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今週のひとこと

ブランドとは、顧客と企業の長期的な
信頼関係を築くことである。

☆セルフマネジメントで成果につなげる ―1キロ痩せようと思ったら......

 働き方改革やメンタルヘルスの観点から、とても重要になってくるのが「セルフマネジメント」です。直訳すると「自己管理」となるわけですが、セルフマネジメントをうまく行い、自分自身の精神や肉体を安定させることによるメリットは非常に大きく、目標の達成や、モチベーションと生産性の向上につながるなどの効果があります。何よりビジネスパーソンとして自分自身の健康状態を維持することは、良い仕事をするために必要最低限の条件であると言っても過言ではありません。

 人それぞれ違いはあるかもしれませんが、セルフマネジメントに必要なことは何なのでしょうか。栄養学の視点から「不健康」という事例で確認してみましょう。近年、メタボという言葉が日常的に使われていますが、皆さんは体重を1キログラム減らしたいと思った時に、具体的にどのようにすればよいのかイメージを持てますか。
 運動をしたり、摂取カロリーを減らしたりなど方法はさまざまですが、1キログラムの脂肪を燃焼させるには7200キロカロリーを消費する必要があります。ちなみに、体重60キログラムの人がフルマラソンを走ったとすると、2500キロカロリーを消費するといわれていますので、フルマラソンを3回走ってやっと1キログラム減る計算になります。したがって、太らないような食生活を続けるセルフマネジメントが必要です。

 情報やモノがあふれるこの時代の中で、人も会社も必要なものとそうでないものを、いかに取捨選択していくかが重要です。体の中でモノ余りが生じるとそれは脂肪として蓄えられ、工場であれば在庫過多として収益を圧迫します。素晴らしいパフォーマンスを発揮するためにも、また各個人が肉体的にも精神的にもベストな状態で働くためにも、セルフマネジメントという考え方を取り入れる必要があるのではないでしょうか。

経営コンサルティング本部
コンサルタント
五島 健二

CONSULTING METHOD

強いブランドには思想と美意識がある

タナベ経営
経営コンサルティング本部 副本部長
ナンバーワンブランド研究会 リーダー
平井 克幸 Katsuyuki Hirai
経営者の参謀として、企業のさまざまな課題に精通する戦略コンサルタント。専門分野はブランディングをはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたり、これまでに中堅・中小企業の成長支援を数多く手掛けてきた。著書に『タナベ流新規事業開発プログラム』(タナベ経営)がある。中小企業診断士。

ブランドとは世界観・価値観の表現

企業がブランディングを成功させるための鍵は、「根幹」をどう鍛えるかにかかっている。人間に例えれば「体幹」に相当するものだ。トレーニングによって体幹を強くしていくことで、どんなスポーツにも適応できる運動能力の基礎が出来上がる。

同様に、ブランドの根幹に相当するものは何だろうか。それはブランドコンセプトである。コンセプトとは目指している世界観や価値観を表現したもので、ブランドのエッセンスが凝縮されたものだ。コンセプトの強弱は、そのままブランド力の格差となって表れる。強いブランドには、それにふさわしい明確なコンセプトが存在し、その思想や使命感が強烈なほどブランドが際立っていく。ブランディングの全ての取り組みは、コンセプトを起点として進めるため、まずはこの部分を確立しなければならない。

強いブランドコンセプトを作成するために、押さえておくべきポイントとして、「独自性」「必然性」「普遍性」の3つが挙げられる。(【図表1】)

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ブランドコンセプトをつくる3つの視点

(1)独自性

「独自性」とは、他と違ったブランドであることを示して差別化することである。どんなに優れたコンセプトを自負していても、個性がなければ埋没してしまう。

最も分かりやすい事例は、スターバックスコーヒーの「The 3rd Place(第三の場所)」というコンセプトだろう。同社の店舗は「会社でも自宅でもない、自分だけの時間を提供する」ための空間であり、コーヒーはそれを演出するアイテムにすぎない。空間づくりのために、店舗のインテリアには徹底したこだわりがある。ソファやテーブルはゆったりくつろげるサイズで、内装全体が落ち着いたトーンで仕上げられている。また、大切なひとときを邪魔しないように店内に厨房を置かず、過度な接客サービスも行っていない。通常の喫茶店とは違ってコーヒーカップにソーサー(皿)がないのも、食器による音を出さないための配慮の一つだろう。全てがブランドコンセプトに沿って組み立てられている。

また、独自性が強ければ強いほど、それに共鳴する相手を選ぶことになる。顧客はコンセプトが自分の価値観と一致しているかどうかでブランドを選択する。逆に考えれば、顧客が自社を選ぶ基準がブランドの存在価値だという可能性もある。もし、ブランドに個性がなく、ありきたりに感じられる場合には、どのような価値で顧客から選ばれているのかを顧客の視点から見直してみるべきだ。自社の商品・サービスのどこが気に入って、どのような用途やシーンで使っているか、また今後は何を期待されているのかをひもといていけば、ブランドコンセプトの素材が見えてくるだろう。

