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今週のひとこと

勝てる条件をつくろう。
決めては何か。
それを見抜き、実行しよう。

☆ そのリーダーで新規事業は成功しますか?!

 企業が持続的に発展していくためには、新しいことにチャレンジし続けなければいけません。
 そして、その際に大事なことは「誰に任せるのか」ということです。
 これは、筆者が実際にコンサルティングを行っている企業の実例です。その企業で、新しい事業に取り組むことになり、責任者を任せられたのは、社歴の長いA部長でした。社長がA部長を選んだ理由としては、社歴が長く色々と詳しいことであったり、プロジェクト発足の時、A部長が比較的業務量の少ない時期であったりということでした。
 こうしてA部長を中心にプロジェクトがスタートし、定期的なプロジェクトミーティングの実施で、新たな事業についてディスカッションしていくことになりました。
 結論から申し上げると、A部長のもとでは新規事業プロジェクトは機能しませんでした。その理由は様々ですが、一番の理由は「A部長の実行力・責任感の不足」ということです。

新しいことに取り組むということは、正解が存在しない状況のなかを、試行錯誤を重ねて進めていかなければならず、通常の業務よりも圧倒的に時間と労力がかかります。だからこそ、本来であれば、A部長が率先垂範してプロジェクトメンバーを先導していかなければならないにも関わらず、A部長は会議の度に「忙しい」「忘れていた」...などの発言をし、自分の担当である課題すら対応しなかったのです。
 その結果、他のプロジェクトメンバーも課題を進めなくなり、新規事業プロジェクトはまったく進まなくなってしまったのです。
 そこで、忙しいものの実行力のあるB部長に責任者を変更しました。
 その後は、実現しそうな新規事業の案も出てきており、プロジェクトの雰囲気自体が大きく変わってきています。

 このように、他のメンバーよりも比較的時間があるという理由で、責任者を決めることがあります。しかし、新規事業や新たな取り組みを行う際のリーダーの選定が、そのプロジェクトの成否を決めることを意識し、たとえ忙しくても、実行力のあるリーダーを責任者とすることをオススメします。

経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント
内田 佑

タナベ経営 経営コンサルティング本部 本部長代理 戦略コンサルタント 新規事業開発研究会 リーダー 巻野 隆宏 Takahiro Makino

企業の持続的な変化と成長をサポートする戦略構築に取り組んでおり、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開している。

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成長するスタートアップ企業が掲げるミッション・ビジョン

 「困りごとを解決する『なくてはならぬ』サービスを通して誰もがしあわせに笑顔で暮らせる、よりよい未来をつくります」(akippa) 「乗り物を通じて、世界中の人々に、驚きと感動と笑顔をお届けする」(glafit) 「ソーシャルビジネスで世界を変える」(ボーダレス・ジャパン) これらは最近、私が接したスタートアップ企業のミッション・社是である。成長を続けるスタートアップ企業は、事業を起こすに当たって明確で大きなミッション・ビジョンを掲げ、その実現に対し全ての経営資源を投入している。
 "スタートアップ"とは、企業形態を指すわけではない。新たなビジネスモデルを開発し、市場開拓する段階を指す。スタートアップ企業の特徴として、短期間で急激な成長を遂げるという点が挙げられる。また、これまでに市場に存在しなかった新しいビジネスで世の中へ貢献するという大きなミッション・ビジョンを掲げていることが多い。
 つまり、新しいだけではなく、「世の中に新しい価値をプラスし、人々の役に立つ」もので、社会貢献が果たせるイノベーションを提供するのがスタートアップ企業の条件である。しかも、短期間でスピーディーに実現するインパクトが求められる。
 例えば、駐車場シェアリングサービスを提供するプラットフォーマーのakippaは、2013年9月にアイデアを着想し、外部とのアライアンスで2014年4月にはサービスを開始している。

ワクワクする新しい体験価値をスピーディーに

 「先に〇〇に並んで予約を取ろう」「あと30分あるので△△が作れる」。寸暇を惜しむかのように走り回る子どもの後ろ姿を追い掛ける親たち。子どもの職業・社会体験施設「キッザニア」での一幕だ。
 ある子どもはその仕事のスタッフに完全になりきり、またある子どもは自分で作ったものを親に誇らしげに見せている。職業体験でもらった「キッゾ(働いた給料としてもらえるキッザニア内で使える専用通貨)」をすぐに使ってしまう子どももいれば、銀行に預ける子ども、また財布がパンパンになるほどためている子どももいる。遊園地とは一味違う、子どもがそれぞれにワクワク感を感じられる体験施設である。
 スタートアップスピリッツ(起業精神)で新規事業を創造するには、未来志向であり、自ら新しい分野を切り開こうとするパイオニア精神を持った「スピーディーに取り組むリーダーシップ」が必要である。前出のakippaの例でも分かるように、急成長を遂げるスタートアップ企業の成長・変革スピードは非常に速い。ワクワクする新しい体験価値をスピーディーに提供している。このスピード感に負けずに取り組むスピード意識が求められる。
 これまでも世の中を変えてきたのは"いまだ見ぬ未来を見せてくれるテクノロジー"がもたらすイノベーションであり、それによって顧客はこれまでに体験したことのない「ワクワクする新しい体験価値」を手に入れることができるのである。このワクワクする新しい体験価値をスピーディーに提供できるかどうかが、新規事業創造におけるインパクトの大きさを左右する。このキーワードは次の3つである。


