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【コンサル事例】

チームコンサルティング事例

クライアント企業とタナベコンサルティンググループのコンサルチームが取り組んだ経営改善の事例。施策と成果を紹介します。
コンサル事例2022.03.18

江南化工:事業承継を見据えてネクストボードを育成 BCP策定も推進し、持続可能な経営基盤を構築

 

ポイント


1 事業承継をきっかけに「DNA BOOK」を作成し会社の価値基準を明確化
2 育成強化プロジェクト「DNA塾」で経営を担う着眼力と実践力を養う
3 社員の命を守り有事に備えるべくBCP策定プロジェクトを始動

 

 

お話を伺った人


江南化工 代表取締役 大谷 淨治氏

 

 

 

 

 

 

創業以来の江南化工のDNAを再確認

 

—— 創業者である大谷保氏から経営のバトンを継承して20年近くが過ぎ、自らも次代へ託すことを意識し始めたそうですね。

 

大谷:当社が手掛けるPTSA(パラトルエンスルホン酸)などの主力製品は、すべて国産化第1号の実績でトップシェアを誇っています。また、中堅化学工業メーカーとして、国内は大手洗剤・電材メーカーなどの優良企業を顧客に、アメリカ・ヨーロッパ・アジアなど世界市場にも供給、海外販売比率は30%を超えます。

 

グローバルニッチトップ企業(2014年経済産業省選定)として創立70周年を迎えようとしています。父が2000年に急逝し、商社に勤めていた私が2代目として事業継承しました。

 

経営ノウハウも教わらないまま亡くなったのでがむしゃらに駆け抜けてきました。そんな中、「自分は誰にバトンを渡すのか」と考え始めたのです。同じタイミングで、「当社が大切にしてきたことを明文化しませんか」とタナベ経営から提案をいただきました。2022年に創立70周年を迎える前に、これまでの歩みを整理するのはとても良いことだなと。私自身も、父がどんな経営をしていたのかとても興味がありました。

 

—— 社員OBの方々にもインタビューを実施して、タナベ経営の経営支援ツール「DNA BOOK」を2019年に作成されました。

 

大谷: 創業の背景から現在に至る流れや転機など、「こうして始まり、育ってきた江南化工の経営を引き継いだのか!」と再確認できました。研究者であり経営者でもあった父が創立当初から、特にものづくりの品質を何よりも大事にしていたことも知りました。

 

「DNA BOOK」には、経営の大事なポイント、人・組織・風土や事業・製品・サービスに対する価値判断基準、ありたい姿を明確化しています。また、父と私の2代にわたる経営哲学となぜそう思うのかも盛り込んでいます。

 

 

江南化工が大事にしている企業価値を確認できる「DNA BOOK」

 

 

—— 経営トップの思想と行動姿勢、いまに至る自社の軌跡がわかる内容は、事業承継に向けて新たに始動したネクストボード(次世代幹部)育成にも活用しています。

 

大谷: 後継者を決めるのはまだこれからですが、同族経営から組織経営へと変革し、誰が社長になっても大丈夫な後継体制をつくり上げていきたいと思っています。そのタイミングも、私は10年後を想定していましたが、タナベ経営から「まだ10年あると思わずに、準備はもう少し早い段階で始めましょう」とアドバイスをいただきました。そこで、まずは3年間で次期経営体制をつくる第一歩として、ネクストボード育成強化プロジェクトをスタートさせました。

 

 

全社視点でアクションプランを作成

 

—— ネクストボードの育成強化プロジェクト「DNA塾」は2020年4月にキックオフしました。メンバーは、部長や部長代理など40代~50代前半の7名です。

 

大谷:彼らはリーダーになるまでに、体系的な従業員教育を受ける機会がなかった世代です。リーダーシップやマネジメント、組織とコミュニケーションの活性化、部下の育成など、原理・原則を学んで自らの経験値だけに頼らないことが狙いです。

 

カリキュラムは、40年を超える幹部育成のノウハウが詰まったタナベ経営の「幹部候補生スクール」をベースに、最低限身に付けておいて欲しいことに絞り込みました。現状認識・価値判断基準を体系化し、問題解決の突破口につなげる診断手法など、経営を担う着眼力と実践力を養う内容です。

 

—— DNA塾は、自分たちが次代の経営を担っていくこと、そして未来は自らの手で築いていくことの認識を高めることから始まりました。

 

大谷:グループディスカッションで、意見を言わずに黙り込む。最初はそんな姿が多かったですが、それは初めてなら仕方ないこと。大事なのはそこからです。

 

グループ討議や宿題・レポートの作成発表、相互評価、決意表明――。一方通行の講義ではなく、実践的で主体的な学びを通して適切に誘導し、時には厳しい要求もいただいて、本当に良かったと思います。幹部候補としての自覚と責任、経営者感覚が少しずつ育まれてきました。コロナ禍でもZoom(ズーム)を上手に活用いただきました。

 