(2)必然性

「必然性」とは、コンセプトに背景やストーリーがあるということだ。それは会社の歴史や事業内容との関係が深く、ブランドに特別な「意味」を与えている。

無印良品(MUJI)は、いまや世界中に受け入れられているジャパンブランドの代表格だが、その根幹には日本の文化や美意識に基づいたコンセプトがある。運営会社である良品計画のホームページには、「『これがいい』ではなく『これでいい』という理性的な満足感をお客さまに持っていただくこと」というメッセージで表現されている。

そこには「本当の豊かさとは何か?」を訴えかける独特の価値観がある。実際、無印良品の商品はどれも機能は必要最低限に絞られ、デザインは至ってシンプルだが、簡素な中にも美しさがある。まさに、余計なものをそぎ落とした「引き算の美学」を具現化している。

このようなコンセプトは、決して外国企業にはまねのできない日本独自のものだ。だからこそ、無印良品のブランドは海外においても高く評価されている。

日本的な価値観としては、それ以外にも自然との調和を重んじる思想、和の精神と利他の心、おもてなしの文化など、さまざまな思想や美意識がある。ブランドコンセプトにこうした日本人としてのバックボーンを取り入れることは必然性があり、グローバル展開やインバウンド需要を狙う企業にとっても大きな強みになるだろう。(【図表2】)

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コンセプトやデザインをそのまま模倣して使うのは簡単だが、会社の歴史や文化までをまねすることはできない。ブランドとはその会社にしかない組織風土や企業文化といったDNA(遺伝子)レベルで形成されるもので、そこにつながるものが必然性である。

(3) 普遍性

「普遍性」とは、時代が変わっても通用するコンセプトで、社会や人間の本質的な部分とつながっていることがポイントだ。

教育サービスの分野では、公文教育研究会が挙げられる。「KUMON」ブランドの教室として海外50の国と地域に展開しており、生徒数は全世界で約430万人にも上っている。

同社には教育に対して独自の価値観があり、その根本にあるのが日本古来の「子宝思想」である。子どもは神から授かった宝物であり、親だけでなく地域全体で育てていくべきだという考え方で、それが形になったものが江戸時代の「寺子屋」である。地域に密着して展開し、近隣の身近な大人が指導者になる公文の教室は、まさにその現代版といえる。そして、子どもが持っている可能性を信じて最大限に引き出すことを目的に、個々の成長度に応じた課題を与える「ちょうど」をカリキュラムの基本としている。教室運営も「子どもから学ぶ」という姿勢で、常により良い指導方法の改善を行っている。同社のこうしたコンセプトは国や地域を超えて、子どもを育てる上での普遍性に通じるものだ。

コンセプトに正解はない。そこにあるのはブランドに込められた思想であり、意思である。これら3つのポイントを踏まえて、経営者と全社員が理解・納得できる、明確で分かりやすいブランドコンセプトが策定できれば、ブランディングは半ば成功したも同然である。


コンセプトを美意識でキュレーションする

ブランドコンセプトを確立した次の段階としては、それを美意識に基づいて具体化し、ブランドイメージに換えていく。これを、ブランドキュレーションという。キュレーションとは、「精選する」という意味の言葉で、ブランドのもとになるさまざまな要素を、コンセプトに基づく価値判断で整理することである。

キュレーションによってブランドを際立たせるとは、簡単に言うと「絞り込む」ことだ。あれもこれもと欲張り過ぎると、結局は平凡なイメージになってしまう。そこで「捨てる」または「やらない」といった割り切った判断が必要になる。

例えば、商品・事業に関しては、「〇〇事業は行わない」「△△分野には進出しない」といったNG集を作るのもよい。価格面では、一定以上の金額に絞り、安売りや値引きはしないことを条件にしてみる。品質面では、厳格な品質基準で検査を行う方法もある。意匠面では、デザイン・ロゴマークの使い方やカラーリングの規定を設けるなどである。(【図表3】)

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キュレーションによって編集されたブランドは、総じて不要なものが少なく、全体の統一感が増して、顧客に強いインパクトを与えることができるだろう。

ブランドは極めて情緒的・感覚的なものであり、決して理性では測れない。そこに心を揺さぶられる何かがなければ、顧客が共鳴することはないのだ。強いブランドの背景には必ずと言っていいほど、トップの思想や美意識が存在している。