①長期視点を持つ
大きく明快なビジョンに基づいた、長期視点で新規事業を創造する力が必要である。ビジョンのない新規事業が成功することはない。未来をイメージした、顧客課題を前衛的な方法で解決する構想力が新規事業を成功に導くのである。


②競争しない
環境変化のスピードが速く、競争優位が長く持続しない状況下においては、競争を前提としない事業戦略が必要である。ライバルに先駆けて自らの事業を変革させ続けることで、競争自体をなくすのである。新規事業は生み出して終わりではない。常に独自のポジションを取れるように、他社に先駆けて変革し続ける仕組みが必要である。


③スピーディーに創造する
経済産業省の調査(「ものづくり白書」2016年版)では、「主力事業のライフサイクルは10年以下」と回答した企業が約74%を占め、この傾向はますます加速していく。短くなる事業のライフサイクルに先駆けるスピードで新規事業を創造する必要があり、そのスピード感がビジネスモデルの鮮度を維持するのである。

スピーディーな事業創造を実現する3つのスタイル

 新大陸に到達したコロンブスたちのもとに、彼の成功をねたむ男がやって来て、「そんなことは、誰にでもできることだ」と批判した。するとコロンブスはゆで卵を手に取り、「誰か、この卵を立ててみてください」と言った。ところが、誰一人として立てられない。コロンブスはゆで卵の殻をへこませ、立たせてみせた。
 それを見た男が「簡単じゃないか。誰にでもできることだ」とつぶやくのを聞いたコロンブスは、「誰にでもできることだが、誰もこの方法を発見できなかった」と言い放った。誰にでもできることであっても、それを最初に成功させるのは難しく、だからこそ意義があるという教訓を説いた、あまりにも有名な話である。
 他社に先駆けてスピーディーに事業創造に取り組み、ワクワクする新しい体験価値を誰よりも先に提供することは重要であるが、これが非常に難しいことであるということは想像に難くない。それを成し遂げるには、前述の通り「長期視点を持つ」「競争しない」「スピーディーに創造する」という3 つのキーワードに取り組んでいく必要がある。
 では実際に、この3 つのキーワードを重視して行う事業創造とはどういうものか。ポイントは「ナナメ先を行く事業創造」「β(ベータ)版事業創造」「顧客に寄り添う事業創造」である。

① ナナメ先を行く事業創造
顧客ニーズの一歩先を行くだけでは、スピーディーな事業創造は実現しない。前衛的な取り組みを行っている顧客をターゲットとし、その顧客課題に対して、これまでにない前衛的な課題解決技術をもって、新しい体験価値を提供することが必要である。それは創造性を働かせた事業創造であり、今までの延長線上にはない事業創造である。故にカタチのない段階でのテストマーケティングは意味を成さず、カタチを示して初めて顧客はその体験価値に気付くのである。「前衛的な顧客課題×前衛的な課題解決技術=未体験の体験価値」、このナナメ先を行く事業創造へ取り組まなければならない。

② β版事業創造
β版事業創造とは、ビジネスモデルの仮説を小さな段階に分けて素早くリリースし、顧客に近いところで仮説・検証を行う、顧客を巻き込む事業創造である。 修正や手戻り、あるいは失敗も含めて試行錯誤が前提となる方法だ。初めから完璧を求めてはいけない。未完成でのリリースを恐れ、完成してからリリースしなければならないと考えるとスピードが遅くなり、競合他社の追随や外部環境の変化に負けてしまう。 未完成であっても、β版としてスモールスタートするのである。顧客と成果を早い段階で共有することで、いち早く顧客からのフィードバックを受け取り、次の事業創造に生かす。このβ版思考が事業創造のスピードを格段に上げるのだ。完璧主義的な意識を変え、常に改良を加えられるような体制を構築し、小さく素早く顧客へ問うことに重点を置くスピード重視の事業創造が重要である。

③ 顧客に寄り添う事業創造
イノベーションは現場から起きる。顧客から離れた場所で顧客を想像しても、スピーディーには事業創造できない。実在する顧客の近くに寄り添うことで、他社に先駆けて前衛的な顧客ニーズをつかみ、前衛的な課題解決技術へ一番先に取り組める。 顧客に近い場所で常に情報収集できる仕組みを構築し、顧客と共にトライ&エラーを繰り返す、顧客に寄り添った事業創造が重要である。

