image1

今週のひとこと

新規事業開発の成功鉄則は、自社の強み
を生かし、将来性のあるマーケットに
参入することである。

☆ 「優秀な社員がいない」と嘆く前に・・・

 「わが社には優秀な人材がいない」「優秀な人材が欲しい」「そもそも人が集まらない」「定着率が悪い」
 筆者が経営者や採用担当者から、よくお聞きする言葉です。業界を問わず、人手不足や採用難など、人に関する課題は絶えない状況が続いています。特に最近では優秀な人材どころか、人が集まらないということを聞く機会が増えてきたような気がします。

 なぜ優秀な社員がいないと感じるのでしょうか。考えられる理由として、次の3点があげられます。

 1.優秀な社員像が明確ではない。
 2.優秀な人材を育てていない。
3.優秀な人が辞めていく。

 皆さんの会社には、これらのような傾向はありませんか。人が辞めていくと社内の雰囲気は悪くなります。人が集まって活気のある会社になるのか、人が集まらず組織が弱っていき衰退化していくのか。会社にとって大きなターニングポイントです。

 人に関わる課題を解決していくには、わが社の優秀な社員像を定義し、人材の強みと弱みを把握した上で、彼・彼女たちを育成するプログラムをつくり、人を育てていく仕組みをつくりましょう。自身の成長やキャリアアップを後押しすることで社員の流出も防ぐことが出来ます。
 全社員が活躍できる育成の仕組みをつくり、キャリアビジョンを考える機会を与えてみてください。社員の全員活躍が会社を変えます。

経営コンサルティング本部
コンサルタント
屋嘉比 要

201909_index_topmessege

 

 

タナベ経営 大阪本社 クロスラボにて

タナベ経営 大阪本社 クロスラボにて

 

 

2019年6月に全国で開催された「ファーストコールカンパニーフォーラム」のテーマは、「スタートアップ・スピリッツ」。これからの事業承継に必須の経営マインドであり、タナベ経営が提唱する「ファーストコールカンパニー宣言」の五つ目「事業承継の経営技術」でもある。令和という新時代、スタートアップ・スピリッツを持つ「アトツギ(後継ぎ)ベンチャー企業」が自ら変身を遂げることで、地域を、日本を元気にしていく――。タナベ経営の代表取締役社長・若松孝彦はそう提言する。

 

 

事業承継は自社変身の最大のチャンス

 

「令和」という新時代を迎え、国内企業の多くは承継の時期を迎えています。価値観が大きく転換する時代の事業承継に重要なのは、「既存事業を受け継ぐだけでなく、新しいビジネスモデルをつくり、新しい市場を創造すること」であり、必要なのは「スタートアップ・スピリッツ」です。

 

スタートアップとは「新しいビジネスによって新市場を創造すること」。残念ながら、日本のスタートアップは世界の潮流から遅れているのが現状です。

 

しかし、日本には約360万の会社があり、同じ数の経営者、後継者、リーダーが存在します。すべての会社に、事業承継という経営技術を身に付け、スタートアップ・スピリッツを持って自社を「アトツギ(後継ぎ)ベンチャー企業」へと変身させていただきたい。事業承継は自社変身のチャンスなのです。アトツギベンチャー企業の出現とその数の増加が、地域経済、日本経済の希望になると私は信じています。

スタートアップ・スピリッツを生む
オープンイノベーション&共創戦略

 

スタートアップの本場は、やはり米国です。次いで、英・ロンドンや独・ベルリン、仏・パリに代表される欧州の大都市が続きますが、近年は中国の北京や上海、イスラエルのテルアビブなどで非常に活発化しています(Startup Genome『グローバル・スタートアップ・エコシステム・ランキング2017』)。

 

ご存じの通り、イノベーションに関する日本の評価は芳しくありません。CTA(全米民生技術協会)の調査では、61カ国中30位(『インターナショナル・イノベーション・スコアカード2019』)。スイスのビジネススクールIMDが発表した『世界競争力ランキング』においても、日本は30位。さらに同調査の「ビジネスの効率性の分野」に関する評価は63カ国・地域中46位と、ショッキングな結果でした。

 

また、2019年6月時点で「ユニコーン企業」(時価総額10億ドル以上の未上場企業)は世界に362社。そのうち4分の1(25.1%)を中国企業が占めています。しかし、日本企業は「プリファード・ネットワークス」(東京都千代田区)1社のみ。総合的に見ると、スタートアップの世界における日本の存在感は極めて薄いと言わざるを得ません。

 

