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今週のひとこと

正しい危機感を共有しよう。
現状を否定する行動・思考が、
企業成長の土台をつくる。

☆ 色々と理由をつけて、デジタル活用を避けていませんか?

 日頃、筆者が経営者とディスカッションをするなかで、「人手不足の状況だが、残業も多くはさせられないので困っている」という声を頻繁にお聞きします。
 そして、課題解決の手段の一つであるIT投資について伺うと「効果の見極めが困難」「初期投資が莫大にかかる」「社内人材のリソースや、スキルが不足している」といった理由から、着手できていないということが少なくありません。

 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会が発表した「企業IT動向調査2019」の結果によると、IT予算を「増やす」割合から「減らす」割合を差し引いて求めたDI(ディフュージョン・インデックス)は、過去10年で最高の数値となりました。金額ベースでも前年比8.7%の増加となり、IT投資は堅調に推移しています。
 そのような状況のなかで、中小企業の投資額は、大企業の半分以下の水準となっています。企業規模に応じて投資できる金額に差が出るのは当然かもしれませんが、筆者は中小企業も、もっと積極的にIT投資を行うべきだと考えています。
 今では、自社オリジナルのシステムを構築するといった形よりも、クラウド型のサービスを利用するケースが圧倒的に増え、技術面・コスト面の両方でデジタル活用の壁は無くなってきていると言っても過言ではありません。
 それでも、費用対効果を見極めることが難しいのであれば、中長期的な視点でスモールスタートする。そして、ITに長けた人材が社内にいないのであれば、そうした人材を採用するといった取り組みが必要です。

 「デジタル技術の活用は、将来的にやれたらよい。現状は、ITに頼らなくても頑張れている」という現状を、あと何年続けますか。
 デジタル戦略という変化の波に乗り遅れないようにしましょう。

経営コンサルティング本部
コンサルタント
小林 達男

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2020年に創業130年を迎えるヤオコーは、30期連続増収増益(単体ベース)を達成した。売上高4350億8500万円、従業員数1万4772名(ともに連結ベース、2019年3月末現在)の東証1部上場のスーパーマーケットチェーンだ。一般的なチェーンストア理論の対極とも言える「個店ビジネスモデル」を推し進め、地域の食生活に密着した商品と情報を提供し続けることで「日本一元気なスーパーマーケット」と呼ばれている同社の戦略を、代表取締役会長の川野幸夫氏に伺った。

 

"真面目にコツコツ"で創業130年の社歴を刻む

 

若松 ヤオコーは、埼玉県を中心に千葉県、群馬県、栃木県、茨城県、東京都、神奈川県の1都6県で、多彩な食料品を主体とするスーパーマーケットを展開されています。その数は、172店舗(グループ全体、2019年3月末現在)に達します。

 

創業は1890年ですから、来年(2020年) は創業130年を迎えられます。日本では100年企業の存続率は約0.6%。私は、存続率の見地から100年経営を「奇跡の経営」と呼んでいます。川野会長は長寿経営の秘訣を何だとお考えですか。

 

川野 私が4代目の社長を務めた時から、当社のような日常の生活必需品をお客さまへ提供する仕事は、「真面目にコツコツが一番大切」と肝に銘じて日々の業務に励んできました。私の息子である6代目の川野澄人(代表取締役社長)も経営者としてあるべき姿を思い描きながら、日々の弛みない努力を積み重ねています。

 

若松 私自身の1000社を超えるコンサルティング経験の中から言えることですが、100年を超える会社には「社徳」とも表現できる社風があります。中でも30年連続の増収増益は、多くの劇的な変化、歴史的な出来事を乗り越えての驚異的な実績と言えます。「スーっと現れてパーっと消えるから"スーパー"だ」と揶揄された時代から、会長は業界の最前線に立って、スーパーマーケットのファーストコールカンパニーであるヤオコーを築かれました。多くの同業他社との違いはどこにあるのでしょうか。

 

川野 あらゆる産業は導入期、成長期を経て、やがて成熟期、衰退期へと進みます。小売業界も確かに、ネットショップの登場で大きく変わる可能性はあります。しかし、お客さまの生活シーンから"食事"がなくなることはあり得ません。それ故、食事に関わる商品や情報を提供するスーパーマーケットのライフサイクルは長いのだと私は考えています。だからこそ、お客さまの課題を的確に捉えた中長期の経営戦略に基づいて、コツコツと努力をしながら"体力"を蓄える戦略の実行が最も重要だと考えます。

