image1

 

今週のひとこと

「褒める」とは自信をつけさせること。

「叱る」とは誤りを正してより良くなるよう導くことだ。

手段は違うが、ともに部下の成長を願っての行為である。
 





◆摩擦を恐れるな

若い頃、苦手意識があり、分かり合えなかった上司に叱られた時の言葉が、今になって私のモットーとなっている。
それは、私が前職で課長になったばかりの頃のことである。ミスを繰り返す部下に対し、私はチームの雰囲気が悪くなるのを恐れ、ミスの原因を詳しく調べもせず、また厳しく叱ることもしなかった。


そのような様子を見ていた上司が、私に対して言った言葉は、「中島さんは、部下から好かれようとしてないか? 部下を甘やかし、正しく叱ることもしないことが、本当に部下のためになるのか?」である。
私は当時、「部下を守る」ことが自分の役割だと考えていたため、何も言い返すことができなかった。そして、上司が最後に言った言葉は「摩擦を恐れるな」である。


それから数年が過ぎ、その「摩擦を恐れるな」という言葉が身に沁みてきている。
モノとモノとが触れ合って摩擦を起こすと、表面がすれ合い熱が生じる。同様に、人と人の場合でも、意見をぶつけ合い、摩擦が起きると、議論は白熱し、その結果、時として表面的に人を傷つけることもある。
ただ、その「摩擦熱」が組織をより強くし、そして新しいものをつくるためには絶対に必要だ。イメージとしてはスポーツの後の筋肉痛に近い。筋肉痛を経験して回復し、それを繰り返すことで、そのスポーツに適合した強い体が出来ていく。


私はこの「摩擦を恐れるな」という言葉を、今後も自身のモットーとしていきたい。


コンサルティング戦略本部 チーフコンサルタント
中島 望





12_message

12_message_nsn





仲宗根 政則
1990年タナベ経営入社。2014 年取締役就任。中小企業から上場企業まで数百社のコンサルティング・教育実績を持つ。特に事業戦略、収益構造改革、組織・経営システム革新に関するコンサルティングや次世代幹部人材育成で実績多数。著書に『未来志向型経営』(ダイヤモンド社)。



企業は「環境適応業」。変化する経営環境に適応し、企業も変化していく必要がある。そのため、環境変化を見据えて意思決定し、戦略を推進する人材が最大の経営資源となる。中でも、自ら考えて行動できる「自律型人材」は貴重な資源といえる。

トップの多くは、今までの経営のやり方の延長線上に未来がないことを肌で感じており、自律型人材を育成する企業風土づくりに力を入れている。

しかし、従業員に向けて「変革せよ」「進化せよ」といった意味の言葉を連発するだけでは、従業員はそう簡単に変わらない。経営トップ自身が変わり、従業員に自社のあるべき姿を明示しなければ、企業は本質的に変われないのが現実である。

一方、成長企業の自律型人材は、自ら新たな成長課題を見つけ、チャレンジし続けている。それは、成長企業が未来志向で中長期ビジョンを構築し、トップと従業員がともにビジョンと現状のギャップを踏まえた正しい危機感を持っているからだ。

では、どうすれば自律型人材を育成できるのか。ここで「経営の見える化」が必要になってくる。自社が目指す姿を見える化し、その姿と現状のギャップを認識することが、全従業員が自律的に課題発見と解決へ取り組む風土醸成の第一歩となるからである。

自律型企業風土づくりのために、取り組むべき経営の見える化の主な項目は、「理念」「ビジョン」「年度方針・計画」「業績」「財務・収益構造」「顧客(顧客の声)」「自社(自社の強みが顧客から見える)」「人材(人材成長)」「知恵」の9点と考えられる。自社の課題解決に対し、何を優先し、見える化の取り組みを始めるか。あるいは今の見える化をどう進化させるのか。中長期ビジョン実現に向けて不足していることを見える化した上で、従業員が自主的・自発的に改善行動を起こす仕組みをつくり上げ、それを風土として根付かせる必要がある。

経営の見える化とは、単に見えないものを見えるようにすることではない。課題を顕在化して解決に導くことが、その本質的価値である。自ら未来を切り拓く企業風土をつくるため、ビジョン(目指すべき姿)実現に向けた見える化の実行を徹底継続する強い意志を持っていただきたい。







武政 大貴
中央大学法学部卒業。財務省関東財務局で金融機関の監督業務を経験後、企業経営に従事。タナベ経営入社後は、主に中期経営計画策定、企業再生・再建支援を行い、企業の収益体質改善に寄与。また5S・VM 活動支援では、財務の視点による体質改善を行っている。現実・現場・現品主義を信条とする行動派コンサルタント。

