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今週のひとこと

確固たる信念を持とう。毅然たる態度で、
断固たる行動をする。そうすることで
部下は自ずとついて来る。

☆ リーダーとして、目的と手段のバランスはとれていますか?!―「君主論」から学ぶリーダーのあり方

現在は、「VUCA(ブーカ)」の時代とも言われるほど、先を見通すことが難しく、将来に不安を抱える社員が多い時代です。ちなみに、VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとってつくられた言葉で、「不測不能な状態」という意味で使われます。
 このような中で必要とされるのは、何としてでも自社の従業員を守り抜く強いリーダーであり、そのようなリーダーのあり方について述べられている有名な書物のひとつに「君主論」があります。

 君主論は、イタリアの政治思想家であるニッコロ・マキアヴェリが1532年に執筆した政治学書です。「目的ために手段を選ばない」というフレーズは、一度は耳にされた方も多いのではないでしょうか。この思想のもとで行動する人を「マキャベリスト」と呼ぶこともあります。
 この言葉だけを聞くと、プロセスは関係なく結果のみを重視する冷 徹な思想とも受け取られ、実際にマキャベリストという言葉にはネガティブな印象が定着しています。
 しかし、理想を掲げて追い求めているだけでは、企業の持続的な成長・発展の実現は難しいでしょう。会社を守ることが出来ない弱いリーダーの下では、従業員が安心して働くことはできないからです。

 それでは、君主論で述べられている、リーダーに求められる条件についてご紹介しましょう。

 1.確固たる判断力
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君主論では「気が変わりやすく、軽薄で、怠惰で、心が狭く、優柔不断なリーダーは軽蔑される」と述べられています。どのようなことでも自分で判断・決断できるリーダーであることが理想ではありますが、それが無理でも他人の話をきちんと受け入れ、その内容をもとに判断・決断できるリーダーでありたいものです。

2.恐れられつつも、恨みを買わないこと
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中途半端に優しい態度を見せると、相手は甘く見てリーダーの言うことを聞かなくなる可能性があります。従って、日頃から強烈なリーダーシップを発揮し、畏怖を感じさせる必要があるのです。恐れられることと恨みを買わないことは、矛盾するようにも聞こえますが両立は可能です。恨みを買わないためには、他人の物(成果)を奪わずに、見返り(インセンティブ)をしっかり与えるといった行動が重要です。

3.大局観
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リーダーは常に誰よりも俯瞰した経営眼を持ち、未来に起こりうるあらゆる事態に備えなければなりません。一般社員と同じ視点ではダメなのです。そのためにも、リーダーは多くの価値観や知識を獲得するための、たゆまぬ自己啓発が必要です。

 その冷酷ともとれる内容から、過去には禁書扱いにもなった君主論ですが、リーダーとしての学びに富んだ内容ですので、リーダーの方は自己啓発として一読されることをお勧めいたします。

経営コンサルティング本部
コンサルタント
公文 拓真

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2019年7月号

 

 

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スタートアップと大企業をつなぐ、イノベーションプラットフォームを提供するPlug and Play。世界12カ国27拠点を構え(2019年5月末時点)、支援先企業は2000社以上、資金調達総額は70億ドル(約7770億円、1ドル= 111円換算)を超える。イノベーションが起こりにくいといわれる日本企業に必要なものは何か。日本法人の代表を務めるフィリップ・ヴィンセント氏に、スタートアップ企業とのオープンイノベーションを成功させる要諦を伺った。

 

PayPalやDropboxの誕生も支援した
スタートアップ・エコシステム

 

若松 2006年に米シリコンバレーで創業したPlug and Play(プラグ・アンド・プレイ、以降PnP) は、革新的な技術やアイデアを持つスタートアップを支援するグローバル・ベンチャーキャピタルであり、世界トップレベルのアクセラレーターです。日本支社の設立は2017年7月。フィリップ代表は当初から運営に関わっておられます。

 

まずはPnPがどのように設立されたのか、また具体的にどのような支援を行っているのかをお聞かせください。

 

フィリップ PnPの創業者であるサイード・アミディは、米シリコンバレーでさまざまな事業を立ち上げた事業家です。その一つが不動産業で、スタンフォード大学の近くのビルを購入したことがPnP設立のきっかけになりました。

 