 

その際に忘れてはならないのが、どんなに企業規模が大きくなろうとも、「お客さまの生活をどれだけ豊かに楽しくできるか」「お客さまにどう喜んでいただけるか」を自社の存在意義として中心に置きながら、事業にまい進すること。その結果、業績が伸びたのなら良いのです。

 

若松 「真面目にコツコツ」という意味は、会社の存在意義を明確にし、それに向かってブレることなく、お客さまと向き合う努力を日々積み重ねる「経営体質」であり、「個店経営モデル」を意味しているのですね。非常に共感します。

 

川野 一番大切なのは、自社が存在する意義を確立し、それを全従業員が共有していることです。当社は、「生活者の日常の消費生活をより豊かにすることによって、地域文化の向上・発展に寄与する」を経営理念に掲げています。「豊かで楽しい食生活提案型スーパーマーケット」を経営の基本方針として会社の中心に据えています。

 

 

「ミールソリューション」「価格コンシャス」で推進する

全員参加型の個店経営モデル

 

若松 「豊かで楽しい食生活提案型スーパーマーケット」をどのようなスタイルで店舗経営に展開されているのですか。

 

川野 お客さまへ「鮮度やおいしさ」「選べる楽しさ」「安さ」を提供すると同時に、献立の提案や料理のアドバイスといった毎日の食事の問題を解決する「ミールソリューション」を提供し、「毎日のお買い物はやっぱりヤオコーだね」と言っていただけるスーパーマーケットを目指しています。

 

こうしたビジネスモデルの原点となったのは、1994年にヤオコーの目指すべき店舗像を考えて「ライフスタイルアソートメント型スーパーマーケット」と表現したこと。具体的に言えば、生鮮やデリカ(惣菜)などの価値訴求型・地域密着型商品を充実させたスーパーマーケットを標榜したことでした。

 

お客さまは売り場に優れた食材が並んでいても、その特徴や料理法などの情報がないと手が伸びないし、たとえ買ってもおいしい料理にするのは難しいでしょう。情報は、食生活に豊かさや楽しさを与える大きな要因になります。

 

若松 「毎日のお買い物はやっぱりヤオコーだね」という価値を私たちは「ファーストコールカンパニー(顧客から一番に選ばれる価値ある会社)」と呼んでいます。まさにスーパーマーケットのファーストコールカンパニーです。価値訴求型・地域密着型の品ぞろえに、ミールソリューションという情報、今で言う「コト価値」を早くから加えたことも素晴らしいですね。

 

川野 ミールソリューションに取り組む以前から、現場ではお客さまに喜んでいただけるおいしさや品ぞろえを必死に模索してきました。

 

例えば、群馬県の中之条店ではパートナーさん(ヤオコーではパート社員のことをパートナー社員と呼ぶ)が自ら考案した料理を店に持参して販売していました。多いときは30品ほどあり、レシピも添えて売り場に並べると、お客さまは「私もこんな料理が作りたい」と思ってパートナーさんに質問を投げ掛けます。パートナーさんには主婦の皆さんが多く、毎日の食事に関する悩みや課題がよく分かりますから、お客さまへ的確な情報を提供することができ、その結果、売り上げが伸びるわけです。

 

もちろん、価格設定にも細心の配慮を払っています。鮮度が良く、おいしくて安全・安心な商品を、お客さまが納得する価格で提供する「価格コンシャス」を推進。店舗の雰囲気やミールソリューションと相まって、お買い物のトータルな値ごろ感を感じていただけるように努めています。

 

若松 "パートナーさん"とは、パート社員への敬意を込めたヤオコーらしい呼び方ですね。権限委譲されたパートナーさんが顧客と接しながら、自主的に考えて動いている様子が分かります。

 

パートナーさんをはじめとする従業員みんなで店を良くしていこう、お客さまに喜んでもらおう、と考える自由闊達な社風は、ヤオコーならではの「個店経営モデル」から生み出されたものでしょうか。

 

