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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2016.02.29

「おさな子」の未来を100年研究し続ける日本一企業:ジャクエツ 徳本 達郎氏 × タナベ経営 若松 孝彦

最良の環境を子どもたちへ提供したい

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若松 戦略は理念に従います。経営理念にある「おさな子の為に基準となること」には、どのような思いが込められているのでしょうか。

 

徳本 日本には消防法や建築基準法はありますが、子どものための「規準」がありませんでした。

 

トイレを例に挙げると、公共施設はどこも床にタイルを貼り、汚れたら水で流すウエットタイプの設計が主流。また、男性用の便器は、どの年齢にも対応できるようにストール(床置)式が採用されてきましたが、子どもが使うとズボンが引っかかったり、体を支えるために汚れた便器のふちを手でつかんだりすることになる。子どもの使用環境から考えると、ふさわしい設計とは言えません。

 

そこで、当社ではトイレを部屋や廊下と同等に捉え、床に水を流さないドライ式を採用。便器も、子どもにとって使いやすく、清掃しやすいオリジナル商品を開発しました。

 

若松 子どもたちの体や動き、動線などを価値分析した施設や遊具をつくるのですね。

 

徳本 2007年に「第1回キッズデザイン賞」(キッズデザイン協議会)の大賞「経済産業大臣賞」を受賞しました。その際に評価されたのが、子どもたちの情報を収集した全国の調査データに基づいて開発ができる点です。そうした取り組みをさらに進め、2010年には国の標準的基準を上回る独自の「JQ遊具安全規準※」の策定に至りました。誰かが規準をつくらないと、子どもたちの環境は良くなりません。

※ 国内外の遊具に関する安全基準をベースに、全国の顧客から寄せられた事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット」事例を反映し、より安全な製品づくりを行うためのガイドライン。JQはジャクエツクオリティを表す

 

若松 つくる側の理論ではなく、子どもを中心に環境を見直すことが大切ですね。まさに「顧客価値」です。日本では少子化によるマーケットの縮小が懸念されていますが、その影響をどのようにお考えですか。

 

徳本 子どもの数が減っていくのは事実ですが、数が減るほど子どもに対する親の思いは強くなります。都市部では待機児童の問題があり、施設も足りていません。また、これまで行政が振り分けていた保育園ですが、幼保一元化によって親が選ぶようになると幼稚園・保育園の環境や質のレベルが上がっていく。これらは市場が拡大していく要素になります。さらに、教育面ではIT活用が急速に広がっています。紙の絵本はなくならないでしょうが、幼児教育にも入ってくることは間違いない。そういった部分を捉える必要があります。

 

若松 私も「少子化=市場縮小」という、単純な公式は当てはまらないと考えています。その裏には新たな課題、新しいマーケットが必ず隠れ、生まれていますからね。

 

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(株)タナベ経営 代表取締役社長
若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサ ルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業か ら中小企業まで約1000 社に及ぶ。独自の経営理論で全国 のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの 支持を得ている。 関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989 年タナ ベ経営入社、2009 年より専務取締役コンサルティング統轄 本部長、副社長を経て現職。『100 年経営』『戦略をつくる力』 『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

子どもの可能性を広げる関連性・連続性のデザイン

 

若松 創業110年、120年、そして200年に向けての展望をお聞かせください。

 

徳本 2015年、子どもたちの環境を総合的に見直してみようと、各専門家を集めて「プレイデザインラボ」という研究を始めました。当社は従来、椅子やブロック、建物などを別々に開発していましたが、これは関連性・連続性に着目した研究です。

 

若松 中堅企業は自社の専門的価値を打ち出した「研究所(ラボ)」という部署づくりに挑戦すべきであると提言しています。顧客は多様化する以上に専門化しているからです。関連性・連続性のデザインとは、どのようなものですか。

 

徳本 例えば、遊具を園庭のどこに置くか、どの遊具の隣に置くかで子どもたちの遊び方は全く変わってきます。従来は、「こうして遊んでください」と大人が遊び方を決める遊具が多かったのですが、当社がプロダクトデザイナーの深澤直人氏とコラボレーションした遊具『DONUT(ドーナツ)』(下写真)を検証すると、面白いことが分かりました。直径2mほどの、ドーナツを輪切りにしたような形の回転する遊具を園庭に置くと、最初、そこに集まって回して遊んでいた子どもたちは、はずみを付けて園庭に散って行き、それぞれ違う遊具で遊び始めます。ぐるぐる回ったり滑ったりという遊びは、子どもたちをワクワクさせてエンジンをかけるのです。

 

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幼児向けFRP 製回転遊具『DONUT(ドーナツ)』。
お菓子のドーナツのようなリング型の座面が特徴。 子どもたちから自由な遊びの概念を引き出すことを目的に開発された

 

若松 なるほど。周辺の遊具も含めて「遊ぶこと」の価値が広がっていくわけですね。

 

徳本 その通りです。子どもはいろいろな遊び方を発見します。親が考える通りに遊ぶわけではない。遊具だけでなく、何かをつくる際には、それが子どもの行動にどう影響するか、どのような相乗効果を生み出すのかといった研究がもっと大事になってきます。総合的にデザインしないと、子どもにとって最良の環境にはならないのです。

 

若松 子どもの研究は奥が深いですね。従来型の子どもマーケットと捉えていては、これまでの枠を超えた商品は生まれない。デザインや環境、ライフスタイル、社会の課題など、切り口を変えて見てみないと。プレイデザインラボが先頭に立って変化に挑み、革新を起こしていただきたいです。

 

徳本 最良の「こども環境」をつくることがより良い社会をつくる一番の近道だと、社員に言っています。そこに投資することで、絶対的に豊かになる。昔から「三つ子の魂百まで」といわれますが、幼児期の環境がその後の人生を決めますからね。

 

若松 「日本は人でできている国」です。ソニー創業者である井深大氏も、晩年に0歳児教育に注力されたことは有名です。子どもへの投資は未来への投資。待機児童解消に向けたハードばかりが注目されていますが、ハードとソフトを一体化することで、大きな価値が生まれてくると思います。ミッションを追求し、「次の100年」を目指してください。本日は本当にありがとうございました。

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