vol.12 「問屋を極める、究める」。業界の常識を変革し続ける独創経営
トラスコ中山 中山 哲也氏 × タナベ経営 若松 孝彦

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2016年11月号

 

トラスコ中山 東京本社にて

トラスコ中山 東京本社にて

 

 

約27万8000点のアイテムをオリジナルカタログ『トラスコ オレンジブック』に掲載、即納体制の物流網を整備し、ドライバー1本から無料配送。年商約1665億円、総資産経常利益率11.5%、売上高営業利益率7.8%という業績(2015年12月期)を誇るトラスコ中山。同社は、「使命」と「善悪」を戦略判断の基準とした独創的な経営スタイルを貫いている。「業界の常識は世間の非常識」の実践で広がった“未見の景色”はどのようなものか。代表取締役社長・中山哲也氏に話を伺った。

 

損得で選択しても良い結果は得られない

 

若松 1959年に「中山機工商会」として創業し、1964年に「中山機工株式会社」を設立。その後、現在の社名へ変更した1994年に中山社長は就任されました。

 

それからしばらくして「モノづくり支援業」を宣言し、「問屋を極める、究める」をキーワードとして顧客価値に徹底的に寄り添われています。

 

独創的なビジネスモデルは、どのようにして組み上がっていったのでしょう。

 

中山 どんな事業もまず「志ありき」だと思います。「儲(も)うかりゃいい」ではなく、人や社会のお役に立ってこそ事業といえます。しかし、私の入社当時を振り返ると、父が創業した会社になんとなく入って、なんとなく仕事をしていました。

 

恵まれていたのは、父の決断をすぐ横で見てこれたことです。経営者というのは、その時々で厳しい判断をしなければならないが、3年、5年、10年と時を経ると、「儲かりゃいい」で選択しても良い結果にはならないということを、実地で学ばせてもらいました。そこから、物事の判断は損得勘定ではなく善悪で判断する「取捨択」の考えが生まれたのです。

 

もう1つ感謝しているのは、社長を交代してから、父が一言も「ああしろ、こうしろ」と私に言わなかったことです。事業承継後の創業者にありがちな千手観音のような干渉やコントロールはゼロ。その代わり私も、一言も父親に相談したことはありません。どうしたものかと悩んだ時は、自社の意義や存在価値を考えるようになり、日本の製造業を支援するのが当社の役割だということをあらためて認識したのです。

 

その思いを言葉にしたのが、企業メッセージ「がんばれ!!日本のモノづくり」。ただ、言葉だけで会社は良くなりませんから、施策を1つずつ具現化して今があります。

 

若松 「志定まれば、気盛んなり」。吉田松陰の言葉ですが、まさしくそうなっていったのですね。並の経営者であれば、取り扱うモノの価値を高めようとするところです。そこを「モノづくりを支援する」というコトの価値、本質的価値をビジネスの先にあるものとして設定したが故に、簡単にはまねできないモデルとなったのでしょう。

 

そうした努力を重ねた結果が、創業以来の無借金経営、自己資本比率81.4%(2015年12月期)という強い企業体質の実現につながっているのだと考えます。

 

中山 志を持てば、やるべきことと進むべき方向が見えてきます。そして、進むべき方向が見えた後に大事なことは、本質を見極める目を持つことです。例えば、売り上げを増やすには、誰しも「販売店さまと人対人のつながりが大事」と考えますが、私はこれが違うと思っています。

 

最初の頃、当社の営業社員は「大手企業には勝てない。使っている交際費の額が違うから」と言っていました。確かに接待をすれば喜ばれるでしょうが、ビジネスをしている以上、必要な商品をいち早く届ける方が大事じゃないか。それで物流システムを整え、在庫をそろえる方向に脇目もふらず進んでいきました。当然、経営効率や在庫回転率がどうのといった声が当時は出ましたが、気にせず徹底的に在庫を置きました。すると、見えてくる景色が全く違ってきたのです。

 

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トラスコ中山㈱ 代表取締役社長
中山 哲也(なかやま てつや)氏
1958年生まれ。近畿大学商経学部卒業後、1981年に中山機工(現 トラスコ中山)入社。常務取締役、専務取締役を経て1994年より現職。「取捨善択」「唯一無似」「自覚に勝る教育無し」など、独自の経営哲学で経営に当たる。また視覚障害者を支援する公益財団法人中山視覚障害者福祉財団を設立。現在、理事長を務め社会貢献活動にも取り組む。

