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今週のひとこと

真の幹部とは指示を待つだけの
管理者ではない。
社長の分身、部門経営者である。

☆ 幹部社員が育たないと嘆く前に...

 「幹部社員が、なかなか育たない」。
 経営者からよくお伺いする悩みの一つです。

・幹部として全社方針や部門目標を達成するための模範となっていない。
・方針や目標を十分に理解していない。
・部下の繁忙度を把握していないなど、仕事を見ていない。
・部下に仕事を任せることができない。

 ―などの悩みを解決するための幹部社員育成の場に、筆者は立ち会う機会が多いです。

 実際に現場を見て感じることは、幹部社員として、まだまだ課題が多いメンバーも少しはおられますが、大多数のメンバーが自社の課題解決に前向きに取り組み、幹部社員として高い素養を備えているということです。
 既述の、「幹部社員が、なかなか育たない」という経営者が抱える悩みと、現場とのギャップは、どこから生じるのでしょうか。

 ここで筆者が問いたいのは、「成長しないのは幹部自身の意識の持ち方が原因」と決めつけていないか、ということです。
 例えば、全社方針や部門目標の理解と実践については、経営陣だけで策定した方針や部門の目標を、各部門長に伝達し全社員への徹底を促すよりも、それらの策定段階から幹部メンバーを参加させることで、実務だけでは身に付けることが難しい「経営の視点」が、より醸成されるようになるでしょう。最近では、中堅リーダーによる「中期ビジョン策定プロジェクト」や、若手社員による「働き方改革プロジェクト」など、経営者直轄の組織横断型小集団活動を取り入れる企業が増えてきました。
 自社に適したスタイルで、幹部メンバーも経営参画させることで、自ら育つ土壌を整備していくことが必要ではないでしょうか。

経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント
熊代 一毅

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先端技術の活用が人材不足の課題解決につながる

タナベ経営
経営コンサルティング本部 部長
尖端技術研究会 リーダー
森重 裕彰 Hiroaki Morishige
「問題解決の鍵は全て現場にある」を信条に、誰もが納得できるように見える化ノウハウを駆使して、クライアントの問題解決の支援を行う。自身の職務経験を生かした現場改善のアドバイスにも定評があり、製造業のクライアントを中心に、経営視点からの具体的な改善策における成功事例を多数持つ。

先端技術が巻き起こす創造的破壊イノベーション

先端技術はいつの時代も、創造的破壊イノベーションを起こしてきた。

例えば、直近の例で言えばITが挙げられる。1990年以降のインターネットの進歩によって、EC(電子商取引)市場が拡大した。その半面、小売市場や卸売市場が縮小した。また、デジタル技術が発達してデジタルカメラが普及すると、銀塩カメラとフィルム市場が大幅に縮小した。そして、カメラ付き携帯電話が登場すると、デジタルカメラ市場が縮小してきた。

先端技術による創造的破壊は、これからも市場環境を大きく変化させていくだろう。すなわち、今後10年間に起こる技術革新は、これまでの常識が覆される変化を生み出すことになる。しかも、それはある日突然に訪れるのではなく、すでにいま起きていることが多い。

現に、量産対応可能な3Dプリンターが登場しており、複雑な形状の製品でも、金型を製作することなく大量生産できる時代となった。ある企業は、「金型で生産していた時は、仕様の発注を3カ月前までに行わねばならなかったが、3Dプリンターでの大量生産が可能となってからは、ギリギリまで設計の検討ができるようになった」とのことである。

先端技術を導入することで既存技術が置き換えられ、その結果、さまざまなメリットが生まれている。先端技術を導入する企業が増えるほど、導入に必要な費用の単価が下がり、普及スピードも加速する。初めのうちはスピードが緩やかでも、「クリティカルマス」(ある商品・サービスが一気に普及する分岐点=市場普及率16%)を突破すれば、爆発的に普及する。

技術の変遷を押さえることが成長戦略につながる

世界最大の産業である自動車産業がいま、100年に一度の変革期を迎えている。変革のポイントは「CASE」である。これはC(コネクテッド、つながる)、A(オートノマス、自動運転)、S(シェアリング、共有化)、E(エレクトリシティー、電動化)のそれぞれの頭文字を取った造語だ。

例えば、電気自動車の台頭により、内燃機関自動車の部品点数が4割減少するといわれている。従って、既存の延長線上の事業を続ける自動車部品メーカーでは、必然的に仕事を失う企業が出てくるだろう。

また、シェアリングの切り口で考えると、世界規模で急成長しているUber(ウーバー)が創造的破壊イノベーションを起こしている。Uberはスマートフォン(以降、スマホ)を用いた配車システムで、一般の人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを構築。米国の都市部では、すでにイエローキャブ(タクシー)を見掛けることが少なくなるほど普及している。不足・不満・不安など、タクシーにまつわるさまざまな"不"を解決したからこそ、Uberのようなイノベーションが起きたわけだが、これはスマホをはじめとする技術なしには成し得なかっただろう。

