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今週のひとこと

人づくりだけでは、人は活かされない。

場を与え、正しく評価することが

活力ある社風をつくる。

☆ テレワークの導入は難しいと考えておられませんか?

 皆さんの会社では、テレワークを導入、または導入を検討されていますか。
 テレワークとは、「tele=離れた所」と「work=働く」を合わせた造語であり、ICT(Information and Communication Technology/情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。

 今、働き方改革やダイバーシティ経営などの取り組みの一環として、このテレワークを導入している企業が増えています。その理由として、一番に挙げられるのは、生産年齢人口が減少し労働力の確保が難しくなってきている今、これまでのオフィス中心・長時間労働では働くことの難しかった労働力を確保することにあります。
 テレワークは非常に良い取り組みであることに間違いないのですが、現状、導入しているのは大手企業が中心で、中堅・中小企業の多くが、管理の目が届かないという理由から導入を躊躇しているというのが実情です。
 もちろん、ICTの発展で、把握するための方法・手段は増えているものの、実際には働く社員の姿が見えないため、管理が難しいと考えているのです。
 では、中堅・中小企業は、どのようにテレワークを導入していけばよいのでしょうか。それは、仕事と時間に対して自律的・創造的に取り組むことのできる人材を育成することです。この自律型人材の育成が、テレワークを行う上で非常に重要です。

1.プロジェクト研修(問題解決実践型教育)
2.ジュニアボード制度(社員による疑似役員会)
3.企業内大学(自己選択型教育)

―といった方法で、自律型人材の育成を進め、新たな働き方の取り組みであるテレワークの導入を検討されてみてはいかがでしょうか。

経営コンサルティング本部
コンサルタント
新島 泰久也

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時代を感じ、現場を見つめ、商機に変える経営哲学

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売上高406億円、経常利益45億円、経常利益率11.3%。15期連続増益と躍進を続ける東証1部上場企業のハイデイ日高。急成長の裏にあるのが時代の変化を商機に変えるトップの決断力と、社員を大事にする経営哲学だ。一代で400 店舗を超えるラーメンチェーンを築いた、同社の代表取締役会長・神田正氏に経営の要諦を伺った。


社員に支えられ15期連続増益を達成

若松 「熱烈中華食堂 日高屋」「焼鳥日高」などをチェーン展開するハイデイ日高は、首都圏を中心に400店舗以上を運営。売上高は前年比5.5%増の406億4300万円(2018年2月期)と東証1部上場企業として持続的成長を遂げていらっしゃいます。

神田 特別なことをして伸びたわけではなく、当たり前のことをやってきただけです。うちの商売は中華料理に携わる人なら誰でもできるビジネスですが、武器があるとすれば社員でしょうね。社員が会社を大きくしてくれました。

若松 業績を拝見すると経常利益率が高いという特徴があります。さらに、過去最高益の更新が続いています。高い業績を維持する企業には、好業績を生み出す仕組みや文化が根付いているものです。

神田 おかげさまで、営業利益、経常利益ともに15期連続で過去最高を更新しています。企業文化という意味では、無駄遣いしない文化が浸透しています。私自身、一度も社用車を持ったことはありませんし、接待交際費を使いません。上の背中を見て社員にも無駄遣いをしない文化が浸透していますから、当社に接待交際費はほとんどありません。世の中には接待交際費の金額(の大きさ)を自慢する会社もありますが、そのお金を社員の給与に充てたい。これが私の考え方です。そうすれば、社員の家族も喜んでくれますから。

若松 まったく同感です。私も社用車は持っていません。業績は日々の積み重ねで作られます。好業績を継続するには、トップをはじめとする社員一人一人に業績を作り出す行動が落とし込まれていることが重要ですね。

個の強みを生かしチーム力で多店舗展開

若松 駅前立地の出店を積極的に進めており、目標600店舗を掲げていらっしゃいます。チェーン展開をスタートした1980年代、同業他社は郊外のロードサイドに出店するところが多く、"駅前立地"という戦略は業界で非常識と捉えられていました。