 

 

顧客にメリットのない在庫回転率
本質を見極めた「やめる経営戦略」

 

若松 注文に対してどれだけ在庫から出荷(ヒット)できたかを表す「在庫ヒット率」が88.2%(2015年12月期)とのことですが、在庫回転率ではなく在庫ヒット率を指標にされている理由を教えてください。

 

中山 在庫回転率にこだわらない理由は簡単。お客さまにとって何のメリットもない指標だからです。当社にとってお客さまへのサービスのバロメーターは、在庫ヒット率をどこまで引き上げ、いかに即納できるかということ。ナンバーワンの利便性を提供することが使命であり本質的なことであって、それが一番の競争力になるのです。

 

若松 一番に選ばれるには理由があり、その理由を何にするかは、会社によって違います。ロングテールのビジネスモデルを創ったアマゾンの創業が1994年。中山社長の就任と同年です。BtoBとBtoCの違いはありますが、違う国、違う地域で同じものを目指して進んでこられたのですね。

 

ところで、「景色が違ってきた」とは、どのように変わったのでしょうか。

 

中山 機械工具の卸売業界は、大小さまざまな企業がありますが、大手卸企業は「細かい工具や消耗品などの品ぞろえはトラスコにかなわない」ということで、機械や設備、家電製品へ重心を移していきました。その結果、今では相互補完的な関係になってきています。中小卸企業はというと、やはり在庫数や即納体制ではかなわないということで、次第に当社のお客さまになってきました。これが第1の変化です。

 

第2の変化は、ネット通販会社との取引が増えてきたこと。トラスコ中山に“コンセントをつなぐ”と、約27万8000アイテムの中から欲しいものが即日届くため、利便性が高いということで当社に声を掛けてくださる。今までやってきた問屋業をいかに掘り下げて強くするかというところが、ネットビジネスが強くなってきた今の時代においても、ちゃんと生きているなと思います。

 

第3の変化は、メーカーの代理店から注文が来るようになったこと。1つのメーカーには複数の代理店があり、代理店同士はコンペティター(競合)です。在庫していない注文が来た場合、代理店はメーカーにその商品を発注します。しかし、メーカーの出荷は商品ロットが決まっていたり、運賃を負担しなければならなかったりと、条件が多いことがある。結果的にトラスコ中山から買った方が便利で安いという訳で、代理店から当社に注文が来るようになりました。目先の在庫回転率にとらわれていたら、こんな景色は見えなかったでしょうね。

 

若松 業界の常識を覆した結果なのですね。ただ、常識をおかしいと考えても、志と信念がないと戦略的投資も含めて勝負をかけられません。

 

中山 もう1つ「やめる経営戦略」も大事です。これまでやめてきた中で一番大きなものは手形取引。今では貸し倒れもほぼありません。物品受領書もやめました。これにより業務の効率が上がり、紙も保管スペースもいらなくなりました。

 

取扱商品ではコメ、背広、貴金属などをやめました。年商1000億円前後の頃は100億円近い売り上げがあった商品でしたが、本業と関係ないことをしていては競争力が付かないと気付いてやめました。

 

ただ「これ、やめたらどう?」と言うと、決まって社内から100ほど、やめられない理由が出てくるんですよ。

 

若松 私たちは変化のステップを「捨てる、改める、新しく」と提言していて、まずは捨てるものがないか考えます。でも捨てるのは怖い。故に、組織はなかなか変化を受け入れないものです。

 

中山 だから、手形取引を全廃した時、私は社内でほとんど相談しませんでした。だが、いろんなものをやめ、本筋のところに集中した結果、さまざまな良い効果が表れてきました。特に労働時間の短縮にかなり役立っています。その一番の理由は「在庫があるから」。注文の処理はWebで自動的にできるため、余計な仕事をしなくてよいのです。

 

約27 万8000 点のアイテムを掲載している 『トラスコ オレンジブック』(2016 年版)

約27 万8000 点のアイテムを掲載している
『トラスコ オレンジブック』(2016 年版)

 

オープンジャッジで360度評価
アイデア湧かなくなれば社長は交代

 

若松 組織や人に対する制度にもオリジナリティーがありますが、いつごろから積み上げてこられたのですか?

