

首都大学東京 大学院 経営学研究科 教授 松田 千恵子(まつだ ちえこ)氏
東京外国語大学外国語学部卒業。仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院経営学修士。筑波大学大学院企業科学専攻博士課程修了。博士(経営学)。日本長期信用銀行、ムーディーズジャパン格付けアナリストを経て、コーポレイトディレクションおよびブーズ・アンド・カンパニーでパートナーを務める。2006年にマトリックス株式会社設立。11年より現職。企業経営と資本市場に関わる豊富な経験を生かし、企業の経営戦略構築・中期計画立案支援、グループ経営、コーポレートガバナンス、情報開示、M&A支援などに関するアドバイザリー、研究および教育を行う。日本CFO協会主任研究委員。公的機関、上場企業の社外役員などを務める。主な著書に『格付けはなぜ下がるのか?大倒産時代の信用リスク入門』(日経BP社)、『戦略的コーポレートファイナンス』『成功するグローバルM&A』(以上、中央経済社)、『グループ経営入門』(税務経理協会)、『これならわかるコーポレートガバナンスの教科書』(日経BP社)、『コーポレートファイナンス実務の教科書』(日本実業出版社)など。

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ・たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院 (経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

独自のビジネスモデルで美容業界の発展を支える

全国の美容室に製品を供給するほか、経営支援や人材育成まで手掛ける伸び盛りの企業がある。美容室専売の頭髪用化粧品メーカー「コタ」だ。「美容業界の近代化」へ挑戦を続ける同社のビジネスモデルに迫った。

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2017年11月に新設した研修施設「COTA KYOTOスタジオオフィス」
2017年11月に新設した研修施設「COTA KYOTOスタジオオフィス」

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「コタ アイ ケア」は根強い人気を誇るロングセラー商品


美容室とともに歩み、美容室とともに発展する

京都府久御山町に本社を構えるコタは、美容室向けのシャンプーやトリートメント、整髪料などの製造・販売を手掛ける東証1部上場メーカー。2017年3月期決算では、19期連続増収、経常利益4期連続増益、売上高・利益ともに過去最高を更新し、売上高経常利益率が18.8%と注目の成長企業である。

同社は第2次オイルショックが起きた1979年、「小田製薬株式会社」として設立。翌年に本社工場を竣工し、「COTA」ブランドの頭髪用化粧品の製造を始め、2001年に現社名へ変更した。

創業当時の美容業界は、経営者一代限りの個人事業がほとんどで、美容師の育成は徒弟制度が当たり前。生産性も低く、他の業界と比べ経営の近代化が遅れていた。創業者である初代社長の小田英二氏は、そんな状況を危惧して「美容業界(美容室経営)の近代化」を決意。「美容室とともに歩み、美容室とともに発展する」という考えのもと、独自のビジネスモデルを生み出した。

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コタ CS部CS課企画係 米田 未希氏

旬報店システムで美容室の経営全体を支援

そのコタ独自のビジネスモデルが「旬報店システム」を軸とした「コンサルティング・セールス」と「トイレタリー」の販売を中心とした「店販戦略」である。旬報店システムとは、同社が独自開発した美容室の経営改善システム。同社製品の一括導入を条件に、美容室から旬間(10日間)に1度提出してもらった営業成績を基に、業績向上の経営アドバイスを行う仕組みだ(現在はWebシステムで日々の業績を共有)。旬報店システムを導入している取引先美容室(旬報店)の軒数は全国に1608店舗(2018年3月末現在)ある。

美容室と将来のビジョン(目標)を共有し、そこに至るまでの計画立案と現状分析を行い、目標達成の具体策を提案する。バランスの取れた成長を目指してもらうために、旬報店一軒一軒に対して、年次および月次ペースで売上高や来店客数など11項目において目標を設定し、日々の達成状況を管理してアドバイスを行う。

また店販戦略は、美容師が対面販売を通じて一般消費者(来店客)にトイレタリー(シャンプー・トリートメント)、整髪料、育毛剤などの同社製品を直接販売するもの。店販は小売店やインターネットでの販売とは違い、美容師の接遇やカウンセリング(知識・提案力)、美容室への信頼感などにより高付加価値な美容室専売品を安定的に販売することができる。

美容室にとってもメリットは大きい。美容師は同社の主力製品である「コタ アイ ケア」でシャンプーとトリートメントの18種類もの組み合わせの中から、来店客の髪の状態に合った組み合わせをカウンセリングで導き出す。信頼する美容師が推奨する製品、しかも美容室専売品ならではの品質でリピーターになる顧客は多く、来店頻度が向上する。この店販により、コタ アイ ケアは1999年の発売以来、不動の人気を誇るロングセラー製品となった。

このように、自社製品の製造・販売だけでなく、美容室の経営全体をサポートし、美容室経営者に「技術者から真の経営者へ」と意識改革を促す。そして店販戦略によって美容室の収益が安定的に向上し、来店客の満足度も上がる。これがコタと他社メーカーとの大きな違いである。

