image1

今週のひとこと

教育のポイントは、価値判断基準を教えることだ。

何が正しく、何が間違いか。
なぜそう判断し、結果がどうなるか。

これらを教えれば、部下は自ら考え、動くように育ってゆく。

☆ 教育改革によって生まれる「新人類」への対応に、企業はどう動くべきか

 現在、国が取り組んでいる教育改革はこれまでにない大規模なもので、「戦後最大の教育改革」とも言われています。教育関係者の皆さんは従来のセンター試験に代わり「大学入学共通テスト」が新設される、いわゆる大学入試改革が大きな関心事かと思いますが、変わるのは入試だけではありません。むしろ小・中・高の学習指導要領が大幅に改訂され、「2020年から2030年頃までの間、子どもたちの学びを支える」とうたわれています。

 なぜ今、教育改革が進められるのでしょうか。その背景には、社会を生き抜くために必要な能力がこれまでとは変わってきていることが挙げられます。企業は日々変化する市場を相手に商品・サービスを提供していますので、それに応じて働く人に求める能力も変わり、必然的に人事考課で評価される項目も変化してきました。
 一方、学校は学習指導要領に基づいた教育を行うため、実社会が求める教育ニーズとの乖離は広がるばかりでした。これを是正すべく新しい教育が始まるわけです。

 新しい学習指導要領の中身を踏まえ、改革のポイントを2つご紹介します。
 1つ目は、教育のアプローチが変わることです。主体的・対話的で深い学びであるアクティブ・ラーニングが導入され、従来の受け身型の授業からの脱却が期待できます。
 そして2つ目は、教育カリキュラムの刷新です。従来の知識・技能の習得に加えて、その知識をどのように使うかという思考力・判断力・表現力、さらに、課題に対してどのように取り組むかという主体性・多様性・協働性の3つが、新たに学力の判断基準になります。また、履修科目も変わり、小学校3年から英語教育がスタートし、プログラミング教育も必修化されるのも、その一例です。

 教育が大きく変わる今、企業に求められるのは、この教育改革で生まれる「新人類」がどのような教育を受けてきたのか、受けていくのかを知ることであります。今回改訂された教育カリキュラムで学んだ子どもたちが企業に入社してくるのは、まだ先のことかもしれませんが、一人ひとりに育まれた能力を生かしていく取り組みが求められるでしょう。

経営コンサルティング本部
アソシエイト
木原 和輝

201809_slide_t1

増加の一途をたどるインバウンド

タナベ経営
経営コンサルティング本部
東北支社 支社長代理 戦略コンサルタント
観光・ツーリズムビジネス成長戦略研究会 リーダー
日下部 聡 Satoshi Kusakabe

「現場第一、先行思考、情熱主義」をモットーに、各企業の業績改善・体質改善に取り組み、多くの実績を残している。専門分野は経営戦略構築、営業強化、人材育成による組織活性化。観光・ツーリズムビジネス成長戦略研究会リーダーとしても活躍中。
201809_01_case4_01

観光産業は世界最大かつ最速の成長分野

「観光は、過去60年間にわたり拡大と多様化を続け、世界最大かつ最速の成長を見せる経済部門の一つとなった」(国連世界観光機関発行「ツーリズム・ハイライト(2017年)」日本語版序文)

世界の観光マーケットは1950年以降、長期にわたって拡大を続けている。国連世界観光機関(UNWTO)の最新の発表によると、2017年の世界全体の国際観光客到着数は13.2億人(前年比6.7%増)と8年連続で増加した。2030年には18億人に達すると予測している。(【図表1】)

【図表1】国際観光客到着数の推移

201809_01_case4_02

出典:国土交通省「2018年版 観光白書」
資料:UNWTO(国連世界観光機関)

さらにマーケット規模(国際観光収入)は1950年の20億米ドルから、2016年には1.2兆米ドルへ急増。世界全体の観光輸出総額は1.4兆米ドルと化学、燃料に次ぐ3番目の規模であり、自動車関連や食料品を上回るという。

世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)が2018年3月に発表した報告書によると、世界の観光産業のGDP総寄与額は8.3兆米ドル(2017年)、雇用効果は3億1300万件に上り、全世界のGDPの10.4%、全雇用の10分の1を占める。まさに観光産業は世界経済のキープレーヤーとなっている。
※「旅行・観光産業 世界における経済的影響と課題2018」