まさに「経営とは、トップの思いを社員の力を借りて実現すること」だといわれる通り、会社を一つの作品と捉えれば、全ての社員はアーティストということになる。全社員が一致協力して強いブランドをつくり上げていくことが、ブランディングの真の姿に違いない。

ぜひ、思想と美意識の観点から、いま一度自社のブランドの在り方を見直していただきたい。

MARKET STATS

「SDGs」に言及した株式時価総額上位100社
39社(2016年)→68社(2017年)へ大幅増

企業の間で、「SDGs(エスディージーズ/持続可能な開発目標)」達成に向けた貢献活動をブランディングに取り入れる動きが広がっている。SDGs※1とは、2015年に国連加盟国193カ国が全会一致で採択した、「誰一人取り残さない」世界の実現に向けた国際目標(期限:2030年)。貧困の根絶や環境保護、技術革新、生物多様性、ジェンダーなど17項目の開発目標(【図表1】)と、その具体的目標となる169のターゲットがある。
※1 Sustainable Development Goalsの略称

【図表1】 SDGs「17の目標」

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出所:国際連合広報センター

CSR(企業の社会的責任)報告書の企画・制作や支援サービスを行うクレアン(東京都港区)によると、株式時価総額上位100社のうち、2017年に開示したCSR情報の中でSDGsについて言及した企業が約7割(68%)を占め、2016年(39%)に比べ大幅に増えたという。(【図表2】)

【図表2】SDGsのCSR情報開示(総合報告書含む)状況(2017年)

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出典:クレアン「SDGsの開示状況調査結果(2017年)」(2018年1月)

また、地球環境戦略研究機関(IGES)とグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)が発表した調査によると、国内大手企業163社(団体を含む)の経営陣のSDGsに対する認知度が2017年度で36%となり、前回調査(2016年度)の28%から8ポイント上昇した。(【図表3】)

【図表3】組織におけるSDGs認知度(複数回答)

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※は2017年度に新たに設定した選択肢
出典:公益財団法人地球環境戦略研究機関/グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン 「日本企業調査レポート2017年度版『未来につなげるSDGsとビジネス~日本における企業の取組み現場から~』」(2018年3月)

近年、SDGsへの取り組みを宣言する企業が増えた背景に、「ESG投資」が株式市場で注目されていることが挙げられる。ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字。省エネ対策や温室効果ガス削減の取り組み、ダイバーシティーやワーク・ライフ・バランスへの配慮、ステークホルダー(利害関係者)への情報開示や利益還元充実などに積極的な企業は投資家から高く評価される。ESG投資の全世界の運用額は2500兆円を超え、総投資の4分の1を占める規模に拡大しているとされる※2
※2 IGES/GCNJ 「未来につなげるSDGsとビジネス ~日本における企業の取組み現場から~」

さらに、企業に対して社会的課題の解決を求める世論の高まりがある。損保ジャパン日本興亜が行った調査結果(1106人が回答)によると、社会的課題の解決で期待するセクター(部門)として、「政府・行政」(74.6%)に次いで「企業」(50.1%)を挙げる人が多かった。(【図表4】)

【図表4】SDGs達成や国内外の社会的課題の解決に向けて主に誰が行動すべきと思うか(複数回答)

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出典:損害保険ジャパン日本興亜「社会的課題・SDGsに関する意識調査」(2018年3月)

なお、電通の調査によると、日本人のSDGs認知率は14.8%。世界20カ国・地域の平均値(51.6%)より著しく低い。ただ、日本のSDGs認知者は「SDGsを取り入れている企業には信頼感・好感を持ちやすい」「SDGsに関係あるような企業の商品やサービスを選んでいる」と考えている人が多い(【図表5】)。SDGs認知者は情報感度が高く、新しい商品を積極的に取り入れる傾向が見られるという。

【図表5】 SDGsへの考え方 (複数回答)

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出典:電通「SDGsに関する生活者調査」(2018年4月)

SDGsは大きなビジネスチャンスが開拓できると期待されている。2017年の世界経済フォーラム(ダボス会議)では、「国連のSDGsが2030年までに達成されれば、少なくとも12兆ドルの経済価値、最大3億8000万人の雇用が創出される可能性がある」と報告されている。

日本政府も2016年、安倍首相を本部長、全閣僚を構成員とする「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置し、SDGsへの取り組みを企業に促している。同本部は「SDGs実施指針」の中で、企業に対し社会貢献活動の一環として取り組むだけでなく、SDGsを自らの本業に取り込み、ビジネスを通じて社会的課題の解決に貢献する「SDGsの本業化」を推奨している。

中堅・中小企業においても、経営戦略にSDGsを組み入れることで、自社の存在価値向上や新たな事業創造につながるほか、SDGsに積極的な大手企業から受注しやすくなる側面がある。SDGsは大手企業だけの取り組みではないことを留意する必要があるだろう。

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