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今週のひとこと

「技は盗め」では、人は育たない。
自分の体験や知識を積極的に部下に
教えよう。自らは新たなノウハウを
得るため、さらに練磨しよう。

☆ 営業メンバーは顧客のニーズを引き出せていますか?

 筆者はコンサルティングの中で、営業社員のヒアリング力を高めるためのロールプレイングを実施することが多いです。ロールプレイングの目的は、知識や経験に乏しいメンバーのスキルを高めるために行なうわけですが、商品を覚え、熱心に説明をしているのですが、一方的に話をするだけで終わってしまうことも少なくありません。

 ロールプレイングを行なったメンバーに良かった点や課題を聞いてみると、「商品説明はある程度できたが、相手に質問をすることができなかった」という意見が多いです。
 ロールプレイングも、「商品説明中心」「商品説明+ヒアリング」「ヒアリング中心」といった具合にパターンを決めて行いますが、多くの人が商品説明だけで終わってしまいます。
 限られた時間の中では、あれもこれもできないという気持ちも分からないではありませんが、常に「5W3H」を意識して顧客(顧客役)との会話を進めると、ヒアリング力の向上につながります。

 5W3Hとは、When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのように)、How many(いくつ)、How much(いくら)であり、この順番でヒアリングをすることで、多くの営業社員が、顧客の思っていること(ニーズ)を引き出せるようになります。

 営業社員を早期に活躍する社員へと成長させるために、「5W3H」でのロールプレイングを実施してみてはいかがでしょうか。

経営コンサルティング本部
部長代理
水谷 好伸

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タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長 人材マネジメント研究会 リーダー 森井 修 Osamu Morii

企業規模・業種にかかわらず、一貫して「人」を中心としたコンサルティングに従事し、組織・人事をはじめ、バックオフィスの課題に対し、実践的な改善策をアドバイス。豊富な体験に基づいたコンサルティングで、多くの企業から高い評価を受けている。人材マネジメント研究会リーダーとしても、幅広く活躍中。

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①あたらしいを支える「企業風土」

社員は評価が下がることを恐れ、あたらしいことへの行動は消極的になりがちです。「失敗」を恐れず、「挑戦」を歓迎し、その意欲を支える「企業風土(土壌)」がチームづくりには最も必要です。

②あたらしいを育てる「仕組み」づくり

チームを編成しても、その方向性を誤れば、目標を達成できないまま、やがて解散の憂き目にあうことがあります。それを防ぐためにも、あたらしいを育てるチームのパフォーマンス発揮に向けた「仕組み」が必要です。

③あたらしいを生み出す「人」づくり

社員のやる気は、現場改善、事業アイデアなどのあたらしいを生み出すことにつながります。その知恵の発揮がチームづくりの基盤となります。そのためにも弛たゆまざる行動に挑戦する「人づくり」が必要です。

 タナベ経営では、ファーストコールカンパニーの5つの宣言(条件)の中で「顧客価値のあくなき追求」と「自由闊達に開発する組織づくり」を挙げている。高度に専門化する顧客価値へ対応するにはあたらしいビジネスモデルの構築が必要であるが、それを実現するには個々の力だけで解決できないほど課題が複雑化しており、従来の機能別や事業別組織の枠を超える。会社間や産学官など、これまでにない枠組みを超えた"チームづくり"が必要である。

 しかしながら、新規事業への取り組みや、さまざまなチーム運営における苦労話は、そのプロジェクトの大小にかかわらずよく聞く話でもある。では、"あたらしい"ビジネスモデルを生み出すための、これからのチームづくりには何が必要なのだろうか。