もともとビルがあったパロアルトという地域には、多くのベンチャーキャピタルが拠点を置いていました。その資金を目的にスタートアップ企業が集まっており、サイードが所有するビルにも、GoogleやLogitech、Danger(Microsoftが買収)といった企業がスタートアップとして入居していました。

 

若松 いずれも優れたビジネスモデルを持つ企業ですね。そうした企業が集まっているのであれば、投資家は放っておきません。

 

フィリップ その通りです。有望なスタートアップが集まったことで投資家はますます増え、資金調達を目的にスタートアップがさらに集まってくる善循環が生まれました。この動きに注目した大企業が次々と同じビルに拠点を置くようになると、スタートアップに関わるキープレーヤーが集積するエコシステムが出来上がっていきました。

 

こうした流れの中、サイードは2006年にPnPを設立。現在、シリコンバレーの拠点には、スタートアップが500社以上入居し、同じビルに大企業や政府機関、大学など100社以上が集まっています。

 

若松 スタートアップにはスピード感が大事です。同じビルにキープレーヤーが集まるメリットは大きいですね。そうした場所を提供されるだけでなく、PnPは大企業と共にスタートアップの早期ビジネス化を支援するアクセラレーターとしても積極的に活動されています。

 

フィリップ PnPでは、2013年からスタートアップに対する短期集中型の支援プログラム「アクセラレーションプログラム」を提供しています。スタートアップを15~20社ほど集めてプログラムをつくり、大企業がグループになって支援する仕組みで、実施期間は3カ月。最初にスタートしたBrand and Retail(ブランド・アンド・リテール)をきっかけに世界中へ拠点が拡大し、各拠点でさまざまなプログラムが誕生しています。現在、東京では5テーマ、海外では27拠点で50以上のテーマを回しています。

 

若松 シリコンバレーを訪れた際、私はこのアクセラレーションプログラムに共感し、日本でも必要になると直観しました。シリコンバレーらしいビジネス支援モデルだと思います。このプログラムに参加するメリットはどこにあるのでしょうか。

 

フィリップ スタートアップ側は、パートナー企業からアドバイスを受けて事業をブラッシュアップできますし、不足する経営資源やノウハウを短期間で補うことができます。

 

一方、パートナー企業は有望なスタートアップと出合うことができ、新規事業やオープンイノベーションにつなげるチャンスになります。

 

技術・人材がそろっている
日本企業の可能性は大きい

 

若松 このたび、私たちタナベ経営もPnP Japanとパートナーシップを結びました。現時点では、日本においてどのような活動をされているのでしょうか。

 

フィリップ アクセラレーションプログラム事業と投資事業、大手企業を対象とするオープンイノベーション戦略の支援事業をメインに活動しています。グローバルにビジネスを展開していますが、プログラムなどは拠点を置く地域に合わせてアレンジしています。

 

例えば、日本の場合は、スタートアップに対してワークアップやコーチングを行うだけでなく、パートナー企業に対しても実証実験に至るプロセスやチームづくりのコーチングを実施しています。サポート企業側にコーチングを行うのは日本独自の特長です。

 

 

若松 フィリップ代表が日本支社の開設をPnPに提案されたとお聞きしました。スタートアップや日本市場に興味を持たれたきっかけは何ですか。

 

フィリップ 私は米国生まれの日本育ちです。大学入学を機に米国へ戻りましたが、卒業後は日系商社のシリコンバレー事務所に採用されて、現地のセールスマーケティングに関する新技術を日本の企業に紹介する仕事をしていました。そこでPnPに出入りするようになりましたが、現地のスタートアップと日本企業がうまく連携できないケースが続きました。

 

こうした状況をどうにか変えたいと思い、PnPに入社。ちょうどIoTのアクセラレーションプログラムを立ち上げるタイミングだったので、IoTのプログラムと、そこからスピンアウトしたモビリティーのプログラムの責任者を務めていました。

 

若松 私も、日本企業がスタートアップとうまく連携できないように感じます。大企業との連携もよいのですが、私たちのクライアントである中堅オーナー企業は、投資や意思決定の面で有利だと考えます。

 

フィリップ 連携がまだうまくいっていないのは、構造的な問題の方が大きいように感じています。シリコンバレーのPnPにおいても、私は日本企業とスタートアップの連携を支援していましたが、現地のスタートアップ側から「日本企業は準備ができていない」「日本企業との連携が進まない」といったフィードバックが寄せられることがありました。