川野 そう言えると思います。小売りチェーンでは本部主導型の経営が一般的なのですが、それでは画一的な店舗に画一的な商品を並べることになります。 しかし、"食"は地域によっても個人によっても、好みが大きく異なるものです。そこに気付いて東証上場を機に、各店舗の状況に応じた店づくりや品ぞろえを行う個店経営へシフトしました。

 

現場では店長、社員、パートナーさんが一体となった「全員参加の商売」に励んでいます。それが結果的に私たちの「組織経営」にもなったのです。

 

 

2018年に竣工したヤオコーサポートセンター(本社)新社屋

2018年に竣工したヤオコーサポートセンター(本社)新社屋

 

 

「ヤオコー大学」でキャリア支援する

「最大の財産は人材」

 

若松 豊かで楽しい食生活提案型スーパーマーケットを、個店経営で展開するには、優れた人材が不可欠です。人材戦略や採用戦略にはどのように取り組まれているのでしょうか。

 

川野 苦労と試行錯誤の連続です。大卒の新入社員を最初に採用したのは1976年。当時は埼玉県のスーパーマーケットで売上高がベスト10にも入らないような状況でしたが、オイルショックによる就職氷河期だったことが幸いして7名を採用できました。大卒1期生です。採用費として当時の経常利益の3分の1を投資しました。学生と面談した際、「学校の掲示板に出ている会社で資本金1000万円以下はヤオコーだけ。格好悪いですよ」と言われたので、1978年には資本金を1億円に増資しました(笑)。

 

若松 採用戦略が経営戦略の時代になりました。特に新卒社員と対話すると会社への見方、捉え方が新鮮で、会社をゼロベースで見直す機会にもなります。

 

川野 入社してくれた社員を一人前の人材に育て上げるのが、私の役割です。多くの試行錯誤を重ねながら、現在では「採用・定着・教育」のプロセス強化に注力。採用した社員の定着を促進しながら、人材育成の基盤として社内開校した「ヤオコー大学」で入社1年目から5年目までの教育カリキュラムを体系的に施して、キャリアアップを支援しています。「小売業の最大の財産は人材」なのです。

 

若松 パート社員さんを「パートナーさん」と呼んで全員経営を実践されたり、「ヤオコー大学」を開校して人材育成に注力されたり、何よりもここの新社屋(本社)の働く環境の全てから、「人といかに向き合うべきか」というポリシーを強く感じます。

 

川野 それらに加えるなら、1997年に東証1部上場を果たしたことも大きな転機でした。社会的な知名度や信頼を高めることは、優れた人材の確保につながると思います。働いている人の張り合いにもなりますし、何よりも社員の家族が喜んでくれました。うれしかったですね。ヤオコーを働きがいのある会社にしたい、その想いでやってきました。

 

 

〝ミールソリューション〟を提供し、
「毎日の買い物はやっぱりヤオコー」と言われるスーパーを目指したい

 

 

 

選ばれる価値を追求し、

顧客という"プロ"を満足させる店づくり

 

若松 ヤオコーのビジョンを拝見すると、個店ビジネスモデルでは「1km商圏シェア25%」という目標を掲げています。私もナンバーワン企業はシェア20%以上が必要条件だと提言してきました。

 

川野 商圏内シェアアップは、前期(2019年3月期)からスタートした第9次中期経営計画の優先課題に置いています。基本レベル(鮮度・クリンリネス・品ぞろえ・接客)の向上、青果で選ばれる店づくり、ヤオコーでしか買えない商品づくり、販売力アップ(単品量販、メニュー提案)に取り組み、1km 商圏シェア25%を目指しています。お客さまから選ばれる店舗を追求していく結果としてのシェアアップを実現したいですね。

 

若松 明確なペルソナとターゲットマーケットに対するシェア目標の設定は、ファーストコールカンパニーの必要条件です。これらの目標からも地域においてナンバーワンブランド店を目指しておられることが分かります。他方、全国各地域の百貨店は閉店が相次いでいます。人口減少が影響していると思われますし、これからも同じような状況が続きます。

 

2020年の東京オリンピック・パラリンピックが終了した後のスーパーマーケット業界はどのようになるとお考えですか。

 

