人事コンサルティング事例
ジュニアボード

“社員と共につくる夢”を実現する組織経営へ

株式会社テック長沢

ここ10年で社員数が約10倍になるなど、急成長を遂げているのが新潟県柏崎市に本社を置くテック長沢だ。技術力+営業力でマーケットを広げる一方、人材育成と人事制度をリンクさせた仕組みを構築。多様な人材を生かす環境を整え、さらなる飛躍を目指す。

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取材先様のお役職は、取材当時のもの、タナベ経営社員の役職は、2020年現在のもの

営業に注力し顧客を開拓 急成長を遂げる

テック長沢本社工場

森松金属の切削・研削加工を得意とするテック長沢は、幅広い業界に向けて部品機械加工・組み立てを行っており、ここ10年で急成長を遂げられました。まずは創業の経緯からお聞かせいただけますか?

長澤鉄工所で働いていた祖父・長澤信治が同僚と共に1963年に鉄工所を立ち上げたのが始まりです。1970年に有限会社長沢工業所へ組織変更した後、1983年に父・長澤信博が社長に就任。私が会社を継いだのが2011年、32歳のときでした。

森松創業から57年目を迎えられますが、この間に商材や商圏の変化はありましたか?

長澤創業から金属の削りをメインとしており、コア技術は変わっていません。ただ、商圏については、祖父と父の時代は仕事のほとんどが地元の大手企業からの依頼でしたが、現在は関東(神奈川県厚木市)や名古屋にも営業拠点を置くなど、全国に広がっています。

森松特に、長澤社長が代表取締役に就任されて以降の成長ぶりには目を見張るものがあります。

長澤私が入社した当時は全社員で17名という小さな鉄工所でしたが、おかげさまで現在はパート社員を含めて172名まで増えています。ただ、社長就任後に急に業績が伸びたというよりも、それまでの基礎や下地が成果として現れてきたのだと考えています。父の「現場にはまるな」という方針もあって、一通りの仕事を経験した後は新規開拓に力を入れてきました。それが今につながっているように思います。

森松製造業でありながら「現場にはまるな」とは、面白い考え方です。

長澤現場やものづくりにこだわり過ぎると外に出なくなり、お客さまを訪問できなくなると考えたのだと思います。ただ、当時は社内に営業部すらなかったため、何をすべきか考えながらホームページを自作したり、飛び込み営業をしたりと手探りで新規開拓をしていました。

特に2008年のリーマン・ショック後は何とか状況を変えようと奔走しました。お客さまも仕事が減って時間があったのでしょう。話を聞いてくださる会社が増える中、新しい技術やチャンスを求めるお客さまと出会えたことが、他社よりも早く業績を回復できた要因となりました。

森松まさに、ピンチをチャンスに変えた好例です。

長澤リーマン・ショックで仕事量が大幅に落ち込みましたが、仕事が広がるきっかけにもなりました。また、この期間に人材も強化できました。当時、他社が休業や人員削減を行う中、当社は社員を一人も削減せずに毎日勉強会を実施。社員を教育しながらいつでも操業できる体制を維持したため、仕事が戻った際にはいち早く事業を再開できました。さらに、他社が採用を控える中、優秀な人材が採用できたことも成長の支えとなっています。

森松2020年は新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、現在も経済活動への影響を与えている状況です。

長澤リーマン・ショックのときと比べると、2008年9月にリーマン・ブラザーズが破綻した直後は、誰も世界中に飛び火するとは予測していませんでした。一方、今回は世界中が危機意識を持っていたため、経済対策が逐次取られてきたという印象です。

経営者としては、置かれた状況の中でできることを最大限にやっていくほかに、手はないと考えています。今は何もしない方が良いといった意見もありますが、その間の遅れを数年後に取り返すことは非常に難しいだろう、というのが率直な気持ち。目先の体力も大事ですが、次に伸びるための準備期間として捉えることが重要と考えています。

自社開発製品「電動ねじゲージ」。
これを使うことで、ねじ穴の検査時間短縮、判定基準の安定、作業性向上などにつながる

社員と夢を共有し組織経営を目指す

テック長沢 代表取締役
長澤 智信氏
1978年生まれ、柏崎市出身、新潟大学法学部卒。インテリアメーカー・サンゲツを経て2003年テック長沢入社、2011年から代表取締役。家業を継ぐ傍ら、老舗味噌醤油蔵元・越後みそ西の経営を引き継ぎ再建に力を注ぐ。また、地域創生を主事業とするAKKプラスを地域の仲間と共に立ち上げた。「あまのじゃく」をモットーに、人と違うことを追求しながら、地域の雇用創出に全力を注いでいる。
森松この10年間で社員数が約10倍に増えています。人材採用難の時代にあって採用を成功させる秘訣はどこにあるのでしょうか?