こうした状況をいかに打開していくか。そのキーワードとなるのが、「オープンイノベーション」&「共創戦略」です。特に、共創パートナーの一つにスタートアップ企業を迎えることが、海外戦略の後れを取り戻すポイントになります。

 

なぜなら、世界のスタートアップ企業と共創すれば海外と直接つながることができますし、新たな技術やノウハウが自社に注入されることで、スタートアップ・スピリッツが育まれるからです。この先も成長を続けていくには、変化を起こして自社の成長エンジンを入れ替える必要があります。

 

加えて、2015年の国連総会で採択された「私たちの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)」も、スタートアップ・スピリッツにとって重要な要素になり得ます。社会課題に対して17のグローバル目標と169のターゲットを設定して2030年までの改善を目指すSDGsは、一見するとビジネスとは程遠い印象を受けますが、社会課題の解決は、日本企業が成長するための大きな原動力となっています。

 

考えてみれば、昭和の時代から優秀な会社は社会課題を解決してきました。日本の経営者には、その志向を持っている人が多いのです。

 

例えば、井深大氏や盛田昭夫氏(ソニー創業者)、松下幸之助氏(パナソニック創業者)、本田宗一郎氏(本田技研工業創業者)といった昭和の先輩経営者は、戦後の日本経済復興という当時の社会課題と、自社の顧客に対する使命や戦略を見事に一致させ、会社を大きく発展させました。社会課題を解決したいというスタートアップ・スピリッツが会社の存在価値につながった好例なのです。

 

元米大統領のジョン・F・ケネディは、「屋根を修理するのは、晴れた日に限る」という名言を残しました。雨が降ってきてから屋根を修理しても遅すぎる。問題には手遅れになる前に対処する必要がある、という意味です。まさに今こそ、アトツギベンチャー企業に変身するラストチャンスと言えるでしょう。

スタートアップ・スピリッツで
既存事業に新しいエンジンを

 

「成功するスタートアップ企業は300社に1社」といわれるほど厳しい世界ですが、アトツギベンチャー企業の成功確率は、それより高いと考えます。なぜなら、歴史や信用、顧客、人材といった経営資源が、すでにあるからです。ゼロから起業するスタートアップ企業のように「ないない尽くしの経営」ではありません。

 

アトツギベンチャー企業として成功するためには「アトツギベンチャー経営者の三つの基本方針」を押さえておく必要があります。

 

一つ目は「財務体質」。高収益で無借金経営の体質をつくることが重要です。

 

二つ目は「経営体制」。組織経営体制が欠かせません。

 

三つ目は「会社の成長エンジン」。開発見込みのベース型ビジネスである「サブスクリプション(商品・サービスなどの一定期間の利用に対して代金を支払う方式)」や、ワンストップビジネスである「プラットフォームモデル」を、既存事業の成長エンジンに組み込んでいくことが成功のポイントです。

 

自動車で例えるならば、マイナーチェンジではなく、フルモデルチェンジまで踏み込むこと。外装だけでなく、自動車の中核となるエンジンを変えること。それが、タナベ経営が提言している「トランスフォーメーション」の意味するところです。

 

三つの基本方針を実現できれば、「高収益・無借金」「組織経営」「新しいビジネスモデル」の企業体質へ変わるため、より多くの候補の中から後継経営者を選ぶことが可能となります。これが「事業承継の経営技術」です。

 

加えて、今ある"新しい社会インフラ"をうまく活用することです。例えば、スタートアップ企業やアトツギベンチャー企業が、投資家や企業向けに短いプレゼンテーションを行う「ピッチイベント」もその一つ。共創するスタートアップを探すほか、ピッチをする側に立てば、自社の新規事業に対するアドバイスを受ける良い機会になります。

 

また、世界最大規模のアクセラレーターで、タナベ経営のパートナーでもある「プラグ・アンド・プレイ」が提供するイノベーションプラットフォームなどを活用し、スタートアップ企業やその技術を取り込むこと(提携やM&Aを含む)。「スタートアップ・ファースト」という考え方で、自社のビジネスモデルを捉え直すことです。これは、既存事業の延長線上で考えるだけではなく、スタートアップ企業の技術を起点にイノベーションを考える思考です。

 

加えて、「マクアケ」などが運営するクラウドファンディングのプラットフォームや、異なるスタートアップ企業が利用するコワーキングスペース「WeWork」のような場所には、スタートアップに必要なノウハウや資金、人材がおのずと集まります。これらを活用することで変身(トランスフォーメーション)が加速するのです。