①「企業風土」づくり

 "あたらしい"を生み出すとは、良いものを生み出すための前提条件であり、いわば価値創造活動である。誰からも指示されていないのに、「このようなことに取り組んでみたのですが」と、自律性をもって社員が提案を行う。その活動の積み重ねが業務改善へつながることが理想である。
 かなり以前の話になるが、私がかつてタナベ経営の総務部に在籍していた頃、毎月発行する手書きの伝票起票をExcel(エクセル)で発行することに取り組んだところ、いつの間にか経理部でそれが取り入れられ、社内に伝播していったことがある。 もし、そこで「勝手なことをするな」と誰かに言われていれば、そのアイデアは"お蔵入り"したであろう。今となっては、私の意をくんでくれた上司や周囲のサポートに対し、感謝の念に堪えない。
 どのような仕事にも、目に見えない工夫があり、携わっているその人なりの努力があり、最後は仕事への矜持につながる。となれば、"あたらしい"を生み出す源泉には「失敗」を恐れず、挑戦を歓迎するといった、「企業風土づくり」という前提条件があってこそ成り立つのではないか。
 おそらく、この考え方は事業開発においても同様であろう。例えば、私が主宰する「人材マネジメント研究会」のゲストとして招聘したスマイルズは、売上高2億円の会社を50社誕生させるという「100億経営ビジョン」を目指していた。そのための事業アイデアの発案を社員に委ね、それを育成していく土壌があった。業務時間の20%を全くあたらしいビジネスの時間に充てて「1000の花」を咲かせるといった特集1チームビルディングGoogleの取り組みにも通じる。
 本号でご登場いただいた、関西学院大学アメリカンフットボール部監督の鳥内秀晃氏が取り組む「自分で目標を考え、発言し、実行する能力を磨く」ということも、"あたらしい"を生み出す企業風土づくりの参考になるだろう。
 そもそも、社員は自分の評価が下がることを恐れ、新しいことに対する行動は消極的になりがちだ。特に、昨今は高い生産性が求められるが、物事を生み出すことと、時間生産性は相反する。「隙間があれば生命は必ず育つ」という法則があるとすれば、"あたらしい"を生み出すためには、そういった企業風土づくりが大前提であると言っても過言ではない。 ※名和高司著『成長企業の法則ーー世界トップ100社に見る21世紀型経営のセオリー』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より

②"あたらしい"を育てる「仕組み」づくり

 タナベ経営の新入社員セミナーでは、初めて顔を会わせるメンバーが与えられた課題に取り組むコンセンサスゲームを通じ、組織の在り方を体得してもらうカリキュラムがある。目的の共有、メンバー内でのリーダーシップなどの役割を決めなければ、組織に与えられた目標が達成できないというものだ。初めて顔を合わせる人たちとの間で、即座にチームビルディングを実践していく必要がある。
 しかし、研修の中でそれを理解できたとしても、現実の職場で実践するのはなかなか難しい。チームを編成しても、方向性を誤れば目的を達成できないまま、解散の憂き目に遭うことが起こりがちだ。
 その理由としては、企業・組織研究の第一人者である立教大学中原淳教授の愛弟子、田中聡助教が、「周囲の人々をどう巻き込んで進めていくのか、という問題に対する取り組みはあまり重視されていない」とし、その対策として「出したアイデアを形にするために必要な資源やサポートが供給される構造が、組織内にあるかに尽きる」と指摘している(『事業を創る人の大研究』、クロスメディア・パブリッシング)。つまり、新たな発想を考え出しても、孤立させないようにそれを育てる「社内の仕組み」が不可欠である。(【図表】)
 新しいチームは、リーダーに押し付けたり、メンバーに任せきりにしたりという構図に陥りがちだ。それを防ぐ仕組みとしては、チームビルディングに代表される「チームづくりの基本」と、チームを生かすための「企業風土に合った人材マネジメント」が必要であると私は考える。
 その2つの仕組みの構築には、これまで「人材マネジメント研究会」に出講していただいたゲスト講師のアプローチ事例が参考になる。
 例えば、数多くのWeb系組織の誕生に携わった楽天大学学長・仲山進也氏は、グループメンバーのコミュニケーションの量を倍増させ、質を上げていくことで目標を勝ち取るチームへと生まれ変わらせた。グループからチームへと昇華させる「チームづくりの基本」を学習することなしに、チームをつくることはできないのだ。また、パプアニューギニア海産の自由な出勤スタイルなどは、従業員一人一人が自らの力を発揮できる職場づくりであり、企業風土に基づいた独自性のある仕組みとも言える。
 職場では、ある役割を与えられた人が、その仕事を長く取り組むことに納得していないというケースもある。さまざまな経験を積みたいと思う人にとっては、長年同じことを続ける重要性を理解していても、ある程度上達すれば、さらに別の経験をしてみたいという欲望に駆られることはままある(そこに本来の人事異動の意味があるのだが)。
 "あたらしい"を育てるチームにパフォーマンスを発揮させるためにも、やはり企業風土に合った「仕組み」は不可欠なのだ。