とはいえ、こうした創造的破壊イノベーションの登場を、具体的に予測することは極めて難しい。人間は誰しも、未来を予言することはできない。だが、技術を中心にして市場が変化する以上、その変化はある程度、予想できる。今後10年、さまざまな技術革新が、これまでにないスピードで起こることが想定される。ほぼ確実に、市場の変化も伴うだろう。その変化は、既存のマーケットそのものを消滅させるかもしれない。

企業は「環境適応業」。環境に適応できない企業は淘汰される運命にある。この10年で起こり得る先端技術による大変革をよそ目に、成長戦略を組むことは難しい。従って、技術の変遷を押さえ、これまでに破壊された市場(事業)、今後縮小していくであろう市場(事業)を推測する必要がある。(【図表1】)

【図表1】破壊・縮小されていった(されていくであろう)市場・事業

 破壊・縮小されていった(されていくであろう)市場・事業

破壊・縮小されていった(されていくであろう)市場・事業

先端技術は人の仕事を奪うのか?

先端技術は"人の仕事を奪う"と誤解されがちである。確かに、「人にしかできない」と思われていた仕事が機械やシステムに置き換えられた事例は多い。例えば、米国の大手金融グループであるゴールドマン・サックスでは、2000年に600名在籍していたトレーダーが、現在2名だという。空いたポジションを埋めているのは、200人のコンピューターエンジニアによって運用されている「自動株取引プログラム」である。

また、ある製造企業は、品質管理における定型の品質チェック業務を全てセンサーによるデータ取得に置き換えた。毎日、複数人で行っていた仕事が無人で行えるようになったのである。

マヨネーズのトップメーカー・キユーピーも、近年は先端技術を用いて生産工場を進化させ続けている。その進化とは「品質検査工程のAIによる自動化」である。自然由来のものを原材料として使用する食品製造業では、調達する原材料の品質が製品の最終品質を左右することも多い。同社は従来、1日100万個以上流れるダイス型のポテトを一つ一つ、人の目で見分け、異物混入や不良品がないかを確認していた。

この品質確認の工程を、同社はAIが持つディープラーニング機能と画像認識機能によって自動化させた。2万個近い良品のダイスポテトの写真を10時間かけてAIに読み込ませ、品質チェック工程に取り入れたのである。結果、「良品ではないかもしれない」ダイスポテトは"異常"としてはじかれ、そのポテトを人の目でチェックするという工程に置き換えたところ、生産性は2倍になったという。

一見、人の仕事を奪ったように見えるが、裏を返せば、これまでの定型業務を機械やAIに任せることで、本当に人がすべき仕事に集中できる体制が整ったとも言える。すなわち、先端技術の本質は、"人のパフォーマンスを最大限に引き出すためのもの"なのである。

労働力不足を補うための先端技術

現在、国内企業が抱える長期的かつ深刻な課題は「労働力不足」である。2050年には生産年齢人口(15~64歳)が35%減少するといわれており、これまで100人でやっていた仕事を65人でこなさねばならない時代が必ず来る。従来、多くの企業では人の問題を人で補ってきたが、今後はそうもいかない。

私が今回、提言したいのは、「人の問題を技術で補う考え方へのシフト」である。ピンチをチャンスと考え、ライバルがまだ取り入れていない尖った先端技術を戦略的かつ積極的に取り入れる。労働力不足を技術でどのように補うか。これを前提としたビジネスモデルを描く必要がある。

日本のビジネスパーソンは得てして、発生している問題から出発し、その解決手段を考えるという手順を踏む。しかし、解決手段を考えてたどり着いた答えが"先端技術"ということでは、導入したところで遅すぎるのである。先端技術を単なる解決手段とは考えずに、「先端技術を前提としたビジネスモデルを描くこと」を検討してほしい。そうでなければ、激化しているグローバル競争を勝ち抜けないのだ。

「人員数ハーフモデル」を先端技術でデザインする

企業は、100人でやっていた仕事を50人でする「人員数ハーフモデル」をデザインすべきである。もちろん、これは"100人の社員を50人にリストラせよ"という意味ではない。50人分の仕事量を機械化やシステム化、AI化することによって、「人がすべき仕事に集中してできる環境づくり」に投資するということである。

これによって、現状の事業モデルや収益構造を大きく変化させ、競合に大きく差を付けられる高収益モデルを実現させることができるかもしれない。

AI、IoT、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)、3Dプリンター・スキャナー、ドローン、画像認識、協働ロボットなど、さまざまな先端技術の選択肢がある。どの技術も、基礎研究の段階はすでに卒業しており、応用研究の段階へと入っている。米国のベンチャー企業をはじめ、日本の老舗企業などにおいても、先端技術を商品・サービスに応用して、新たなビジネスモデルへと実用化する事業展開を推し進めている。どの技術を用いて、どのパートナーと組んでビジネスモデルを描くか。

人員数ハーフモデルを前提とした中で戦略を描いてほしい(【図表2】)。その先には、「働き方改革」や「1人当たり生産性の大幅改善」などが実現され、社員満足や社員の幸せを実現できるに違いない。

【図表2】人の問題と先端技術を組み合わせる

【図表2】人の問題と先端技術を組み合わせる

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AIは労働者の敵か、味方か
「AIの普及が不安」な労働者、わずか1割!!