コミュニケーション重視のリーダーシップが"アタラシイ"を生み出す

 最後に、スピード感を持った事業創造には、同じ熱量を持った人を巻き込むコミュニケーションを重視したリーダーシップが非常に重要だ。この事業創造におけるリーダーシップの概念が近頃、変化しつつある。自らが先頭に立ち率先垂範、上意下達でどんどん引っ張る従来型のリーダーシップでは、事業創造におけるチーム力を十分に高められない事象が増えてきている。
 今、求められるリーダーシップの形は、コミュニケーションを重視したリーダーシップであり、周囲を巻き込み、モチベーションを高めながら同じ熱量でつながるためのリーダーシップである。ポイントは次の3点だ。

①成功への強い意志力
まずはリーダー自らが、「必ず実現する」「自分たちがやらなければいけない」という強い意志を持つこと。

②明確なイメージとして表現できる構想力
その強い意志・ゴールをワクワクするイメージとして表現、ビジュアル化する構想力を持つこと。

③仲間へ伝え共感を得るためのコミュニケーション力
イメージを仲間に伝え共感を得るとともに、第三者からの評価を得るなどチームのモチベーションを高められるコミュニケーション力・演出力を持つこと。
これらのコミュニケーションを重視したリーダーシップが、いま、"アタラシイ"をスピーディーに生み出している。自らのリーダーシップの発揮の仕方を再認識し、世の中に貢献するビジョンを持ったワクワクする新規事業を、スタートアップ企業に負けないスピードで生み出すことへ挑戦しよう。

【図表1】 学歴・属性別 研究開発者の新卒採用を行った企業割合の推移

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人と組織の"ベンチャー化"が進む企業の研究開発

 企業の新規事業開発において、重要な投入資源の一つが「研究開発者」である。いくらIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)が進化を遂げたとはいえ、デバイスとアルゴリズム(問題解決のための方法・手順)が自動的に製品・サービス・ビジネスモデルを開発してくれることはない。それらを操り、開発するのは人間の仕事である。
 近年、その研究開発者を新卒から採用する企業が増加傾向にある。文部科学省直轄の国立試験研究機関である「科学技術・学術政策研究所」(NISTEP)が2019年1月にまとめた「民間企業の研究活動に関する調査報告2018(速報)」によると、研究開発者の新卒採用を行った企業の割合が2017年度で48.7%に達し、4年連続で増加した。採用した企業の割合、対前年度の伸び幅(11ポイント増)ともに2011年度以降で最大となった。(【図表1】)
 これを学歴別に見ると、「学士号取得者」(前年度比8.3ポイント増の27.8%)、「修士号取得者」(同8.4ポイント増の37.5%)、「博士課程修了者」(1.5ポイント増の8.3%)の全ての区分で、採用企業の割合が前年より増加した。
 一方、中途採用した企業の割合は27.6%(2.8ポイント増)と2年連続で増加し、こちらも11年度以降で最大の割合となっている。ただ、採用された研究開発者全体に占める割合を見ると、前年度から大きく低下した(4.7ポイント減)。ここ数年、中途採用の占める割合は増加傾向を示していたが、17年度に入って各社が新卒重視へかじを切ったことが分かる。
 もちろん、新卒者を増員しても、すぐに研究開発の成果が表れるわけではない。従来の自前主義から脱却し、外部の知見を取り込むことが急務となる。そのため研究開発の促進を目的に、社外組織との連携を模索する企業が増えている。
 前述したNISTEPの調査によると、過去3年間(2015~17年度)に研究開発で社外組織と連携したことがある企業の割合は76.8%となり、11年度以降、右肩上がりで実施割合が高まっている。(【図表2】)

【図表2】企業の研究開発における他組織との連携状況の推移

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 連携先として最も割合が高いのは「国内の大学等」(74.7%)。次いで「大企業」(73.4%)、「中小企業」(55.4%)、「国内の公的研究機関」(53.3%)などが続く。前年度と比べ順位に変動はないものの、国内の大学等(0.8ポイント減)と中小企業(1.3ポイント減)が減少し、大企業(2.2ポイント増)と国内の公的研究機関(2.4ポイント増)が増加した。(【図表3】)

 連携先のうち、特に増加が目立つのが「外部コンサルタントや民間研究所」(4.2ポイント増の38.4%)と「ベンチャー企業・起業家」(4.5ポイント増の26.5%)だ。現在、大企業を中心に、スタートアップ企業の技術やアイデアを自社の経営資源と組み合わせ、革新的な製品・サービスを開発する「オープンイノベーション」を進める動きが活発化していることが背景にある。
 また、国内外のコンサルティングファームや民間シンクタンクがスタートアップ業界に続々と参画。投資や人材育成、成長支援などを積極的に展開しており、こうしたトレンドも反映したとみられる。
 経済産業省が発表した「2017年度大学発ベンチャー調査」(2018年3月)によると、大学発ベンチャー企業数が17年度で2000社を突破(2093社)した。政府は2016年4月、大学・研究開発法人などに対する企業のイノベーション投資を3倍に増やす目標を掲げたことから、産業界から大学発ベンチャー企業への投資や事業提携が相次いでいる。 今後、日本企業は社内の研究開発者の若返りを図りつつ、スタートアップとの連携を起点として、イノベーションの実現を目指す動きも加速化していくことが予想される。

【図表3】 企業の研究開発における他組織との連携先の割合 201905_market_03

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