神田 当社の創業は1973年。店舗はさいたま市の大宮にありましたが、駅前にはおでんやラーメンの屋台があって最終電車の時間まで人だかりができていました。当時は首都圏のどの駅前でも屋台がありましたが、道路交通法や行政の規制が厳しくなる中でその数は急速に減少していきました。駅前出店を決断した大きな理由は、「屋台のお客さんはどこに行くのだろう?」と思ったから。それに、低価格のハンバーガーショップや牛丼店が駅前立地で成功しているのに、「日本の国民食とも言えるラーメン店が駅前にないのはおかしい」と矛盾を感じていたこともありました。挑戦してみると、そこには宝の山がありました。

若松 家賃の高い駅前立地を軌道に乗せたポイントはどこにあるのでしょうか。

神田 家賃を回収するには長時間営業が欠かせませんが、同業のほとんどは個人経営のため福利厚生の整備がネックになっていました。当社はそこに力を入れたことで、チェーン展開を進めることができました。

若松 早くから加工工場を持つなど、仕事の分業を進めた点も、チェーン展開やローコストオペレーションの原動力となっています。セントラルキッチンという言葉すらない時代でしたが、比較的早い時期に工場を建設されましたね。

神田 工場をつくったのは1986年、まだ3店舗しかない時期でした。大宮でラーメン店を経営しながら駅に向かう人を観察すると、お弁当を持って電車通勤している人がだんだんと減っていることに気付きました。そこに商機があると思い、社長(高橋均氏)と弟(現顧問・町田功氏)に「それぞれが店を経営するのではなく、組んでやれば生活の基盤は十分につくれる」と話したところ、2人は残ってくれました。この決断が全ての始まりです。私はお金を借りて勝負するのが好きでしたが商品開発には暗かった。そこで、味や商品にこだわる現社長には商品開発を担当してもらい、地道にコツコツやる弟には工場を任せたところ非常にうまくいきました。いつも「ここで終わらない」「もっと店を増やしていこう」と3人で話し合いながら事業を進めてきたことが今につながっています。

リーダーの決断が企業の成長を決定する

若松 屋台や弁当といった、誰にでも見えている風景を見逃さない点が素晴らしい。特に、逆風に立たされた屋台を見てほとんどの人は「屋台の時代は終わった」と考えますが、顧客の動きに着目されるところに卓越した経営センスがうかがえます。

神田 格好良く言えば、世の中の流れ、風を捕まえたということかな(笑)。もちろん、クルマ社会がもてはやされる時代に駅前出店するのだから、金融機関からは「ばかげている」と反対されましたよ。でも、私は屋台のお客さまに懸けてみたかった。企業の存続は経営者の決断にかかっています。決断してから半年や1年で正しいかどうかは分かりませんが、5年、10年たつと見えてきます。社長がどのような決断をするかが成長を決定付けると私は考えます。

若松 決断は社長にしかできません。決定と決断は違います。情報が豊富にある中で決めるのは決定、決断は情報不足の中で行うため難しい。決断の起点をどこに置いているのでしょうか?

神田 勘でしょうね。正直なところ経営は勘だと思いますし、それは逆転の発想の中にあるように感じています。人が行かない道にこそ、チャンスがあります。

若松 決断の起点が逆転の発想にあるというのは、非常に興味深いお話です。みんなが反対する尖った発想によって新市場が生まれた事例は枚挙にいとまがありません。反対に、役員全員が賛成するような挑戦は成功しないものです。全て逆を行けば成功するわけではありませんが、逆から見ることは決断する上で価値があります。