川野 これからの高齢社会では、孤独な人が増えます。人間は「集いたい」という本性がありますから、リアル店舗がなくなることはないでしょう。リアル店舗の価値をいかに高めるかが、垣根を越えた業態との戦いに勝ち残るための条件だと思います。

 

実際、Amazonをはじめとするネットビジネスやeコマースへの対策も練っています。自社のリアル店舗へお客さまをいかに呼び込むかを考えた場合、その店でしか買えない商品、その店でしか感じられない雰囲気、その店でしか得られない情報といった、店に「行きたくなる価値」を高めることがポイントになると考えています。

 

私たちの生活は多様化、個性化、専門化が加速し、より強い刺激がなければ感動を覚えなくなっています。お客さまの要求水準を上回る対応で、「ヤオコーでは事前の買い物メモが役に立たない。売り場を回ると買い物メモ以上に別のものを買ってしまう」といった"うれしい苦情"を今まで以上にこれからも頂戴したいと考えています。

 

若松 顧客という名の"プロ"から選ばれるスーパーマーケットとして、新しい時代の食生活がより豊かで楽しくなる価値を求め続けられることを祈念申し上げます。本日はありがとうございました。

 

 

ヤオコー 代表取締役会長(日本スーパーマーケット協会 会長) 川野 幸夫氏
1942年生まれ、埼玉県出身。1966年東京大学法学部卒業、1969年八百幸商店入社。1974年ヤオコーに改組、取締役を経て専務取締役。1981年代表取締役、1985年代表取締役社長。1989年川野小児医学奨学財団を設立、理事長(現任)。2007年ヤオコー代表取締役会長(現任)。2009年渋沢栄一賞受賞。同年日本スーパーマーケット協会会長(現任)、2012年日本チェーンストア協会副会長(現任)。

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

PROFILE

  • ㈱ヤオコー
  • 所在地 : 埼玉県川越市新宿町1-10-1
  • 創業 : 1890年
  • 代表者 : 代表取締役会長 川野 幸夫、代表取締役社長 川野 澄人
  • 売上高 : 4350億8500万円(連結、2019年3月期)
  • 従業員数 : 1万4772名(連結、2019年3月末現在)

 

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【図表】製造業/経常利益率の推移

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注:大企業/資本金10億円以上、中堅企業/同1億~10億円未満、中小企業/同1000万~1億円未満
出典:財務省「四半期別法人企業統計調査(金融業、保険業を除く)」

 

 

経常利益率10%の意志

 

財務省の「法人企業統計調査(金融業、保険業を除く)」によれば、2018年4~6月期の製造業の経常利益額が10兆4766億円、前年同期に比べ27.5%増と大幅な伸びを示した。四半期ベースの経常利益額が10兆円台に到達したのは初めてのことである。また、売上高経常利益率(以降、経常利益率)は10.6%となり、こちらも過去最高を更新した。

 

だが、経常利益率を資本金規模別に見ると、収益力は大きく二極化する。中堅企業(1億~10億円未満)は5.7%、中小企業(1000万~1億円未満)は5.8%、それに対し大企業(10億円以上)は14.0%だ。中堅・中小製造業の収益力は、大手製造業の半分以下の水準にとどまっているのが実態である。(【図表】)

 

タナベ経営は、企業がファーストコールカンパニーを目指す上で、「経常利益率10%への意志が大切」であると提唱している。その理由は、大きく3つある。

 

1つ目は、「つぶれない会社を作るため」である。他人資本を減らして、バランスシートを整えるためにも、継続して利益を上げていく必要がある。

 

2つ目は、「会社の未来を創るため」である。高収益企業を見ると、設備投資額は大きく、事業開発投資も大きい。これは"儲もうかっているから"ではない。人材育成投資、ブランディング投資、採用投資、職場環境への投資が大きいのだ。この投資の差は確実に、未来の差になる。

 

そして3つ目の理由が、「変化へのコストづくりのため」である。事業の永続性を考えると、長期レンジで経営を考える必要がある。長期レンジでは、経済・技術・価値観・社会課題など、さまざまな変動因子が企業経営に変化を迫ってくる。そうした変化に対し受け身でいるだけでは、事業の永続性は担保できない。

 

自ら進んで変化を起こしていかないと、企業の存続は難しい。変化をするにはコストが必要だ。そのためにも、利益は未来への存続コストとして捉える必要がある。

 

