vol.22 伝統と革新でメード・イン・ジャパンのサービスを世界へ
帝国ホテル 定保 英弥氏 × タナベ経営 若松 孝彦

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2017年12月号

 

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1890年に開業した帝国ホテルは、日本における西洋式ホテルのパイオニアだ。東京、大阪、上高地(長野県)に直営ホテルを有し、長い歴史の中で培った経験と、時代を先取りしたサービスを展開。年商約560億円、従業員約2000名の東証2部上場企業である。東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には開業130周年を迎える。帝国ホテルはこれから何を目指し、どのような変貌を遂げていくのか。代表取締役社長の定保英弥氏に展望を伺った。

 

信頼のブランドを支える一体感と総合力

 

若松 帝国ホテルは1890年に「日本の迎賓館」として開業して以降、国内外の要人をはじめ多くの方々が利用する、日本を代表するホテルです。定保社長は大学卒業後に入社されたそうですが、学生時代からホテル業界に関心があったのですか。

 

定保 父が航空会社に勤務していた関係で、子どものころにドイツと香港で計10年間を過ごしました。その影響もあり、「海外と接点のある仕事をしたい」という気持ちを持っていましたが、ホテル業界で受験したのは帝国ホテルのみ。実は海外で生活していたころ、一時帰国した際に帝国ホテルに宿泊したことがありました。重厚感ある空間が印象に残っていたことも受験のきっかけでした。

 

若松 帝国ホテルには歴史の重みを感じさせる独特の雰囲気が漂っています。近年、大規模な外資系ホテルの開業が相次ぎ、競争が激化していますが、そうした環境下でも独自のポジションを築き、高い支持を集めています。ブランドの源となる“帝国ホテルらしさ”について、非常に興味があります。

 

定保 一言で表すのは難しいですが、常連のお客さまから「新しいホテルもすてきだったけれど、帝国ホテルに来ると安心する」と声を掛けていただくことがあります。非常にうれしいことですし、この信頼感が1つのキーワードではないかと思います。「帝国ホテル東京」は客室が931室、レストランやバーは合わせて17店舗ありますが、この規模であっても100室程度のホテルと同じようにきめ細やかなサービスをご提供しようと心掛けています。

 

若松 落ち着いた心安らぐ空間がリピート客を生み出しているように感じます。ですが、こうした深い信頼関係を築くことは容易ではありません。どのようなことに取り組まれたのでしょうか。

 

定保 大事にしているのは、ハードウエア(施設)とソフトウエア(サービスや組織)、ヒューマンウエア(人材)のバランスです。いずれも高い品質が求められますが、中でもヒューマンウエアが重要だと私は考えています。

 

若松 ヒューマンウエアといえば、フランス料理のシェフで総料理長だった村上信夫氏や客室係の竹谷年子氏をはじめ、帝国ホテルは世に知られる逸材を幾人も輩出してきました。社員がブランド人材になる。これも“帝国ホテルらしさ”ですね。

 

定保 客室係やシェフ、ソムリエ、バーテンダーなど、現在もホテルスタッフをお目当てに訪れるお客さまが大勢いらっしゃいます。社員一人一人が顧客を持っているような感じです。

 

若松 当社が毎年開催している「経営戦略セミナー」でも、「帝国ホテル大阪」を利用させていただいており、「ハードウエア・ソフトウエア・ヒューマンウエア」のバランスのよさに感心させられます。記憶、印象に残るホテルなのです。これは人材が理念や仕事の使命を深く理解している必要があります。

 

定保 企業理念に「創業の精神を継ぐ日本の代表ホテルであり、国際的ベストホテルを目指す企業として、最も優れたサービスと商品を提供する」とあります。この心持ちが特定の人材に限らず受け継がれています。帝国ホテル東京には、2000人ほどのスタッフがいますが、特別な事態が起こった時には素晴らしい総合力を発揮する。こうした一体感が、お客さまに安心していただける空間につながっていると思います。

 

若松 「一体感」、いい言葉ですね。社員に理念が浸透しているからこその表現です。だからイレギュラーな場面でも、現場で的確な判断が下せるのでしょう。「使命」「一体感」「現場力」。簡単にまねのできない、ファーストコール(顧客から一番に声が掛かる)の価値を生み出す競争力であるといえます。

 

定保 社員は一生懸命に働いてくれますが、それ以上に、お客さまに育てていただいている側面も大いにあります。先代からずっとごひいきにしてくださっている、長いお付き合いのお客さまが数多くいらっしゃいますし、国内外の著名な方が来られることも多い。そうした方々と接し、期待以上の価値を提供しようとすることで人材は成長していくものです。帝国ホテルには、成長の機会が豊富にあると思います。新しいホテルが次々と進出してきますが、外観などのハードウエアに比べて、ヒューマンウエアは一朝一夕では整いません。

 

若松 なぜ、創業から127年を経ても、帝国ホテルのブランド力が色あせないのか。その理由が見えてきました。

 

 

 

 

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