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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2015.10.29

愛がなければ感動は伝わらない:ジャパネットたかた 髙田 明氏 × タナベ経営 若松 孝彦

覚悟がないとミッションは貫けない

 

若松 ジャパネットたかたは事業そのものが「ビジネスモデルブランド」でありながら、分割払いの金利負担といった「サービスブランド」も数多く開発されました。さらなるブランド戦略が必要ですね。

 

髙田 企業の価格競争は、もう限界にきています。「日本一安い」と打ち出せば、必ず他社が同じことをするため、差別化も図れません。企業の評価は、お客さまとどこまで信頼関係をつくれるか。価格とサービスが一気通貫につながらないと評価されない時代が来るでしょう。今後は付加価値が重要になります。

 

若松 髙田社長が取り組んでこられた「商品に新たなストーリーを創り、語ることで価値を示すこと」は付加価値そのものです。

 

髙田 企業が選んだモノの価値に、お客さまがお金を払われる。金額に見合った価値を提供できれば、私たちだけの価値ではなく、生産者の価値にもなる。その価値観の共有は重要です。誠実に真実を貫き通し、本当の価値を見抜く力を持たねばなりません。

 

若松 どんな商品もミッションを持って生まれてきています。ミッションがなくなると商品寿命も尽きます。その大切さを、どのように組織に浸透させているのですか。

 

髙田 経営者には、覚悟が要りますね。覚悟がないと、ミッションや理念を貫く企業にはなれません。なかなか難しいですが、ブレない心で前進していく気持ちが必要でしょう。
世阿弥の言葉にあるように「自分が見ている目=我見」とは別に、「見られている目=離見」があります。「企業はこうあってほしい」という消費者が求める目を忘れたとき、我見に走る。その瞬間に売れなくなります。「安いです」と言っても、通じなくなる。見られている目を理解し、自分で見ることです。さらに、「見せる目=離見の見」も重要です。どう自分を見せるのか。これはテレビ通販だけでなく、全ての商売の本質だと考えます。

 

㈱タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

株式会社タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000 社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989 年タナベ経営入社、2009 年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。著書『100 年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか多数。

 

商品には生まれてきたミッションがある。
新たなストーリーをつくることで新たな価値が生まれる。
それを顧客や組織とどう共有するかが重要です。若松 孝彦

 

古人の跡を求めず、古人の求めたるところを求める

 

若松 これまでのお話を具現化したのがジャパネットたかたなのですね。結局、会社は経営者・リーダーの意志によってつくられます。

 

髙田 社長は目標を掲げて社員に示し、それを遂行する戦略を立てる。しかし、「目標を達成しなさい」ではなく、社員が戦略を実行するよう持っていかねばなりません。だから教育ほど大事なものはないと常に言っています。教育で人は変わりますから。ジャパネットも、もっと学んで成長していけば、さらに素晴らしい会社になると期待しています。

 

若松 長年やってこられた社長業への思いをお聞かせください。

 

髙田 社長業で必要なのは、66 歳の私が語るのも気恥ずかしいのですが、「愛」です。人を愛して感じる心がないと、人を動かすことはできないし、人に感動を伝えられません。

 

企業は世の中に奉仕するためにある。奉仕するために利益を出すよう努力するという理念を、社員と共有することも大切です。ジャパネットたかたを評価できるのは、社員がそうした愛や理念を持つ集団になっているところです。

 

若松 「ジャパネットを100年企業にする」と宣言されていますが、後継者や次世代に期待することは何ですか。

 

髙田 私は、2015 年1 月に社長を退任しましたが、あと1年くらいは応援するつもりです。現在はアドバイザーとしてガンガン言いますが、大胆に変えている部分にはタッチしません。普遍的な部分を信じて持ち続けることができれば、他のやり方は変えてもよいと思います。長男の髙田旭人社長の体制下、新たなことに挑戦し、人事制度や労務制度などもより良い方向に変えています。それが世代交代の意義だと考えます。後継者に譲るとは、「任せる」ということです。前社長が「影の社長」になってはいけませんね。

 

若松 ビジネスモデルをつくり上げ、「お客さまを大事にする」「社員を大事にする」という「愛」を、言葉だけでなく実践されてきた重みを感じます。理念を大切にしながら、何を変えて何を残すか。「古人の跡を求めず、古人の求めたるところを求めよ」(松尾芭蕉)の精神で、次世代の皆さんが今を超えていかなければならないですね。

 

髙田 私がテレビに出なくても成長するなら最高です。

 

若松 確かに、そこに事業承継の本質があります。しかし、出演されないとなると、一視聴者としては寂しい限りです。「髙田社長が選んだモノ(物)語」は、私たち消費者に楽しさと安心を与えていますから。

 

髙田 そう言っていただけて本当にありがたいです。しかし本音は、私が売らなくても成長できる企業になってほしいのです。現社長に引き継いだとき、ホールディングスの社名を「ジャパネット」とし、「たかた」の名前を外したのもそのためです。現在「ジャパネットたかた」の社名は、子会社の各制作部門と商品開発部門が使っているだけで、他は全て「たかた」なしです。

 

若松 会社にとってオーナーは大切ですが、それ以上に「オーナーシップ」が大事です。「自分の会社」と思える社員をどれだけ育てられるかが、特にオーナー企業にとって大切なことだと思います。

 

本日はお忙しい中、佐世保のスタジオも拝見させていただき、本当にありがとうございました。ますますのご活躍を祈念しています。

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