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今週のひとこと

「技は盗め」では、人は育たない。
自分の体験や知識を積極的に部下に
教えよう。自らは新たなノウハウを得る
ため、さらに練磨しよう。

☆ 営業スキルが担当によってバラバラ、そんな時は...

 皆さんの会社には、さまざまなマニュアルが存在していると思います。しかし、意外と「営業マニュアル」を作成している企業は少ないようです。なぜでしょうか。
 その理由は、各営業担当者へ商談の場面での顧客とのやり取りを一任しており、何を話し、どのような提案を行なっているのかが見えていないからです。その結果、営業が属人化し、スキルのバラつきを生じさせているのです。

 

 営業スキルにバラつきが生じる代表的な例は、新人の営業担当者の育成の場面です。
新人の一般的な育成方法は、
 1.社会人としての基礎学習
 2.同行営業によるOJT
 3.独り立ち
 ―です。

 実は、この時点から営業スキルのバラつきは生じているのです。
その理由は、
 1.上司・先輩社員の育成への熱意の違い
 2.OJT(同行営業)の場での新人の学ぶ姿勢の違い
 3.新人がもともと持っているコミュニケーション能力の違い
 ―といったことが挙げられます。
 このように、本人や上司・先輩の熱意や姿勢など、曖昧な要素に左右される環境で育成され、その後独り立ちしていくとなると、それが営業目標達成の成否に大きく関わり、その後の営業担当者としての活躍にも直結します。

 営業マニュアルは、何も新人だけに限ったことではなく、若手・中堅からベテランまで、全社員に必要です。技術や商品の変化は日進月歩で、顧客ニーズも時代と共に変わっていきます。それに伴い、営業手法も変わっていくのです。自社の貴重な財産である優秀な営業人材のノウハウを体系化するのが営業マニュアルであり、作成する際のポイントは次の3点です。
 1.自社の強みの整理(実績、ノウハウ、成功例、商品など)
 2.Q&Aの作成(顧客の心をくすぐる話し方)
 3.営業ステップごとのあるべき姿(事前準備→アプローチ→ニーズ聞き取り→プレゼン→クロージング→アフターフォロー)

 営業スキルにバラつきがあると感じている方は、営業マニュアルの作成をお勧めします。

経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント
石丸 隆太

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 今回は、2018年7月号の米国シリコンバレーリポートに続く、第2弾。2018年10月2日から7日にかけてビジネスで訪れたニューヨークをレビュースタイルで紹介したい。

ニューヨークでもベンチャー企業や市場が活況

 ニューヨークの経済概要およびベンチャー市場の概略をあらためて紹介すると、ニューヨーク都市圏のGDP(国内総生産、2016年)は1.6兆ドルであり、カナダ(1.5兆ドル)、韓国(1.4兆ドル)、ロシア(1.3兆ドル)、メキシコ(1.0兆ドル)を上回る規模である。経済は底堅く、リーマン・ショックからの回復速度は米国平均を上回った。

 ニューヨーク市では金融・保険、メディア、不動産などサービス産業の比率が米国平均に比べ高い。家計の年間支出額を見ると、ニューヨークは住宅関連支出が非常に大きいのが特徴だ。ニューヨーク都市圏の市場規模は他の主要都市圏よりも圧倒的な規模を誇り、日本に比べて若者や学生も多く、他地域より高所得者層の絶対数が多い。また、人種も多彩である。

 米国におけるベンチャーキャピタル(VC)の投資動向を分析した「マネーツリー・リポート」によれば、2016年のニューヨーク都市圏への投資額は81億5593万ドル(1ドル=110円換算で8971億5230万円)と、サンフランシスコの211億3923万ドル(同2兆3253億1530万円)に次ぐ全米第2位である。

 一方、2016年の日本におけるベンチャー資金調達規模は前年比22.3%増の2099億円(ジャパンベンチャーリサーチ調べ)で、日米のデータを比較すると、ニューヨーク都市圏への投資規模(円ベース)は日本国内の資金調達額の約4倍である。

 世界のスタートアップ・エコシステムを比較・分析しているスタートアップ・ゲノム社の「グローバル・スタートアップ・エコシステム・レポート」によると、世界20都市のうち、ニューヨークはシリコンバレーに次いで世界第2位に評価されている。マンハッタンを中心に高所得者層が居住しており、巨大市場でのビジネスを目的に進出・起業するベンチャー企業が多い。