コタ CS部CS課企画係 主任 鎌倉 美紀子氏
コタ CS部CS課企画係 主任 鎌倉 美紀子氏

人材育成こそ美容室の成長のカギ

コタは美容室の人材育成にも力を入れている。その一例として、毎年11月から12月にかけての2カ月間、全国の取引先美容室を対象に、シャンプー、トリートメント、整髪料など同社製品の販売高を競う大会「コタ全国店販コンクール」を開催。参加者は楽しみながら売り上げやカウンセリング力、製品販売力、技術力を伸ばす機会に活用しているという。

上位入賞店にはハワイ旅行へご招待という褒賞付きだ。コンクール期間中、参加する美容室スタッフは共通のリストバンドを付け、「みんなでがんばろう」と一致団結して士気を高める。

そのほか、成績優秀な美容室が参加する「優秀サロン会」、旬報店システムにおいて目標を達成した美容室のみが参加できる「オール金賞サロン会」など、美容室スタッフの目標となる表彰イベントも開催。また、アシスタントスタッフを対象とした教育プログラムも充実している。来店客への提案力や接客力を競う「ロールプレイング大会」、スタイリストへの早期育成を行う教育プログラム「コタアカデミー」の開催などである。

人材が根幹となる当業界において、その差が美容室の発展、他店との差別化の鍵となる中、コタのこういった取り組みが多くの美容室の人材育成に一役買っているのは間違いない。「取引先美容室のオーナーさまからは、『コタと取引するようになって他の美容室との横のつながりが増えた』『旬報店システムや他の美容室との交流によって自分の店の居場所が分かり、店の指標になっている』などと評価をいただけています」とコタCS部CS課企画係主任・鎌倉美紀子氏は言う。

美容室軒数の増加による過当競争の激化、美容師人口の減少による採用難や後継者問題など、美容業界を取り巻く状況は厳しい。美容室経営者には今後、技術面だけでなく、経営面でのスキル向上が大きく問われることになる。

美容室とともに、女性を髪から美しくするために

2019年で40周年を迎える同社は、「美容室とともに、女性を髪から美しくする」ため、旬報店の開拓と育成をさらに推進し、美容室経営者のサポートを拡大していく考えだ。販促・企画面については、今後「年齢別提案」を強化していくという。

「例えば10代の中高生は髪を気にする年代ですが、校則もあってヘアカラーなどは難しい。そうした世代にさりげないストレートパーマ『スリムパーマ』を提案しています。いかにもパーマという感じではなく、髪をまとまりやすくするのが特長。校則を気にせず髪の質感を変えることができ、同世代に喜ばれます。年代ごとに求められるニーズや悩みは異なりますから、それぞれに応えられる提案をしていきたいですね」(鎌倉氏)

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コンサルティングセールス推進に向け、コタでは人材採用・育成を強化中

販促キャンペーンで美容室をしっかりサポート

美容室は新たなメニュー提案に加え、集客のための販促キャンペーンが欠かせない。同社はこれまでブランケットやトートバッグ、タンブラー、日傘、ポーチ、お香と、さまざまな販促グッズを製作し、美容室に春夏・秋冬の年2回提案している。特に2018~19年の秋冬シーズンでは全社で「サポートアイテム」として戦略的に展開するという。

コタは販促品製作で、タナベ経営と十数年来の付き合いがある。同社企画係の米田未希氏は「長年の取引があるタナベ経営は相談しやすい存在。『この商品・品番しかない』ということがなく、いろいろな商品を仕入れる対応力はとてもありがたいです」と評価する。

主任の鎌倉美紀子氏は「今後はより細やかな提案を行っていきたい。流行を先取りできる目新しいアイテム、店のブランディングにつながる名入れアイテム、上質ながら価格を抑えた〝コタならではの販促品〟の提案を強化しようと考えています。美容室にも来店客にも喜んでもらえる提案で、『コタに頼めば何とかなる』と頼りにされる存在になりたいです」と期待をかける。

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販促品などの製作で、タナベ経営との付き合いは十数年に及ぶ

PROFILE

  • コタ㈱
  • 所在地:〒613-0036 京都府久世郡久御山町田井新荒見77
  • TEL:0774-44-1681(代)
  • 設立:1979年
  • 資本金:3億8780万円
  • 売上高:65億5200万円(2017年3月期)
  • 従業員数:307名(2017年3月末現在)
  • 事業内容:美容室向け頭髪用化粧品、医薬部外品の製造・販売
  • http://www.cota.co.jp/

コタでは社員一人一人が"どのようにすれば、顧客である美容室のお役に立てるか"を考え、行動している姿勢が明確である。これは同社の経営理念が社員全員にしっかりと浸透しているからに他ならない。

独自のビジネスモデルである「旬報店システム」による経営支援や、店販コンクールと優秀サロン会などによる美容室の人材育成といった「美容室のコンサルティング」。美容業界を取り巻く環境は年々厳しさを増しており、同社の本質的価値が今後より一層高まっていくのは間違いない。2019年に創業40周年を迎える同社の今後の活躍に期待したい。

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SPコンサルティング本部 課長
SPチーフコンサルタント
安永 信司

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SPコンサルティング本部
渡辺 小百合


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