日本においても、観光産業は急成長マーケットである。特に有望視されているのがインバウンドだ。2017年の訪日外客数は2869万人(前年比19.3%増)と5年連続で過去最高を更新した。2012年(836万人)から5年間で2000万人も増えたことになる。人口減少と過疎化が進む地方にとって、インバウンドはビジネスチャンスが極めて大きいマーケットと言えるだろう。

地域格差はあるが、街が様変わりするほど外国人旅行者が増えている地域もある。顕著な例が京都市だ。京都市観光協会と京都文化交流コンベンションビューローが発表した2018年4月の「外国人客宿泊状況調査結果」によると、同月に市内宿泊施設(主要37ホテル)を利用した訪日外国人の割合が単月で過去最高値の52.5%となり、初めて外国人と日本人の比率が逆転した。(【図表2】)

【図表2】京都市/客室稼働率・利用割合の推移(主要37ホテル)

201809_01_case4_03

出典:公益社団法人京都市観光協会・ 公益財団法人京都文化交流コンベンションビューロー 「平成30年(2018年)4月の外国人客宿泊状況調査」(2018年5月31日)

日本人を含む客室稼働率は94.1%。京都市観光協会が提携するホテル業界専門調査会社「STR」の調査結果では、平均客室単価(ADR)が国内4都市中、最高の2万5000円超となり、香港やシンガポールをも上回った。

宿泊実人数の前年同月比伸長率を国・地域別で見ると、カタール(74.4%増)、トルコ(44.2%増)など中東地域の伸び率が高い。これは日本航空が4月1日より、カタール航空が運航する日本=ドーハ線のコードシェア(共同運航)を拡大し、中東・アフリカ・中央アジアからの航空環境向上が後押ししたためとみられている。

インバウンドは観光立国推進の要

近年のインバウンド増加は、LCC(格安航空会社)を中心としたアクセスルート開拓とリピータ―(再訪問者)の拡大が大きな要因となっている。

こうした追い風を背景に、政府は2016年、訪日外国人旅行者数を2020年に4000万人、2030年には6000万人へ増やすことを柱とした新観光ビジョンを策定した(【図表3】)。この構想で注目したいのが、インバウンドを都市部から地方部へ誘致していくという点である。

【図表3】新観光ビジョン/インバウンド目標値(倍数は対2015年比)

201809_01_case4_04

出典:観光庁「明日の日本を支える観光ビジョン」(2016年3月30日)

外国人延べ宿泊者数について、3大都市圏(東京・大阪・名古屋)と地方部の比率を2020年に50:50、30年には40:60と逆転し、インバウンドによって地方創生を加速させたい考えだ。そのためにも、地方部は訪日外国人旅行者が訪れやすいよう、宿泊、交通、食事など受け入れ態勢を整えることが課題となる。

定住人口が減少する地方部では、「交流人口」(その地域に訪れる人)を増やすことが重要となる。地域の交流人口が増えれば、宿泊や食事、土産品の購入などが発生し、地域経済の活性化につながる。

観光庁は観光による交流人口の増大効果として、「定住1=訪日8=国内宿泊26=日帰り81」という数字を挙げている。訪日外国人旅行者8人分の旅行消費額は、日本人の宿泊旅行者26人分、日帰り旅行者81人分の旅行消費額に相当し、さらには定住人口1人当たりの年間消費額(125万円)にも匹敵するという。その意味でも、インバウンドは地方部にとって救世主とも言うべき存在なのである。

では、インバウンド需要を取り込むには、何が必要なのか。その目安として、飲食店の情報検索・予約サイトを運営するぐるなびが2018年6月より開始した「ぐるなびインバウンド大作戦」を紹介する。これは飲食店が月額2万円の「木戸料(参加費)」を支払うことで、同社が持つ外国人対応のノウハウを利用できるサービスだ。