 

日本企業は非常に保守的で、リスクを取ってコミットメントすることをためらいます。また、事業部制をとっているため、全社的なコミットメントを交わすことが難しいといった問題がありました。

 

若松 早期のビジネス化を目指すスタートアップは、そうした日本企業にあまり魅力を感じないでしょう。ただ日本人としては、この状況は悲しいですね。日本支社の開設を心から歓迎します。

 

フィリップ ありがとうございます。方法さえ変えれば日本企業には大きな可能性があると感じていたので、PnPに「日本に拠点をつくりたい」と提案しました。もともと日本と米国を橋渡しするような仕事がしたいと思っていたことも、日本進出を目指した理由です。

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イノベーションの成否は
コミットメントの量で決まる

 

若松 ここ数年、日本においてもスタートアップの機運が高まりつつあります。

 

フィリップ 大企業が短期間で多くのイノベーションを起こす方法として、スタートアップとの連携が非常に注目されるようになっています。スピーディー、かつフレキシブルに活動するスタートアップと連携することで、他社に先んじてイノベーションを起こすことが可能になる。そうした理解が大企業の間で広がっているのだと認識しています。

 

若松 スタートアップとの連携を成功させている企業とうまくいかない企業があります。違いはどこにあるのでしょうか。

 

フィリップ パートナー企業になるだけで、イノベーションが起きるわけではありません。まず、企業内に受け皿となる「チーム」が絶対に必要です。

 

最近は、日本でも「オープンイノベーション室」や「イノベーション推進室」といった、全社を統括する専門チームを置く企業が増えています。その流れは良いことですが、そうした専門部署がスタートアップとコミットするだけでは不十分です。経営層や事業部とスタートアップの間にコミットメントがないと前に進みません。各階層のコミットメントが重なって、ようやく連携が動き出します。「コミットメントの量が成功確率を上げる」と言っても過言ではありません。

 

若松 会社全体としてイノベーションに向き合わないと成功しない。これはコンサルタントとしての経験からも非常に共感します。さらに言えば、たとえ失敗したとしても、その経験を各階層、部署間で共有できれば次に生かすことができます。

 

フィリップ フィードバックを次に生かすことで、成功率はどんどん上がっていきます。そもそもスタートアップの世界は、「スタートアップ100社と会い、その中の10社と実証実験を行っても、成功するのは2社あれば良い方だ」といわれています。まずは、たくさんのスタートアップと会って、一つずつコミットメントしながら進めていく。これがスピード感のあるイノベーションを成功させる鍵になります。

 

若松 私は「常識を疑うところからイノベーションが生まれる」と言っていますが、私自身、シリコンバレーへ出張した際に「スタートアップファースト」という言葉を聞いて衝撃を受けました。自社に必要な技術やビジネスモデルを持つスタートアップを探すことも大事ですが、スタートアップ企業や技術からビジネスを発想するとイノベーションのステージが飛躍的に高まるというアプローチを知りました。

 

フィリップ おっしゃる通りです。ただ、スタートアップには段階がありますし、企業によってスタートアップと連携する理由は異なりますから、やみくもに会っても良い成果は生まれません。

 

PnPには多くのスタートアップを支援してきた経験があり、企業の見極めやマッチング、成功に向けたプログラムやアドバイスなどに自信があります。スタートアップとの連携はピッチを聞くことからスタートしますが、次の段階として、どのように連携するのか、実証実験に進むためにどうすべきかについては、PnPがファシリテートすることで成功率を上げられると考えています。

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コミットメントの量がイノベーションの成功確率を上げる

 

プラットフォームの強化で
日本からユニコーン企業を

 

若松 先ほども申し上げたように、パートナー企業として中堅・中小企業を視野に入れることが重要です。私はコンサルタントとして1000社以上を見てきましたが、年商50億円以上1000億円未満の中堅企業かつオーナー経営者の場合、意思決定が速いですし、資金を持っている会社も少なくありません。

 

実際、タナベ経営の仲間には、スタートアップに投資している企業もありますし、若い後継者にはオープンイノベーションに高い関心を持っている人がたくさんおられます。

 

フィリップ 中小企業は、マッチング先としても投資先としても、面白い展開が期待できます。日本の中堅・中小企業には素晴らしい技術がありますから、スタートアップとの連携は魅力の再発信にもつながると思います。