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出典:田中聡・中原淳共著『事業を創る人の大研究』(クロスメディア・パブリッシング)

③"あたらしい"を生み出す「人」づくり

 "あたらしい"を生み出す「企業風土」と「仕組み」の構築は、社員のモチベーション向上へとつながる。えがおホールディングスが実施したチームでの取り組みや、横断型プロジェクトの推進なども大いに参考になる。
 現場改善、事業アイデアなどを生み出すのは「人」であり、その知恵の発揮がチームづくりの基盤となる。そういった、たゆまぬ行動に挑戦する「人づくり」のためには、新規事業や業務改善などの取り組みをどのように評価していくかといった、人事の評価制度や賃金制度への取り組みも必要であろう。
 また、どういったチームメンバーを、組織内で構成するかも重要である。チーム内にリーダーは1人で十分であり、それを支えるスタッフとのバランスが必要だ。それぞれの性格特性に応じ、メンバーをどのように配置していくのかも重要な要素である。多様性と個性を科学的にアプローチするタレントマネジメントシステムもそのうちの一つだ。
 さまざまなことに挑戦し、その中で新しい物事を生み出す萌芽が一人一人の心に育っていけば、自主的に考え、動く人材の育成目的が達成されたと言っても過言ではないだろう。

提言・改善のポイント

 人事戦略の大きな転換が叫ばれている。しかし、顧客価値の追求を支える自由闊達な組織は、経営企画や人事の担当者、プロジェクトリーダーなどがチームづくりやマネジメントの在り方をしっかり理解していなければ、構築することはできない。
 これからの時代に必要な"あたらしい"を生み出すチームづくりは、「企業風土」と「仕組み」、そして「人づくり」のどれか一つでも欠けると成立しない。人材マネジメントの目的が組織力・人材力最大化であるならば、それこそチームづくりを軸として、あらためてひもといていく必要があるように思える。
 従来から見られる人事制度や賃金、評価制度の改定も必要であるが、①チームづくりの基本、②多種多様なチームの実態、③チームを生かす人材マネジメント(ユニークな制度や独自性のある取り組み)などの学習を通じ、経営者をはじめ経営企画担当者やプロジェクトマネジャーと呼ばれる人たちが、"あたらしい"を生み出すチームづくりについて深く洞察する機会を設けることを推奨したい。

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6割以上の企業が「働き方改革」を推進
約5割の企業が「経営に支障が出る」との懸念も

【図表1】「働き方改革関連法」のポイント

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〈残業時間上限規制の適用が猶予・除外される事業・業務〉



■建設事業..........................................2024年4月1日に適用(ただし災害復旧・復興事業では複数月平均80時間以内・1カ月100時間未満の要件を適用しない)

■医師................................................2024年4月1日に適用

■鹿児島県、沖縄県の砂糖製造業............2024年4月1日に適用

■新技術・新商品などの研究開発業務......医師の面接指導、代替休暇付与などの健康確保措置を設けた上で、上限規制は適用しない

■自動車運転の業務.............................. 2024年4月1日に適用(ただし適用後の上限時間は年960時間)

【図表2】「働き方改革関連法」の施行で、経営に支障が出るか?