具体的には、ネイティブが校正した外国語メニューブック(英語、中国語/繁体字・簡体字、韓国語)の提供や外国語版の店舗サイトの利用、またオプションで店舗紹介動画を制作できる。このほかインバウンド決済(「AliPay」「WeChatPay」)やオンライン旅行会社(「Ctrip」「KKday」)のネット予約にかかる手数料の優遇、旅行口コミサイト「TripAdvisor」などを通じた海外プロモーション、外国語の電話予約代行といったサービスを用意している。裏を返せば、飲食店ではこれらの対応がインバウンドで求められるということだ。

インバウンドを迎え入れる「入り口」を強化する

決済環境の整備や多言語対応に加え、海外のインターネット旅行予約サイト活用、大型荷物置き場の設置、スマートフォンによる交通機関の運行情報提供など、インバウンドを迎え入れるための「入り口強化策」も重要である。このうち、ぜひ注力していただきたいのが、海外のネット旅行予約サイトの活用だ。

以前、中国人旅行者による「爆買い」が話題となったが、現在は訪日旅行の楽しみ方が変化し、「モノ消費」からアクティビティー(伝統工芸体験やレジャー活動)を重視する「コト消費」へニーズが移っている。その際、多くの外国人は予約サイトを使う。しかし中には、「日本語しか対応していない」「チケットの手配に手間がかかる」など、不満やストレスを感じさせるサイトも少なくない。

地方部がインバウンド需要を取り込むには、なるべく多くの言語に対応するサイトに登録し、予約機会の損失を防ぎたい。例えば、世界最大級の旅行・ホテル・航空券予約サイト「Expedia」は対応言語数が33カ国語、グループサイトを合わせると75カ国語と幅広い。このほか「Wanna Trip」(18カ国語)や「Klook」(アジア最大級の予約サイト)などのサイトがある。こうした多言語対応の情報・予約サイトは、インバウンドの集客において極めて有効なツールとなる。

地域の「当たり前」を観光資源化する

インバウンドを促進するには、価値観の多様性に対応することも必要だ。例えば、外国人旅行者は「ラーメンが食べたい」というリクエストが多い。地元の特産物を好んで食べる人は意外に少ない。地場産の食材を強く押し出すと失敗する可能性が高い。外国人と日本人の観光ポイントは異なることを認識すべきだ。

また、外国人旅行者が最も嫌がるのは"無視"されることである。店で商品の説明を求めようと近づくと、言葉が分からないことを理由に断る、また気付かないふりをする店員も少なくない。外国人旅行者は「おもてなし」を体験しようと日本に来ているだけに、こうした対応をされると失望・幻滅する。

例えば、東京・品川区は2014年から、区内の商店街と連携し「英語少し通じます商店街プロジェクト」を進めている。商店街の店員が流ちょうな英会話を習得するのではなく、少しの英語におもてなしの気持ちを込め、外国人旅行者を積極的に受け入れる雰囲気を地域全体で作り上げる取り組みだ。

地域の魅力をどう"魅せる"のか。地元の日常は、外国人旅行者にとっては非日常である。つまり、そこに価値がある。地域の自然、気候、文化などを生かした野菜や飼育、昔から続く地域の風習や行事食(地元の伝統行事で食べる料理)など、「それを食べるの?」「どんな食べ方をするの?」といったものはどの地域にもある。そうした「地元では当たり前だが、外国人には珍しい」という地域資源を掘り起こしたい。

201809_slide_t1

訪日外国人旅行者の6割超が訪日2回以上の「リピーター」

201809_01_market_01

訪日外客数が好調だ。2017年は2869万人(前年比19.3%増)と5年連続で過去最高を更新した。LCC(格安航空会社)の航空路線拡充やクルーズ船の寄港増加、査証発給要件の緩和などが背景にある。

いまやインバウンドは、日本経済にとって外貨を獲得する重要な"輸出部門"となっている。17年通年のインバウンド消費額(訪日外国人旅行者による国内消費額)は、前年比17.8%増の4兆4162億円と過去最高だった。これは日本の総輸出額(78.3兆円=2017年)の5.6%に相当する規模だ。輸出品目との比較では自動車に次ぐ水準で、電子部品や自動車部品、鉄鋼などの輸出額を上回る。(【図表1】)

【図表1】訪日外国人旅行消費額と主要製品別輸出額との比較(2017年)

