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今週のひとこと

経営者は常に自分の考え方を明示し、
全社員に徹底しよう。「自分の考え方」
とは、経営者の価値判断基準のこと
である。

☆ 経営者の思いは"語るだけ"では伝わりません

 タナベ経営では、「企業経営は業績が良くて50点、事業承継が上手くできて100点満点」と提唱しています。現経営者がいくら優秀であっても、事業承継が上手くいかないと、企業存続は危うくなります。経営者の事業センスや経営センスを、後継経営者がそのまま引き継ぐことは難しいのが現実です。

こうした状況で重要になってくるのが、現経営者の様々な経験によって培われた、ノウハウやセンスを紐解き、背景にある信念や価値判断基準を明らかにし、「企業理念」として正しく引き継ぐことです。そのために、バトンタッチをする前に「コーポレートブック」の作成をおすすめします。
 ブックの作成にあたっては、コンサルタントが、事前に用意しておいた質問内容にそって現経営者にインタビューを行います。そこには後継経営者も同席し、現経営者が答えた内容で十分に理解できなかったことについては、より詳しくヒアリングを行います。これを数回に分けて繰り返したり、宿泊をともなう合宿形式で夜遅くまで実施したりするケースもあります。このようなやり取りを経て、最終的にコーポレートブックとして明文化していくのです。

 実際にブックを作成した現経営者からは、「伝承したいことを体系的に話ができた」というお声が多く、後継経営者からは、「社史などには書かれていなかった現経営者の経験や価値判断基準に触れることができた」など、双方から好意的な反応をいただけることが多いです。
 企業理念の伝承は、信念や価値観を伝承する意味合いが強く、現経営者と一緒に多くの時間を過ごすことが必要となってきます。時代変化の中で、親族とはいえ、現経営者と後継経営者が同じ家で暮らし、仕事も暮らしも常に一緒という状況は減っています。
 経営者の思いは"語るだけ"では伝わりません。企業理念を伝承する機会を意図的に持ち、引き継がなければいけない企業の信念や、価値判断を適切に継承していっていただきたい。

経営コンサルティング本部
部長代理
田上 智則

 

「プラットフォーマー」の世界

 

タナベ経営 経営コンサルティング本部 副本部長
村上 幸一
Koichi Murakami

ベンチャーキャピタルにおいて投資先企業の戦略立案・マーケティング・フィージビリティースタディーなど多角的な業務を経験。タナベ経営に入社後も豊富な経験をもとに、マーケティングを軸とした経営戦略の立案、ビジネスモデルの再設計、組織風土改革など、攻守のバランスを重視したコンサルティングを実施。高収益を誇る優秀企業の事例をもとにクライアントを指導している。中小企業診断士。

 

 

私たちの日常生活は、米西海岸に囲まれている

 

朝起きて、「iPhone」でGoogleにアクセスして今日の予定とニュースをチェック。通勤途中で買った「コーヒーフラペチーノ®」を片手に出社し、ノートパソコンの「EliteBook」を起動させる。Excelで新規プロジェクト予算を試算し、営業管理ツールの「SalesCloud」で顧客情報を確認。ランチタイムにFacebookやTwitterで友人の近況を知り「いいね!」ボタンをクリック。仕事を終えて帰宅するとAmazonで注文したスニーカー「Air Max」が届いていた。リビングではテレビでYouTubeを見る小学生の息子が、妻から「いいかげんにしなさい」と注意されている――。

 

どこでも見られるような、ごく一般的な日常生活の風景だろう。この文中に11の企業が登場している。記載順に挙げると、アップル、グーグル、スターバックス、ヒューレット・パッカード、マイクロソフト、セールスフォース・ドットコム、フェイスブック、ツイッター、アマゾン・ドット・コム、ナイキ、ユーチューブ(グーグル子会社)だ。

 