小崎 純
東京工業大学大学院技術経営専攻(MOT)卒業。大手乳業会社に就職し、乳製品の製造および品質管理、サプライヤーへの品質指導の業務に従事。タナベ経営入社後は、中期経営計画策定や企業再生支援のほか、5S 活動支援をはじめとした現場改善を多く手掛けている。事実・現場・実践主義をモットーとする現場改善コンサルタント。



企業を取り巻く環境が厳しいのはご承知の通りである。各企業が競争力強化を図り、厳しい環境下において勝ち残るための戦略を描こうと努力している。しかし、どんなに優れた事業戦略を描いても、トップ以下全社員が決められたことを当たり前に実行できなくては、その戦略は絵に描いた餅となる。こんな光景は決して珍しくない。

経営トップや幹部が腐心して検討した事業戦略を、魂を込めて実行して、初めて成果が出る。もっと極端にいえば、たとえ戦略が二流であろうとも、愚直に当たり前のことを実行できる企業が勝ち残るのだ。


実行力強化のための見える化手法

実行力強化のために取り組むべき活動として、「見える化」の手法をお勧めしたい。見える化とは、「問題点を顕在化して解決する手法」のことであり、「全員参加型」の経営手法である。

基本は、「モノの見える化」である5S( 整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)、「業務の見える化」であるファイリングシステム、「管理・マネジメントの見える化」であるVM(ビジュアルマネジメント)で、モノの見える化→業務の見える化→管理・マネジメントの見える化というステップにより、見える化の導入・定着を図っていくのが定石だ。

タナベ経営は、これを「経営の見える化」と呼んでいる。自社の経営活動に対し、特に管理が必要な点について経営者および従業員間で共有を図るために、表示や掲示などで可視化し、その可視化したものを用いてマネジメントを図る活動の総称である。この手法を使うことにより、社員全員が決められたことを当たり前に実行できるようになる。そして、一人一人が目的に照らして考え、行動することで、創意工夫・改善が図られ進化していく。いわば「自律型集団」となるのである。

見える化手法①(5S)

1つ目のステップは「5S」。「モノの見える化」ともいわれ、新入社員であってもすぐに活動することができる。シンプルだが効果は大きい。

5S の必要性は次の3 点に集約される。1 点目は、徹底したムダの排除である。ムダの排除が生産性・効率アップにつながる(付加価値を高める活動の割合を増やせる)。2 点目は、問題を顕在化して解決できることである。解決すべき問題が見えるようになり、改善が進められる(改善スピードの向上)。3 点目は、強い企業体質がつくり上げられる点だ。改善を習慣とする企業の文化・風土が醸成される(企業体質改善)。また、本質的効果として、全員参加での取り組みであるため、良好なチームワークの形成や自主性の向上、リーダーシップの養成を図ることもできる。

5S 活動は、どの企業においても多かれ少なかれ、導入に向けて取り組んだことがあるだろう。ただ、狙い通りの成果が出ているかといえば疑問だ。大事なのは、「正しい導入ステップを踏むこと」と「トップアップ(トップダウン&ボトムアップ)の活動とすること」である。

見える化手法②(ファイリングシステム)

見える化手法の2 つ目のステップとして、ファイリングシステムがある。これは「業務の見える化」と言い換えることができる。書類の管理システムを構築することで、業務の効率化を図るものである。

具体的には、書類の発生から保管、保存、廃棄までの一連の流れを体系的に可視化し、業務分類表で書類を見える化することにより、重複業務やムダな業務の洗い出しを行い、ファイル基準の設計と運用を行って、業務のスリム化を図る。なお、当然ながら、ファイリングシステムにおいても、一部の者のみの活動となってはいけない。

見える化手法③(VM)

見える化手法の3つ目のステップはVM、つまり「管理の見える化」である。方針・目標管理と、部門の役割・使命から設定した日常業務管理を、シンプルにボード上で表現する。管理対象はもちろんのこと、管理指標や管理サイクルなど、全てが一目で見える状態にする。

問題点、課題、要因、対策、そして成果までもが見える形になっていることで、社員全員がタイムリーに行動することができ、実行力のある企業となる。


見える化の進化

前述した3つの見える化をベースとしながらも、各社固有の目的に照らし、個別テーマを深掘りすることが重要だ。つまり、見える化の大きな趣旨・目的は維持しながらも、「人材育成」「経営理念の浸透」「業務効率化」など、特定の分野に応用していく。

タナベ経営では「経営の見える化研究会」を発足し、「見える化 × 店舗マニュアル × 店舗運営」「見える化 × IT × 業績」など「見える化 × ○○」というコンセプトのもと、見える化手法を活用した成功事例を視察することにより、学びを深めている。失敗談はもちろん、成功までの経緯や思いも同時に伺うことで、自社に落とし込める改善のヒントを得ることが目的である。