201809_01_market_02

出典:観光庁「訪日外国人消費動向調査 平成29年(2017年)年間値(確報)」
財務省「貿易統計(2017年)」

インバウンド需要は国内だけにとどまらない。訪日観光を機に、帰国後もインターネットを通じて日本製品を買う外国人が急増している。観光庁の試算(「2018年版 観光白書」)では、自身の訪日観光がきっかけとなった越境EC(国を越えた電子商取引)の購買規模が約6300億円(2017年時点)に上る。さらに知人や家族の訪日観光が引き金となり、越境ECで日本製品を買った金額も約1500億円と見込まれ、合わせて約8000億円の旅行後消費が生まれているという。

インバウンドの増加は、さまざまな産業に恩恵を与えている。例えば、宿泊業と建設業だ。17年の外国人延べ宿泊者数が前年比12.4%増の7800万泊(過去最高)となり、宿泊需要が拡大。そのため飲食サービス業や住宅メーカー、アパレルなどの異業種企業がホテル運営や「民泊」事業に参入するケースが相次ぎ、宿泊施設の建設投資が活発化している。

民間建設投資の先行指標である「建築着工統計」(国土交通省)から「宿泊業用建築物」の工事費予定額の推移を見ると、16年は6333億円(前年比約2.5倍)、17年も9431億円(同48.9%増)と急増し、11年(946億円)以降の6年間で約10倍へ拡大した(【図表2】)。今後は、2018年6月に施行した「住宅宿泊事業法」(民泊新法)に基づく民泊対応型マンションの建設やリノベーションも増えると見込まれている。インバウンドの増加が宿泊施設の将来需要を喚起し、建設需要に波及している。

【図表2】宿泊業用建築物の工事費予定額、外国人延べ宿泊者数の推移

201809_01_market_03

出典:国土交通省「建築着工統計調査報告」、観光庁「宿泊旅行統計調査」

こうしたインバウンド需要を創出しているのが、訪日数2回以上のリピーターである。観光庁の調べによると、17年通年の訪日外国人旅行者のリピーター数は前年比23.5%増の1761万人と大きく増加した。一般的に観光客と言えば「一見客」ばかりというイメージが強い。だが訪日外国人旅行者の場合、6割超はリピーターが占めているのだ。(【図表3】)

【図表3】訪日外客数および訪日リピーター数の推移

201809_01_market_04

出典:観光庁「平成29年訪日外国人消費動向調査【トピックス分析】」

訪日リピーターを国籍・地域別(構成比)に見ると、韓国(30%)、台湾(25%)、中国(18%)、香港(13%)などの順に多く、東アジアの近隣4カ国・地域が全体の8割以上を占めている(【図表4】)。リピーターは訪日回数が増えるほど、1人当たりの旅行消費額が増える傾向にあり(【図表5】)、地方を訪問する割合も高くなるという。

【図表4】訪日リピーターの国籍・地域別構成比

201809_01_market_05

出典:観光庁「平成29年訪日外国人消費動向調査【トピックス分析】」

【図表5】訪日回数別1人当たり旅行支出

201809_01_market_06

出典:観光庁「平成29年訪日外国人消費動向調査【トピックス分析】」

外国人への対応に慣れていない地方にとって、訪日回数を重ねて日本になじみ、よく消費してくれるリピーターは非常にありがたい存在だ。地方都市におけるインバウンド戦略は、初来日の旅行者が大半を占めるパッケージツアーの団体客ではなく、リピーターが多いとされる東アジアの個人旅行客(FIT)をターゲットにしたい。

例えば、リピーター需要を取り込むコンテンツとして「ナイトタイムエコノミー」(夜間経済)が注目されている。日本の観光は「朝と昼」が中心で"夜遊び"は未開拓だが、海外の観光地は夜で稼ぐところが多い。英国・ロンドンはクラブや夜間公演などのナイトタイムで年263億ポンド(4兆円)の経済効果を得ているとされる。

外国人旅行者の間では、「日本は夜がつまらない」との不満があるという。しかも地方は都市部に比べて夜が早い。インバウンドを誘客するため、演劇・コンサートのレイトショーやナイトマーケット開催などを企画し、海外OTA(オンライン旅行会社)などへ積極的に情報発信してはどうか。

  • お問合せ・資料請求
  • お電話でのお問合せ・資料請求
    06-7177-4008
    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所