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今週のひとこと

会社の命とは、社会における存在価値

である。わが社の存在価値を再点検

しよう。

☆ 自社が解決する社会課題は何か

 「モノ余りのコト不足の時代」「消費者ニーズの多様化」などと言われて久しいですが、経営者の皆さんは、今の世の中がどうなっているかを認識しているものの、具体的にビジネスモデルをどのように変革させていくかについては模索されているのではないでしょうか。
 特に、ニーズの多様化に関しては、消費者側にも多くの情報があり過ぎて、本当に欲しいものが何かを分かっておらず、企業側もターゲットとなる消費者がどのような価値観を持ち、何に対して価値を見出すのか仮説すら立てられていないケースも少なくありません。

 消費者が商品を購入するとき、一番の購入動機が価格や品質であることは従来と変わりはありません。ただし、価格や品質に大きな差が無い場合、消費者はその商品を生産している企業や、販売している企業が、どのような社会貢献をしているか、という視点で選んでいるケースもあります。

 筆者がある企業の社長から伺った話ですが、その企業は農作物の生産・販売と、福祉施設の運営という2つの異なる事業を展開しています。これは、農業側の問題と福祉側の課題を掛け合わせて協力し、解決していくという「農福連携」というビジネスモデルであり、担い手が不足している農業と、障害者の就業率の低い福祉業界の課題を解決するというものです。それぞれの業界の課題を解決させた結果、生産した米は1kgあたり市価の約1.6倍の価格で、野菜は市価の約1.2倍の価格で販売することができているそうなのです。この結果は、同社が解決している社会課題に消費者が共感し、障害者が無農薬・無肥料の自然栽培で育てた農作物に対して価値を見出していることの表れではないでしょうか。

 皆さんも今一度、「自社が解決する社会課題は何か」を再考し、ビジネスモデルを再設計してみましょう。

経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント
井上 禎也

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学校の教育改革で生まれる"新人類"

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タナベ経営
経営コンサルティング本部
部長 戦略コンサルタント
細江 一樹 Kazuki Hosoe
「人事制度で人を育てる」をモットーに、制度構築を通じた人材育成はもちろんのこと、高齢者・女性の活躍を推進する制度の導入などを通じ、社員総活躍の場を広げている。人を生かす独自のアイデアを数多く生み出し、ソフトな語り口での提案と、本質をズバリ提言するコンサルティング展開で、クライアントから高い評価を得ている。

学校がつぶれる!?

現在、日本の学校は「危機」に瀕している。一般的な大学進学年齢である18歳(男女)人口は、この10年ほど横ばいで推移(120万人程度)してきた。ところが、2018年から減少傾向へ転じるとみられており、教育現場を騒がせている。これが、いわゆる「2018年問題」である。(【図表1】)

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【図表1】18歳(男女)人口と国公私立大学数の推移
※18歳人口は2027年以前が文部科学省「学校基本統計」、28年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(出生中位・死亡中位)」を基にした推計値
出典:文部科学省「学校基本調査」および「高等教育の将来構想に関する基礎データ」

今後、進学率が特段伸びるとは考えられない。従って、大学間で入学生の取り合いとなり、私立大学(以降、私大)を中心に淘汰が進むことだろう。すでに私大では定員確保に苦しむ状況を迎えつつあり、入学定員充足率(2016年時点)が100以上の私大は55.5%と半数程度にとどまっている。(【図表2】)

【図表2】私立大学における入学定員充足率の推移 出典:首相官邸 まち・ひと・しごと創生本部/地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議(2017年4月18日)「基本資料(入学定員等の状況)」
【図表2】私立大学における入学定員充足率の推移

出典:首相官邸 まち・ひと・しごと創生本部/地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議(2017年4月18日)「基本資料(入学定員等の状況)」

文部科学省の外郭団体「日本私立学校振興・共済事業団」が実施した経営診断調査(2017年度)によると、私大914校(短大などを含む)を運営する全国662法人のうち経営困難な状態にある法人は103法人(15.6%)に上った。内訳は、2020年までに破綻の恐れがある「レッドゾーン」が17法人(2.6%)、21年度以降に破綻の恐れがある「イエローゾーン」は86法人(13.0%)であった。

国立大学も状況はそう変わらない。国からの運営費交付金は2004年の独立大学法人化後、毎年1%ずつ縮小している。10年間で総額は約1兆2400億円から約1兆1100億円へと約1300億円も減額した。国立・私立にかかわらず大学経営の効率化が急務となっている。

「戦後最大の教育改革」迫る

現在、国が教育改革に取り組んでいることをご存じだろうか。「戦後最大の教育改革」といわれており、ビジネス誌でもたびたび特集が組まれているほどだ。なぜ、いま教育制度改革なのか。社会を生き抜くために必要な能力が、これまでと変わってきているからである。そのため、変化の激しい複雑な時代を生きる子どもが、社会の中で活躍できる資質、能力を育成することに教育方針の軸足を置こうとしているのだ。