神田 以前、テレビでアネハヅルの生態を追ったドキュメンタリーが放映されていました。アネハヅルの群れは日本を離れるとヒマラヤを超えて何千㎞も旅をします。ですから、群れのリーダーは最も良いタイミングを選びます。逆風のタイミングを選べば体力を消耗して目的地までたどり着けませんから。これは企業経営と非常に似ています。世の中の流れに沿っていない決断をした会社の社員はかわいそうですよ。同業にも成長している会社と低迷している会社がありますが、どちらの会社の社員も一生懸命働いています。しかし、経営者が決断を誤れば成長を続けることなどできません。

若松 おっしゃる通りです。戦略の失敗は戦術ではカバーできません。ですから、経営者の勘は企業の将来にとって非常に重要です。

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日高屋定番メニューの「中華そば」390円と「餃子」230円(6個)。関東1都5県で約400店舗を展開する

消費者の心をつかむ「ちょい飲み」

若松 それにしても、会長は世の中を非常によく見ていらっしゃいます。ここ数年、日高屋が提唱する「ちょい飲み」というキャッチフレーズも、時代の変化を鋭く射抜いています。

神田 「ちょい飲み」も、発想は同じです。昔は、給料日になると終電時間まで目いっぱい飲む人が大勢いました。給料日の翌日は駅周辺を掃除しなければならないほどでしたが、今では掃除することがぐっと減りました。給料日に目いっぱい飲むというより、毎日軽く飲んで家に帰る人が増えていますから、「ちょい飲み」がちょうどよい。大宮は単身赴任で来ている証券会社の社員や銀行員が特に多い地域ですが、そういう方々に「日高屋は転勤族に絶対必要な店」と言っていただいています。家に帰って1人で飲むのは味気ないですからね。

若松 つまみになるメニューも充実していますし、1000円程度でビールとつまみが頼める価格設定も単身赴任者のニーズに合っています。

神田 お客さまから飽きられないように、社長(高橋氏)がさまざまなメニューを開発してくれて、とても助かっています。企業は、1人では大きくできません。

若松 チームの力ですね。それぞれの強みが集まることで、より大きく成長していく好例です。新業態の「焼鳥日高」はすでに24店舗に広がっています。今後は上場も視野に入れて拡大されていくのでしょうか?

神田 焼き鳥店を始めたきっかけは社員の福利厚生です。主力のラーメン店は重労働ですから、働き盛りを超えた社員のために、比較的に軽作業で運営できる新業態を始めました。実際にやってみると、立ち飲みスタイルは立地によっては大きなニーズを秘めており、上場も夢ではないと考えています。

若松 軽く飲みたい時など、立ち飲みは私も好きなスタイルです。消費者の立場から見ても、立ち飲みのニーズに応える業態として焼き鳥はとてもマッチしています。

神田 同様の店には儲けのためにビールの値段を上げる店が多いですが、このビジネスで大事なことは安くすること。ビールはどこの店で飲んでも同じ味ですからぐっと値段を下げて、その分、おいしいつまみを開発して付加価値を付けていくのが良い戦略だと私は思います。

若松 味が同じビールは価格で差別化を図る一方、つまみは味で差別化して付加価値を高めていく。払う金額が同じくらいなら料理がおいしい方を消費者は選びますから、今後も広がっていくでしょう。

神田 「大衆酒場HIDAKA」を今年(2018年)7月に開店しました。昭和初期の感じをイメージして、ちょうちんには「めしと酒」。600店舗規模になると店舗がバッティングしてきますが、業態を変えれば既存店の近隣へ出店が可能になります。競合の出店から防衛する意味でも、店舗数を増やしていこうと考えています。

若松 大衆酒場なのに、あえて「HIDAKA」というローマ字表記をするところなど、遊び心が詰まっていて魅力を感じます。ミスマッチにすることで、世代によっては懐かしく感じたり、新しさを感じたりできるところが面白い。「ちょい飲み」もしかり、会長のネーミングにはブランド化できる力があります。

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日高屋を大きくしてくれた社員にまず恩を返したい。

社員を大事にする当たり前の経営に徹する

若松 既存店に加えて新業態の成長も大いに期待されますから、目標に掲げる600 店舗の達成も遠くないでしょう。会長は一代で国内屈指の外食チェーンを築かれましたが、経営者として大事にすることは何でしょうか?

