人事コンサルティング事例
企業内大学(アカデミー)

職人を正社員で雇用し、技術の向上・伝承を図る
大陽塗装工業 × タナベ経営

大陽塗装工業株式会社

中四国エリアを中心に塗装業を展開する大陽塗装工業は、大型公共工事の受注によって売上高を伸ばす一方、近畿や中部地方へも事業エリアを拡大するなど躍進を続けている。急成長の秘訣は、正社員として働く職人たち。雇用と教育に注力し、さらなる成長を目指している。

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創業100年を超える老舗 信用を重ね、事業を広げる

大陽塗装工業 代表取締役 辻 昌人氏 大陽塗装工業
代表取締役 辻 昌人氏
岡山市生まれ。1987年岡山理科大学付属高等学校を卒業し、大陽塗装工業入社。塗装工から始め職長、主に鋼橋工事の現場代理人を経て、2009年専務取締役に就任。先代の会長の死去に伴い、2017年代表取締役に就任。また、2014年に職業訓練指導員となり、検定補佐員として後輩の指導、育成に当たっている。
大陽塗装工業は、岡山県を拠点に公共工事から大型物件、橋梁、戸建て住宅まで幅広い領域の建築塗装を手掛けておられます。また、創業100年を超える老舗企業でもあります。

辻(昌)当社の創業は1910(明治43)年。創業者の小野政太郎が、薬種や塗料小売りを行う小野真正堂を開業したのが始まりです。その後、1921年から塗装請負に進出。1970年に現在の大陽塗装工業へと社名を変更しています。1973年に伯父・辻修二が代表取締役に就き、私で3代目となります。

社長就任後、公共工事の受注で業績が伸び、会社は急成長を遂げています。

辻(昌)もともと建築塗装に強みがあり、下請け塗装の受注を重ねながら信用を高めてきたことが現在につながっています。会社の規模拡大に伴って公共工事の入札に参加できるようになり、公共事業を手掛けたことで大陽塗装工業の認知度が上がりました。

今では、公共工事の元請け企業から、1次下請けとして塗装工事を任せてもらう機会が増えています。その積み重ねによって、現在の売上高は社長に就任した2017年と比べて倍増しています。

近年、鳥取県など近隣県での工事も増えるなど、中四国エリアでの存在感が高まっています。

辻(昌)割合は年度によっても上下しますが、おおむね8~9割は県内の工事、残る1~2割が県外の工事となっています。メーンとなるのは中国エリアですが、特に公共工事については中国に加え、四国管内も注力していきたいと考えています。

また、大阪をはじめ関西、中部あたりの建築工事においても、1次下請けとして当社に声が掛けていただけるようになりました。これは今後の展開を考える上で良い兆候だと感じています。

成長の要は職人 雇用し育てる環境を整備

大陽塗装工業 専務取締役 辻 雄太氏 大陽塗装工業
専務取締役 辻 雄太氏
岡山市生まれ。親の転勤に伴い名古屋、東京、兵庫で育つ。2003年、明誠学院高等学校(岡山市)卒業後、大陽塗装工業入社。塗装工から始め職長、主に建築工事の現場代理人を経て、2017年専務取締役に就任。
石川建築塗装を軸に、事業領域やエリアをうまく広げておられます。事業展開を進める上での指針はありますか。

辻(昌)当社の事業の要は、現場で働く職人。会社の信用は職人の質で決まると言っても過言ではありません。職人の質が向上すると品質が向上し、取引先からの信用が高まって会社が成長していく。ですから、職人の本質を伸ばすようサポートすることが私の一番大事な役割です。会社を好スパイラルに導くために、当社は職人を正社員として雇用し、教育にも力を入れています。

石川塗装業界では、一人親方(事業主)のような形が一般的です。仕事があるときだけ下請けとして職人に来てもらう方が、固定費を下げられて会社に利益が残ります。

辻(昌)おっしゃる通りです。塗装業界で社会保険制度を用意して職人を常時雇用するところは多くありません。特に、当社のように20名を超える職人を抱えている企業は皆無です。

しかし、安心して働ける環境を用意しなければ、技術者の確保は難しいというのが私の考え。多くの技術者を確保できているから複数の公共工事を同時に受注することが可能になりますし、社員として雇用することで技術の向上や維持につながります。なぜなら、正社員として雇用することでベテランが若手に技術を伝承したり、職人同士でノウハウを共有したりするなど交流が生まれ、全体の技術力が向上するからです。