AIは労働者の敵か、味方か


AIは労働者の敵か、味方か

技術の発展が職を奪う――。マクロ経済学では、テクノロジーやオートメーションの進歩によって労働者が職を失うことを「技術的失業」と呼ぶ。電話交換機の発明で電話交換手が職を失い、自動改札機が開発されて切符切りの駅員が消えた。電算写植の導入で印刷所から文選工や植字工が去った。

そしていま、新たに仕事を奪う先端技術と危惧されているのが「AI」だ。英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授とカール・ベネディクト・フレイ博士の共同論文(『雇用の未来』、2013年)によると、「今後20年間で米国の総雇用者の約47%の仕事は自動化されるリスクが高い」という。また、今年3月に死去した理論物理学者のスティーブン・ホーキング博士は「完全な人工知能の開発は、人類の生存に終止符を打つだろう」と警告。「AI脅威論」がかまびすしい。

少子高齢化による人口減少という「静かなる有事」が進行する日本。人手不足を補う存在としてAIへの期待が高まる一方で、急激な技術進歩に伴う大量失業・職業消滅への社会的懸念も高まっている。では、実際の労働者自身はどのようにAIを捉えているのだろか。

マクロミルが2017年9月に行った調査結果によると、「自分の仕事がAIに取って代わられると思うか」との質問に対し、「いいえ」と答えた人が6割に上った(【図表1】)。また、今年2月に日本労働組合総連合会(連合)が発表した調査結果でも、AIの普及が「不安である」と答えた人は1割程度にすぎず、半数以上の人は「期待している」と回答した(【図表2】)。AIの普及で「仕事が楽になる」と考える人が多く、失業への不安を訴える人は意外に少ない。
【図表1】自分の現在の仕事がAIに取って代わられると思うか (年代別)

自分の現在の仕事がAIに取って代わられると思うか (年代別)
出典 : マクロミル「AI(人工知能)に関する調査」(2017年9月12日)
【図表2】今後、AIが普及することに対してどう思うか (単一回答)

今後、AIが普及することに対してどう思うか (単一回答)
出典 : 日本労働組合総連合会「AI(人工知能)が職場にもたらす影響に関する調査」(2018年2月16日)

各機関がまとめたAIによる労働への影響面を見ると(【図表3】)、「労働人口の約半分の仕事が代替される」(野村総合研究所)、「従業者数が735万人減少する」(経済産業省)といったものから、「ただちに失業を意味するわけではない」(厚生労働省)や「自動化リスクの高い仕事は9%にすぎない」(OECD)などの試算もあり、見方が分かれている。必ずしも「AI普及=失業」というわけではなさそうだ。
【図表3】AIによる労働への影響

AIによる労働への影響

AIによる労働への影響
出典:厚生労働省労働政策審議会労働政策基本部会資料 「技術革新が労働に与える影響について(先行研究)」(2017年12月5日)を基にタナベ経営作成

P.F.ドラッカーは、企業にイノベーションをもたらすものの1つとして「人口構造の変化」を挙げている(『イノベーションと企業家精神』ダイヤモンド社)。人口の増減や年齢・性別構成、雇用状況などの変化にイノベーションの機会があるという。見方を変えれば人手不足はイノベーションのチャンスになるのだ。

過去のイノベーションを見ると、人手不足を補うために生まれていることが多い。例えば、自動電話交換機の発明だ。20世紀初頭、米最大手の電話会社AT&Tの調査部門が、15年後の人口と電話交換手の予測を行った。すると、20年後には17歳~60歳までの全ての女性が電話交換手にならない限り、交換業務の対応が不可能になることが分かった。そこで同社の技術者は自動電話交換機の開発に着手し、その2年後に手作業だった交換業務の自動化に成功した。これによって電話網が一気に拡大し、現在のIT産業へとつながり、高賃金と莫大な雇用を生み出した。

技術革新が起きると仕事の合理化が進み、人間の合理化が始まる。だが、同時に、従来はなかった職種が生まれるのも確かだ。AIの普及は、逆に職を増やすかもしれない。とはいえ、労働者がAIの知識を習得せず、今までの仕事のやり方に執着していると、業務手当どころか失業手当をもらうはめになりかねない。

先の連合の調査で、「現在のスキル・技術で(AIに)対応できると思うか」という設問に対し、「できないと思う」と回えた人が約7割(67.3%)もいた(【図表4】)。AIの普及でビジネスパーソンが危惧すべきは、失業ではなく、自身のスキルアップだろう。
【図表4】今後、自分自身がAIに関する知識・スキルなどの能力発揮を迫られる場合、現在のスキル・技術で対応できると思うか(単一回答形式)

今後、自分自身がAIに関する知識・スキルなどの能力発揮を迫られる場合、現在のスキル・技術で対応できると思うか(単一回答形式)
出典 : 日本労働組合総連合会
「AI(人工知能)が職場にもたらす影響に関する調査」(2018年2月16日)

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