同研究会はすでに第3 期を迎えているが、視察先企業に共通していえることは次の2 つだ。1つ目は、活動開始期においては、トップの強い思いを具現化するリーダーのリーダーシップにより活動が展開されていること(トップダウン)。2 つ目は、定着期・推進期においては、一人一人が考えて行動することで改善が図られ、日々進化する形になっていること(ボトムアップ)である。

これが全員参加型経営の目指すべき姿であり、実行力ある企業としての姿である。「1 人の100歩より100 人の1 歩」として、いかにこの手法を習得し、活動を推進できるか。次に視察先企業の事例を紹介し、学びを深めたい。特に、自社の理念・業務特性に合わせた独自の活動を行っている事例のポイントについて、解説を行う。

ファクス送信の際の注意事項が一目で分かるよう、色分けした指示札を付ける
ファクス送信の際の注意事項が一目で分かるよう、色分けした指示札を付ける


事例1:業務の見える化
マニュアル更新の仕組みづくり


自社の業務の進め方をマニュアルとして整備している企業は多い。しかし、そのマニュアルを実際の業務に活用できている企業は少ない。

だが、SPA チェーンの「無印良品」を展開する良品計画は、商品陳列をはじめ、社内のさまざまな業務を、2000 ページにわたるマニュアルで見える化・標準化するだけでなく、マニュアル活用のためにいくつかの仕組みを導入している。

その1 つに改善提案制度がある。現場で日々発見される新しい効率的なやり方について、従業員が提案を行い、本社がその内容を検討。採用であれば、直ちにマニュアルに反映する仕組みだ。同社では最低でも年4 回、マニュアルを更新するという。

本事例のポイントは、業務マニュアルを生かすための仕組みが伴っていなければならない、ということだ。単にマニュアルを整備するだけでは、いずれ陳腐化し使われなくなる。そのため、日々進化する業務内容に合わせて更新される仕組みが必要なのだ。従業員による改善提案制度もその1 つだが、従業員から上がってきた提案を本社が精査し、マニュアルとして更新。さらに全店に展開・共有することをルールとしている点が重要である。



事例2:業績の見える化
最適なタイミングで対策を打つ仕組みづくり


工業用資材卸を展開するサンコーインダストリーは、全社および各支店、各営業パーソン別の売り上げと粗利益を100 のモニターに表示し、その情報を20分おきに更新。その業績情報に基づき、タイムリーな営業活動を展開するという「業績の見える化」を図っている。

本事例のポイントは2つある。1つ目は「見えた業績」をどう生かすかである。同社では、営業パーソンと内勤従業員のペアを1 チームとし、業績の進捗が芳しくない営業パーソンがいた場合、そのペアである内勤従業員が、担当する顧客に電話営業をかける仕組みを導入している。「見えた業績」に対し、タイムリーに対応することで日々の業績をつくる仕組みだ。

ポイントの2つ目は、自社の業績づくりにおける見える化の図り方にある。同社では、日々の小さな商いの積み重ねが業績をつくっている。そのため20 分おきのタイムリーな業績管理が有効となる。しかし、1つの商いが終わるまでが長い不動産販売などに、この方法は適さない。タイムリーな業績管理が有効なのは、同じく日々の小さな商いの積み重ねが業績をつくるスーパーマーケットなどの小売業であろう。つまり、自社のビジネスのリズムに合った業績の見える化を図る必要があるということだ。


事例3:経営理念の見える化
理念実現に向けた行動が評価される仕組みづくり


ねぎしフードサービスは、自社の経営理念を徹底的に従業員に教育するとともに、理念の具体化に必要なスキルを「100 のステップ」として昇格要件にしている。従業員は100 のステップのうち、自分が今どの位置にいるのか、次のステップへ進むにはどのようなスキルを身に付ける必要があるのかを明確に知ることができる。

本事例のポイントも2つある。1つ目は、「自社をこのような会社にしたい」という明確なビジョン、強い思いがあるかどうかだ。

経営理念を持たない企業はあまりないが、その理念を本当に実現したいと強く思っている企業は少ないように感じる。その理念が従業員に共感され、共有されることが習慣となっているかどうかも重要な点である。

いくら立派な理念であっても、従業員に共感・共有されなければその実現は難しい。経営者は理念を共有するための場を頻繁に設け、繰り返し訴えることが必要である。

2つ目は、理念・思いを実現する仕組みが社内に整備されているかどうかだ。同社は100 のステップによって、自社の理念実現を会社の仕組み(このケースでは人事制度)として組み込み、その具体化につなげているのである。

経営理念を実現するためには、組織全体のベクトルを合わせなければならない。ベクトルを合わせるには、理念実現のための行動が社内で評価される仕組みが必要である。

思いを持つだけでは、理念の実現は難しい。理念とそれを実現する仕組みの両輪が機能して初めて、理念の実現が可能となるのである。

  • お問合せ・資料請求
  • お電話でのお問合せ・資料請求
    06-7177-4008
    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所