image1

 

今週のひとこと

人材育成のポイントは、価値判断基準を

教えることだ。何が正しく、何が間違い

か。なぜそう判断し、結果がどうなるか。

これらを教えれば、部下は自ら考え、

行動するように育ってゆく。





☆ "今どき"社員が活躍するためのカギ

 時間が経つのは早いもので、今年4月に新入社員が入社されてから半年が過ぎようとしています。入社当初は職場にフレッシュな風が吹き、受け入れる側の皆さんも初心に立ち戻る機会になったと感じた方が多かったのではないでしょうか。しかし、時間の経過と共に、自分たちの新入社員時代とは異なる考え方や雰囲気に「違和感」を覚えていませんか?

 タナベ経営では、毎年3月と4月に「新入社員教育実践セミナー」を全国各地で開催しています。筆者もセミナーのコーディネーターとして、多くの受講者と接してきましたが、その際に感じるのは、知識は豊富だが、それらを知恵に変えることが苦手な方が多いということです。

 先ほどの違和感というのは、"今どき"の新入社員・若手社員が育ってきた背景が大きく関係していると考えられます。これは、ゆとり世代・さとり世代の特徴でもありますが、幼い頃から携帯電話やスマートフォンを使い、インターネットを通じて、知りたい情報を入手できる環境にあることで、自分で物事を考えなくても、疑問点を解決することが容易になったことが原因であると考えられます。
 したがって、今どきの新入社員・若手社員は、知識は兼ね備えているという傾向があります。しかし、ネット検索では解決できないことに対しては、苦手意識が強く、日常から考える癖が少ないためか、突発的な問題を解決するといった応用力が乏しいと感じます。


 皆さんの会社の新入社員・若手社員の方々は「知識」を「知恵」に変える能力をお持ちでしょうか。この力を養うことが、彼・彼女たちが活躍するためのきっかけになると捉え、今後のOJTや研修で、どのように育成していくかを考えてみてください。

コンサルティング戦略本部
アソシエイト
渡邉 雄太







"強い"ビジネスモデルの「3条件」

外部環境が変化を続ける限り、必然的に企業も進化を続けることが求められる。「企業は環境適応業」といわれるゆえんである。また情報伝達や技術革新のスピードが格段に増す中、それに適応したビジネスモデルの「進化力」も必要に迫られる。

タナベ経営が提言する2017年度の基本テーマは、「ビジネスモデル戦略~あと3年、突き抜ける価値をデザインしよう~」。これは"ポスト2020年"に向け、「ビジネスモデルイノベーション、待ったなし」というメッセージでもある。

私は数多くのコンサルティング臨床経験から、収益力・成長力の決定要因はビジネスモデルに表れ、ビジネスモデルを強化するには3つの条件整備が必要だと考えている。

1つ目は、「突き抜ける顧客価値」を明確にし、磨き続けることだ。例えばA社は、生活習慣病患者が増えていることに着目。その患者に対し、電話で栄養士・管理栄養士がカウンセリングを行い、病状に合った健康食を宅配するビジネスモデルで成長を続けている。高い専門スキルを持つ人材が商品を販売するという、"突き抜けた価値"の創造である。

2つ目は、「顧客価値をオペレーションに組み込み、競争優位性を高める」こと。顧客価値を高める行動を、スタッフ全員が当たり前の基本動作として繰り返し実践し、圧倒的に高い水準を維持し続けることだ。

例えば旅館B社は、全スタッフが女将(おかみ)のようなスタンスで接客サービスを自ら考え、その実践によって感動物語を創り、ファンとなった顧客がさらに顧客を呼ぶ善循環を構築している。顧客の感動の言葉や手紙はスタッフのモチベーションを上げ、高いサービス水準を維持する原動力にもなっている。

3つ目は、「リピート・ベース型で高収益ビジネスモデルを作る」。ビジネスモデルで差別化しても、受注の多くがスポット、または新規開拓中心だと業績は安定しない。顧客がリピートする前述のモデルに加え、定期的・周期的に売り上げが上がり、ストックとして積み上がるビジネスモデルは収益性が高い。

例えば住宅業や建設業のようなスポット型事業であれば、紹介率の向上やリフォーム・リニューアル、年間保守契約などで、ベースとなる売り上げを高めることも1つの方法であろう。