 

若松 最先端でなくても、切り口を変え、新しいテクノロジーとマッチングすることで復活し、再成長する技術や製品は、少なくないはずです。そうした趣旨の機会やアクセラレーションプログラムを一緒につくることができれば、魅力が高まるのではないかと考えています。

 

最後に、今後の日本での展開についてお聞かせください。

 

フィリップ まず、アクセラレーションプログラムのテーマを増やします。今は「IoT」「フィンテック」「インシュアテック」「モビリティー」「ブランド&リテール」の五つです。シリコンバレーで実施されているテーマの中には、「マテリアル(新素材)」「サプライチェーン」「ヘルスケア」など日本にフィットするテーマがすでにあります。また、日本発のテーマもつくりたいですね。例えば、「アグリテック(農業×テクノロジー)」などは面白いテーマになると思います。

 

二つ目に、日本はスタートアップにとって入りにくい市場と思われがちでしたが、そうした状況を変えていきたい。当社のエコシステムを通して、海外のスタートアップを呼び込んでいければと考えています。

 

三つ目が、プラットフォームの強化です。プラットフォームをより広く、強くすることで、もっと多くの企業に活用していただきたい。その上で、スタートアップやサポート企業と共に、新たなユニコーン企業を誕生させたいと考えています。

 

若松 アグリテックは面白いテーマですね。PnPのプラットフォームを通してイノベーションが起こり、日本経済が活性化していけば、海外での日本企業の存在感は増していくはずです。それが実現するように私たちタナベ経営も取り組みます。共に頑張りましょう。本日はありがとうございました。

 

※ InsurTech:Insurance(保険)とTechnology(テクノロジー)から成る造語。いわゆる保険版フィンテック。

 

Plug and Play Japan㈱
所在地 : 東京都渋谷区道玄坂1-10-8
渋谷道玄坂東急ビル2F
設立 : 2017年

 

プラグ・アンド・プレイ ジャパン
代表取締役社長
フィリップ・ヴィンセント氏

新卒で日本の商社に入社。シリコンバレーオフィスでセールスマーケティングを担当しながら、新規事業立ち上げに従事。2014年よりPlug and Playに参加し、IoT・Mobilityのプログラムのディレクターおよび日本企業のアカウントマネージャーを兼務。2017 年よりPlugand Play Japan立ち上げに参画し代表を務める。現在は、日本の大企業と共にスタートアップの育成・支援を行い、パートナー企業・スタートアップ・Plugand Play Japanの3者がWin-Win-Winの関係になるようイノベーションサービスを展開している。

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

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増加する中小企業のM&A

 

日本企業によるM&A(合併・買収)が活発化している。「中小企業白書(2018年版)」によると、2017年のM&A件数が3000件(レコフデータ調べ)を上回り過去最高となったほか、中小企業の成約件数も2012年に比べて3倍超という。経営者の高齢化や後継者不在による事業承継問題に対し、国のさまざまな支援策が打ち出されていることがその背景にある。

 

中小企業によるM&Aが増えている中、実際のところその成功率はどの程度なのか。東京工業大学大学院の井上光太郎教授が行った実証研究(2013年)では、上場企業での成功率はほぼ5割だそうだ。そこから類推すると、中小企業の場合は3~4割といったところだろう。

 

いずれにせよ、M&Aは半数以上が失敗に終わっていることになる。慎重に事を進めたはずのM&Aが、なぜ失敗するのか。結論から言うと、買収側において、自社のビジョンとM&Aの目的が不明確だったことが考えられる。

 

現在、好業績の中堅・中小企業のもとには、地域金融機関やM&A仲介会社から企業譲渡の案件がよく持ち込まれる。だが、自社の中長期ビジョンと買収目的が不明確なまま、候補リストから興味のある先を選ぶだけという成約自体が目的化したケースも多い。

 

タナベ経営では、そうした失敗事例と同じ轍てつを踏まないよう、企業買収を企図する中堅・中小企業に「成長戦略M&A」を推奨している。

 

※レコフデータ『MARR』2014年5月号235号

「成長戦略M&A」とは

 

 

【図表1】成長戦略M&Aの流れ

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【図表2】マトリクス・アプローチによる買収候補先の絞り込み

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出典:筆者作成

 

 