いずれも米西海岸(シアトル、サンフランシスコ、シリコンバレー)に本社を構えるリーディングカンパニーである。持ち物の違いや利用の程度の差はあれ、日本人の私たちでさえ、これらの企業と無縁では生活ができない。特にアマゾンは世界トップシェアを誇るクラウドコンピューティング(AWS:アマゾン・ウェブ・サービス)を有しており、アマゾンから直接商品を購入しなくても、なにかしらの形で世話になっているケースが多い。

 

 

プラットフォームというビジネスモデル

 

中でも、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4社は、頭文字をとって「GAFA」と呼ばれ、世界に圧倒的な影響力を及ぼしている。これにマイクロソフトを加えた5社(GAFMA)の時価総額合計は、ロシアのGDP(国内総生産)を上回るといわれる。ロシアのGDPは世界11位(2017年)。民間企業5社だけで、世界GDPランキングにトップ10入りする可能性さえある。

 

このうちGAFAの共通点は、プラットフォームをビジネスモデルの核としている「プラットフォーマー」であるという点だ。プラットフォームとは、オペレーティングシステムやハードウエアなどを動作させるための基本的な設定や、環境などの基礎部分を意味する。ビジネスにおけるプラットフォームという用語も、ここから派生したものである。つまり商取引を行う場と、そのルールや基盤を設定するビジネスモデルとなる。

 

こう書くと最先端のように感じられるが、実は昔からあるビジネスモデルだ。商品や製品、あるいは情報やコンテンツなどを提供する売り手側と、その多様な品ぞろえを期待して来店する買い手側をつなぐ場がプラットフォームだと考えれば、青果市場やデパート、ショッピングモールなどもプラットフォーマーである。

 

従来から存在するプラットフォームが、強烈な収益力を誇るビジネスモデルとなったのは、ITの力による。従来のプラットフォームはリアルな場所であり、空間と地域による制限があったが、IT化によってそれがなくなり、極論すれば、無限の広がりを持つようになったのだ。

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プラットフォーマー成功の鍵

 

一言でプラットフォームと言っても、そのマネタイズ(収益事業化)モデルは多様である。供給サイドと消費サイドの両方から課金するモデルもあれば、片方から料金を得るモデルもある。また、両サイドへの課金を行わずに、第三者から広告料を得るモデルもある。

 

いずれにせよ、全てのプラットフォームモデルに共通している絶対的な成功の鍵がある。それは「情報の量と質」だ。人々がそのプラットフォームを訪問(利用)しようとする理由は、そこに行けば自分の探している情報やモノが存在しているからであり、そこに人が集まるからこそ、供給者も参加する。供給者が増えれば、情報やモノの量が増大するため、またそこへ消費者が集まってくるという、好循環サイクルが発生する。

 

この好循環サイクルを維持すれば、自然に、自発的にそのプラットフォームへの参加者は増えていく。逆に、情報の量や質が低下する、あるいは他のプラットフォームがそれを上回るようになれば、悪循環サイクルに陥って瞬く間に参加者が減少していく。極論すればナンバーワンでなければ生き残れないモデルだ。従って、ナンバーワンを目指して各社が競って魅力的なプラットフォーム作りに励んでいる。

 

一度、ナンバーワンとしてのポジションを確立すれば、好循環が生まれて、その地位は盤石になりやすい。そこに、プラットフォーマーの圧倒的な力が生まれる。

 

そのプラットフォームへ参加するためには、そこで定められた"ルール"に従わなければならない。そのルールは、プラットフォーマーが自由に設定できる。

 

つまり、プラットフォーマーがルーラー(Ruler:支配者)としての圧倒的な力を持つことになり、自社の収益最大化を図ることができるというわけだ。

 

 

日本でも続出するプラットフォーマーたち

 

その秀逸なビジネスモデルと圧倒的な収益力から、世界各国でプラットフォーマーが誕生し、覇権を争いながら成長している。日本でもあらゆる業界でプラットフォーム・ビジネスが生まれている。

 

