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今週のひとこと

自分の殻を破る環境をつくろう。
社員一人ひとりは、そのグループ
パワーに巻き込まれていく。

☆ 本当に「今のまま」で大丈夫ですか?!

 「今の業績には、ある程度満足している」「社員は頑張っているので、これ以上の成長を望むのは可哀そうだ」「今が安定しているのだから余計なことはしたくない」。筆者がお会いする経営者のなかには、このような考えをお持ちの方が少なからずおられます。確かに、今が安定していれば、そこに安住したくなるのが人間です。しかし、その安定がこれからもずっと続く保証は、どこにあるのでしょうか。

 筆者は、更なる成長を求めビジョンを立ててこそ、はじめて現状維持も可能となると考えています。今の安定にあぐらをかき、何もしないでいては、業績は必ず落ちていきます。
 メジャーリーガーの大谷翔平選手(25歳)が、メジャーに移籍する前の2016年(当時22歳)に立てた目標は「サイ・ヤング賞をとる」でした。その後、2018年にメジャーに移籍、アメリカでも二刀流に挑戦するなど、高い目標を掲げ目標に向かって努力し、試行錯誤してきたからこそ、今の好成績があるのでしょう。日本球界で二刀流を成功させた時も、きっと彼の頭の中には「このままで良い」という考えはなかったでしょうし、現状のレベルと将来のあるべき姿とのギャップを正しい危機感として認識し、"夢"を実現するにはどうしたらよいか、常に考え行動してきた結果、今があるのだと思います。

 先般、「あるべき姿、ビジョンが思い浮かばない」とおっしゃる後継者Aさんにお会いしました。その言葉を聞いた時に筆者がAさんにお伝えしたのは、「外に目を向けてみるのが有効ですよ」「お客様は、ライバルは、関係先は、はたまた海の向こうの大企業は、どのようなビジョンを描いているのでしょうね」「時には、過去を振り返ってみるのも有効で、先人がどのようなビジョンを描いた結果、今の会社があるのかが見えてきますよ」―といったことです。

 今は先の読みにくい時代です。そのような時代だからこそ、あえて先を見据えて考え、考えたことを羅針盤として行動することが必要です。そうすることで、予想外の変化にも柔軟に対応できるでしょう。しばらくじっとしていると、次に動き出すまでに時間がかかってしまいます。もしかしたら環境変化にも気づかないかもしれません。常に自分から変化を起こしていきましょう。

経営コンサルティング本部
コンサルタント
伊達 清一郎

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地方活性化をめぐる各プレーヤーの現状

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地域活性化に取り組む中で、立ちはだかった壁(現実)

 

私は前職で、全国の地方自治体から依頼を受けて、レジャーやアクティビティーを活用したデジタルマーケティングによる観光客の誘客支援を手掛けた。約3年の在籍期間での出張回数は約300回に及び、さまざまな地域へ足を運んだ。その多くは人口減少に直面し、数十年内に自治体の存続すら危うい地域ばかりだった。

 

地域の観光資源を磨き、多くの人へ伝え、いかに足を運んでもらうか。地域と真摯に向き合う中で感じたのは、「今、地域にある会社・組織の活性化により、"付加価値向上と新たな仕事の創出"」ができなければ、多くの魅力ある地域が近い将来に消滅するという危機感だった。

 

その後、タナベ経営に転じ、観光業や自治体事業を切り口に、経営コンサルティングからセールスプロモーションまで全社でバリューを発揮すべく、一気通貫でソリューションを展開中だ。本稿では私自身が活動を通じて収集した情報から、地域活性化モデルを提言する。

 

(1) 地域愛ある社長の思いを形に

 

地域金融機関の紹介で、地域密着の小売業を展開するオーナー社長から相談を受けた。「A市が農地集積を行った土地に大規模な観光農園を作り、都内から誘客、地元を活性化したい。3カ月で基本構想を練ってほしい」。観光農園の構想は十数年前から社長が温めていた夢(構想)だった。

 

