image1

今週のひとこと

「期待しているよ」の一言が、
部下のさらなる向上心に火を付ける。

☆「女性活躍」という視点での働き方改革

 先月から「働き方改革関連法」が施行されました。残業時間の上限の規制、年次有給休暇の取得など、企業にとって対策を打たなければいけないことは数多くありますが、皆様の会社では、働き方改革の実現に向けて、その取り組みが職場に浸透していますか。

 今回は働き方改革を「女性活躍」の視点からお伝えしたいと思います。女性は、社会人としてキャリアを積みたくても、妊娠、出産、家事、育児、また親の介護などと上手く両立ができず、キャリアを積むことができない状況となってしまうことも少なくありません。
 最近では、男性社員に育休の取得を義務づける企業も出てきましたが、全体的に見ると男性の育休の取得率はまだまだ女性に比べてかなり低いのが現実です。そのため、女性が働く時代になってもなお、寿退社や妊娠によって退社せざるを得ない女性は多くいます。

 内閣府「国民生活白書」に、結婚後の働き方と、それによる生涯賃金の違いが紹介されています。

 1.26歳で退職、子どもが6歳でパート・アルバイトとして再就職:生涯賃金4,913万円
 2.28歳で一旦退職、2人出産し、第2子が6歳で正社員として再就職:生涯賃金 1億7,709万円
 3.就業を継続し、育休を2回取得:生涯賃金 2億5,737万円
 4.就業を中断せず継続:生涯賃金 2億7,645万円

 1と3の差は、約2億円です。この金額は、女性にとって損失ですが、企業にとってもそれだけの価値のある人材を失っていることを意味します。

 「入社時とは働く環境が変わっても、今の会社で活躍したい」と考える女性は多くいます。例えば、女性活躍の一環として、女性の管理職比率を引き上げるということも必要かもしれませんが、子育て中の社員であっても活躍の機会を与えるような施策のほうが、より効果的かもしれません。このような考え方で、女性が活躍できる場を増やすことを検討してみてはいかがでしょうか。

経営コンサルティング本部
今村 三貴

1604_100nenmidashi 201903_100_01

日本では年間2万件を超える企業が事業承継されることなく消えていく。先代が受け継いだ家業を存続させるために私たちは何をすべきか――。 「ベンチャー型事業承継」を掲げて若い後継ぎの支援に奔走する山野千枝氏に、事業承継が抱える問題点と解決策を伺った。

家業への愛着と存続への 執念がイノベーションを起こす

若松 山野さんは、企業の歴史を生かしたブランディングやコンサルティングを手掛ける千年治商店(兵庫県芦屋市)の代表取締役を務める一方、親が事業を営む学生を対象とした「ガチンコ後継者ゼミ」を複数の大学で開講されてきました。事業承継の分野でさまざまな支援を続けておられますが、まずはこの分野に関心を持ったきっかけをお聞かせください。

山野 私は、20代でベンチャー企業やコンサルティング会社に勤務した後、2000年に大阪市経済戦略局の中小企業支援拠点「大阪産業創造館」の創設メンバーとして参画。2001年からビジネス情報誌『Bplatz』(大阪産業創造館発行)の編集長として2500社以上の企業を取材してきました。もともと大阪は、オーナー経営者が多い街。跡取り社長を取材する機会が多くあり、皆さんが会社存続に並々ならぬ熱い思いを持っていること。さらに、その思いを原動力として新商品・新サービスを生み出していることを知って心を動かされました。日本は"長寿企業大国"と呼ばれていますが、資源の乏しい日本がここまで成長した背景には、家業を存続させようと懸命にイノベーションを起こしてきた後継者の存在が大きいのではないか。そう強く思ったことが事業承継に興味を持ったきっかけです。

若松 長寿企業にはファミリー企業も多く、これまでは当たり前のように家族で事業を支えて承継してきました。しかし、ここにきて状況が大きく変化しています。帝国データバンク(2019年1月)の調査によれば、2018年に「休廃業・解散」に至った事業者は2万3026件と、同年の倒産件数(8063件)の2.9倍に上っており、9年連続で倒産の2倍超という状況になっています。特に深刻なのが、中小・零細企業の休廃業・解散です。

山野 リーマン・ショック後は、「こんなに大変な思いを子どもにさせたくない」と言う経営者の声を多く聞くようになりました。「子どもが『継ぎたい』と言ってくれればうれしいけれど、自分から『継いでほしい』とは、とても言えない...」とも。今は親が子どもに遠慮しています。では、子どもはどう思っているのか?そこが知りたくて、親が事業を営んでいる学生向けの後継者ゼミをスタートしました。