会社として技術の伝承や人格形成に力を入れていくために、現在はタナベ経営にご協力いただきながら教育プログラムをつくっているところです。

石川正社員として雇用することで職人の量と質を維持できます。それが事業拡大を支える土台となるのですね。

辻(雄)技術面でのメリットだけでなく、チームワークの良さも当社の大きな強みと考えています。工事のたびに外注の職人を寄せ集めるよりも、社員同士の方がスムーズに意思疎通を図れるため、協調性を持って1つの仕事に向き合えているように感じます。そこは他社にない当社の特長です。

お訪ねするたびに社員の仲の良さを感じています。日帰りのバスツアーなどのイベントを積極的に行っていることも、家族のような雰囲気をつくり出す要因でしょう。

辻(雄)イベントは協調性を高めるのに役立ちます。また、しっかりとした教育制度を整えることで、若手社員の定着率向上にもつながると思います。

人材育成においては、教育目標として「地域社会と共生して役立つ人格形成を目指し、従業員ひとり一人の幸福感を実現する。」を掲げておられますが、どのような思いが込められているのでしょうか。

辻(雄)少し背伸びしすぎたようにも思いますが、社員の皆さんに仕事を覚えていただき、頑張ってもらいたいという願いを込めています。当社には、それをサポートする教育制度だけでなく資格取得を評価する制度もありますから、頑張った分がきちんと給与に反映されます。金銭的なインセンティブに加えて、努力が評価され、仕事の幅が広がることでやりがいを感じてほしいと考えています。

「DAIYOアカデミー」で若手社員の成長をサポート

「DAIYOアカデミー」で若手社員の成長をサポート
アカデミーなどの教育制度は自社の評価に直結している

タナベ経営 経営コンサルティング本部 チーフコンサルタント 石川 一平 タナベ経営 経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント 石川 一平
大手リフォーム会社の営業職、経営企画職を経てタナベ経営に入社。さまざまな事例をベースに、クライアント独自のビジネスモデルづくりを推進する。現場主義でのコンサルティングを信条とし、チャレンジ精神に基づく攻めのコンサルティングで、多くの企業のビジョン実現を支援している。
石川資格取得費用の補助など職人の技術向上をサポートする施策のほか、新たな教育制度として「DAIYOアカデミー」にも取り組んでおられます。

辻(雄)社員のやる気や「上を目指したい」という気持ちをできる限りサポートしていきたいと考えています。タナベ経営にご協力いただいているDAIYOアカデミーについては、今の時代に合った教育制度を目指しました。

職人の世界では「見て覚える」という指導が長らく主流でしたが、そうした方法が時代に合わなくなってきています。また、優れた職人が、必ずしも良い教育係になるとは限りませんし、そもそも職人技を言葉にして教えるのは非常に難しい。感覚的な仕事であり、伝える際には曖昧な表現が用いられることも多いのですが、これからは初めて塗装に接する人にも分かりやすく、質問しやすい教育環境が必要だと思います。今は基本的な部分を学ぶ教科書を作成している段階です。

今回は、テキストだけでなく動画を活用したプログラムを作成しています。曖昧なニュアンスを極力減らすなど、初めて塗装に携わる人を含め、誰もが理解しやすい教材を目指しています。

辻(雄)まだ試作段階ですが、高等特別支援学校を卒業した社員に使ってもらったところ、「分かりやすい」という感想をもらいました。本格運用する前に他の社員に感想を聞いたり、実際に現場に出る職人の生の声を反映させたりしながら、より精度の高いものにしていきたいと考えています。

石川作成に当たっては実際に高等特別支援学校に出向いて、教員の方々からさまざまなアドバイスを受けました。タナベ経営は、これまでに100件以上の企業アカデミーを手掛けていますが、それでも新たな発見がたくさんあり良い経験になりました。

現状では障害のある方が就職するのは簡単ではありませんし、就職できても職場になじめずに離職するケースも少なくないと聞いています。ですが、分かりやすいテキストや動画を用いた教育ツール、さらに質問しやすい環境があると状況は大きく変わると思います。

辻(雄)作成の際に最も重視したのは分かりやすさ。その意味でも、単に塗装の知識を解説するだけでなく、塗装に興味を持ってもらう工夫を施しました。例えば、1つの建物がどのように造られるかを、流れに沿って分かりやすく解説しています。楽しい部分から入っていかないと勉強は長続きしません。

プロジェクトでは、社内向けの教育コンテンツだけでなく、対外的に用いる資料として「アカデミーガイドブック」を併せて作成しました。

辻(雄)アカデミーガイドブックを2020年から採用活動に活用しました。その成果とは断言できませんが、2021年4月に高校の新卒社員が入社してくれます。新卒社員の入社は実に約20年ぶり。コロナ禍で採用活動も自粛せざるを得ない環境でしたが、状況が改善すればアカデミーガイドブックを活用しながら新卒の採用活動を継続していきたいと考えています。