 ユニコーン企業として知られ、先般、ソフトバンクの孫正義氏が大型出資(44億ドル)を発表した「WeWork」もニューヨーク発の企業である。WeWorkのビジネスモデルの本質は不動産の仲介業であり、不動産オーナーから借り上げた遊休資産を魅力的なコワーキングスペースに仕立て、幅広いビジネスパーソンに貸し出している。

 金融、不動産、ファッション、メディア、大学(主にニューヨーク大学やコロンビア大学)など、多様な分野で事業パートナーや顧客となり得る企業が存在しており、人材も人種、性別を超えたダイバーシティー&インクルージョンが都市として成熟しているのだ。結果、ITと他産業を組み合わせて新しいビジネスサービスを創造する「×Tech(クロステック)」企業が多く生まれている。

 今回の出張ではコロンビア大学にも訪問したが、キャンパスに世界中から学生が集まっている光景を目にした。大学関係者にインタビューをしてみると、留学生の多くは中国系やインド系の学生であり、日本からの留学生はめっきり減っているとのことであった。ともあれ、米国では身近なものとしてダイバーシティーが存在しているのだ。

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Columbia University1754年創立の名門大学。バラク・オバマ前米大統領をはじめ、世界各国で活躍するリーダー・研究者を輩出している
Columbia University
1754年創立の名門大学。バラク・オバマ前米大統領をはじめ、世界各国で活躍するリーダー・研究者を輩出している

×Techがデジタルトランスフォーメーションを加速

 デジタルトランスフォーメーションとは、AI、IoT、クラウドなどの最先端ICTによりビジネスモデル変革や新規事業創出を目指すことである。金融街で知られるニューヨークの「×Tech」は日本でもおなじみのフィンテックがけん引し、デジタルトランスフォーメーションを加速させている。

 当然と言えば当然なのだが、デジタル、金融、ブランド、人材などの資源が全てそろっているのがニューヨークだ。シリコンバレーとの違い、個性がここにある。東京オリンピック・パラリンピック後の目指すべき姿のひとつがニューヨークにはある。

 冒頭に述べた通り、ニューヨークは全米第2位のベンチャー企業への投資額を誇る。そのニューヨークを拠点に、アクセラレーターとしてスタートアップを支援しているERA社を紹介したい。アクセラレーターとはスタートアップ企業に資金や人脈などの面で援助し、ビジネス拡大をサポートする機関のことである。

 同社は年2回、投資先の選定と育成を目的に、4カ月間のアクセラレーションプログラムを立ち上げている。1回当たりの投資金額は10万ドル規模であり、約1000社の応募から同社に選定された10~15社に資金が振り分けられる仕組みになっている。ニューヨークをベースに活動する同社は、金融関係のスタートアップを選定することも多いそうだ。

 選定されたスタートアップは同社のオフィスで働くことができる。先に紹介したWeWorkと同様にシェアオフィスを運営しているのだ。同社の厳しい審査に合格したWoveon社とBikky社のCEOに話を聞くことができたので紹介する。

 まずWoveon社は、法人のコールセンター向けのソリューションを開発する創業8カ月(当時)のスタートアップ企業である。ソリューションの大きな特徴は2つあり、コールセンターにアクセスするユーザーの認証システムの開発と、コールセンターのマニュアルの適正化である。

 さらに、同社はAIを用いた分析システムの開発にも着手しており、コールセンターに集まったカスタマーデータをAIで分析し、企業のブランディングや売上高の向上に役立つアナリティクス(解析方法)の提供も行っている。

 次にBikky社はフードテックのスタートアップ企業であり、特にフードデリバリーを利用するカスタマーデータのアナリティクスを提供するシステムを開発している。例えば、席待ちの客に対して、スマートフォンで登録してもらうと行列に並ぶことなく呼び出しをすることができるシステム。実は、席待ち解消の登録システムが顧客会員化を同時に行い、メールやSNSで情報発信をするという仕組みだ。

 また、デリバリーサービスを使用するカスタマーの注文状況の履歴を利用した注文トレンドのビジュアライゼーションから配達地区のマッピングまで、視覚的に捉えることができる分析ツールも提供している。

 2社のスタートアップ企業の事例を挙げたが、両社に共通しているのは、「カスタマーエンゲージメント」分野のソリューション提供を行っているという点と、テーマに特化したテクノロジー(×Tech)を開発している点である。