私を含めたプロジェクトチームは、社長と次世代経営者・役所担当者・地域連携企業のメンバーと集中討議を重ね、観光農園基本構想を策定。当社は成功モデルの検証や調査・コンセプト・集客目標・収支計画・意思決定構造や出資比率案・市申請書類作成を行い、短期集中で基本構想を描き切った。行政承認後の実行支援も提案し、現在申請中である。

 

(2) 自治体施策を積極的に活用

 

中部地方の某県から、稼働中の観光サイト(複数)をリニューアルして1つに統合、デジタルマーケティングにシフト(紙→Web)する戦略策定の相談があり、地元Web制作会社と関連企業3社で連携し取り組んだ。

 

Webサイトの在り方や情報発信・受け入れ体制などを考える中で、「県ならではの滞在・経験価値(コンテンツ)をサイトで提供する」とのテーマを掲げた。現状分析から始まり、構築後の運用・改善を重視したデジタルマーケティング戦略を策定。2019年4月から構築に着手し、運用・改善後は地域事業者への誘客を狙った広告出稿や予約促進施策を用意している。

 

(3) 食品開発講座を開催

 

農林水産省から山村指定を受け、消滅の危機に瀕する734市町村に対して、収入・雇用・産業創出を目的に交付される「山村活性化支援交付金」※1がある。同省担当者から、「事業を3年やっているが、特産品・産品開発方法に課題がある。レクチャーしてほしい」と相談があった。

 

そこで当社食品チームと連携し、山村向けの食品開発講座を開催。全国約10地域が参加し、参加者から「体系的に学べた。早く相談したかった」「開発を支援してほしい」などの声をいただいた。地域資源はあり、交付金(資金)もあるが、実行力・ノウハウに課題がある地域は多い。さまざまな企業・人と連携し成果を出してほしい。

 

私の経験と前述の事象を通じての考察は次の4つである。

 

① 地域密着かつ地域愛があり、事業発展と地域貢献を"&" で実現したい社長がいる。

 

② 自治体側で業界・地域を活性化するための施策、予算が確保されている。


③ 資源と資金があっても実行力・ノウハウがなく、さまざまな企業・人との連携で課題を解決していく必要がある。

 

④ 時間がない(流出・高齢化)。

 

ビジネスモデルを論じる際、「産業や業界のくくりを取り払う」ことが重要だといわれるが、これは地域も同じで業界・会社・部署・組織などさまざまな壁を越え、「よってたかって」課題に取り組む時代が来ている。

地域活性化の事業スキーム(構想)

 

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出典: 「 観光活性化プロジェクトWAKUWAKUやまのうちの取組事例」(八十二銀行)をもとに筆者作成

 

タナベ経営の考える地域活性化モデル

 

長野県の地方銀行である八十二銀行は、地域経済活性化支援機構と共同で官民ファンドを立ち上げ、同県山ノ内町の活性化に向け地元企業・住民と連携し、観光客誘致を図る地域活性化モデル「WAKUWAKU やまのうち」に取り組んでいる。

 

地域金融機関の主導による活性化支援は「地域との調整に時間がかかり、横展開が難しい」「金融機関のビジネスモデルとしていかに収益化するか」などが課題になる。そこで私は、地場の中堅・中小企業を軸にしたモデルを構築し、自治体や地域金融機関などを巻き込むモデルを提唱している。

 

事業スキーム案は、地域活性化を目的に地場の中堅・中小企業に対し、タナベ経営が「後継者育成・新規事業展開」のコンサルティングを実施。一方、地域金融機関や自治体、地域のステークホルダーを巻き込み、組織(地域商社、DMO※2)を立ち上げて運営すると同時に人材育成へつなげる。(【図表】)

 

自治体予算も活用しつつ、新しい商品やサービスを実際に構想し、新規事業として形にしていく。つまり、地場の中堅・中小企業が主導し、自治体や金融機関との調整役やノウハウの指南役として経営コンサルタントを活用し、人材育成と新規事業開発を進め、地域活性化を実現していく。1年目の原資としては、「山村活性化支援交付金」や「地方創生関係交付金」など各官公庁で用意している補助金や自治体事業を活用したい。

 