長澤新卒採用については、私が率先して採用の現場に出向いて話をしています。多数の企業が並ぶ中、説明会で当社に目を向けてもらうには工夫が必要。社長自ら「一緒に夢を追い掛けてもらいたい」と語り掛けると、何人かは目を輝かせてくれる学生がいます。

五島社長の夢に共感した社員が集まっていることも、成長スピードを上げるポイントなのでしょう。現在、次世代の経営幹部育成を目的とするジュニアボードに取り組んでおられますが、メンバーには社長の思いに共感して集まった中途社員も多いですね。

長澤もともと仕入れ先だったりお客さまだったりした人が、話すうちに意気投合して「一緒にやりたい」と中途入社してくれました。本当にありがたいことです。地方の小さな町ですから、普通なら多様な人材を採用することは難しい。ですが、さまざまな経験を積んだ人材が遠方からも入ってくれています。地元と遠方、生え抜き人材と外での経験を持つ人材が混ざり合っていることは、当社の強みになっています。

五島ジュニアボードを使って中期経営計画の策定に挑戦された狙いはどこにあるのでしょうか?

長澤最初は私の夢に共感して入社してきた社員であっても、何年かたつと考え方にズレが生じてくるものです。あらためて、みんなで何を目指していくのかを共有したいと思いました。

ただ、組織が大きくなる中、私が望むのはトップの夢に社員が従う形ではなく、社員と一緒につくった夢を共有する姿。その方法として、一緒に将来を考える中期経営計画の策定が適していると考えました。

五島実際に中期経営計画を作成された感想や成果などがあればお聞かせください。

長澤今回、社員と一緒に夢をつくったことで目指すべき自社の姿が明確になりましたし、現状や課題について社員と共有できた点が良かったと思います。私の理想は、私が今日でいなくなったとしても、明日以降も何の問題もなく事業が継続される組織。共有した経営課題に対して各自が対策を考えるようになるなど社員の成長を感じていますし、組織が進化しつつある。そこが一番の成果だと捉えています。

森松今は組織経営への転換期と言えます。経営幹部がそれぞれ考えを持つことで、課題に対する選択肢が増えることは確かです。荒井部長はメンバーとして参加されていましたが、どのような感想を持たれましたか。

荒井ジュニアボードという場でメンバーと議論を交わしたことは、夢や課題を共有する上でとても大事だったと思います。これまで、部長や課長であっても経営課題について深く認識していませんでした。共通のベースができたので、次はどのような手を打つべきか決断する力を付けていく段階。これには少し時間をかけて取り組んでいきたいと思います。



社員教育にリンクした人事制度を構築

テック長沢 総務部
部長 荒井 直氏
新潟県長岡市出身。新潟大学農学部卒業後、キノコ生産の会社でキノコ栽培の研究に携わる。2013年テック長沢入社。品質保証課を経て、2014年管理部長、2017年から総務部長。
タナベ経営 経営コンサルティング本部
新潟支社長 森松 貞治
企業の成長戦略の立案およびビジョン構築、新規事業・新商品開発に数多く携わる。各企業の強み(技術・商品・ノウハウ)に磨きをかけ、勝てる場(新マーケット・新チャネル)へと展開させ高収益企業へと導いている。クライアントの真の強みを見つけ、クライアントと共に育てていく親身なコンサルティングで数多くのファンを持つ。

久保田新卒・キャリア採用が増えたことで、若い社員も多く活躍されていますね。雇用や人材育成について、どのように考えておられますか。

長澤月並みな言い方ですが、企業の力は社員の力の総量。社員の成長が企業の成長に比例します。正直に言いますと、以前はハード面の投資を優先していましたが、最近は人への投資を増やしています。

設備はお金を出せば他社も手に入れられますが、人材はお金を出しても簡単に手に入れることができません。教育投資をしながら人材の質を上げ、数だけでなく質の高い雇用を創出することが、地域への貢献にもつながると考えています。

久保田人材育成とリンクした人事制度を策定されました。制度のポイントや狙いについてお聞かせください。

荒井制度の狙いは個人目標の設定によって社員の能力を伸ばすことにあります。社員一人一人が目標に向けて努力することで能力が上がり、その結果が自社の業績向上につながる姿が理想。そのような制度をタナベ経営にお手伝いいただきながら構築しました。

人材育成とリンクさせるには「何を頑張ったら評価されるのか」という基準をきちんと示すことがポイントになります。特に、個人の目標と会社の目標は同じベクトル上にないといけません。みんなが同じ目標に向かっていけるよう、試行錯誤しながら取り組んでいます。

久保田組織が大きくなるほど、人を育てる仕組みが必要となります。

長澤社員が少ないころは1人ずつに目が届きましたが、組織が大きくなってからは社員の日常の頑張りを拾い切れていない点があったと反省しました。社員の頑張りをきちんと評価したい。これが制度導入の一番の理由です。

個々の努力をちゃんと見ている人がいて、適正に評価してもらえていると感じることが次のモチベーションにつながります。人事制度を活用しながら、長期間働いてもらえる組織にしたいと考えています。

久保田タナベ経営のチームリーダー研修に女性社員も派遣されていました。女性活躍についてはどのように取り組んでいますか?