201909_topmsg_02

 

 

既存事業×五つの戦略実行で
自社をフルモデルチェンジする

 

事業承継期にある企業が、これら三つの基本方針に沿ってフルモデルチェンジする際に必要なのは、「既存事業×五つのスタートアップ戦略テーマ×成長率120%以上」という方程式です。五つのスタートアップ戦略とは「ミッション」「カスタマー」「テクノロジー」「ブランディング」「チームビルディング」という五つの戦略テーマへの取り組みです。成功するスタートアップ企業やアトツギベンチャー企業は、この五つの戦略テーマにおいて卓越した思考と実行力を有しています。

 

まず、ミッションで大事なのは「貢献」を中心に据えること。ミッションの本質は自らの困り事、あなただけの困り事にあります。例えば、米国の配車大手のUberは、「サンフランシスコでタクシーが拾えない」という実体験から始まりました。このように、具体的な困り事を出発点として、誰に「貢献したいのか」を明確化することです。

 

次に、カスタマーでは、実在の顧客の幸せをイメージすること。「最重要顧客像(ペルソナ)」を明確にして、その人を幸せにするための仮説を立て、ビジネスモデルをデザインすることです。さらに、ペルソナ顧客からのフィードバックを参考に、事業を素早くブラッシュアップする仕組みをつくることです。自社が幸せにしたいペルソナを再設定するところからマーケティングを見直してみるとよいでしょう。

 

テクノロジーで大事なのは、共感できるパートナー企業と先端技術で協働することです。決済・送金、投資・運用、クラウドファンディングなどのフィンテック(金融)、採用・転職支援、適性診断、勤怠・労務管理に代表されるHRテック(人材)、ノウハウ共有やモニタリング、センサーシステムといったアグリテック(農業)など、さまざまな分野でIT技術の活用が広がっています。デジタル・トランスフォーメーションとも呼びますが、既存事業にテック(テクノロジー)を掛け合わせる「クロステック」によって、顧客が抱える課題に対して新しいアプローチで解決策を提供できる時代なのです。

 

ブランディングのポイントは、少数でも熱狂顧客(コアファン)をつくることです。消費者同士がSNSでつながる今は、コアファンが商品・サービスの魅力を自ら発信してくれます。一瞬で世界中と情報を共有できるのがSNSの特徴。若い世代ほど、企業広告よりもSNSやインフルエンサーの口コミを重視する傾向があるため、SNSを利用したブランディングがますます重要になっています。

 

チームビルディングで大切なのは、同じ熱量を持つ必要最小限のチームからスタートすること。新規事業は、専属組織で、同じ熱量を持つ優秀なメンバー3名でスタートアップすると成功確率が上がります。いずれにしても、自由闊達に開発できる組織風土や制度設計が成否の鍵を握ります。

 

2020年を「スタートアップ元年」と捉えて、五つの戦略テーマに取り組み、自社を丸ごと変えていきましょう

 

 

健全な危機感を持ち2030年へと挑む

 

2020年を「スタートアップ元年」と捉えて、五つの戦略テーマに取り組み、自社を丸ごと変えていきましょう。「できることから少しずつ」「空き時間に一部から」といった姿勢では何も変わりません。一気に変身する「会社丸ごとスタートアップ・プロジェクト」を立ち上げ、ビジネスモデルとコーポレートモデルの両面から変えていくのです。まさに、「屋根を修理するのは、晴れた日に限る」です。

 

また、自社を変えるには、「健全な危機感」が不可欠です。この危機感は、2030年を変身の期限に設定した上で、「どのような未来にしたいか」「その社会において自社はどのような役割を果たしているのか」という未来像を仮定し、そこから逆算して「今の自社に足りないものは何か」「何をすべきか」を明確にすることによって生まれます。それこそが「スタートアップ・スピリッツ」の起点です。

 

「未来は予測するためだけではなく、創るためにある」。スタートアップ・スピリッツを胸に、2030年に向かって一緒にファーストコールカンパニーをつくっていきましょう。

 

 

 

タナベ経営 代表取締役社長
若松孝彦
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

consultant_reviewbanner


 

課題発見への注力が事業創造の第一歩

 

民泊仲介サービスの世界最大手「Airbnb」は、創業者の2人が家賃を払えず、自宅アパートのロフトを貸し出したのがきっかけだった。世界最大のライドシェアサービス「Uber」も、創業者の2人がサンフランシスコでいくら手を挙げてもタクシーが止まらないという実体験に基づいている。

 