ビジネスモデル格差は収益力・成長力の格差となる。ビジネスモデルイノベーションと、3つの条件を整備することこそが、強いビジネスモデルの創造につながるのだ。


タナベ経営 取締役/
ビジネスモデルイノベーション研究会 アドバイザー

仲宗根 政則 Masanori Nakasone
1990年タナベ経営入社。2014年取締役就任。中小企業から上場企業まで数百社のコンサルティング・教育実績を持つ。特に事業戦略、収益構造改革、組織・経営システム革新に関するコンサルティングや次世代幹部人材育成で実績多数。著書に『未来志向型経営』(ダイヤモンド社)。






201703_slide_t1

【特別対談】異分野から学ぶビジネスモデルイノベーション

201703_tokutaidan-01
早稲田大学商学学術院教授
井上 達彦氏 Tatsuhiko Inoue

1997年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)。2008年より現職。独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェローなどを歴任。研究分野は、ビジネス・モデル・デザイン。主な著書に『ブラックスワンの経営学』(日経BP社)、『模倣の経営学』(日経BP社)、『new combinations 模倣を創造に変えるイノベーションの王道』(日経BP社、2017年3月発刊予定)など。現在WASEDA EDGEで事業創造実践プログラムを展開中。

キーワードは「模倣」――。トヨタ自動車、ヤマト運輸、ニトリ。
誰もが名を知る企業も、成功の陰には異分野からの学びがあった。
タナベ経営の「ビジネスモデルイノベーション研究会」リーダー・村上幸一が、早稲田大学商学学術院教授・井上達彦氏に、会社の強みを磨く方法について伺った。


製品のイノベーションとビジネスモデルのイノベーション

村上 タナベ経営の「ビジネスモデルイノベーション研究会」では、企業がイノベーションを取り入れるため、異分野の革新的なビジネスモデルを学ぶフィールドワークを行っています。イノベーションの重要性をテーマにお話を伺いたいと思います。イノベーションの考え方が広まったのは、スティーブ・ジョブズ(アップル創業者)の影響があると感じています。一般的に、アップルは『iPhone』や『iTunes』(音楽再生・管理ソフト)が革新的だとされていますが、これは製品のイノベーションではなく、製品を含めたビジネスモデルのイノベーションですね。

井上 おっしゃる通りです。(携帯型音楽プレーヤーは)ソニーがすでに『ウォークマン』を作っていましたから、「製品イノベーションとビジネスモデルイノベーション、どっちがすごい?」という対比軸が明確に出せるわけです。

村上 最先端の技術をアップルが開発したわけではなく、すでにあった技術を持ち寄って、模倣して完成した側面が強い。ソニーにしてもiPhoneやiTunesを作る技術はほとんど持っていました。

井上 オハイオ州立大学のオーデッド・シェンカー教授が書いた『コピーキャット』という書籍を以前翻訳したのですが(P79参照)、彼はジョブズのことを「アセンブリー・イミテーター」と呼んでいます。すでにある技術をうまく組み合わせて世の中に出す。だから彼は模倣の達人だ、というわけです。ソニーも『Mora(モーラ)』という楽曲ダウンロードサイトを作っていました。ただ、既存のビジネスとの矛盾があったから、iTunesのようにはならなかった。ビジネスモデルイノベーションを起こしにくい縦割り組織だったんでしょうね。

村上 一度プラットフォームを築き上げたアップルは強い。日本は技術もあり、勤勉だけれど、収益に結び付ける力が弱いといわれます。

井上 プラットフォームの構築は、日本企業が苦手とするところでもあります。イノベーションをする上では、「何のイノベーションが必要か」を考えることが必要です。製品なのか、プロセスなのか、ビジネスモデル自体なのか。製品のイノベーションでは、他社に勝ったとしてもあっという間にまねされてしまったり、特許を迂回(うかい)されてしまったりします。トヨタの生産システムのような、プロセスそのものの位置付けにならない限りは、別の技術を用いて同じことを実現されてしまう事態が起こります。プロセスがビジネスモデルにまで成長すれば、さらに広げることができます。

村上 簡単に模倣できなくなりますね。いずれ模倣されるにしても、模倣にかかる時間が長い。先行者としてかなり差をつけることができるので、その間に、また新たなことに取り組めます。

異分野からの「模倣」に着目する理由

村上 模倣をテーマにした書籍『模倣の経営学』を書かれたきっかけは何でしょうか。

井上 私たちはビジネスモデルを「ビジネスシステム」と呼び、製品・サービスレベルの差別化ではなく、ビジネスシステムの差別化が重要だという研究をしていました。『模倣の経営学』でも書いたのですが、コカ・コーラ社の商品は、他社の後追いであるケースがよくあります。後発商品でも勝てる秘密は、(日本全国に)圧倒的な自動販売機網があるから。消費者への届きやすさがまるで違うのです。製品よりも仕組みレベルでの差別化を図ること。それこそが競争優位、競争戦略の本質です。競争戦略とは、「戦ってはいけない」ということです。同じ製品を同じチャネルで提供する(戦う)と、価格競争になってしまう。それを続けると互いに疲弊してしまいます。だから、差別化しないといけないのです。製品でなく、仕組みレベルの差別化が必要と教えていたのですが、社会人の学生から「原理は分かったけれど、他社がまねできない仕組みをどう作ればいいんですか?」と言われました。優位性が持続する仕組み作りをどう行うかしっかり研究しないと、本当の意味での経営学にならないと思ったことが執筆のきっかけです。