職人の質の向上でグループとして成長を目指す

職人の質の向上でグループとして成長を目指す
「塗装の魅力をもっと知ってほしい」という思いのあふれる大陽塗装工業のホームページ

石川DAIYOアカデミーを中心とする教育制度や社員の頑張りを後押しする評価制度など、人が育つ環境が整いつつあります。そうした人材を要に、今後どのような展開を目指しますか。

辻(昌)公共工事と建築工事の2本柱で事業展開を進めていきます。まず公共工事については、元請けとして受注する以外にも、公共事業を受注した大手ゼネコンの1次下請けとして工事に入っていきたい。特に、技術力が必要とされる利益率の高い分野であれば、積極的に開拓していきたいですね。

石川具体的に視野に入れている分野はありますか。

辻(昌)例えば、高圧鉄塔の塗り替え工事。この分野は、高所作業であるがゆえに職人がほとんどおらず、高所作業のできる職人を抱える企業は引く手あまたの状態です。当社は良いご縁があり、そうした職人を抱える真和塗装工業を2020年にDAIYOグループの一員に迎えることができました。今後は、高圧鉄塔の塗り替え工事において西日本でも存在感を高めていきたい。大陽塗装工業と真和塗装工業の強みを掛け合わせ、相乗効果を発揮しながらグループとしての成長を目指します。

石川建築工事では、重点分野などはありますか。

辻(雄)建築工事はこれまで多くの実績を重ねており、それが当社の信頼を築いてきました。その信頼をさらに高められるよう取り組んでいきます。急成長が難しい分野ですから、1つ1つのチャンスをしっかりと捉えていくことが重要です。特に大型物件は人材や技術が確保できないと施工できません。その意味でも雇用制度と教育制度の継続・充実が欠かせないと考えています。

「仕事が面白い」が増えると会社は成長する

タナベ経営 経営コンサルティング本部 チーフコンサルタント 林 洸一 タナベ経営 経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント 林 洸一
メーカーにて研究開発業務に従事した経験をもとに、「技術を軸とした企業の存在価値向上」を信条としコンサルティング活動を展開。固有技術・強みを生かした新規事業開発、コア・コンピタンスの確立を通じた企業の成長支援など、幅広く活躍中。
石川2017年から売上高は右肩上がりで伸びており、2020年度は10億円近くまできました。知名度も上がっており、エリアを越えた事業展開も広がっています。具体的な成長目標などはお持ちですか。

辻(昌)会社の規模拡大だけを目指すならば、多く受注して外注に丸投げすればよいところですが、私はそこに魅力を感じません。社員がやりがいを持って仕事をしてくれた結果、お客さまから信頼されて仕事が増え、売り上げが伸びていくのが理想です。「社員が『仕事が面白い』と感じて働いてくれたときに会社は成長する」というのが私の考え方です。

先ほども話に出ましたが、当社では日帰りバスツアーなどのイベントを開催しています。これは福利厚生の充実という側面もありますが、それよりも「この会社、なかなか面白いな」と思ってもらうことが目的です。

石川社員を幸せにすると利益が生まれ、会社が成長する。そのサイクルに入ると、会社の実力に伴った売り上げが付いてきます。そうしたサイクルがうまく回り始めていると感じています。

辻(昌)4年前に社長を引き継いだとき、このような仕組みはありませんでした。ようやく道筋が見えてきたので、次代へとスムーズに移行できるような基盤をつくるのが私の役割。それを辻専務につないでいきたいと考えています。日頃から、職人をねぎらう専務の姿を見ており、「社員に気持ち良く働いてもらえる会社をつくる」という同じ思いを持ってくれていると感じています。

石川職人が安心して働ける雇用制度と教育制度によって人材力を高め、ますます飛躍されることを祈念しつつ、タナベ経営としてもサポートしてまいります。本日はありがとうございました。

会社プロフィール

会社名
大陽塗装工業株式会社
所在地
岡山県岡山市北区下伊福本町1-31
創業
1910年
代表者
代表取締役 辻 昌人
売上高
9億7000万円(2020年4月期)
従業員数
25名(2020年12月現在)

ABOUT TANABE CONSULTINGタナベコンサルティンググループとは

タナベコンサルティンググループは「日本には企業を救う仕事が必要だ」という志を掲げた1957年の創業以来
66年間で大企業から中堅企業まで約200業種、17,000社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。
企業を救い、元気にする。私たちが皆さまに提供する価値と貫き通す流儀をお伝えします。

コンサルティング実績

  • 創業 66
  • 200 業種
  • 17,000 社以上