若松 私たちも「後継経営者スクール」というセミナーを1979年から開校しています。そのような活動やコンサルティングの中で経営者に「あなたのお子さんに会社を継がせますか」と質問すると、50%は「ノー」という答えが返ってきます。日本企業の経営者のリーダーシップの在り方に強い危機感を感じていました。いずれにしても事業承継は、業種や企業規模、組織形態によって中身はさまざまです。山野さんは「ベンチャー型事業承継」を掲げて活動を展開されていますが、あえてベンチャー型と付けたのはなぜでしょう。

山野 ベンチャーには、夢を実現する若者の挑戦といった前向きなイメージがありますが、事業承継は税金や株価対策、廃業問題といった切り口で語られる機会が非常に多い。これでは若い世代が事業承継にワクワクしませんから、必然として後継者不在が起こります。受け身のイメージが事業承継を難しくしているのなら、そこを変えればいい。「ベンチャー型事業承継」という新しいジャンルをつくって、継ぐ側が主導権を持って活躍する事業承継の形を発信することで、家業に興味を持つ若い世代を増やしたいと考えました。

若松 私自身も後継者を育成するカリキュラムの中で、「経営者こそがイノベーションの主役であり、事業を継ぐことはイノベーションを起こすこと」と言ってきました。事業承継支援は継がせる側から語られることが多いのですが、ベンチャーと頭に付くだけで主体が継ぐ側に移るのは面白いです。事業承継となると身構えますが、ベンチャー型事業承継なら可能性を見つけられる感じがします。

山野 後継者が新規事業を開発して会社を再生させた事例はまさにベンチャーです。そのような挑戦を中小企業の新規事業とひとくくりにするのではなく、ベンチャー型事業承継として打ち出すことで頑張っている後継ぎを応援したいですし、事業承継に対する社会のイメージを変えられると思います。

企業が減っていく経済に明るい未来はない

若松 日頃から多くの学生と接していらっしゃいますが、事業承継に対するイメージはやはりネガティブなのでしょうか。

山野 ガチンコ後継者ゼミは全15回のコースですが、初回に「起業家」と「後継ぎ」のイメージを学生から出してもらいます。結果は、前者がキラキラしているのに対して、後者は非常にネガティブでとてもご両親には見せられないような内容です(笑)。特に、参加する学生のほとんどは家業が成熟産業に属する中小・零細企業ですから将来の不安を抱えており、「継ぐと期待されては困る」と親に内緒で受講している学生も少なくありません。まさに、後継者不在問題の縮図のような現場です。

若松 世の中のイメージに影響されて、若い世代が家業に夢や希望を持てないところに日本経済の本質的な問題がありますね。企業が増えない、逆に減っていく経済に明るい未来はありません。ゼミでは、どのようなカリキュラムを用意されているのでしょうか。

山野 コースの前半は起業家や新規事業に取り組む跡取り社長を毎回招き、学生はひたすら話を聞いてディスカッションします。講師は、学生の親より若い30~40歳代が中心。家業を継いでいてもベンチャーのように活躍する先輩のリアルな話は、受け身の事業承継とかけ離れていますから、家業や承継のイメージを変えるきっかけになります。その上で、後半は家業の歴史について調べてもらい、最後の課題として会社の経営資源を使って自分がどんな事業を始めたいかを考えてもらいます。あえて親に聞かないとできない課題を用意するのは、家族で家業に関するコミュニケーションをとってほしいから。また、自分自身をビジネスの主役に置いて考えると、家業の見え方が変わっていきます。

若松 学生時代に起業や事業承継について学ぶことは価値がありますね。10~20歳代という早い段階から、事業承継のイメージを変えるだけでも、継ぐ可能性は大いに広がります。

山野 すぐに「家業を継ぎたい」とはなりませんが、ゼミを通して将来の選択肢の一つに事業承継を入れてもらえればいいと思っています。面白いのは、学生だけでなく親世代にも思わぬ影響が出ていることです。大学の課題とはいえ、子どもが家業に関心を持ったことを知った50歳代の父親が、「子どもに良い格好をしたい」とか、「事業を良い状態にして渡したい」という理由で新規事業を始めたりする。つまり、バトンを渡す人がいるのといないのとでは、事業に対する姿勢がまったく違ってくるのです。