具体的には、文科省は育成すべき資質・能力の3つの柱を「学びに向かう力・人間性等」「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」と定め(【図表3】)、これらをベースにした教育が行われるようになる。

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【図表3】育成すべき資質・能力の3つの柱

この教育改革のポイントを3つお伝えしたい。1つ目は、教育のアプローチが変わるということだ。例えば、最近よく耳にする「アクティブラーニング」が導入される。従来の受け身型の授業から転換し、子どもたちは調査学習やグループワークなどを通じて主体的・能動的に授業に参加する。

2つ目は、教育カリキュラムが変わるということだ。従来の教育は「学んだことをきちんと理解しているか」という知識習得に評価のウエートが置かれていたが、今回の改革では知識習得だけでなく、思考力や判断力、表現力といった「理解した知識をどう使うか」に大きなウエートが置かれるようになる。民間企業の一般的な人事評価制度では「思考力」や「判断力」などの優劣が評価されるが、学校現場はそれらの教育が不十分であった。

また、履修科目も大きく変わる。一例を挙げると、小学校では3年次から英語教育活動がスタート。コンピューターに意図した処理を指示するためのプログラミング教育も必修化される。

3つ目は、大学入試の仕組み自体の変化だ。こちらは新聞などでも騒がれているので、ご存じの方も多いかもしれない。従来のセンター試験がなくなり、「大学入学共通テスト」が新設される。センター試験はマークシート方式が主だったが、記述式の問題が一部導入されるほか、英語では「読む・聞く・話す・書く」の総合的な能力も求められる。前述した思考力・判断力・表現力が問われるようになる。(【図表4】)

【図表4】大学入学共通テスト(新テスト)の概要 出典:文部科学省「大学入学共通テスト実施方針」を基にタナベ経営作成
【図表4】大学入学共通テスト(新テスト)の概要

出典:文部科学省「大学入学共通テスト実施方針」を基にタナベ経営作成

企業は日々刻々と変わる市場に応じて、人に求める能力(人事評価)を変えてきた。一方、日本は「高校で習うこと」「入試で問われること」「大学で学ぶこと」がそれぞれ違い、社会が求める教育ニーズとの乖離が広がった。そこで高校教育・入試制度・大学教育を一体的に改革(高大接続改革)するため、新しい教育が始まるということである。

これは見方を変えれば、従来の教育システムで育った私たちが、それとまったく異なる教育システムで育った子どもたちに「教える」ということが、容易にできなくなる時代が目の前に迫っているのだ。

学校と企業の間に横たわる「溝」

いま、学校と企業の間には、大きな溝が横たわっている。働き手不足による就職戦線の「売り手市場」である。学生は競争率の高い超一流企業を目指さない限り、さほど努力をしなくてもどこかの企業から内定がもらえる。学校側の視点で言えば、「就職率100%」という実績は、もはや学生を集める売り文句にもならない。

学校経営を安定させるには、受験生にPRするための売り文句と魅力的なカリキュラムがいる。「わが校を卒業すれば、今の社会で必要なスキルを備えたこんな人材に育つ」といったことだ。しかし、私たち教育・学習コンサルティングチームは、「企業からの要望の声(こういう学生を育ててほしい、など)が届かない」という学校経営者(理事長)の不満をよく聞く。

企業側は新入社員の絶対数を確保するため、自社の採用基準に満たないレベルの学生であっても、やむなく内定を出している現状がある。入社後の社員教育で対応しようとしているのだ。売り手市場で学生を集めることが第一優先のため、企業側は学校側へ「こんな学生が欲しい」と注文を出すことを遠慮しているのだろう。

だが、学校側は「こういった人材を育て、社会に輩出してほしい」という企業の具体的な声を必要としているのだ。

私たちは"新人類"にどう対処すべきか

私たちは、これまでとは異なる教育を受けた学生をしっかりと受け入れることができるだろうか。また、受け止める土壌はあるだろうか。

経営者や人事担当者と話をすると、「叱ると、すぐに辞めてしまう」「コミュニケーションが取れない」「何を考えているか分からない」といった若者への不満をたびたび耳にする。教育改革前ですらこのような声が上がるのに、教育改革以降の"新人類"を受け入れるのは、さらに難しいことが容易に想像できる。

では、経営者はどうすればよいのか。まず、学校や教育の現状に関して、もっと感度を上げることである。これまでの経営者は、「偏差値」しか学校の判断基準を持ち合わせていなかった。しかし、その時代は終わろうとしている。私たちは、学校のこと、教育改革のことにもっと興味を持ち、学校とのコミュニケーションを活性化すべきだ。前述したように、学校に遠慮・迎合するのではなく、しっかりと向き合い、言うべきことは言えるような関係を構築していくことが求められる。