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※小数点以下を四捨五入しているため、必ずしも100%にならない
出典:エン・ジャパン「企業に聞く『働き方改革法案』実態調査」(2018年9月21日)

 いよいよ2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)より、「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」が順次施行される。内容は多岐にわたり、個々の施行時期も異なるが、ポイントは大きく3つ。「残業時間の上限規制導入」「年5日間の年次有給休暇付与の義務付け」「同一労働同一賃金の導入」である。(【図表1】)
同法の狙いは、就業機会の拡大と働きやすい環境づくりによる生産性向上だが、その一方で企業の間では警戒感も強い。人材紹介サービス会社のエン・ジャパンが行ったアンケート調査によると、「経営に支障が出る」と考える経営者や人事担当者が約5割(47%)もいる。また、企業規模が大きくなるほど、支障が出るという回答が増加している。(【図表2】)
 企業は現在、働き方改革関連法の施行に対し、どのような取り組みを行っているのだろうか。帝国データバンクが実施した「『働き方改革』に対する企業の意識調査」(有効回答企業数:9918社)から、その推進状況を見てみよう。
 まず、自社の「働き方改革」への取り組み状況については、「取り組んでいる」と回答した企業の割合は37.5%。「現在は取り組んでいないが、今後取り組む予定」(25.6%)を合わせると、6割以上の企業が改革へ前向きに取り組んでいることになる。他方、取り組む予定がないと答えた企業は2割に満たない。(次頁【図表3】) 働き方改革に取り組んでいる企業(予定企業を含む)に対し、最も重視している目的を尋ねたところ、「従業員のモチベーション向上」(25.6%)がトップだった。次いで、「人材の定着」(19.8%)、「生産性向上」(15.9%)、「従業員の心身の健康(健康経営)」(15.4%)、「円滑な人材採用」(8.9%)などが続く。社外ではなく、社内(従業員)の影響を重視する傾向が強い。(次頁【図表4】)

【図表3】働き方改革への取り組み状況
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出典:帝国データバンク「働き方改革に対する企業の意識調査」(2018年9月14日)

【図表4】働き方改革への取り組みで最も重視する目的
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※働き方改革に「取り組んでいる」「今後取り組む予定」のいずれかを回答した6259社が対象
出典:帝国データバンク「働き方改革に対する企業の意識調査」(2018年9月14日)

 一方、具体的な取り組み内容(複数回答)については「長時間労働の是正」(79.8%)が8割近くに上り、最も多かった。大半の企業が"残業"を課題として捉えていることがうかがえる。また、週休の増加や有給休暇の取得目標設定、記念日休暇などの「休日取得の推進」(61.8%)、「人材育成」(56.3%)などが5割以上を占めている。(【図表5】)
 このほか、「業務の合理化や効率化のためのIT・機器・システムの導入」(49.2%)や、朝礼・研修などを通じた「職場風土づくり・意識の改善、コミュニケーションの活性化」(48.8%)に取り組む企業も多かった。
 一方、効果のある項目としては、「長時間労働の是正」(30.3%)や「IT・機器・システムの導入」(21.5%)、「従業員の理解を得ること」(22.2%)などが高かった。
 今後、新たに取り組む予定の項目については、「休日取得の推進」(24.8%)が最多だった。以下、「人事評価制度・賃金制度の変更、改善」(23.9%)、「多様な人材の採用・登用」(21.2%)、「勤務時間・制度の多様化」(20.9%)、「人材育成」(20.4%)などが続く。

【図表5】取り組んでいる・効果のある具体的内容(複数回答) 201812_market_05
※「取り組んでいる」と回答した企業3723社が対象
出典:帝国データバンク「働き方改革に対する企業の意識調査」(2018年9月14日)
 同調査の自由回答から企業の声を拾い上げると、「人手不足の状況での働き方改革には無理がある」「人手不足や業務多忙のため、手が回らない」「推進できる人材がいない」など、人手不足が足かせとなって働き方改革を実施できないという意見が多かった。特定人材に推進役を任せるのではなく、各部門から横断的にメンバーを選抜しタスクフォースを立ち上げ、チームで改革に当たらせたり、コンサルタントや社会保険労務士など外部の専門家を起用したりといった取り組みも必要だろう。
 また、経営トップや役員陣の積極的な関与もかせない。例えば、住友商事系のITシステム開発大手・SCSK(本社・東京都江東区)では、社長自らが取引先の執行役員に手紙を書き、同社の各役員がそれを取引先へ持参して、働き方改革への理解と協力を求めた。企業規模の大小に関係なく、首脳陣をいかにして働き方改革へ巻き込んでいくかが、成功の大きな鍵を握りそうだ。

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