新規事業の創造において、「顧客は誰か?」は非常に重要な問い掛けである。この問いに漠然としか答えられなければ、アプローチが間違っていると言わざるを得ない。

 

マーケティングでは、「ペルソナ」がよく用いられる。これは、自社の製品・サービスを購入する架空の顧客モデルである。あたかも実在しているかのように、詳細に人物像を設定する。具体的な顧客イメージを練り上げることで全員が顧客をよく理解し、共有することができる。

 

ここで、もう一歩踏み込んで考えてほしい。仮想の人物ではなく、実在する人物を顧客像として設定すると、どうなるだろうか。

 

漠然と多くの顧客を対象にするより、実在する特定顧客の困り事は何か、その課題は何かと具体的に考えた方が、真摯に向き合うことができる。また、仮想の顧客課題から出発したソリューション開発は当たり外れが大きい。実在顧客の本質的な課題の発見に注力し、その仮説を顧客にぶつける行動を繰り返すことが重要だ。この段階でのプロダクトは、あくまで課題発見のためのプロトタイプ(試作品)づくりでなければならない。

 

市場調査や数値データからのアプローチでは出てこない課題、つまり多くの人が気付いていない(意識していない)ニッチな課題を見つけるのだ。まずは課題発見に注力することが第一歩であり、それが結果的に課題解決への近道となる。

 

では、実在顧客は誰に設定すべきか。さらにもう一歩踏み込んで考えてほしい。自分自身(自社)を顧客に設定するのである。なぜならAirbnbやUberのように、自らの具体的な困り事の解決から、新規ビジネスが生まれるきっかけになった場合もあるのだ。

 

 

 

 

自社が一番の顧客というアプローチ

 

金属加工業A社の強みは、積極的な設備投資による生産性の高い製造工程にある。その強みを磨くと同時に、将来的に課題となる人材難を回避するため、A社は工場の自動化(スマートファクトリー化)を検討した。

 

そこで取り組んだのが、M&A(買収・合併)だった。ロボット技術を持つ企業を自社に取り込み、一気にそのノウハウを入手した。現在は、自社工場のスマートファクトリー化と独自のアプリ開発に取り組み、先々にはそのノウハウを他社へ展開する新規事業を立ち上げていく計画である。

 

人材採用が思った通りに進まず、このままでは事業を成長させられない。また人材育成の重要性を認識しているが、十分に時間を割けていない。さらに業務効率化を図らなければ、収益が改善しない。このように既存業務を行う上での企業の課題はさまざまであり、課題のない企業はない。課題に対する感度を高め、その課題を解決するソリューションをアライアンスによって生み出し、そのソリューションをさらに外部へ展開することで新規事業を創造する。

 

既存事業を抱えた組織で新規事業を生み出すには、A社のように、自社が抱える課題からアプローチするというのは有効である。ピンチはチャンス。自社を課題解決の一番の顧客に設定することは、その他大勢の顧客の体験価値を明確にする意味でも重要である。

 

 

自らの困り事の解決策を世の中に役立てる視点

 

新規事業は、ビジネスモデルが新しいというだけではダメだ。世の中に新しい価値をプラスし、人々の役に立つという視点のビジョンが必要である。その原点となるのが、課題解決に取り組むモチベーションだ。従って、自らの困り事が切実なほど、その解決策はそのまま世の中に役立つソリューションとなり、新たな市場の創造につながる可能性が高い。

 

世の中に役立つソリューションとしてインパクトを持たせるには、"そこそこ"支持してくれる多数の顧客ではなく、たとえ少数でも強く支持してくれるファン、つまり「熱狂顧客」をつくるべきだ。熱狂顧客とは、自社の製品・サービスがないと困る顧客、製品・サービスが持つストーリーに共感してくれる顧客である。この熱狂顧客を早く創造する取り組みが、新規事業のブランディングにおいては欠かせない。


その意味でも、身近にいる熱狂顧客を自社(自分自身)に設定することは、アプローチとして有効だ。価値転換期の今こそ、自らが熱狂顧客となるソリューションを生み出そう。

 

 

  • タナベ経営
  • 経営コンサルティング本部
  • 本部長代理 戦略コンサルタント 
  • 巻野 隆宏
  • Takahiro Makino
  • 企業の持続的な変化と成長をサポートする戦略構築に取り組んでおり、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。新規事業開発コンサルティングチームのリーダーとしても、成長戦略の構築を提言している。
  • お問合せ・資料請求
  • お電話でのお問合せ・資料請求
    06-7177-4008
    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所