 日本でも、顧客から共感を得られるような商品・サービスを提供するカスタマーエンゲージメントの分野は、今後ますます重要になるだろう。事実、テクノロジーを活用したカスタマーエンゲージメントの構築に向けた取り組みの重要性が高まってきている。

 次に紹介するのは、ブランディングを専門に扱うStarfish Branding社である。同社は設立16年とのことだが、CEOのDavid Kessler氏は、「ブランディングとは、ブランドと顧客の接点をつなぎ合わせたカスタマージャーニーのインターアクションを総合的にコントロールすることである」と設立当初から主張している。

 インターアクションとは、例えば、顧客がブランドを調査し、商品を購入するというように、顧客とブランドの接点の中で生まれるアクション(行動)のことである。

 それらの接点をつなぎ合わせ、購入後のSNSでの発信を通じたエンゲージメントからブランドロイヤルティーの形成も包括したブランド体験を総称して、「カスタマージャーニー」と表現している。そして、そのカスタマージャーニーの中には、「モーメント・オブ・トゥルース(真実の瞬間)」と同社が定義する最も大事な顧客との接点が存在し、それを見つけることが重要という。

 例えば、金融機関であれば、ファイナンシャルプランナーと実際に会って話をしている時や、インターネットで資産管理の情報を調べている時のように、顧客にとってそのブランドを使う一番重要な接点がある。それを発見できると最適なリソースの配分にも手を打つことができ、顧客のブランドロイヤルティーはさらに高まるであろう。

 ただし、複雑化したカスタマージャーニーの中で、伝えたいメッセージを「モーメント・オブ・トゥルース」の時に顧客へ届けるには、ITやAIの活用抜きには実現が困難なのではないかとも思う。ブランディングの観点からも、デジタルトランスフォーメーションの必要性が問われている。

 続いて、デジタルトランスフォーメーションに必要なテクノロジー企業の事例を2社紹介する。まずはTalk Walker社を紹介したい。同社は2009年に設立され、ルクセンブルクに本社を構え、主要サービスとして、AIを活用したMA(MarketingAutomation)ツールを提供する。Talk Walker社は大別するとデータの収集、結合・解析、ビジュアル化の3つの機能を有している。まずはデータの収集であるが、複数のオンラインおよびオフラインのデータソースからデータを収集できる。

 具体的には、Twitter、Facebook、Instagram、Yahoo!などのサードパーティー(第三者企業)から得られるデータを収集する。次に、集まったデータに、自社のコールセンターで収集されるデータや、すでに企業が有している顧客データなど、企業が独自に収集しているデータを全て統合。結合されたデータをAIなどのツールを使って画像解析を行うのだ。

 ピザ店の出店計画の場合、Instagramに投稿されている写真データをAIが解析し、ピザの消費量が多い都市や地域を特定し、またその際にどのような人(男性・女性など)がどういった飲料を同時に消費しているか、人気店の特徴(屋外スペースがあるなど)なども特定し、出店計画に役立てる。最後に、そこから得られた洞察・分析結果をビジュアル的に捉えることができるように、見える化する。

 このようなツールを使用することで、ブランディングの側面では前出の「モーメント・オブ・トゥルース」の発見につながり、効果的なターゲティングやメッセージングを考察できる。そしてそれは共感を呼ぶプロモーションとなり、ROI(投資利益率)向上にも寄与するだろう。

 最後に紹介する企業は、2010年に設立されたWork Fusion社である。同社はMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究所から派生し、AIやマシンラーニングのプラットフォーム開発として始まった経緯を持つ。同社はSPA(スマート・プロセス・オートメーション)とRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の2つのソリューションを有している。

 RPAが定型業務のオートメーション化を実現するのに対して、SPAは非定型業務のオートメーション化までを実現する。SPAでは、例えば請求書の処理業務に対して多様なフォーマットの請求書の中からAIが自動的に必要な情報を探し当てて、処理を行っていく。

 また、RPAやSPAは見込み顧客の発掘にも活用ができる。あらかじめ条件を設定することで自動的に見込み顧客になり得る人のLinkedInなどにアクセスし、自動的にデータを収集する。