「地域貢献」「次世代後継者育成」「域内での新規事業展開」をお考えの方は、今回提言した地域活性化モデルを模索してほしい。

 

※1 定額支給(1地区当たり上限1000万円、最大3年間)
※2 Destination Management Organization(官民が連携し、地域の観光地に多くの人やお金を呼び込むための組織)

 

  • タナベ経営
  • 経営コンサルティング本部
  • 東京5部 SP コンサルタント 
  • 大城 翼
  • Tsubasa Oshiro
  • ITベンチャーで、新規拠点、自治体事業の立ち上げなどを経験。現在は、営業全般(B to B、B to G)、並びに、デジタルマーケティング、人材採用などのコンサルティングで幅広く活躍中。ネットワークを生かした民間企業・金融機関・自治体との連携により、多くの「地域創生モデル」を創出している。

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日本の農山村には、特色ある農林水産物や景観、伝統文化といった"資源"が眠っている。それを活用して地域の所得と雇用の増大を促す事業を支援するのが「山村活性化支援交付金」だ。その実績と課題、山村振興の将来ビジョンなどを、農林水産省農村振興局の三重野信氏に聞いた。

 

地域内発型産業を育成し、ビジネス感覚を持つ人材を地域に増やしていくことが農山村の大きな課題

地域内発型産業を育成し、ビジネス感覚を持つ人材を地域に増やしていくことが農山村の大きな課題

 

 

深刻さを増す農山村の自尊心の低下

 

小山田 まず、日本の農林水産業の現状をお聞かせください。

 

三重野 個人的な見解になりますが、日本の第1次産業の現状として、昭和40、50年代から惰性的に続いていた流れの潮目が変わったと思います。というのも、今は高齢化や人手不足が加速し、食に関する考え方も今までの"モノ消費"から"コト消費"に変わりつつあります。農村では人口減少に伴って耕作放棄地が増えたため、農地中間管理機構が土地を一括借り上げして農業法人に貸し出す活動を行っています。従来のじいちゃん、ばあちゃん、かあちゃんが農業に携わる"3ちゃん農業"というスタイルから、法人化へと移行する流れは避けて通れないのではないでしょうか。

 

しかし、われわれを含め現場の人たちは、こうしたドラスチックな変化に気付いていない可能性があります。

 

小山田 そのような現状の中で、農山村が抱える課題についてお聞かせください。

 

三重野 やはり"人"の問題が大きいと思います。よくよく考えると、人々が農山村を離れてしまったのは、農山村が人を必要としなくなったからではないでしょうか。私は「農山村が人を取り戻すのは簡単。トラクターや除草剤などの使用を禁止したらいい。そうすれば村から出たくても出られなくなるから」とよく話しています。

 

それに加え、補助金などの支援に頼りがちな点も課題の一つです。そんな大人を見て育った子どもたちは、故郷に誇りや自信が持てなくなって「こんな所にいちゃだめだ」と離村してしまう。物理的に働き口がないとか生活に不便といった側面もあるでしょうが、そういった地域の自尊心の低下も大きな問題だと思います。

 

小山田 そこに農山村の活性化というテーマの本質があるように思えます。そのための施策である「山村振興法」についてご説明ください。

 

三重野 山村振興法自体は1965年にできた法律です。当時は山奥の集落へ向かう道路は整備されず、電気も通っていない時代ですから、インフラ整備というハード面の支援が主体でした。バブル景気が終わった頃から、ソフト面への支援が主体となり、現在は所得や雇用の増大に向けた取り組みなどをサポートしています。

 

小山田 直面している山村振興の課題は何ですか。

 

三重野 農山村の人々は、都市部に比べて情報量が少ないため、どうしても視野が狭くなりがちです。また、行政などから「助けてもらって当然」という意識や被害者意識を持っている人もあり、自分からリスクを取って何かに挑戦するようなことはあまりありません。そこが一番の課題だと思います。

 

小山田 他力本願の受け身の姿勢が課題ということですね。第1次産業の従事者から、日本を担っているという誇りが感じられないのは本当に残念です。

 

 