長澤金属加工は男性の仕事のようなイメージが強いですが、当社には女性が担当できない仕事はありません。ただ、女性は増えてはいるものの、割合で言えば全体の3分の1程度にとどまっているのが実情。もっと比率を上げて、管理職にも登用していきたいと考えています。今も育休中の社員が2名、年内に2名が産休に入りますが、彼女たちが再び職場で活躍してくれることを期待しています。

また、女性に限らず、当社には高齢者や障がいのある方、ベトナムやミャンマー、カンボジアなど外国の方も働いてくれています。そうした多様性は当社の強み。さまざまな年齢や性別、国籍の社員が働きやすい職場であることは、さらなる成長を目指す上で大きなメリットになると思います。

人が集まる土壌をつくり永続する企業へ

タナベ経営 経営コンサルティング本部
コンサルタント 五島 健二
「現場・現実・現品」の三現主義を信条とし、見える化から事業承継までの幅広い分野で、中堅・中小企業の成長を支援している。また、新入社員から管理職までを対象とした実践型の研修でも活躍。会社と社員の幸福の実現をテーマに、熱意あふれるコンサルティング活動で多くの顧客から高い評価を得ている。
タナベ経営 経営コンサルティング本部
主任 久保田 育恵
人材開発部門でセミナーの企画から運営業務まで一貫して担当し、多くの人材の成長を実現。現在は「人材成長を通じた組織成長の実現」をテーマに「成果を上げ続ける生き生きとしたチーム作り」を支援。新入社員から管理職まで、組織にマッチした研修での丁寧な指導でクライアントからの信頼を得ている。

森松自社ブランド「ナガサワツール」の製造・販売やねじ検査の時間を短縮できる「電動ねじゲージ」のオンライン販売など、独自商品にも力を入れておられます。今後のビジョンについてはどのようにお考えでしょうか。

長澤今あるコア技術が20年後、30年後に陳腐化するとは考えていません。ただ、今後の展開を考えると下請け中心では成長に限界があるため、自社ブランドを含めた新たな開発にもっと力を入れていこうと考えています。また、自社だけでなく地域として発展することが大事だと思います。例えば、同じ新潟県でも燕三条の全国知名度は抜群です。地元の会社でアライアンスを組んで、地域全体で競争力を持つことが理想です。

森松今後の目標を教えてください。

長澤実は、これまで最終的な目標はつくっていませんでした。最終的な目標を立てるとそこがゴールになってしまい、自ら可能性に上限を決めてしまう気がするからです。

ただ、会社が永続していく体制を整えたいという思いは強く持っています。それには良い人材をいかに集めていくかが課題。知名度を上げるためにも、株式上場が当面の目標になると考えています。

森松確かに、柏崎市内や新潟県内での知名度はかなり高まっていますが、それ以外の地域の知名度を上げる方法として上場は適していると思います。採用活動においては、見つけてもらうこと、知ってもらうことが非常に重要です。

長澤進学などで柏崎市を出た人が地元に戻って就職するケースは多くありません。「良い仕事がない」「働く場所がない」というのが理由ですが、良い仕事や働く場所があることが知られていないだけ。これは地域全体の問題です。この先、「テック長沢があるじゃないか」と言ってもらえる会社を目指していきます。

森松テック長沢には地方の企業が参考にすべき要素がたくさんあります。これからもますますのご活躍を祈念するとともに、タナベ経営も陰ながらお手伝いさせていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

会社プロフィール

会社名
株式会社テック長沢
所在地
新潟県柏崎市藤井1358-4
創業
1963年
代表者
代表取締役 長澤 智信
売上高
17億円(2019年6月期)
従業員数
172名(2020年5月現在)

ABOUT TANABE CONSULTINGタナベコンサルティンググループとは

タナベコンサルティンググループは「日本には企業を救う仕事が必要だ」という志を掲げた1957年の創業以来
66年間で大企業から中堅企業まで約200業種、17,000社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。
企業を救い、元気にする。私たちが皆さまに提供する価値と貫き通す流儀をお伝えします。

コンサルティング実績

  • 創業 66
  • 200 業種
  • 17,000 社以上