 必要な情報が全て見つかるとは限らないが、名前や会社名、部署名、Eメールアドレス、電話番号などの欲しい情報が見つかれば、それらを顧客管理ソフトに転送し、データベースを作るところまで自動化できる。これまで、こういった作業に時間を取られていた営業担当者らにとっては効率化が図れ、本来の営業担当の仕事である顧客と向き合うことに時間を多く割くことができるわけだ。

ERAニューヨークを拠点にスターアップを支援するアクセラレーター。シェアオフィスも運営する
ERA
ニューヨークを拠点にスタートアップを支援するアクセラレーター。シェアオフィスも運営する

Starfish Brandingブランディングを専門に扱う同社CEOのDavid Kessler氏にブランディングの要諦を聞く
Starfish Branding
ブランディングを専門に扱う同社CEOのDavid Kessler氏にブランディングの要諦を聞く

Talk Walkerルクセンブルクに本社を構えるテック企業。AIを活用したMAツールを提供している
Talk Walker
ルクセンブルクに本社を構えるテック企業。AIを活用したMAツールを提供している

スタートアップファースト志向による革新性

 今回はニューヨークのデジタルテクノロジー企業を中心に紹介したが、日本においても今後ますますデジタルテクノロジーを活用する重要性は高まってくる。

 そのデジタルテクノロジーがあらゆるドメイン・業種別に開発されていくことだろう。従って、世界に目を向ければ、それらの技術を駆使することで業種や規模に関係なく、スタートアップ企業のテクノロジーを起点に、新しいサービスを生み出すことができる。これを「スタートアップファースト」と呼ぶ。

 日本では今後の20年間で労働力人口の減少がさらに進み、GDPは下がり続けてもおかしくない状況である。働き方改革関連法が2019年4月から順次施行され、生産性がますますキーワードとなる中、テクノロジーの活用によるデジタルトランスフォーメーションへの取り組みは企業の必須課題であろう。そして、その新しいテクノロジーの源泉は紛れもなくベンチャー企業やスタートアップ企業である。

 タナベ経営でも、日本経済新聞社主催のピッチイベント「スタ★アトピッチ関西」の協賛として参加するなど、有力なスタートアップ企業の発掘に力を入れている。

 顧客が求める付加価値が「モノからコト」へシフトし、労働力人口の減少といった外部環境により、企業は少ないリソースでもこれまで以上に付加価値を顧客へ提供し続けなければ、その存在価値は薄れてしまうだろう。企業はテクノロジーの活用などにより、これまで以上の生産性で顧客からの「共感」を得られる商品・サービスを提供し続ける必要がある。

 さらに今後は、ポスト東京オリンピック・パラリンピック、消費税の増税、SDGs(持続可能な開発目標)への対応など企業を取り巻く価値観は大きく変化していくだろう。

 変化する環境への対応に向け、スタートアップ企業やベンチャー企業の先端技術に再度注目し、バックキャスティングで2030年を見据えたイノベーションを促進してもらいたい。

Work FusionMITの研究所から派生した企業。SPAとRPAの2つのソリューションを提供
Work Fusion
MITの研究所から派生した企業。SPAとRPAの2つのソリューションを提供

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外食関連業界の現状

 外食関連業界は、新規参入障壁の低さから個人事業者が開業しやすい。しかし、資本力がある大企業との価格競争や、競合との同質化に巻き込まれ、倒産・廃業に至るケースが多く見られる。その他にも、原材料高騰による利益の圧迫、生産年齢人口(15~64歳人口)の減少による働き手不足も大きな要因だろう。

 帝国データバンクの調べによると、2017年の1年間に倒産した外食関連業者は707件(前年比26.9%増)となり、2000年以降で最多だったという(【図表】)。今後も人件費高騰に伴う収益悪化や、人口減少エリアでの売り上げ減少など、人手不足による倒産増加が懸念される。

【図表】外食関連業者の倒産件数推移

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出所:帝国データバンク「外食関連業者の倒産動向調査」(2018年1月)よりタナベ経営作成 consultant_reviewbanner

飲食店におけるブランディングとは

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 そんな状況にある中、飲食店が見直すべきは自らのブランド価値である。"いいものを安く"ではなく、「価値あるものをより高く」売ることであり、それを可能にするためのブランディング戦略が必要だ。