農林水産省 農村振興局 地域振興課課長補佐 調査調整班(山村振興担当) 三重野 信氏大阪府大阪市出身。鳥取大学大学院修了後、1995年林野庁に入庁し、北海道奥尻森林事務所森林官、北海道北檜山町役場で地域振興の現場に関わる。その後、林野庁、内閣府、環境省、総務省などを経て2016年より農林水産省農村振興局地域振興課で山村振興を担当。他に農水省の省内改革プロジェクトにも参加している。農林水産省食料産業局食品製造課にて、林産物のJAS規格を担当。

農林水産省 農村振興局 地域振興課
課長補佐 調査調整班(山村振興担当) 三重野 信氏
大阪府大阪市出身。鳥取大学大学院修了後、1995年林野庁に入庁し、北海道奥尻森林事務所森林官、北海道北檜山町役場で地域振興の現場に関わる。その後、林野庁、内閣府、環境省、総務省などを経て2016年より農林水産省農村振興局地域振興課で山村振興を担当。他に農水省の省内改革プロジェクトにも参加している。農林水産省食料産業局食品製造課にて、林産物のJAS規格を担当。

 

 

タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長チーフコンサルタント 小山田 眞哉開拓、製品開発による事業戦略構築に定評があり、食品メーカーの垂直統合戦略など、多くの中堅・中小企業の未来を共に創ってきた。人事・営業・財務・購買・生産などの経営管理機能のコンサルティングも手掛け、多くのクライアント先を成長に導いている。特に食品ビジネスを中心としたコンサルティングにはタナベ経営随一の実績を持つ。

タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長
チーフコンサルタント 小山田 眞哉
開拓、製品開発による事業戦略構築に定評があり、食品メーカーの垂直統合戦略など、多くの中堅・中小企業の未来を共に創ってきた。人事・営業・財務・購買・生産などの経営管理機能のコンサルティングも手掛け、多くのクライアント先を成長に導いている。特に食品ビジネスを中心としたコンサルティングにはタナベ経営随一の実績を持つ。

 

 

地域の自立と雇用・所得の増大を促す

 

小山田 現在、担当しておられる「山村活性化支援交付金」の狙いについてお聞かせください。

 

三重野 山村活性化支援交付金の狙いは2つあります。まず、農業だけでなく地域に眠るさまざまな資源を原材料として生産し、生産者の雇用や所得の増大を促すこと。もう一つは、地域の資源を使って地域の中で産業を興す「地域内発型産業」を育成し、地域の自立的発展を促すことです。これによって魅力ある地域資源を見つけて生産・販売し、地元の所得や雇用の増大に結び付けます。

 

政策目標としては、2020年度に地域資源を活用して山村の活性化に取り組んだ地域の8割において、所得・雇用の目標を達成することを掲げています。

 

小山田 具体的にはどのような支援を行うのですか。

 

三重野 まず、地場の農林水産物やその加工品など魅力ある地域資源の利用状況・活用可能量の調査を支援します。これには地域資源に関連する地域人材や生産ノウハウ、伝統的な技術・知恵、既存の加工販売施設などの調査といったことも含まれます。

 

魅力ある地域資源を基に、それを地域ぐるみで活用するための合意形成、組織づくり、技術研修といった人材育成なども重要です。例えば住民意向調査、実施体制づくりのための地域住民によるワークショップの開催、資源活用の推進体制・組織の整備、技術やノウハウの実践研修などを促進します。

 

さらに、魅力ある地域資源を活用した商品の販売促進や付加価値向上のためのマーケティング調査、商品開発、山村景観を活用した商品パッケージのデザイン検討を支援します。

 

加えて、山村の商品に興味を持つバイヤーと山村を結び付ける商談会も開催し、販売チャネルの開拓を支援しています。

 

小山田 地域資源とは、どのようなものをイメージすればよいのでしょうか。

 

三重野 例えば、薪炭や間伐材といった"エネルギー資源"、山菜やジビエ、伝統野菜といった"食材"、そして木工品や竹細工といった"伝統工芸品"などがあります。

 

小山田 支援額や予算などを教えてください。

 

