vol.20 年輪経営でじっくり育む「いい会社」
みんなが幸せになるために会社は存在する
伊那食品工業 塚越 寛氏 × タナベ経営 若松 孝彦

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2017年8月号

 

「どう儲けるか」ではなく「どうあるべきか」が大切

 

若松 急成長ではなく、木々が育つように、毎年少しずつ成長し続ける「年輪経営」を実践されています。創業当時からこうした経営哲学、経営方針をお持ちだったのでしょうか。

 

塚越 いいえ。社長代行就任当時は不良債権があって、資産らしいものなんてない日本一貧乏な会社でしたから、売り上げを上げることに必死でした。しかし、ある程度の規模になって経営が落ち着いたころ、会社はどうあるべきかを考えるようになりました。そのころ、二宮尊徳翁や松下幸之助氏の著書をはじめ、とにかく本をたくさん読みました。中でも影響を受けたのが、出光興産創業者の出光佐三氏が書いた『働く人の資本主義』(春秋社)。何度も読み返すうちに、「企業は本来、会社を構成する人々の幸せの増大のためにあるべきであり、そのために大事なことは会社が永続すること」という考えにたどり着きました。

 

若松 昨今は最短距離で規模を拡大するためのノウハウが重視されがちですが、塚越会長は経営の踊り場に立たれた時、どうやってさらに儲けるかではなく、「どういう会社になりたいか」に目を向けられたのですね。

 

塚越 目先の効率は長期的には非効率。「急がば回れ」ということわざがありますが、伊那食品工業でも、生産性向上より社員の環境改善に対する投資を優先してきたからこそ、社員が定着して会社がここまで大きくなったのだと思います。まずは社員が幸せになるために、そして世の中のために資金を使うことを意識してきました。

 

若松 最近は「働き方改革」などの言葉もありますが、とっくの昔からそれを実践されているのですね。私の経験では、経営不振の原因のほとんどは過剰投資と販売不振ですが、伊那食品工業の場合、景気動向に関係なく社員の幸せのために投資し続けてきたわけです。

 

塚越 社員が働きやすい環境をつくることが第一です。現在も寒天の生産工程の一部で自動化に取り組んでいます。建物・設備合わせて7億円規模の投資ですが、新たに自動化されるのは1つの工程のみ。この工程は大変な作業ですから、毎朝1時間ほどかけて事務担当も含めた全社員で行っていました。全員で行うというのも1つの工夫だったのですが、そこを自動化すれば社員は楽になります。改善後の生産性は今とあまり変わらないので採算は合いませんが、無借金経営ですし、長い目で見ればプラスの効果が大きいと考えての投資です。

 

研究開発で挑む高度の専門化とブランド化

 

若松 会社の設立から16年目の1973年、自社内に研究室を開設して技術や用途の開発を進めた結果、成熟商品と考えられていた寒天の可能性は大きく広がりました。ブランドを生み出した経営と大きな関係があると推察します。早い段階から研究開発に力を入れた理由をお聞かせください。

 

塚越 当初、研究室は10人でスタートしました。当時の社員数は約100人でしたから、その1割を開発要員に充てようと決めました。これは今も同じで、社員数約500人のうち、50人が研究開発に携わっています。メーカーは今後、研究開発が重要な存続スキルになるだろうと考えていました。1割と決めた理由は特にありませんが、遠くをはかるにはこれぐらいの人材が必要だろうと思います。

 

若松 寒天という素材を高度な専門性で業務用寒天、業務用食材、業務用ゲル化剤、家庭用製品と、総合展開されています。企業は成長過程において下請けで終わる企業と自社ブランドを持って開発力で成長できる企業の2つがあります。その大きな違いはブランドにある場合が多いのです。塚越会長のご著書『リストラなしの「年輪経営」』(光文社)の中で「『いい会社』をつくるための10箇条」が印象に残りました。

 

塚越 当たり前のことを当たり前に行うことは決して簡単なことではありません。だから、私は10箇条として明文化し、常にそれに照らし合わせて戒めとしているのです。

 

「いい会社」をつくるための10箇条
1. 常にいい製品をつくる。
2. 売れるからといってつくり過ぎない、売り過ぎない。
3. できるだけ定価販売を心がけ、値引きをしない。
4. お客様の立場に立ったものづくりとサービスを心がける。
5. 美しい工場・店舗・庭づくりをする。
6. 上品なパッケージ、センスのいい広告を行う。
7. メセナ活動とボランティア等の社会貢献を行う。
8. 仕入先を大切にする。
9. 経営理念を全員が理解し、企業イメージを高める。
10. 以上のことを確実に実行し、継続する。
出典 : 塚越寛著『リストラなしの「年輪経営」』(光文社刊)