神田 時代は回っていますから長く続くかは分かりません。ただ、能力のない私がここまでこられたのは社員のおかげです。ですから近々、頑張ってくれた社員に私の株を進呈したいと思っています。例えば、10億円であれば100万円ずつを1000人に渡すことができます。社会貢献として学校や病院を建てる経営者を立派だと思いますが、私は日高屋を大きくしてくれた社員にまず恩を返したい。それが順序だと考えています。

若松 会長の気持ちが行動からも伝われば、社員はうれしいでしょうね。「人を大切にする」と言う経営者は多いものの、行動となるとなかなか難しいものです。

神田 当社の勤務時間が朝9時から夕方5時までという、一般的な企業の形だったらこのようなことは考えなかったかもしれません。ただ、実際に社員が朝まで店舗を営業して、大変な思いをしながらここまで会社を大きくしてくれました。だから、返すのは当たり前です。自然なことだからちっとも良いことをしている感覚はありません。

若松 直接の目的ではありませんが、社員のモチベーションが上がれば顧客にも喜ばれ、業績はさらに上がります。上場企業として株価が上がれば、社員が豊かになって幸せになる好循環につながっていきます。

神田 「お金を儲けよう」ではなく、「一緒に働いている人を幸せにしよう」と思って働くと、会社は大きくなって儲かっていくもの。今の業績は当たり前のことを続けた結果です。当たり前のこととは、社員を大事にすること。もちろんパート社員も大事にする。当社は、パート社員にも賞与がありますし、年に1度は感謝祭としておいしいものを食べてもらいます。そして、お客さまに感謝すること。私は、田舎から出てきてラーメン店を始めたこともあって、お客さまに来ていただけることが本当にありがたい。この思いは社員にも共有されていますし、顧客を大事にする姿勢が企業文化として根付いています。今は組織の規模が広がる中、この当たり前の経営をきちんと残していくことが課題だと感じています。

若松 タナベ経営の創業者・田辺昇一は生前、「儲かるは道、儲けるは欲」とよく言っていました。会長のお話を聞いていると、その言葉がよみがえってきました。変わらない当たり前の経営と、時代の流れを読む新しい挑戦で、ますますのご活躍を祈念しております。本日はありがとうございました。

㈱ハイデイ日高 代表取締役会長 神田 正(かんだ ただし)氏
1941年、埼玉県生まれ。中学卒業後、本田技研工業などに勤めた後、ラーメン店で働く。1973年に大宮市(現・さいたま市)内にたった1人でラーメン店「来来軒」(当時の名前は「来々」)を開店。1978年に日高商事( 現・ハイデイ日高)を設立、代表取締役社長に就任。1984年に大宮市にセントラルキッチンを開設、業界の常識を覆す「職人不要のラーメン店」づくりに着手。1993年に都内1号店を出店。1999年、ジャスダック(現・東証JASDAQ)に上場。2005年に東証2部、2006年に東証1部に上場。2009年代表取締役会長に就任。

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ・たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

PROFILE

  • ㈱ハイデイ日高
  • 所在地:〒330-0846 埼玉県さいたま市大宮区大門町 3-105 やすなビル6F
  • TEL:048-644-8030
  • 設立:1978年
  • 資本金:16億2536万円
  • 売上高:406億4300万円(2018年2月期)
  • 従業員数:872名、パート・アルバイト社員約8600名(2018年5月現在)
  • 事業内容:飲食業「日高屋」「焼鳥日高」「来来軒」
  • http://hidakaya.hiday.co.jp/

