vol.8 奉仕するリーダーの時代
サーバント・リーダーシップが組織経営をつくる
神戸大学大学院 教授 金井 壽宏氏 × タナベ経営 若松 孝彦

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2016年6月号

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(左)、神戸大学大学院 経営学研究科 教授 金井 壽宏 氏(右)。神戸大学 貴賓室にて

 

企業とは、生い立ちも経験も立場も異なる人々が1 つの目標に向かって走り続ける集団。バラバラになることなく、組織として高度に機能するためには何が重要なのか。日本における組織・リーダーシップ研究の第一人者である神戸大学大学院の金井壽宏教授に話を伺った。

 

 

 

組織は人の協働理念を軸に活性化を

 

若松 企業の経営戦略やマネジメント論は百家争鳴の時代。私自身、経営者として、また経営コンサルタントとして現場にいると、あらためて企業の土台となる「組織力」や「人材力」の重要度が増しているように感じます。金井先生は組織論、リーダーシップ論の専門家でいらっしゃいますが、そもそも企業の組織について、どのようにお考えなのでしょうか。

 

金井 少々抽象的になりますが、私は米国の経営者であり経営学者だったチェスター・バーナードが定義した「(組織とは)意識的に調整された2人もしくはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム」という表現が的確だと考えます。分かりやすく言えば、ある場所で小火(ぼや)が起こると、そこにいる人たちは消火器やバケツを探し、消火活動を始めますよね。「火を消す」という共通の目標に向かってコミュニケーションと協力が生まれるような状態です。つまり、単に人が集まっただけではない、「協働」の姿が組織の原点なのです。

 

若松 チェスター・バーナードが『経営者の役割』(ダイヤモンド社)で提唱した「組織論」は、まさに起点ですね。企業の組織に置き換えれば、使命感を持つ人が周囲の人々の協力を得て、共に事業活動を行っていくということです。ただ企業においては、消火活動のように、いかに全員が明確な目的を共有するのかがポイントになります。

 

金井 企業活動における意志の言語化で注目していただきたいのが、実践家が実際に使っている「理論」です。どのような分野にも原理原則やセオリーといったものがあり、組織行動はそうした理論が核になります。社会心理学者のクルト・レヴィンも「よい理論ほど実用的なものはない」と指摘しているように、確かな理論があれば確かな行動を導けます。

 

若松 当社の創業者・故田辺昇一は「経営は、試行錯誤の経験科学である。コンサルタントが提供する“判断” は実証的な裏付けを持ち、すでに実験済みの原則による知恵でなければならない」と言いましたが、まさに実践と理論との融合が経営です。企業経営においては、ある意味において理論を「理念」と置き換えることもできそうです。経営理念を組織に浸透させる上で、大切なことは何でしょうか。

 

金井 ひと昔前なら、カリスマ性のある創業経営者が「こうするんだ」と号令を掛ければよかったのでしょうけど、今はファシリテーター(※1) を介した対話で社員に理解を促すのが効果的ですね。考え方や行動を強制されると誰しも反発を覚えますし、ドイツの社会学者マックス・ウェーバーが言ったように、カリスマの理論は日常化・ルーティン化できないものですから、次代に引き継ぎにくいのです。理念もただ叫ぶだけでは浸透しませんし、継承も困難です。
※1 会議など複数の人が集う場において、議事進行を務める人のこと。会議中に自分の意見を述べたり、意思決定をしたりせず、中立の立場で参加者の心の動きや状況を見ながら議事を進めていく役割を果たす

 

若松 ご指摘のように、創業者のカリスマ経営ではない、後継経営者の経営スタイルの必要性が高まっています。現在は、2代目や3代目への事業承継期を迎えている企業が非常に多いのですが、後継経営者が組織を構築する際のポイントは何だとお考えですか。

 

金井 創業時には社長を含めて数名だった会社も、成長に応じて社員が100名、1000名と増えていけば、仕組みで動かさねばならない部分が必ず出てきます。マネジャーは複数の集団の重なり、連結ピンになるわけで、そうなるとマネジャー役の人が社長と集団のつなぎ役を担いつつ、理念を浸透させていく役割を担います。重要なのは、マネジャー一人一人が「お山の大将」のふり、つもりをするのではなく、上下のコミュニケーションの要になること。特に2代目以降の社長は、マネジャーがきちんと機能するような組織づくりに注力すべきでしょう。

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