—— 10回に及ぶカリキュラムは2020年10月に終了し、担当部門のアクションプラン作成が1つの成果になりました。

 

大谷: 当社の現況を分析し、方向性を決め、何をどう改善していくか。自分が責任を持つ部署の未来をどうしたいかを描き出すことができました。内容も大事ですが、それ以上に自らの手でアウトプットまでやり切ったことが大きいと評価しています。

 

また、DNA塾は製造や開発、管理部門が中心メンバーでしたが、営業部門との連携を強化していこうという機運が生まれています。品質を重視し製品には絶対的な自信があっても、営業担当者が持つ市場や顧客の情報・ニーズを積極的に吸い上げて、製造・開発のブラッシュアップに生かす働きかけが必要だと気づいたのでしょう。情報共有や社内コミュニケーションの活性化を具体的な改善策と位置づけるといった全社的なアクションプランも定まりました。自分の部門や業務にしか目を向けていなかったのが、全社的な視点が養われた証しです。

 

 

平時の経営改善にも生かすBCPを策定

 

—— DNA塾と併行して、2020年8月から「BCP(事業継続計画)策定プロジェクト」も始動しています。きっかけは、大谷社長の一言でした。

 

大谷:ネクストボードの成長に手応えを感じる一方で、私が「災害リスクへのBCPがなかなか進められなくて」と呟いたのを聞き逃さなかったタナベ経営はさすがだなと。

 

当社の本社工場は四日市工業地帯の海沿いにあります。南海トラフ地震はいつ起きてもおかしくないので、東日本大震災の津波による惨状は他人事ではありません。全ての社員がスムーズに安全に行動でき、事業も早期に復旧できることが重要です。

 

—— BCP策定をご提案し、現在(2021年1月時点)は調査を進めている段階です。本社・工場は周囲よりも高い立地で風水害による浸水の心配はありませんし、耐震補強はすでに終えています。

 

大谷: やはり、一番怖いのは津波です。化学製品をつくるプラントで施設規模も大きいですし、2つの川に挟まれた立地は必ず橋を渡る必要があります。当社や社員の力だけでは難しいことも、タナベ経営から地元自治体の行政担当にもヒアリングをいただき、どう行動計画に盛り込むか検討を進めています。

 

—— 有事への備えだけでなく、「平時の経営改善にも生かす」ことで持続的にブラッシュアップできる更新サイクルをつくり出すことも目指しています。

 

大谷: BCPの策定は、人事総務部を事務局に各部門の選定メンバーがつなぎ役を担う、全社横断型のプロジェクトです。災害リスクや自社の経営資源を洗い出し、社員みんなでディスカッションして「BCPってこういうものなんだ」と学びながら、江南化工ならではのBCPをつくり上げたいと思っています。

 

 

中期ビジョンで「なりたい姿」を描きだしていく

 

—— DNA塾は2021年春からさらに充実させて、磨きをかける新ステージへと進みます。人事制度構築を含めた「経営基盤構築プロジェクト」です。

 

大谷: 2つのプロジェクトに取り組んで、当社の持続可能性への想いが高まるほどに「まだまだ教育が足りない」と感じ始めました。

 

まずは人事制度から着手し、社員にとって分かりにくい評価軸や給与体系、成長意欲を高める教育の仕組みを刷新し、見える化していきます。全社員の経営参画意識を生み出し、高めていくのが狙いです。さらに、2022年度からは中期経営計画のビジョン・アクションプランの策定につなげる大きな流れを、引き続きタナベ経営の協力を得てつくり出していくところです。

 

—— 経営基盤構築の一環として、第2の事業として健康市場への挑戦も始まっています。

 

大谷: 海藻から抽出した水溶性食物繊維『ラムナン』を、健康食品として展開しています。PTSAの市場は世界的に低成長で、大きな伸びは期待できません。私が始めた事業ですし、次代の経営を支える柱に育てていきたいですね。

 

私の将来の展望は、人が育ち、組織・制度が強化されて、スムーズな事業承継が成長軌道の経営を描く力になる姿です。そこからさらに、社員の数だけ将来像が描かれ、切磋琢磨し磨きをかけて実現していく、全員参画の組織経営の姿になってもらえたらと思います。ちょうど本社工場50周年を迎えたので、ネクストボードだけでなく全社員に「DNA BOOK」を渡す予定です。1年後の70周年から、その先へとつながるスタートラインになれば嬉しいですね。

 

—— 人と事業が育ち、いまある土台に上積みする新たな基盤を築くことで、これまでにない景色を望む成長戦略が始まります。タナベ経営も豊富な経験に加えて新たな知見もご提供して、しっかりと支援を続けて参ります。本日は、ありがとうございました。

 

 

 

PROFILE

    • 会社名:江南化工株式会社
    • URL:http://www.konanchemical.com/jp/
    • 所在地:三重県四日市市楠町北五味塚1515
    • 設立:1952年
    • 従業員数:62名(2021年5月現在)

※ 掲載している内容は2021年3月当時のものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

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