例えば、小売業(電子商取引)の楽天、フリーランス人材(クラウドソーシング)のランサーズ、資金調達(クラウドファンディング)のマクアケやReadyfor、外食のぐるなびや食べログ、アパレルのZOZO、フリーマーケット(フリマアプリ)のメルカリ、ネットオークションの「ヤフオク!」(ヤフー)、レシピ情報のクックパッド、婚活支援のIBJ、BtoB-EC(企業間電子商取引)のインフォマート、製造業マッチングのイプロスなど、枚挙にいとまがない。今後もさまざまな分野で新たなプラットフォーマーがスタートアップしていくだろう。

 

ここで興味深いのが、成功しているプラットフォーマーのほぼ全てが新興企業ということである。魅力的なビジネスモデルであるにもかかわらず、豊富な経営資源を有する大企業での成功事例はほとんどない。これはイノベーションの困難さを示唆していると同時に、全ての人にプラットフォーマーへの挑戦権があると言えるだろう。

 

どこまで伸びる?「プラットフォーム」市場
アマゾンの時価総額、10年で15.5倍

 

 

デジタル社会の急速な進行で膨大なデータが飛び交う中、それらを効率よく安全・安心な環境下で利活用できる「場」を提供する――。そんな「プラットフォーム」ビジネスが今、爆発的な支持を集めている。その"市場規模"を各種データから拾い上げてみた。

 

「GAFA」(Google/Apple/Facebook/Amazon)がこの10年間で急成長し、世界経済を席巻している。2017年5月末時点での株式時価総額の世界ランキング上位10社を見ると、トップのアップル、2位のアルファベット(グーグル)、4位のアマゾン、5位のフェイスブックは、いずれも10年前(2007年5月末)には圏外だった企業だ。(P30【図表1】)

 

 

【図表1】時価総額の世界ランキングの推移

出典:内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「IT新戦略の策定に向けた基本データ集<デジタル化の現状と課題>」(2018年4月27日)

出典:内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室
「IT新戦略の策定に向けた基本データ集<デジタル化の現状と課題>」(2018年4月27日)

 

 

時価総額の伸びも著しい。グーグルは4.0倍、アップルは6.9倍、アマゾンに至っては15.5倍。ちなみに、2012年5月に株式を上場(米ナスダック市場)したフェイスブックは、初値を基に算出した時価総額が約1150億ドル(約9.1兆円)だった。わずか5年間で約5.4倍である。(P30【図表2】)

 

 

【図表2】時価総額の推移

出典:内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「IT新戦略の策定に向けた基本データ集<デジタル化の現状と課題>」(2018年4月27日)

出典:内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室
「IT新戦略の策定に向けた基本データ集<デジタル化の現状と課題>」(2018年4月27日)

 

 

これら4社は、いわゆる「プラットフォーマー」である。プラットフォーマーとは、企業または個人が商取引や情報配信などを行うための基盤(製品、サービス、システムなど)を提供する事業者をいう。自らメディア(Webサイト、アプリケーションなど)を所有・運営するが、コンテンツは自ら制作しないことが多い。具体的な提供サービスとしては、検索、EC(電子商取引)、コンテンツ、決済、SNSなどである。(【図表3】)

 

 

【図表3】主なプラットフォーマーの提供サービス

資料:内閣府消費者委員会事務局資料「オンラインプラットフォームにおける取引状況等」(2018年5月15日)を基にタナベ経営作成

資料:内閣府消費者委員会事務局資料「オンラインプラットフォームにおける取引状況等」
(2018年5月15日)を基にタナベ経営作成

 

 

主な市場規模を見ていくと、最も大きいものはEC市場である。経済産業省がまとめた調査結果によると、2017年時点の市場規模は、BtoB(企業間取引)が317兆2110億円(前年比9.0%増)、BtoC(企業対消費者間取引)が16兆5054億円(同9.1%増)。プラットフォームビジネスではBtoCばかりに注目が集まるが、市場規模の総額はBtoBの方がはるかに大きい。(【図表4】)

 

 