 いかに顧客を呼び、いかにリピーターになってもらうかが、飲食店の存続の鍵を握る。そのためには、顧客に店の価値を強く感じてもらう必要がある。

 飲食店には「価格価値」や「時間価値」など、さなざまな価値が存在するが、その中でも今回取り上げたいのは、「感性価値」である。要するに、顧客に何を売りたいか、どんなサービスを提供したいかはもちろん、自分たちの店において「顧客がどんな体験ができるか」をイメージできるようアプローチするのである。

 そのための着眼点について、事例を3つ紹介したい。

【サービスのブランド化】

 まず1つ目は、具体的な利用シーンの提案である。

 あるフレンチレストランでは、顧客にコースのメインディッシュまでをテーブルで食べてもらうが、デザートは場所を移し、ゆったりと腰を掛けられるテラスのソファ席で提供する。この工夫により、顧客はちょっとしたサプライズと非日常感を体験できるのだ。このサービスが話題となり、店はブランド化に成功。顧客の多くが特別な空間を求めて記念日に利用するという。

【興味へのアプローチ】

 2つ目は、顧客の興味へのアプローチである。

 ある日本酒バーでは、「バーミキュラで炊き上げた龍の瞳 鮎と茎山葵と一緒に 旨味ある玉露を注いで」という名の料理を提供している。

 料理名だけではどんな料理なのか分からない。調べてみると、愛知ドビーの「バーミキュラ(コメ本来のうま味を引き出してくれるという鋳物ホーロー鍋)」で炊いた「龍の瞳」というブランド米に、アユと茎わさびを乗せたお茶漬けであった。そして顧客がその料理を食べる際には、料理名に秘められたミステリアスな部分を、サービススタッフが説明しながらひもといていくのだという。少しずつ謎が解明される経験をした顧客が面白がり、口コミによって店の人気が広がっている。

 顧客が次の日にでも知人へ話したくなるような料理を作るため、このバーでは、店を利用してほしい理想のターゲットを想定し、その架空の人物のために商品開発を進め、料理名には必ず料理通でも分からないような言葉を入れているという。顧客の興味を引くように、あえて分かりにくくした料理名が功を奏したといえよう。

【ストーリーの提供】

 3つ目は、顧客のストーリーに寄り添うアプローチである。

 「顧客のストーリーに寄り添う」とは、人生のある1点のシーンを提供するのではなく、ライフステージに合わせて、あるシーンからその先のシーンまでを視野に入れてアプローチし、顧客と長く続く関係を築くことだ。

 例えば、ある高層タワーでは、カジュアルなイタリアンダイニング、落ち着いたトラディショナルバー、高級レストラン、そしてブライダル会場と4つの店舗を兼ね備えている。その施設で想定しているストーリーは次の通りだ。

 特別な日に高級レストランで食事をした顧客が、思い出の場所である同施設でプロポーズを計画するとしよう。その計画に対し同施設は、プロポーズの場所として夜景のきれいな展望フロアを、さらに結婚式はブライダル会場で行うことをアプローチするのである。

 結婚後、女性は友人たちとイタリアンダイニングでランチを楽しみ、男性は仕事帰りにトラディショナルバーを利用する。子どもができればレストランで誕生日を祝う。

 このような体験を通し、同施設には年間数百組のロイヤルカスタマーが生まれているという。

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ターゲットの絞り込みが感性価値を生む

 今回紹介した3つの店に共通していることは、「顧客がどんな体験をしたいか」という視点で細かくサービスを想定し、ターゲットを絞ってアプローチしているという点だ。

 「20~30代の女性」や「年配の夫婦」といった、ざっくりとしたターゲット設定ではロイヤルカスタマーの創出率は低い。何に興味があるのか、今どのような場面に直面している人なのか、自分たちはどのような体験を提供できるのかというところまで想定することがポイントである。そうすれば顧客自身が気付かないような潜在意識下の欲求を発見でき、先回りした対応が可能になり、店のファンはどんどん増えていくだろう。

 「モノ余り、コト不足」といわれる時代において、顧客へ時間と空間を提供する飲食店は、感性価値を生み出すトップランナーでなければいけないのである。

 
  • タナベ経営
  • 経営コンサルティング本部 コンサルタント
  • 牧戸 理英
  • Tadahide Makito
  • 飲食店・ブライダル業界のマネジメント経験を経てタナベ経営に入社。「会社は人の思いでできている」という考え方で、「人の思いを大切にする」ことを信条に、コンサルティングを展開。現場の収益改善や組織のシステム構築から新たな価値提案を推進する。
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