三重野 山村活性化支援交付金の補助率は定額で1地区当たり上限1000万円、最大3年間支給されます。2018年度の山村活性化支援交付金の予算は7億8000万円です。事業実施主体は山村地域の市町村や地域協議会で、対象地域は山村振興法に基づいて指定された振興山村。「山村振興計画」が作成されていることが必要です。

 

 

特産品の販売を主体に新たな支援策を実施

 

小山田 山村活性化支援交付金は2019年で4年目を迎え、積み上げた実績は大きいと思われます。取り組みの成果をお聞かせください。

 

三重野 振興山村は全国734市町村にあります。そのうち山村活性化支援交付金を受けたことのある山村は約170で、毎年30~40くらい増えています。

 

実績を積むにつれ、課題も出てきました。「士族の商法」ではないですが、急に不慣れな商売を始めて自己満足で事業を終えてしまう地域が多いことも事実です。

 

山村活性化支援交付金は「地域の産品を売ること」に主眼を置いています。そのために商談会なども開催し、「田舎に引きこもらず、マーケティング会社なども有効活用して営業活動に踏み出そう」と啓蒙しています。その効果もあり、幕張メッセや東京ビッグサイトの見本市などへ売り込みをかける地域も出てきました。

 

小山田 2019年2月19日~22日には東京ビッグサイトで「山の恵みマッチング」という山村事業者とバイヤーとの商談交流を図る場が設けられましたね。

 

三重野 2019年が初めての取り組みで、BtoB(企業間取引)への参入を促すための交流会です。地域の人の発想では、どうしてもBtoC(企業対消費者取引)になってしまいがちで、「とにかく地元の道の駅やWebで売ればいい」といった安易な方向に流されてしまいます。

 

そこで「きちんとビジネスとして事業を考えるべきだ」と気付いてもらうことを狙って、バイヤーとの取引を創出する場を設定しました。この催しでは「事前マッチング」方式の商談会を導入。商談会の当日までにWeb上に掲載された山村事業者の企業情報・商品情報を基に、バイヤーがWebで商談を申し込みます。それを受けた山村事業者がWebで承諾の返答を行えば商談予約が成立。事業者とバイヤー、どちらにとっても効率的な商談が行える仕組みです。

 

小山田 どれくらいの商談が行われましたか。

 

三重野 東京ビッグサイトの中の商談で60くらいありました。他にも会場に行けなかった事業者との商談も合わせると、100近くの商談が進行しています。

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 京都府京丹波町のブランド栗「丹波くり」の特徴を伝えるパンフレット(上)。下は石川県小松市の「打木みょうこう干し柿」

 

 

ヒット商品づくりを通して地域のビジネス人材を育成

 

小山田 山村事業者が抱える課題にはどのようなものがありますか。

 

三重野 まず、ビジネス感覚を持たずに事業に取り組んでいることが挙げられます。「地域がどんどん寂れていく」という不安感を打ち消すために、農業の6次化を図ったり、山村らしい産品を作ることで「これで救われる」と一時の安心を得て満足してしまう。そこから先、自分たちで独り立ちすること、自分たちで営業活動を行い商売ベースに乗せることまでは考えていない地域が多いのです。

 

もっと深刻な課題は、年齢的なこと。60歳代後半~70歳代が主体になるので、東京などの都市部に出向いて営業活動を展開することは、ハードルが高いと感じてしまいがちです。また、商品の売れ行きが好調なので「もっと増産しましょう」とアドバイスをしても、「もう年だから、これ以上は原材料を集められない」と拒否されることもあります。

 

バイヤーと折衝した経験のある人も少ないので、商談に立ち会うと「中途半端な売り込みをしている」と感じるケースが多いですね。山村活性化支援交付金のスタートが10年早ければ、もっと効果的な取り組みができたかもしれない、と痛感しています。

 

小山田 「山の恵みマッチング」と同時期に、タナベ経営では振興山村の関係者に向けた「食品・商品開発プロセス講座」を行いました。"食"の価値開発の標準プロセスをレクチャーしたのですが、皆さんはしっかりしたテーマ観を持って参加していると感じました。

 