村上 理論だけでなく、実際にどう作り出すかということに焦点が当てられています。

井上 調べていくと、模倣から「模倣できない」仕組みが生まれていることが分かってきました。トヨタにしてもセブン-イレブンにしてもヤマト運輸にしても、みんな異分野や海外からヒントを得て、仕組みを自分で作り上げていった。異分野からの模倣なので、ライバル会社も何をやっているのか理解できない。水面下でずっと仕組み作りをしていて、完成後に表に出てきた時には、すごいものになっているのです。氷山のようなイメージで、見える部分だけでなく、見えない部分の仕組みの強さは、ライバルは模倣できません。

村上 ヤマト運輸も、大手百貨店の下請けを脱却するところから始まっています。

井上 ヤマト運輸は中元・歳暮をその百貨店のニーズに合わせて行っていました。一方で大手電機メーカーの長距離輸送をチャーターのように請け負っていて、利益が上がらない体質でした。宅急便創始者の小倉昌男さんは、「どうやったら利益の上がる体質になるのか」と疑問を持った。ライバルを分析してみると、小口の荷物であれば1つ当たりの利益率が1.5倍も高いことに気が付きます。思考実験を繰り返していたとき、出張先の米国でUPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)社の集配車を見掛け、そこから集配車両ごとの損益分岐点に着目するヒントを得た。消費者対消費者の宅配事業が成り立つのではないかと、インスピレーションを受けたのです。

村上 「ビジネスモデル革新=収益構造改革」という図式が、顕著に表れている成功モデルです。通常の売り上げ増加やコストダウンによる収益向上施策は、改善にこそなれ、革新とはなりません。ヤマト運輸の事例から、ビジネスモデル革新の論理的思考やそれを導くリーダーシップ、組織変革など、多くを学べます。

模倣と反面教師からの学びを繰り返したSNS

井上 単純に模倣して、そこそこやれることもあります。しかし、環境の変化が起きた時に、ガタガタと崩れてしまうのです。反対に、模倣を重ねる中で学習能力やアレンジ能力を高めたところは独自に進化していき、環境が変わっても生き残ることができています。「模倣能力」のようなものはあると思います。

村上 ソーシャルメディアも、初めは海外モデルの模倣から、日本に入ってきましたね。

井上 ソーシャルメディアの起こりは「シックス・ディグリーズ(6degrees.com)」だといわれています。これは「全ての人は6ステップ以内でつながっている」という、いわゆる「6次の隔たり」理論から始まったものです。米国のベンチャー企業がこの理論をシステム化するため出資者を募った。ユーザーも大勢集まったのですが、その時のネット環境はまだブロードバンドではありませんでした。画面のロードが遅く、操作性が良くなかったのです。そこで失速してしまいました。しかし、これに可能性を見いだした人たちがそれを手本に「マイスペース」「フレンドスター」を作っていった。フレンドスターは公開後順調に利用者数を伸ばしたものの、ユーザーの急激な増加にサーバーが対応できなくなり、利用者にそっぽを向かれてしまいました。だからフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグはそれを反面教師にして、サービスを拡大する時にはアイビー・リーグの優秀な大学だけに絞った展開をしていきました。

村上 もともと、サーバーというボトルネックがある上でのビジネスモデル展開だったということですね。

201703_tokutaidan-02
タナベ経営
コンサルティング戦略本部 東京本部 副本部長
村上 幸一 Koichi Murakami
ベンチャーキャピタルにおいて投資先企業の戦略立案・マーケティング・フィージビリティースタディーなど多角的な業務を経験。タナベ経営に入社後も豊富な経験をもとに、マーケティングを軸とした経営戦略の立案、ビジネスモデルの再設計、組織風土改革など、攻守のバランスを重視したコンサルティングを実施。高収益を誇る優秀企業の事例をもとにクライアントを指導している。中小企業診断士。