【図表4】日本のEC(BtoB、BtoC)市場規模の推移(カッコ内はEC化率)

※EC化率:全商取引総額に占めるECの割合(BtoCは物販系のみ対象)出典:経済産業省「平成29年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備   (電子商取引に関する市場調査)」(2018年4月25日)

※EC化率:全商取引総額に占めるECの割合(BtoCは物販系のみ対象)
出典:経済産業省「平成29年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」(2018年4月25日)

 

 

まずは、GAFAが主戦場とするBtoCについて見てみよう。BtoCのEC市場は「物販系」(物品の販売)、「サービス系」(旅行申し込みや飲食店予約、チケット手配など役務の提供)、「デジタル系」(電子書籍や音楽・映像・ゲームなどの有料配信)に大別される。2017年の市場規模は、物販系が8兆6008億円(7.5%増)、サービス系5兆9568億円(11.3%増)、デジタル系は1兆9478億円(9.5%増)である。

 

もうひとつ、BtoCから派生して急成長を続けているのが「CtoC(個人間取引)」だ。要は、消費者同士がインターネット上でプラットフォームを介し、モノやサービスを取引することである。その代表例が「シェアリングエコノミー(共有経済)」と呼ばれるもので、17年度の市場規模は716.6億円(前年度比32.8%増)と伸びが著しい。矢野経済研究所の予測では、2022年度に1386億円と17年度の約2倍に達する見通しだ。(【図表5】)

 

 

【図表5】シェアリングエコノミーサービス
国内市場規模推移と予測

※2018年度は見込み値、19~22年度は予測値出典:矢野経済研究所「シェアリングエコノミー市場の実態と展望2018」(2018年7月31日)

※2018年度は見込み値、19~22年度は予測値
出典:矢野経済研究所「シェアリングエコノミー市場の実態と展望2018」(2018年7月31日)

 

 

シェアリングエコノミーは、①モノ(フリマ、レンタル)、②空間(シェアハウス、駐車場など)、③スキル(家事代行、知識など)、④移動(カーシェア、ライドシェアなど)、⑤お金(クラウドファンディング)という5つに分類できる。このうち、特に注目されているのが「フリマアプリ」市場である。

 

フリマアプリの17年時点の市場規模(推計)は4835億円と、前年に比べ58.5%増と急激に拡大している。初めてフリマアプリが登場したのは2012年ごろで、わずか5年で5000億円近い巨大市場が形成されたことになる。

 

一方、BtoBのEC市場(2017年)を業種別に見ると、「卸売」(前年比12.0%増の94.0兆円)が最も大きく、次いで「輸送用機械」(同10.5%増の47.3兆円)、「電気・情報関連機器」(5.6%増の33.7兆円)、「繊維・日用品・化学」(7.5%増の31.7兆円)などが続く。また、最も前年比伸長率が高かったのは「産業関連機器・精密機器」(18.5%増の14.1兆円)だった。

 

BtoB-EC市場は、BtoC・CtoCほどではないものの成長基調を維持している。市場のパイが大きい上に、GAFAのような"ITガリバー"も存在しない。また、「2024年問題」(固定電話網のIP網への移行)への対応を控え、多くの企業で新規にEDI(電子データ交換)を導入する動きも進むとみられるため、利便性の高いプラットフォームを構築すれば、その分野に欠かせないインフラとして定着できる可能性は高い。

 

※NTT東・西日本が2025年1月までに固定電話回線網(PSTN)をIP網(インターネットを使用した電話サービス)へ移行する際、企業の受発注や決済で使われるISDN(総合デジタル通信網)サービスも終了するため、対応が遅れた企業に影響を及ぼすとされる問題。EDIやPOS(販売時点情報管理)、エレクトロバンキング(企業と銀行を通信回線で接続、振り込みや口座照会を行うサービス)、ファクス、企業WAN(拠点間接続)など、固定電話をデータ通信に使う企業は多い。2018年9月末のISDN契約数は280.8万件に上る。

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