熊本県のある事業者の方とジビエについて話した時は「天然のものか、養殖したものかといった価値観が事業の源泉になるのではないか」という意見を交わしました。

 

三重野 価格競争で山村は絶対に勝てませんから、そのような価値観を研ぎ澄ます方向性しかないと思います。地域産品を求めるお客さまがこだわるのは"本物"で、価格はあまり気にしない傾向があります。われわれが勝負をかけるのであれば、本物の地域産品に特化したニッチなマーケットを狙うしかないと思います。

 

小山田 判断基準をしっかり持っていないと、本来の良さを見失ってしまう可能性があります。私は、講座でも「本物や自然を前面に打ち出せるような事業の根幹を確立してから、商品づくりを考えましょう」と訴えています。

 

三重野 事業者の意思決定には、地域内の力関係が微妙に絡んできます。加えて農山村の人は「いろいろな人にアドバイスや協力を受けた方がいい」と考えてしまいがちですから、「いろいろと産品が候補に挙がったのですが、絞り込んで1点に集中できず、商品化が遅れ気味です」といった報告をよく受けます。

 

人間関係や利害関係のしがらみを断ち切って1点に絞り込めるリーダーは、山村ではなかなか見つからないのが現状です。これは山村の皆さんだけでなく、われわれ行政にも言えることですが......。

 

小山田 最後に、三重野さんの考える山村振興の今後の在り方をお聞かせください。

 

三重野 山村活性化支援交付金を活用してヒット商品が生まれ、地域に例えば毎年200万円や300万円の収益が入るようになっただけで、地域が本当に振興するとは思えません。事業を通してビジネス経験を積むことで、マーケットインのビジネス感覚を持った人材を地域に増やしていく―。それが地域の大きな財産になるという結論に持っていきたいと考えています。

 

小山田 しっかりした事業を立ち上げた地域同士が、相乗効果を求めて連携していくことにも期待したいと思います。山村活性化支援交付金を活用した山村振興が進むことを祈念いたします。本日はありがとうございました。

【column】
「食品・商品開発プロセス講座」を開催
市町村の商品開発をブラッシュアップ

 

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タナベ経営は2月20日〜22日、全国市町村の商品開発担当者向けに「食品・商品開発プロセス講座」を東京・日本橋で開催した。1日目は「食品・商品開発プロセスを学び、開発コンセプトを点検する」、2日目は「開発商品の提供価値と想定ターゲットの設定」をテーマに開催。講義、ワークショップの他、日本橋高島屋の売り場視察を実施した。

 

3日目は、販促展開策に関する講義の後、商品企画・販促計画書、さらに開発推進実行具体策を作成。地域の商品のブラッシュアップに向け、商品開発プロセスを体系的に学ぶ機会となった。

 

最終日、講師を務めた小山田は「商品を作ることは地域における事業を創ること。未来を起点に今を描く『バックキャスティング』、過去の実績に基づき、現状に手を打つ『フォアキャスティング』の両方の思考を持ち、将来を見据えた商品づくりに取り組んでもらえたら」と締めくくった。

 

参加者からは「自分たちの商品開発の方向性が見えてきた。商品開発までのリサーチやメニューを一つずつクリアしていきたい」「商品開発に当たり、(まだ着目されていない)特産品の掘り起こしの重要性を強く感じた」といった声が聞かれるなど、実りの多い時間となったようだ。

 

 

参加者の声

商品開発のプロセスの重要性を理解できた。
アドバイスをいただくことで、考え方を整理できた。
ワークショップごとに個別に話を聞いてもらえたので、来たかいがあった。
商品開発のスタートをどうすればいいのか、ヒントをもらえた。
タウンウオッチングなどを通じ、具体的なイメージが持てるようになった。
メリハリのある講義で、あっという間だった。

 

 

講座参加地域

 

所在地 団体名
秋田県 藤里町役場
岐阜県 八百津町役場
長野県 栄村役場
石川県 農村資源活用協議会
京都府 京丹波町役場
熊本県 五木村農林水産物協議会
熊本県 多良木町振興山村活性化推進協議会
熊本県 東陽山村振興協議会
熊本県 渡地域農業活性化協議会
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    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所