 


3つの経常利益率10%モデル

 

グローバル化の加速や価格競争、人口減少に端を発する市場の縮小、高齢化による生産性停滞と働き手不足、人々の価値観の多様化、そしてAIやIoTなど先端技術の進化など、日本のものづくり企業に迫る経済構造変化の波は年々大きくなってきている。もはや過去の延長線上に未来はなく、まさにいま、未来へ向けて一歩を生み出さねば取り返しのつかない岐路に立たされていると言っても過言ではない。

 

私が参画している「ものづくり研究会」では、これからのものづくり企業の在り方について研究を行っている。その事例をまとめていく中で、高収益を上げている企業の収益モデルにはパターンがあることに気付いた。

 

それは、いずれの企業もデジタル技術を積極的に導入するとともに、外部とのアライアンスやバリューチェーン(価値連鎖)の最適化を進めながらも、人中心の経営を行っていること。また、近未来(2030年)の経営環境や社会と顧客の課題を見据えて、自ら変化を起こしている。その上で、経常利益率10%を確保しているのである。

 

そうしたものづくり企業のモデルを大きく3つに分け、紹介したい。

 

(1)高粗利益ファブレス型モデル
1つ目の経常利益率10%モデルパターンは、「高粗利益ファブレス型」だ。このモデルで経常利益率10%を実現するための基準値としては、「粗利益率40%・労働分配率40%」である。ファブレス型で粗利益率40%を実現するためには、バリューチェーンの入り口と出口に当たる、開発機能と顧客ニーズを押さえることが重要である。さらに少数精鋭主義で、労働分配率を40%以下に抑えることで、経常利益率10%を実現できる。

 

(2)高付加価値・低粗利益・設備コスト型モデル
2つ目のモデルパターンは、「高付加価値・低粗利益・設備コスト型」である。このモデルは、戦略的に機械・デジタルシステムなどの設備へ投資をし、結果として製品・サービスに付加価値を乗せることができている。生産性を最大限に高め、極力、人への依存を減らすことが大切だ。

 

例えば、「コスト情報」「製品情報」「スケジュール情報」「生産情報」という4つの情報の流れを業務フローに落とし込み、ムダなく、モレなく、ダブリのない状態でインプットとアウトプットの最適化を進めていき、生産性を高めることが重要である。このモデルで経常利益率10%を実現するための基準値としては、「限界利益率65%・労働分配率30%・粗利益率25%・販管費率15%」である。

 

(3)高付加価値・低粗利益・人的資源コスト型モデル
3つ目のモデルパターンは、「高付加価値・低粗利益・人的資源コスト型」だ。このモデルは、機械だけでは対応できない製品を製造するようなグループである。ただし、このモデルを実現するための条件は、顧客ニーズを的確に押さえるマーケティング力と、自社製品の価値を認めさせるためのブランディング力による、"製品+サービス"のビジネスモデルの展開が重要となってくる。

 

このいずれかが不足すると、たちまち価格競争に陥って収益モデルが崩れてしまう。このモデルで経常利益率10%を実現するための基準値としては、「限界利益率65%・労働分配率50%・粗利益率25%・販管費率15%」である。これは換言すれば、人と経営システムで付加価値を生み出す収益モデルと言える。

 

 


ビジネスモデルが「収益モデル」を決める

 

3つのモデルパターンに共通していることは、粗利益率もしくは限界利益率を高めるための戦略が明確であること、それに対して経営資源を配分していることである。しかも、中途半端にするのではなく、意志を持って計画的かつ継続的に行っている。その結果として、高い利益率を実現している。

 

業種・業態が収益モデルを決めるのではなく、自社のビジネスモデルが収益モデルを決める。今回示した、ものづくり企業における経常利益率10%モデルの法則と自社の実態を照らし合わせ、ギャップがどこにあるかを明確にしていただきたい。

 

 

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  • タナベ経営
  • 経営コンサルティング本部 部長
  • 戦略コンサルタント
  • 浜岡 裕明
  • Hiroaki Hamaoka
  • 財務戦略から計画数字をやり切るための具体策を一般社員にまで落とし込む業績管理体制構築に定評がある。活躍は財務面にとどまらず、幹部社員への教育においてはタナベ屈指の高い評価を得ている。

 

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