後継者が主役となるベンチャー型事業承継

若松 家業を継ぐと好きな仕事ができないと感じている学生は多いでしょうが、決してそんなことはありません。むしろ経営資源がある分、事業承継はベンチャーよりも恵まれた環境にあるとも言えます。事業の寿命は30年ですから、挑戦しなければ企業は生き残れません。本来の事業承継は、山野さんが掲げるベンチャー型事業承継にとても近いように思います。

山野 おっしゃる通りです。事業承継のネガティブなイメージは世の中が勝手につくり上げているだけ。跡取り社長が主導権を握って自分が熱狂できるビジネスに家業を寄せていくことは十分に可能です。

言葉は悪いかもしれませんが、「親の会社を乗っ取ってしまおう!」というくらいの意気込みを持って挑戦してほしいと思いますね。もちろん、会社の経営資源を使う以上は後継者として、新しい価値を生み出す使命はありますが、「経営資源を使って何をしよう」と考えた途端に、"野心スイッチ"が入ることは確かです。

若松 社長の仕事は新しい何かを生み出すことであって、引き継ぐことではありません。新規事業には失敗がつきものですが、若いうちの失敗は成功の種になる。その意味でも早い段階で挑戦することが重要です。山野さんが設立された一般社団法人ベンチャー型事業承継の「34歳以下」という参加要件には共感しますね。私たちの経験でも経営者のリーダーシップという「志」は、35歳までの「出会い」や「学び」で決まります。

山野 35歳を過ぎるとダメということはありませんが、若いうちに挑戦した方が、メリットは大きいと思います。関西でベンチャー型事業承継の成功事例を集めていくと、そのほとんどの跡取り社長が20歳代後半で新規事業を始めています。経験が少ない分、失敗を恐れずに挑戦できる点は彼ら・彼女らの強みです。

また、今の35歳より下の世代は、学生時代からインターネットを使いこなしていた「デジタルネイティブ世代」であり、業種の枠が崩れた後に社会に出ているため慣習にとらわれない自由な発想ができます。このため、程遠いように見える2つの要素を結び付ける能力に長けているように思います。加えて、親世代となる60歳代の経営者は大きな環境変化を経験しており、新規事業の必要性を感じていることもベンチャー型事業承継に向いている理由ですね。

後継者が新規事業を開発して会社を再生させた事例は まさにベンチャーです

201903_100_02

「アトツギはカッコイイ」を広げたい

若松 ベンチャー型事業承継では親子承継を基本としています。同族承継にこだわる理由はどこにあるのでしょうか。

山野 事業存続の執念を誰よりも持てるのが、家業が生み出した利益で大きくなったという自覚を持っている「アトツギ」たちです。M&Aは最終手段に取っておいて、まずは同族承継ができないかについて検討してみていただきたいと痛切に思います。

若松 その自覚を持っているかどうかは大きいですね。また、会社が培ってきた歴史やストーリーは独自性が高いですから、M&Aで失われてしまうのは非常にもったいない。さらに、M&Aによる事業承継の問題は個々の企業だけにとどまりません。コンサルティングの現場から見えてくるのは、特に地方の企業がM&Aで数を減らしている現状。企業が減少すれば地域経済はおのずと小さくなり、地方の疲弊に拍車がかかっています。

山野 同感です。ここ数年の間でM&Aの流れはますます大きくなっているため、同族承継を諦める風潮が広がってしまわないかと危惧しています。仕事柄、事業承継セミナーに講師として呼んでいただく機会がありますが、ほとんどはM&Aをテーマとするイベントです。つい先日も、同様のセミナーでベンチャー型事業承継について講演したところ、終了後にある食品メーカーの社長さんが声を掛けてくださいました。「会社を売ろうと思って情報収集に来たけれども、講演を聴いてもう一度、息子と話してみることにした」とのこと。うれしかったけれども、同族承継の可能性がある会社であっても、初めから無理だと決め付けている人が多いことをあらためて感じました。

若松 事業承継についてのコミュニケーションが親子間で不足していることも問題を深刻化させています。ベンチャー型事業承継がもっと社会に浸透していけば、若い世代の家業への理解や興味が高まりコミュニケーションのきっかけになり得ると思います。

山野 同族経営は日本企業のスタンダードですから、その中からシンボリックな事例がいくつか出てきてベンチャー経営者のように注目される社会になれば、若い世代の見方が大きく変わるはずです。そうした跡取り社長に影響を受けて、会社を継ごうと思う人が数パーセントでも出てきたら世の中は確実に変わります。すでに資源があり、信用があり、歴史やストーリーを持っていますから、ベンチャーとして起業するよりも成功する確率は高いと思いますよ。起業家に注目が集まることは良いことですが、同じように後継ぎが注目されてカッコイイと認められる社会になるように活動を広げていきたいと考えています。