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イノベーションのために必要な たった一つのこと

どこでイノベーションを学ぶか

ビジネスの世界に限らず、世の中の全ての発明や革新はゼロから生まれていない。イノベーション(Innovation)ではなく、"レボリューション"(Revolution)と呼ばれる18世紀後半の産業革命でも、その原動力となった蒸気機関や紡績機などは、英国をはじめとする欧州各国で中世より蓄積された製造技術によって生まれている。その意味では、どこからどのようにビジネスモデルやイノベーションを学ぶのかが重要な着眼となる。

学びやすい同業界からの学びは改善(Improvement)レベルからなかなか脱し切れず、模倣(Imitation)で終わってしまうことが多い。もちろん、自社が同業他社に大きく差をつけられている場合は、同業界からの学びも有効で意義があり、そのレベルに達することは大切だ。しかし、学びやすい同業界のモデルは、同業他社にとっても学びやすく、模倣がしやすい。

ただし、同業界からの学びでも、イノベーティブな展開が可能なケースはある。それは海外の先進事例からの学びだ。日本は島国であり、日本人は英語をはじめとする外国語の習得が苦手な傾向にあるため、ボーダーレス化した情報時代において後れをとりやすい。つまり、その中で海外先進事例を国内でいち早く取り入れることができれば、限定された日本という特定市場の中でイノベーター(革新者)になり得る。

自社に取り入れる学びは、遠ければ遠いほど難しくなる半面、成功すれば簡単に模倣されることはない。つまり異分野―異文化・異業界・異業種―の事例は、イノベーションにとって最良の学びとなる。


異質との接触と融合が起点となる

ビジネスモデルのイノベーションと、組織風土のイノベーションには、共通したアプローチがある。それは異質からの学びだ。異質との接触と融合は、常にイノベーションの源泉となる。

例えば、"暗黒時代"と呼ばれるほど文化的に停滞していた中世ヨーロッパで、ルネサンスが起こったきっかけは、他ならぬイスラム文化との接触がきっかけであった。また、日本が明治維新という革命によって、近代化に成功していくきっかけは、海外列強といわれる欧米諸国との接触だった。

ビジネスモデルイノベーションのアプローチが異分野からの学びであるとすれば、組織風土イノベーションのアプローチは異質な組織や人材との接触にある。純粋培養で同質化した人材だけでイノベーションを起こすのは難しい。異質・異端・異能の人材を積極的に既存の組織へ取り入れることによって、新たな視点、新たな気付き、新たな知見が得られる。

最初の段階では既存の人員とのコンフリクト(意見・感情・利害の衝突)が生じるものの、それがいわゆる化学反応として作用し、通常とは異なる結果が生まれる。人は同質の仲間たちと行動を共にすると、あうんの呼吸で仕事ができるし、スムーズにコミュニケーションもとれる。そこへ異質な人材が入ると、あうんの呼吸は乱れ、足並みをそろえるための説明や説得に時間がかかる。

しかし、これが大切なのである。あうんの呼吸で物事が進んでいく組織では、確かに業務の効率化は進むかもしれないが、イノベーションは起こらない。

異質な人材の受容を意味する言葉として、近年、「ダイバーシティー」(Diversity、多様性)がよく使われる。ダイバーシティーは、企業マイノリティー(少数派)の女性や外国人を差別することなく受け入れるという義務や、新卒採用で応募者数を増やすための手段という消極的な捉え方をされることがある。

しかし、ダイバーシティーは企業成長の起爆剤ともなるし、イノベーションを起こす源泉ともなるため、積極的に推進するべきだ。実際、イノベーティブな組織では、女性がいきいきと活躍し、さまざまな国籍の外国人社員が会議で活発に議論している。私も仕事柄、多種多様な企業の会議に参画するが、中高年男性だけの会議と、女性や外国人が入り交じった会議では、議論の深さや提案の切り口、質疑応答の中身が大きく異なる。

