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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2017.06.30

日本発のハンバーガー、世界へ挑む。「らしさ」をつなぐブランドコミュニケーション:モスフードサービス 櫻田 厚氏 × タナベ経営 若松 孝彦

 

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顧客を幸せにするのが目的
売り上げはその後についてくる

 

若松 私はよく「創業は新築、承継はリフォーム」と言います。後継者は、創業者とは違う技術で新たな事業のデザインに挑戦しなければなりません。どのようなポリシーや経営スタイルで、経営を進めてこられたのでしょうか。

 

櫻田 創業者は、自分1人のリーダーシップでステークホルダーを牽引するタイプでした。しかし、私は能力もキャラクターも年齢も創業者とは異なります。そう考えた時、みんなの知恵を集めたチーム力で物事を進化させた方が良いと気付きました。それなら自分でもできるのではないかと。

 

若松 組織経営ですね。どのように組織経営へ転換されたのでしょうか。

 

櫻田 株主総会の変革が挙げられます。私は株主総会の議長を18回務めましたが、5回目ごろから会場を見渡せる余裕が出てきました。株主の表情を見ていると、質問や要望、意見を述べたがっているように感じました。そこで「もっとコミュニケーションを取った方がいい」と考え、6回目からは株主からの質問を、私がそれぞれの役員に割り振って答えさせ、最後に必ず私からも考え方を伝えるようにしました。すると、株主と役員との掛け合いが温かいムードを醸し出しました。当社の株主は店のお客さまであるケースも多いので、7回目以降は「株主総会は大事なコミュニケーションの場」と捉え、血の通ったコミュニケーションの発展に努めました。その結果、株主の数は3万人ほどの規模になっています。

 

若松 B to C ビジネスで株主と顧客が重なると、株主総会は顧客が経営に参画する場になりますね。「モスの企業カルチャーを応援したい」と言ってもらえるようなブランド構築にもつながります。櫻田会長ご自身は、モスバーガーの強みは、どのようなところにあるとお考えなのでしょうか。

 

櫻田 現在、モスグループで働く約2万6000名(パート含む)の皆が、「善意」という言葉を大好きであるということです。「人間社会の中で善意あふれるモスバーガーでありたい」と願い、「正直」や「真心」、「一生懸命」であったり「ひたむき」、「親切」といった善意を形成するファクターが共通語になり、会議や懇親会や飲み会などで飛び交います。それによって「お客さまを幸せにしたい、仲間を大事にしたいという思いを、店舗を媒体にして実現させる。その結果、売り上げが上がる」という流れができています。

 

若松 まさに「モスらしさ」であり、ブランドですね。思いや意志が形になって店舗、人材、サービス、商品に表現されることは、とても大切です。この「モスらしさ」は、商品のおいしさや店舗オペレーションにも、ブランドコミュニケーションとして色濃く表現されているように感じます。

 

櫻田 商品については、モスバーガー、テリヤキバーガー、テリヤキチキンバーガーという長年にわたる人気商品を有していること。これは創業者の遺産です。それらを大切にしながら「新商品」を提案しています。商品戦略としては、作り置きをせずに注文をいただいてから調理する「アフターオーダーシステム」や、だしや発酵などを取り入れた「日本の食文化を表現」すること、バランスよい食事で健康維持を目指す「医食同源」という考え方を大切にしています。

 

 

顧客を含めたステークホルダーとの正しいコミュニケーションから、ブランド価値がつくられるのです。
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独自のカテゴリーを確立し「モスに行きたい人」を増やす

 

若松 2016年に中村栄輔社長へ経営のバトンを渡されました。次代へ期待されていることは何ですか。

 

櫻田 事業承継には後継者の能力や人柄、時流、環境など多様な要素が複合して影響を及ぼします。しかし、承継のポイントは「ステークホルダーからどれだけの共感や支持を得られるか、どれほどの要請に応えられるか」を見極めることだと思います。後継者はスキル以上に“人間力”が優れていないと、承継は難しいでしょう。われわれの商売は100円、200円の積み重ねが億単位の収益を築きます。そのため、経営者が100円、200円のありがたみや価値を真摯に受け止めないと、スキルに頼って数字を見ているだけという状態に陥ってしまいます。ステークホルダー全員がサポーターになって「一緒にもっと会社を成長させたい」と思ってくれるような人間力が不可欠です。