若松 企業が生き残っていくには、過去にとらわれずに変化するビジネスモデルのトランスフォーメーション(=変身)が必要です。跡取り経営者が新たな分野に挑戦するベンチャー型事業承継は、深刻化する後継者問題に光明をもたらすだけでなく、イノベーションを起こすパワーを大いに秘めている点からも期待が膨らみます。ベンチャー型事業承継が社会に広がり、優れた跡取り社長がより多く輩出されるように私たちもサポートしていきます。本日はありがとうございました。

㈱千年治商店 代表取締役 一般社団法人 ベンチャー型事業承継 代表理事 山野 千枝(やまの ちえ)氏
歴史を活用したブランディング、社史制作を手掛ける千年治商店を2016年に創業。大阪市経済戦略局の中小ベンチャー支援機関「大阪産業創造館」では事業部長やビジネス情報誌の編集長を歴任。多くの企業取材に携わる中で、同族承継の優位性に注目。近畿経済産業局の政策提言では、全国で初めてベンチャー支援の対象に中小企業の若手後継者を定めたアクションプランを提言し話題となる。2018年には、若手後継者の新規事業開発支援を行う「一般社団法人ベンチャー型事業承継」を設立、代表理事に就任。

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

PROFILE

  • ㈱千年治商店
  • 所在地:〒659-0074 兵庫県芦屋市平田町2-7-706
  • 設立:2016年
  • 資本金:600万円
  • https://1000nenji.com/

consultant_reviewbanner


 皆さんの会社(仕事)に、マニュアルはあるだろうか。業種(業務)によると思うが、大体の方は「ある」と答えると思う。では、そのマニュアルを使って仕事に取り組んでいるだろうか。そのマニュアルは、過去数年の間に更新されているだろうか。

 マニュアルがあっても、実際は社内や部署内で統一されていなかったり、代々引き継がれている「個人メモ」程度のものであったり、体裁よくまとめられていても内容が古く、手引きと実務が乖離していたりするケースも多く見られる。

 "マニュアル化"というと、手引きに従うだけで「何も考えない」社員が増えてしまうといった消極的な意見が多いように感じるが、必ずしもそうではない。例えば、徹底した業務のマニュアル化で生産性を向上し、ローコストオペレーションを実現したのが「ファッションセンターしまむら」で有名な、しまむらグループである。

 しまむらでのマニュアルの位置付けは次の通りだ。

1.マニュアルの考え方

 しまむらはローコストオペレーションを徹底し、効率的な運営を行っており、それを支えているのがマニュアルだ。日本では個人の技術を重視する風潮に加え、マニュアルに対する誤解と軽視も見られる。同社では最も優れたベテラン社員のやり方をマニュアルと考え、新入社員でも一定レベルの業務ができるように、全ての部署でこれを重視。標準化と合理性を追求している。

2.改善提案

 「生きたマニュアル」を保つために欠かせない仕組みが改善提案制度である。業務の最適化を実現するには、マニュアルをブラッシュアップし続けることが最も大切だと考えている。同社では、全社員から毎年5万件以上の改善提案が寄せられ、これを一つ一つ検討・実験し、その結果は毎月マニュアル更新時に反映されている。/p


生産性を上げるマニュアル化のステップ

 しまむらでは、テーブルマナーなど社会人としての基本的なマナーから、商品仕入れ、店舗運営、システム開発など、何から何までマニュアル化されている。各マニュアルは数千ページあり、巻数は十数巻と膨大な分量である。

 このようなマニュアル化を行うことで、社員は日常的な業務において考える時間を減らし、新たなアイデアを生み出すためのより付加価値の高い業務に時間を費やすことができる。この考えのもと、マニュアル化推進プロジェクトを支援したA社の事例から、生産性を上げるマニュアル化のステップを紹介する。

事前準備:フォーマット、記載ルールの設定

 まずは、統一フォーマットを作成する。フォントやナンバリングのルール、タイトルの付け方などを定める。全体の統一感をそろえるためであるが、あまりにも制約が多すぎると、マニュアルの作成自体が困難になるため、ある程度の自由度を持たせる必要がある。