失敗から学ぶLCC事業

村上 スターフライヤーはLCC(格安航空会社)の失敗を見て、その失敗を繰り返さないようなマーケティング、ターゲティングをして、LCCともFSC(フルサービスキャリア)とも違う独自のポジションを築いています。スターフライヤーの販売価格は「ローコスト」というほどではない。ちょうど中間を狙っているのですね。中間を狙うとターゲット層があいまいになることもあるのですが、うまくいった例です。ポイント・ツー・ポイント(2地点間直行路線運航)で、単一機材を使うところはLCCのモデル。一方、Webだけでなく電話予約も受け付けるなど、他のLCCが省いているサービスを充実させています。評判も上々で、サービス産業生産性協議会の顧客満足度調査(JCSI:日本版顧客満足度指数)では8年連続1位に選ばれています(2016年現在)。

井上 LCCであるための絶対条件と、「プレミアムシート」を作るかどうかなどの差別化要素を分析すると、LCC業界は模倣の題材として最適なのではないでしょうか。

村上 成功の共通項と、失敗の共通項で分けられそうですね。

異分野から学ぶことの意義

村上 同業界からの学びも大切ですが、改善につなげるという意味が強く、やはり異業界から違う目線で学んで初めてイノベーションになります。組織においてもジェンダーや人種のぶつかり合いの中から新しいものが生まれてくるように、「異質=異分野」からの学びは意味があるように思います。

井上 同業種を見る時に、学ぶためにやっているのか、競争のためにやっているのかを、まず考える必要があります。「学びのため」であれば、異業種の成功者からヒントを得ます。「競争のため」なら、他社でいいものが出てきたから、それをつぶすために追随戦略を取り、同質化をあえて仕掛けて相手を無力化していくことになる。同業種からの学びは競争のためというより、ベンチマーキングするというのが1つの方法だと思います。

異分野とどのように関わり、つながりを見いだすのか

村上 同業界なら仲間や業界団体を通じた人脈がありますが、異業種・異業界とどのようにコネクションを築き、学ぶべきか分からないという経営者も多いです。

井上 そこが決定的に重要です。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄(あきえ)准教授は、これをエクスプロレーション、「知の探索」と表現しています。対してエクスプロイテーション(活用)というものがあります。結び付く情報を探索するのと、今ある知識を使い回して収益を上げていくことの対比です。知識を使い回せば短期的な利益を上げることはできるかもしれませんが、絞り出していくと、なくなってしまいます。だからイノベーションが必要。イノベーションの本質は知の探索。どう結び付くかを探すことです。
「ではどうやって見つけるのか」と聞かれますが、結局、「遊び心」が重要なのです。探索というのは、目的を持った瞬間に探索できなくなります。目的を持つということは、「きっとこの辺に何かがあるな」という先入観と仮説があります。その先入観や仮説は、しょせん人間の思い付くことですから、当たり前のところしか探さないわけです。「合理的に見てここを探せば、きっと見つかるだろう」と。イノベーションは、そのレベルではありません。「偶然、知的好奇心に従ったらこんなものを見つけた。もしかして、これが結び付くんじゃない?」という、それをできる余裕があるかないかです。

村上 好奇心が創造やイノベーションの源ですね。合理的な考えは多くの方が納得できる半面、同じ結論に至ることになります。つまりは「同質化」ですね。

井上 ちょっと好奇心があったら「行ってみようかな」という、その感覚が大事なんです。そこから何かヒントが見えることがあります。

村上 興味のないことであっても、そこで1つの市場ができているわけですから、ニーズがあるということですね。

井上 専門的には「ブラケティング」と呼んでいます。自分に先入観があったら、それをまず書き出す。先入観というのは取れないものです。なので、「自分はこんな先入観を持っているんだな」と意識する。そして、それをいったん横に置くことです。これを意識することによって、先入観からできるだけ自由になることが効果的です。

村上 実際、経営者や経営幹部は、知識と経験を積まれている方が多いです。そうすると成功体験がある分、特に先入観を持ってしまうこともあるかもしれません。

井上 先入観を意識して脇に置くことで、新しい目で物事が見えるようになるのです。

201703_tokutaidan-03

自動車業界の慣習を取り入れて成功した家具販売のニトリ

村上 異業界からの学びと成功事例として、どのようなところが挙げられますか。

井上 ニトリです。似鳥昭雄社長が米国でチェーンオペレーションを学んでいた当時、現地では100店舗を超えるチェーン展開が当たり前でした。商品価格は日本の30%ほどで、センスも非常に良い。陳列方法も商品ごとではなく、今のイケアのようにライフスタイル展示で、トータルコーディネートが実現されていたわけです。これを日本で実現したいと考えた末、海外に自社工場を持つことにしました。SPA(製造小売業)を海外で始めましたが、家具は木材が多く使われていますから、温度・湿度に影響されます。地域環境により伸びたり縮んだりして、不良品が多く出てしまったそうです。そこでヒントになったのが本田技研工業(以下、ホンダ)でした。ホンダでは問題が発生してから検品するのではなく、材料を事前にチェックしており、検品も検量もしないそうです。これを取り入れたニトリは、一気に業績を上げました。