 

中山 古い体質を一朝一夕には変えられない中で、仕組みや設備を先行させつつ、徐々に進めてきました。特に、わだかまりなく働ける職場が大事と考え、2001年にオープンジャッジシステム(OJS)を人事制度へ導入しました。皆の仕事ぶりは皆が見ているのだから、全員に投票させて評価しようと考えたのです。より正確な評価に近づけるには、情報の管理が大事です。誰が誰に対してどう評価したかは、社長でも見ることができません。

 

若松 試行錯誤してこられた故に、さまざまなノウハウをお持ちです。

 

中山 新しい施策を思い付かなくなったら社長交代のときです。もう1つお勧めしたいアイデアが、顔写真入り社員名簿。社員の顔が分からなくては良い会社づくりはできません。社員同士で電話するときに名簿を見る。転勤のときも行く先にどんな社員がいるか分かる。私は出張時に必ず持っていき、それを見て話し掛けます。

 

来年の名簿のコメント欄には、どんなときに人に尊敬の念を抱くか、もしくはガッカリするかという項目を入れたい。名簿といえども、人を動かすきっかけになるものでなければいけません。

 

若松 変化や新しい価値を組織の中に入れるのがトップの役割ということですね。

 

中山 経営者に必要なのは独創力。いかに他人が思い付かないことを考え、やらないことをやるかが成功の鉄則。だから僕は“民主的独裁者”なんです。多数決で出てくる答えはライバルの会社でも同じ。それでは競争に勝てません。

 

若松 タナベ経営ではそれを「衆知独裁」と呼んでいます。衆知を集めて最後は独裁で決める。そうでなければ、社長が経営判断を下すことはできません。

 

ところで、人を評価するときの基準で大事にされていることはありますか。

 

中山 まずはOJSの360度評価で皆に信任されていることが大事です。ある段階では信任されていたけれど、次の段階で不信任ということもあります。そこから先は独創性があるか、人を引っ張っていく力があるかを見ていきます。

 

若松 個性的で多様な能力を持った社員の方が多いのではないでしょうか。

 

中山 いろいろ仕掛けをつくって独創性を発揮できるようにしています。月1回の経営会議では、数字の話はしません。経営の方向性や日頃感じていることなどについて話し、考えるベクトルや発想の基準が多様化するようにしています。

 

数字に厳しい人が名経営者、名管理者ではありません。なぜなら、数字で詰めていくのが一番簡単だから。つまり能力のない証拠なんです。

 

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㈱タナベ経営 代表取締役社長
若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。
『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共に ダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

買いたくないが買わざるを得ない
究極の卸をこれからも目指す

 

若松 独創性といえば、トラスコ中山はPB(プライベートブランド)商品もたくさん開発されています。

 

中山 工具業界はブランド指定のない商品が結構多い。ならば、ブランド指定のないものは当社のブランドで売っていこうということです。

 

若松 メーカー、仕入れ、卸、流通、自社ブランドと、さまざまな“コンセント”をお持ちで、どこから差し込んでもすぐにつながるのですね。

 

中山 販売企業の究極の在り方は、お客さまから見て「できればあの会社からは買いたくないが、買わざるを得ない」と言われる会社になること。顧客企業の経営者からしたら面白くないが、在庫があって即納だから、顧客企業の社員の支持率は高いような会社です。

 

若松 そう言えるのは、他社によってつくられた業界の商習慣を変えてきたという自負があるからなんでしょうね。トラスコ中山はこれからどこを目指していくのでしょうか。

 

中山 モノづくり現場にとって利便性の高い会社を今後も目指します。企業規模の拡大よりも企業の質を高めていくためにやらなければならないことがたくさんあります。

 

例えば今、配送の自社便化を進めていく中で、派遣社員ではなく正社員を雇用しています。間違いなくコストアップするが、お客さまへのサービス向上を考えたら、それでもやろうと思います。在庫をたくさん持って良い結果になったように、配達先のお客さまとの接し方も正社員だと違ってくるのではないでしょうか。

 

若松 「モノづくり支援業」というコンセプトを貫き、ビジネスモデルも含め自分たちで創ってこられた自前主義を徹底されているのですね。本日はありがとうございました。

 

 

PROFILE

  • トラスコ中山㈱
  • 所在地:〒105-0004 東京都港区新橋4-28-1 トラスコ フィオリートビル
  • TEL:03-3433-9830(代)
  • 創業:1959年
  • 資本金:50億2237万円
  • 売上高:1665億6500万円(2015年12月期)
  • 従業員数:2154名(パートタイマー含む、2016年3月末現在)
  • 東証1部上場
  • http://www.trusco.co.jp/