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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2016.06.30

「紙を超える紙」を創造する100年企業:阿波製紙 三木 康弘氏 × タナベ経営 若松 孝彦

株式上場でマネジメントの強化「紙を超える紙」の開発に注力

 

若松 2012年に東証2部上場を果たされました。ここ数年、上場を目指す企業は増加傾向にありますが、地方の材料メーカーに限れば株式上場にこぎ着けるケースは多くありません。上場後に経営は変わりましたか。

 

三木 資本政策の目的もあって株式上場したのですが、私個人で言えば、オーナーシップの自覚がいっそう増したように思います。自覚とは、株主に対する経営責任です。業績達成への責任感が格段に強くなりました。

 

また、役員や会社全体のマネジメント意識が向上しています。上場前は管理に甘い部分もあったのですが、株式上場へ向けた内部統制の仕組みづくりを通して透明性が向上しましたね。各部署の業務手順などを見える化したことで社内の仕組みを整理できました。

 

若松 私もコンサルティングで多くの上場アドバイスをしてきましたが、株式上場は手段であって目的ではありません。会社によって目的は違うのです。阿波製紙が上場という手段を使って経営改革を進めた意義は大きく、次の100年を目指す上でも節目となりました。今後は海外展開も含めて新たな市場開拓が必要です。

 

三木 エンジン用フィルターはグローバル化が進んでいます。当社は1994年にタイに工場を建設して96年から製造を開始。97年に通貨危機などもありましたが、今は海外に工場があるから成り立っている状況です。

 

日産自動車などはルノーと部材の共有化を図っていますから、より競争力を付けていかなければなりません。付加価値の高いものは国内で製造する一方、それ以外は海外での製造を進めてコスト競争に対応していきます。

 

若松 自動車関連資材、水処理関連資材、一般産業用資材に続く第四の事業の柱づくりへ、どのように取り組んでいらっしゃいますか。

 

三木 今、注力しているのが炭素繊維です。炭素繊維を使った紙では世界でトップクラスだと自負しています。機能としては熱伝導性や強度に優れており、素材も活性炭や黒鉛などさまざまありますから、組み合わせを変えながら新しい機能を開発しているところです。

 

若松 用途開発としての具体的な展開をご紹介ください。

 

三木 新製品の1つ、『CARMIX熱拡散シート』は熱伝導性があり、半導体向けの放熱材料として電子部材市場に期待しています。機能的にも従来材料と同等以上であることに加えて、紙には曲げても折れないメリットがあります。

 

若松 (シートを触りながら)本当に曲げても折れませんね。紙の可能性に驚きます。常識にとらわれず、「これが紙でできるの!?」と“驚き”を与えるという開発精神を感じます。

 

三木 『CARMIX CFRTP マット』は鉄と同等の強度があります。ポリプロピレンやナイロンなどの熱可塑性樹脂繊維と炭素繊維を水中で均一に分散させ固めてマット化したもので、積層してプレスすることで複雑な成型が可能です。世界初の技術で、軽量でさびず、リサイクル繊維が使えるなどのメリットがあり、自動車向けを目指しています。

 

若松 環境配慮への要請はますます強くなっているので、循環型製品は付加価値が高くなります。

 

三木 紙は他の材料と組み合わせることができる中間素材で、限りない可能性を持っています。特殊紙・機能紙という言葉を積極的に使い、「紙を超える紙」をつくろうと日夜挑戦しています。

 

㈱タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

㈱タナベ経営 代表取締役社長
若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

新しいものを生み出し続けなければ会社は終わる

 

若松 顧客やマーケットが求める価値を実現しようとする姿勢が、従来の紙の概念を超える技術を生み出しています。いわば「超特殊紙」です。阿波製紙には、未知の分野に挑戦する文化がありますね。

 

三木 創業以来、「新しいものを生み出し続けなければ会社は終わる」という危機感を常に持っています。今ある商品で将来も飯が食えるという保証はありません。それを保証するのは会社ではなく、社員一人一人の活躍だと言っています。

 

若松 祖業である「和紙」だけをそのまま続けていたら、今日の阿波製紙はなかったでしょう。まさに、未知への挑戦が大切ですね。

 

三木 和紙から特殊紙への転換もそうですが、さらにさかのぼると、三木家や発起人に名を連ねた資産家は藍商人でした。藍から和紙への転換が先だったのです。

 

明治時代、徳島の藍染めのシェアは全国ナンバーワンでしたが、海外からインド藍や合成染料が入ってくると一気に衰退しました。こうした経営環境に対応し、危機感を持って製紙事業に参入して市場を切り開いていった。こうした歴史を見ても、1つの事業がずっと続くことはありません。衰退する前に次の事業をつくっていかないと会社は終わりを迎えます。

 

若松 拙著『100年経営』(ダイヤモンド社)では、「100年続く会社とは変化を経営する会社」と提言しています。阿波製紙も事業転換がうまい。染料から始まり、和紙になり特殊紙に変わり、さらに研究開発を進めて自動車や水処理などへドメイン(事業領域)を広げています。会社全体が危機感を持つと、マーケットの捉え方が変わるのです。

 

三木 100年という節目を迎え、あらためて何が大切かを考えると、やはり人材育成にたどり着きます。チャレンジ精神を養うためにも、「創業の精神」を伝承していきます。100年続いても、社員が社風や歴史を知らないようでは価値はないからです。

 

近年、当社の歴史や技術、製品をまとめたテキストを社内プロジェクトで作成しました。膨大な内容ですから、ここから抜粋して人材育成に活用していこうと取り組んでいます。

 

若松 創業の精神やその歴史を共有することで未来へのチャレンジ精神を育み、次の100年に向けて紙の可能性を広げていかれていることに大変共感しました。持続的成長による200年経営の実現を祈念いたします。本日はありがとうございました。

 

PROFILE

  • 阿波製紙㈱
  • 所在地:〒770-0005 徳島市南矢三町3-10-18 TEL:088-631-8100(代)
  • 設立:1916 年
  • 資本金:13 億8513 万円
  • 売上高:169 億8100 万円(連結、2016 年3 月期)
  • 従業員数:655 名(連結、2016 年3 月末現在)
  • 東証2 部上場
  • URL:http://www.awapaper.co.jp/

 

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