Step1:マニュアル化する業務の範囲の決定

 マニュアルの作成に当たっては、部署ごとで内容を整理することが多い。部署のメンバー全員(主要なメンバー)が集まって、マニュアル化する業務を決める。

 日次、月次、年次の基本的なルーティン業務は全て網羅する必要がある。その他の非定型業務であっても、頻度や重要度を基にマニュアル化の対象となる業務とする。全員が集まることによって、業務の重複や、業務分担における改善点が発見できることもある。

Step2:作成担当者の決定

 その業務をよく知っているベテランメンバーが作成担当者になると、知り過ぎているがゆえに、詳細を省いたマニュアルになってしまいがちである。そのため、最近業務を引き継いだメンバーが作成してベテランがチェックを行うことで、マニュアル作成自体が、社員教育の一環として成立する。

 指導を受ける側は業務に対する理解が深まり、指導をする側は、より効率的に業務を行う方法を考える機会(「自分だけ分かっていればよい」ということではなくなるため)となる。


Step3:マニュアルの作成

 実際のマニュアル作成の際のポイントは次の3点である。

(1)冒頭に「この業務を行う目的(求められる事項)」を記載する

 これは、スタッフ部門の業務に多く見られる傾向であるが、担当業務の目的を理解しないまま行っていることが多い。「昔から、こうやっているから」というだけで、「何のために」がスッポリ抜け落ちてしまっているのだ。

 どんな業務においても、必ず目的が存在する。逆に言えば、目的が明確でない業務は、やらなくてよいことかもしれない。目的が明確になって初めて、効率的な業務の進め方が検討できるようになる。

(2)業務全体の流れが分かるようにフロー図を作成する

 業務のスタートとゴール、ゴールまでの道筋がはっきり分かった上で、詳細なマニュアルを読み進めていく方が理解しやすい。また、業務をフロー図に落とし込むことで、その業務を進める上でネックになる部分を明示しやすくなる。

 今までフロー図にはなかった業務を落とし込むことで、業務のムダが顕在化されるという副次的効果もある。フロー図については、日本工業規格(JIS)で定められているフローチャート記号を参考にするとよい。フロー図にした時、「判断」の項目に該当する箇所で、ネックやムダが発見されることが多い。

(3)図や実際のフォーマットを多く記載し、視覚的に分かりやすくする

 文章ばかりのマニュアルは理解しづらく、文字で説明できる範囲にも限りがある。先述したしまむらのマニュアルでも、イラストや写真が多用されている。

 例えば、パソコンの操作画面を画像として取り込み(キャプチャー)、①、②、③......と操作順に番号を付けるだけで、マニュアルとしては十分である。店舗のレイアウトなどは写真を載せることで、文章での説明はなるべく少なくする。

Step4:マニュアルのチェック

 担当者が作成したマニュアルを、チェック担当者が照合する。この際のポイントは、「マニュアル通りに業務を行い、正しく目的を達成することができるか」である。チェック担当者がマニュアル通りに行って、疑問に思ったことや正しく業務を行えなかった箇所があれば、それはマニュアルとして不十分だということだ。

 チェック担当者は、より分かりやすくするためにどうすればよいか、作成担当者に前向きなアドバイスをすることで完成度を上げていく。

Step5:マニュアルの統合と定期更新

 担当者のチェック済みのマニュアルを集約し、1冊のマニュアルとして統合していく。データだけで管理するのではなく、部署ごとに1冊、紙の冊子として置いておくのが望ましい。全体の統一感を確認していったん完成となるが、先述したしまむらの事例の通り、マニュアルには"完成"の概念がない。

 完成したら、該当業務を行う際はマニュアルをチェックし、業務のやり方が変われば、マニュアルも都度更新する必要がある。また、定期的(年1回または半期1回程度)に部署メンバーが集まり、マニュアル更新時間を設けるのが効果的である。

 以上が、生産性向上に向けたマニュアル化の進め方の大まかなステップである。真に有効なマニュアルは、完成のない、永遠の「たたき台」であることを理解いただきたい。

 
  • タナベ経営
  • 経営コンサルティング本部 チーフコンサルタント
  • 大金 雄一郎
  • Yuichiro Ohgane
  • タナベ経営入社後、経営管理本部財務部にて管理会計から内部統制まで幅広く経理・財務関連の業務に従事。現在はその経験を生かし、財務部門のエキスパートとして、クライアント企業の管理会計システムの導入、資金繰りの改善などを手掛ける財務コンサルタントとして活躍中。
  • お問合せ・資料請求
  • お電話でのお問合せ・資料請求
    06-7177-4008
    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所