村上 自動車業界という全く異業種の品質管理を取り入れたわけですね。良品計画の松井忠三(ただみつ)元会長も、「同業よりも異業種・異業界から学ぶことの方が多く、インパクトがあった」と言っていました。メーカーの改善技法を小売り・流通に取り入れたことにより、効果を上げたという企業の例もあります。

異業種から学ぶポイント

村上 あらためて異業種・異業界から学ぶポイントは何でしょうか?

井上 抽象化すること、共通する要素を抽出できるかということですね。表面的には全く違う業界であっても、ビジネスの構造に同じものがあると見抜けるかどうかが大切です。異業種に触れたとき、「うちの業界とは違うから」とそっぽを向いてしまう人は、それができません。「関係ないかもしれないけれど面白そうだ」という人は、「よく見たらこれ、うちの事業に使えるのでは?」という気付きが得られるわけです。「好奇心」「構造が見抜けるか」という2つが必要です。

村上 そのためのプロセスとして、単純模倣や反面教師という考えがあるのですね。

井上 模倣を分析する上で最も重要な、垂直運動についてお話しします。一橋大学の楠木建教授は、「良い模倣が垂直的な動きであるのに対して、悪い模倣は水平的な横滑りである」と言っています。良い模倣は、対象を抽象化して引き上げ(垂直)、特定の論理を導き、自社に適用します。反対に、成功企業の事例を直接的にまねしようとすると、上っ面だけで結局、横滑りしてしまうのです。【図表1】を見てください。何となく似ているように模倣していますが、これは本質を捉えていません。この構造で大切なのは、2種のものが交互に並びながら大きくなっていっているところです。【図表2】を見てください。こちらの方が構造は類似していますね。いったん抽象化して、これは何だ?
と考えることが、模倣においてはとても大事なので、手本となる異業種の仕組みを抽象化して、自分の世界に落とし込むことです。直接模倣してしまうと【図表1】のように横滑りしてしまいます。型レベルまで落とし込めると、ビジネスモデルになります。原理だけを学んでも具体例がないと分からないですよね。だから事例を知ることも大切です。事例と原理を往復しながら、自分の世界に落とし込んでいくのです。

201703_tokutaidan-04

村上 上っ面だけの模倣では、かえってダメになってしまいますね。自社の良いところもなくなってしまいます。

井上 自己観察が大切です。これをせず、経営の流行語などに惑わされてしまい、飛び付いて横滑りしてしまうことも多く見られます。

村上 理論をそのまま取り入れて、横滑りしてしまうことは起こりやすいですね。コンサルタントも、プロジェクトのスタートはクライアント企業の徹底的な現状認識から入ります。そこから本質を理解するということが核になります。

井上 模倣する場合には、謙虚でなくてはいけません。学ぶということは、相手の方が優れていると認めることですから、模倣に対して拒絶感がないかどうかが、実は成功の秘訣(ひけつ)ではないかと思います。

村上 全く同感です。「我以外皆我師(われいがいみなわがし)」という言葉がありますが、優秀な経営者は、皆さん謙虚で勉強熱心です。本日はありがとうございました。

ビジネスモデルイノベーションセミナー10月25日(水)・東京開催

異分野のノウハウを取り入れ、革新的なビジネスモデルをデザインするフィールドワーク
ビジネスモデルイノベーションセミナー・2017年10月25日(水)・東京開催

講演企業は、
ソフトバンク株式会社 法人事業開発本部 IoTコンサルティング部 吉田 政人 氏
早稲田大学商学学術院 教授 井上 達彦 氏

同業種の事例を参考にすることは「改善」にしかなりません。流行を安易に模倣することは「競争力の強化」にはなりません。
「イノベーション」とは、新しいアイデアから新たな価値を創造し、社会に変化をもたらすことを指します。 10月25日(水)・東京にて、「ビジネスモデルイノベーションセミナー」を開催いたします。ぜひご活用ください。

ビジネスモデルイノベーションセミナー・10月25日・東京開催の詳細はこちら

201703_tokutaidan-05

  • お問合せ・資料請求
  • お電話でのお問合せ・資料請求
    06-7177-4008
    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所