成長戦略M&Aとは、自社の中長期ビジョンを実現するために、企業買収の目的と具体的な候補企業を明確化し、積極的に仕掛け(提案)を行うM&Aである。ここでは、成長戦略M&Aのポイントとなる「事前検討フェーズ」を中心に論述していきたい。(【図表1】)

 

(1)M&Aの成長戦略を策定
自社の現状の経営資源を前提に戦略を組み立てようとすると、現事業の延長線上で何ができるかという思考になりがちである。だが、M&Aでは「現状の経営資源という制約条件を外し、中長期的に自社はどういう姿になりたいか」という思考で戦略を立てるべきである。

 

中長期ビジョンを明確化すれば、ビジョンの実現のためにどのような経営資源が必要で、そのうち外部から「何を調達するか」(M&Aの目的)が、M&A戦略策定で重要な検討事項となる。ここがはっきりしないと、M&Aが成功したかどうかさえ分からなくなる。

 

(2)M&A候補企業の選定
自社の中長期ビジョンとM&Aの目的(どの不足を補うか)を明確にした後、買収候補先の企業を具体化する。まず、候補先の大まかな基準を設定したロングリスト(絞り込む前段階の買収候補先)を作成する。"大まかな基準"とは、事業(取扱商材・サービス)、地域、売り上げ規模などで、この時点では買収の実現可能性を考慮せず、対象範囲内に入る企業を広く列挙していく。

 

作成したロングリストから、事業内容、販売チャネル、地域シェア、製品ブランド力、技術力、株主構成、財務状況などを基準にスクリーニング(ふるい分け)し、候補先を絞り込んでいく(ショートリストの作成)。その際、【図表2】のようにマトリクスで分類し、カテゴリーごとにアプローチを整理することも効果的である。

 

(3)M&Aの仕掛け(提案)
具体的な候補先を選出した後、買収を仕掛けていく。"仕掛け"と書くと物騒に思われるかもしれないが、敵対的買収というニュアンスではなく、自社と相手先の成長発展を戦略的に提案するという意味合いである。

 

では、どのように買収を提案するのか。これは、相手先の状況によって接触、提案の仕方が異なる。例えば、後継者が不在で、事業存続と従業員の雇用維持などオーナーが安心して引退できることが求められる「後継者不在型」、財務状況が芳しくない企業が経営の安定化を図る「企業再生型」、また地域・業界で生き残るための「再編型」や、経営統合や合併によってトップシェアを握れるなど明確なメリットがある「合理的M&A」が挙げられる。

 

こうした買収候補先の状況に応じて、自社との提携シナジーと相手先のメリットを的確に伝え、提案を行う。提案方法は、自社による直接的な提案も本気度を示す意味で有効だが、自社の素性を知られずに相手先にアプローチをしたい場合もあるだろう。その際は、相手先の取引金融機関やM&A仲介会社、コンサルティング会社など外部の専門家を活用し、ノンネーム(匿名かつ大まかな企業概要)での打診から行うとよい。

 

成長戦略M&Aは、自社のビジョンを高い確率で実現させるための戦略となる。現在のM&Aマーケットは売却側に有利な"売り手市場"となっており、買収側は少ないチャンスをうかがう形となる。しかし、外部の「持ち込み案件待ち」だけでは、自社のビジョン実現の確度は高まらない。しっかりとした中長期戦略を立て、買収候補企業をアウトプットすることで、持ち込み案件への適切な検討が可能となる。

 

持続的な成長発展を目指す中堅・中小企業は、ぜひとも成長戦略M&Aを取り入れ、自社の中長期ビジョンを実現していただきたい。

M&A成長戦略策定のチェックポイント

①自社の中長期ビジョンは何か
②M&Aによって何の不足を補うか
③本当にM&Aでなければ実現できないか
④M&Aを実施することで得られる具体的な効果・シナジーは何か
⑤M&A後、自社における対象会社をどう位置付け、誰が担当するのか

 

 

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  • タナベ経営
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  • 小野 樹
  • Tatsuki Ono
  • 地域の未来を考えるリージョナルパートナーとして、多くの金融機関、会計事務所と次世代経営者の育成を推進。取引先企業の固有の課題解決に向けたコンサルティングでは、さまざまな手法を活用、真摯な取り組みで着実に成果を上げ、高い信頼を得ている。
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