 

若松 成長の原動力の1つに、FC(フランチャイズ)システムがあります。FCオーナーの皆さんにおいても、事業承継が大きな課題にはなっていませんか。

 

櫻田 2017年4月末時点で国内のモスバーガー店舗は1361店、そのうちFC店舗は1309店を占め、約430の個人・法人が経営していらっしゃいます。「もう現場は厳しいので、次の代に経営を譲りたい」という声の高まりに対応し、2004年から「次世代オーナー研修」というカリキュラムを実施しています。この研修を卒業すると後継者になる試験を受ける権利が与えられ、それに合格すると事業を承継できます。これまでに約160名が受講し、約60名が事業承継しています。

 

また、独立する際の資金支援も行っています。モスストアカンパニーという子会社でも導入。将来は独立したいと希望する中途社員もおり、現場業務を積んでから、独立して店を持つという道もあります。

このような取り組みによって、FCの活性化を推進しています。

 

若松 社員やFCオーナー社員の皆さんと共に持続的成長に取り組むシステムを構築されているのですね。

続いて、競争激化の時代に勝ち残る戦略をお聞かせください。

 

櫻田 ハンバーガーの国内マーケットは約6000億円。マクドナルドとモスバーガーでマーケットの9割を押さえています。ここまで寡占化が進むと、たとえ高級ハンバーガーが売りの米国チェーンなどが参入したとしても、入れ替わりは難しいでしょう。消費者は回遊しますから、チキンやドーナツ、牛丼などの他業種チェーンもある中で、個性化や差別化が確立・評価されないと選んでもらえません。われわれは売り上げを競うのではなく、モスというブランディングをより一層高めて独自のカテゴリーを確立し、「モスに行きたい」という人を増やすことを大きな戦略としています。

 

若松 日本発のハンバーガーブランドとして、海外にも店舗展開をされています。

 

櫻田 台湾、シンガポール、香港、中国、韓国などで展開し、335店を数えます(2017年4月末現在)。私が現地で事業促進に取り組んだ台湾が247店と圧倒的多数を占めます。欧州マーケットも視野に入れ、2015年にはミラノ国際博覧会に出店。その時、評判の良かったライスバーガーを戦略商品にして、欧州進出を果たしたいと考えています。そして最終的には、ハンバーガーのメッカであるニューヨークに出店したいですね。

 

若松 櫻田会長は創業の精神を実践されながらも、組織力を活用してステークホルダーとのコミュニケーションを大切にする企業カルチャーを醸成し、中村社長へ経営を引き継がれました。100年企業に向かう道筋です。さらなるご発展を祈念いたします。本日はありがとうございました。

 

モスフードサービス 代表取締役会長 櫻田 厚 氏(さくらだ・あつし)氏
1951年、東京都大田区生まれ。広告代理店に入社後、 1972年には叔父であり創業者の櫻田慧氏の誘いを受け、モスバーガーの創業に参画。 1977年にモスフードサービス入社。直営店勤務、店舗開発、営業、海外事業部長を経験し、 1998年代表取締役社長就任。日本フランチャイズチェーン協会(JFA)会長の経験も。 2014年4月より代表取締役会長兼社長。2016年6月より現職。

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ・たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院 (経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

PROFILE

  • ㈱モスフードサービス
  • 所在地 :〒141-6004 東京都品川区大崎2-1-1 ThinkPark Tower 4F
  • TEL : 03-5487-7371(広報IRグループ)
  • 設立 : 1972年
  • 資本金 : 114億1284万円
  • 売上高 : 709億2900万円(連結、2017年3月期)
  • 従業員数 : 1335名(2017年3月現在)
  • 事業内容 :  フランチャイズチェーンによるハンバーガー専門店「モスバーガー」の全国展開、その他飲食事業など

http://mos.jp/

 

 

 

 

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