同質化した集団の中では、「暗黙の了解」や、周囲の雰囲気を察知して意見や行動を控える「空気を読む力」が備わってくる。そうした組織で最も懸念すべき点は、重大な問題が隠れてしまうことだ。誰も指摘できずに言い淀んでいる限り、その問題の根本は解決されず、表面上だけの話し合いとおざなりの対策で終わってしまう。その点、異質な人材は場の空気を読まず、疑問に思ったことは率直に口にし、問題提起をする。これがイノベーションの原動力となるのだ。

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組織風土イノベーションのための3つの実践

イノベーションとダイバーシティーは密接な関係にあり、組織風土イノベーションのためには、次の3つの実践が有効だ。

(1)異質な人材との交流

異質・異端・異能の人材との交流が、組織に新しい風を吹き込み、変革を生み出す鍵となる。女性(女性が多い職場は男性)、外国人、若手、中途入社者などの積極的な採用と活用が重要である。ここでさらに大切なことは、職務や役職階層にかかわらず、彼・彼女らに活躍の場を与えることだ。

特に、業歴が古く、同質化が根付いている組織では、性別や国籍、年齢などに対して一種の固定観念があり、多様な人材を擁しながら職務や役割を限定してしまうケースが多い。そうすると、結局は組織内でその属性に応じたボーダーを築くことになり、多様性のある採用を行っているにもかかわらず、多様性が生み出す成果を享受できない。

(2)異質の業務体験

新卒入社から定年まで、社員に一貫して営業畑や技術畑、経理畑を歩ませるケースが大企業でもある。社員は特定部門・地域の専門的な知識と技能を習得することはできる半面、一方向からしか企業を見ることができない。偏った業務経験を持った社員ばかりだと、イノベーションは難しい。さまざまな部門や地域で多くの業務を経験させることが望ましい。現実的に人手不足や効率性の問題で人事異動などが困難な場合、プロジェクトの組成による異質体験の場を創出するとよいだろう。

(3)異質の業界との接触

異質な異業種・異業界からの学びが大切だ。経営者・経営幹部などのトップ・マネジメント層は、積極的に外の世界へ目を向けなければならない。現状の自分の業界とはすぐに結び付かないかもしれないが、先進国や急成長している新興国、最先端技術や街の流行、まったく接点のない業界や業種といった世界に好奇の目を向け、現場にまで足を踏み入れる。企業はトップの器以上に大きくならないといわれる。トップ・マネジメント層が、自らの世界を広げ、多様な価値観を持たなければイノベーションなど起こせない。現地・現品・現実を重視する三現主義の精神で、多様なフィールドワーク(実地研究)を実践することが重要である。

イノベーションは、起こしたいと願うだけでは起こらない。積極的にボーダーを壊し、異質なものとの接触を経験してみてほしい。イノベーションのために最も大切なこと、それは「異質からの学び」なのである。

タナベ経営 経営コンサルティング本部 東京本部 副本部長 村上 幸一
  • タナベ経営
  • コンサルティング戦略本部 東京本部 副本部長
  • 村上 幸一
  • Koichi Murakami
  • ベンチャーキャピタルにおいて投資先企業の戦略立案・マーケティング・フィージビリティースタディーなど多角的な業務を経験。タナベ経営に入社後も豊富な経験をもとに、マーケティングを軸とした経営戦略の立案、ビジネスモデルの再設計、組織風土改革など、攻守のバランスを重視したコンサルティングを実施。高収益を誇る優秀企業の事例をもとにクライアントを指導している。中小企業診断士。

ビジネスモデルイノベーション研究会

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異分野のイノベーションを知ることが、変革に繋がる

ビジネスを成功させるためには精緻で、かつ他社にない独創的なビジネスモデルの構築が必要です。
タナベ経営ではビジネスモデルを複数の要素に分け、それらの要素を定義づけた体系図を「ビジネスモデル・コンポジション」と呼んでいます。
当研究会は、このビジネスモデル・コンポジションの考え方と様々な秀逸なビジネスモデルを持つ企業の現場を「体感」する機会を提供することで参加企業様のビジネスモデルイノベーションのヒントをご提供いたします。

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