vol.11 タクシーの保有台数、日本一。地域密着の生活環境支援モデルへ挑む
第一交通産業 田中 亮一郎氏 × タナベ経営 若松 孝彦

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2016年10月号

 

タクシーと不動産が地域密着の固有技術

 

若松 タクシーやバスだけでなく、住宅販売・不動産、医療・介護福祉、ファイナンスなど多くの事業を展開されています。

 

田中 不動産事業に乗り出したのは、M&Aがきっかけです。同じ地域のタクシー会社を買収すると、営業所同士が近いことが多い。しかも、広い道路に面しており、容積率が高い立地です。そこで、営業所を集約する際、単に売却するのではなく、マンションを建設して新たなお客さまを生み出そうと考えました。2016年7月現在のマンション供給実績は337棟です。

 

また、賃貸物件も78棟を保有しており、うち3割が飲食ビルです。一杯飲んで帰宅する際にタクシーを利用していただけるので、タクシー事業にも効果があります。

 

若松 阪急電鉄の創業者・小林一三は、地域に街をつくり、その間を鉄道で結んで私鉄産業を築きました。第一交通産業は、そのタクシー版かもしれません。

 

田中 最終的に目指しているのは、地域密着の総合生活産業になること。介護や医療、娯楽までを手掛けていますが、M&Aの判断材料は、「タクシー事業に役立つか」「不動産事業に役立つか」。30台規模のタクシー会社でも、マンション用地として活用できる土地があれば、高額で買収します。

 

地方の生活を守る取り組みを強化

 

若松 「地域密着型のビジネスは、地方企業の固有技術になる」と私は言っています。都市圏と違い、地方圏で「タクシーに乗る人」「飲食する人」「娯楽施設を利用する人」は、ほぼ同じ人(顧客)ですからね。

 

田中 東京ではタクシーをつかまえても同じ乗務員に出会うことはまずありませんが、地方では1日3回くらい出会うこともあります。お客さまとの距離が近くてニーズも細かいので、法律違反以外は何でも要望を聞くように指示しています。乗務員が病院の診察の順番を取るサービスも人気です。

 

若松 病院の順番待ちは、個別の事業としては成り立ちません。タクシーというインフラがあるからこそ、プラスアルファのサービスになるのでしょう。

 

田中 ALSOK(アルソック 綜合警備保障)と提携し、ホームセキュリティーのシステムにタクシー呼び出しボタンを付けたりもしています。新規事業にゼロから取り組むと、時間もお金もかかります。しかし、他社と連携すれば事業の一部を改良するだけでよく、展開スピードも速い。そこが強みになります。

 

私が盛んに言うのは、「地方の企業は『専業』では無理」ということ。兼業し、協業することで強くなる。地方創生とは、新規ビジネスを起こすことではなく、規制緩和や法改正によって地方の企業が連携しながら事業を継続することです。

 

若松 「オープンイノベーション」ですね。生活産業が実現し、定着すれば、地方の過疎化も進行が鈍化します。

 

田中 その通りです。過疎地にはもともとタクシー需要がありませんでした。バスが運行していましたから。ところが、市町村合併で村営や町営のバスがなくなり、交通過疎地が急増。住民がいても、「足」がなくなったのです。

 

そこを狙って米国のUber(ウーバー)のような配車サービスが進出しようとしています。しかし、日本のタクシーはこうした配車サービスよりも、ずっとサービス品質が高い。生活環境支援を掲げる当社の使命として、交通過疎地にもより良いサービスを提供すべきだと考え、乗合タクシーを展開しています。2016年6月末現在、33市町村113路線で運行し、今後さらに拡大予定です。

 

乗合タクシーを運行すると、さまざまな場所を経由するため、生活者のライフスタイルが変化します。例えば、ある地域では、高齢者のコミュニケーションの場が病院からショッピングモールに変わったそうです。

 

また、乗合タクシーの運行地域の全てでタクシー需要が増加。生活に密着した足として認識されているのでしょう。国土交通省が交通過疎地としている全国6000カ所のうち、タクシー会社があるのが3900カ所くらい。残りの地域をいかに埋めるかが鍵です。

 

地域の総合生活産業として、 タクシー事業のほか不動産や介護事業も展開

地域の総合生活産業として、
タクシー事業のほか不動産や介護事業も展開

 

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