私は経営者に「学校教育を知らずして、社員教育を組み立てられますか」と伝えている。ぜひ、将来の新入社員のために学校教育を研究し、そこから社員の教育プランを策定することをお勧めしたい。

学校教育と企業教育を正しくつなげていくことが、何よりも求められるのだ。

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子どもの保護者の関心事は、入試より"支出"
幼稚園~大学の1人当たり教育費最大約「2578万円」

このほど「リクルートマーケティングパートナーズ」がまとめた、全国高等学校PTA連合会との合同調査結果によると、高校2年生の保護者が特に重要だと考えている進学情報(複数回答)のうち、最も選択率が高かったのは「進学費用」(55.3%)だった。「現在の入試制度の仕組み」(50.3%)や「将来の職業との関係」(43.8%)を上回ったという。

子どもの進学検討時における保護者の最大の関心事――それは合格させるための入試対策ではなく、合格した後の資金繰り対策である。「教育資金」「住宅資金」「老後資金」が人生の三大資金といわれる中、教育にかかるお金は現在どれくらい必要なのだろうか。

文部科学省が隔年実施している「子供の学習費調査」によると、幼稚園から高校までの15年間に要する学習費総額(2016年度)は、全て公立に通った場合が約540万円、全て私立の場合は約1770万円(【図表1】)。公立は14年度から上昇傾向にあるが、私立は横ばいである。公私比率は3.28倍とやや縮小した。

【図表1】幼稚園~高等学校の15年間(3~18歳)の学習費総額推移 出典:文部科学省「子供の学習費調査」
【図表1】幼稚園~高等学校の15年間(3~18歳)の学習費総額推移

出典:文部科学省「子供の学習費調査」

保護者が1年間に支出した子ども1人当たりの学習費(16年度)を学校種別に見ると、幼稚園が公立23.4万円・私立48.2万円、小学校は公立32.2万円・私立152.8万円、中学校が公立47.9万円・私立132.7万円、高校(全日制)は公立45.1万円・私立104万円となっている。(【図表2】)

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【図表2】学校種別の1人当たり年間学習費総額(2016年度)
出典:文部科学省「子供の学習費調査」

このうち小・中学校は公私立ともに前回調査(14年度)からほぼ横ばいだが、公立幼稚園は学習塾や習い事などの「学校外活動費」が11.1%増と大きく伸び、支出額全体でも5.3%増加した。一方、私立幼稚園は「学校教育費」(入学金や授業料、各種納付金など)と「学校給食費」、学校外活動費のいずれも減少し、調査開始以来、最も少ない支出額となった。

また、高校は公立が10%増、私立も同4.5%増とそれぞれ増加した。公立の増加要因は、14年度入学者から授業料無償制度が廃止され、所得制限(年収約910万円未満)を設けた「高等学校等就学支援金制度」へ移行したことで、授業料を負担する保護者が増えたためとみられる。私立の増加要因は、学校外活動費が大きく増加(11.7%増)したことによるもの。第1、2学年での支出額の増加が目立ち、大学受験に向けて金額が最も大きくなる第3学年との支出差が縮小傾向にある。

ところで、文科省の調査は大学の学費がない。では国公私立大学を含めると総額はいくらになるだろうか。日本政策金融公庫が今年2月にまとめた調査結果によると、子ども1人当たりの大学4年間の費用(入学金を含む、17年度)は697.2万円(【図表3】)。大学別では、私立理系が807.8万円、同文系は738.1万円、国公立503.2万円だった。文科省の支出額を合算すると、幼稚園〜大学まで全て公立に通った場合は約1043万円、全て私立の場合は文系約2508万円、理系約2578万円となる。

【図表3】子ども1人当たりの大学入学~卒業までに必要な費用 出典:日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果」
【図表3】子ども1人当たりの大学入学~卒業までに必要な費用

出典:日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果」

ちなみに同庫が算出した、世帯年収に占める在学費用(子ども全員にかかる小学校以上の費用合計)の割合は平均15.5%となり、2年連続で減少した(【図表4】)。近年の景気回復や国・地方自治体による負担軽減策を受け、"教育エンゲル係数"は低下傾向にある。

【図表4】世帯年収に占める在学費用(子ども全員にかかる費用合計)の割合 出典:日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果」
【図表4】世帯年収に占める在学費用(子ども全員にかかる費用合計)の割合

出典:日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果」

とはいえ、教育費の家計負担は依然重い。ソニー生命の調査(今年1月)で教育費の負担を重いと感じる保護者が7割強もいた。ただ、「子どもの学力や学歴は教育費で決まる」との回答も6割を超え、3人に2人が「教育はオカネ次第」と考えている。負担は重いが子どもの将来を考えると削れない。そんな親心が高額の教育費を支えている。

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