image1

今週のひとこと

事業経営はライバルとの対決である。
顧客の期待を超える満足を
常に提供しよう。

☆ "顧客に響く"プロモーション

 ITを活用した販売促進の手法である「デジタルプロモーション」が急激な進化を遂げています。スマートフォンやAI(人工知能)の発展で新たな技術やツールが開発され、顧客の購買行動にも大きな影響を及ぼしているのです。そのため、従来は有効だったプロモーションの手法も、時流とともに進化させていく必要があります。

 プロモーションにおいては、ターゲット層がどういったメディア媒体と接触しているかを知ることが重要です。現在の消費者は、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌のマスメディアから、スマホやタブレットといったスマートデバイスへのモバイルシフトが進んでおり、消費者は気になる商品があれば、即時にさまざまな関連情報を得られるようになっています。

 例えば、ある住宅メーカーがモデルハウスへの集客プロモーションを実施するとしましょう。今の消費者は、まず来場前にその住宅メーカーやモデルハウスの情報、そして同業他社のモデルハウスなども検索して調べます。その事前調査の段階で、自分が知りたい情報や他社との比較で足りない部分などがある場合、消費者はモデルハウスまで足を運びません。つまり、リアル商品に触れてもらう以前に、そもそも選ばれないのです。
 その段階をクリアしてモデルハウスに来てもらったとしても、消費者は自分なりに分析を済ませた状態で来場しますから、その事前に調べた情報とリアルな場面で得られる体験や情報の間に"マイナスの乖離"(かいり)があると、購買にはつながりません。デジタルプロモーションとは、ウェブプロモーションとリアルプロモーションが一体となって、消費者に対し継続的に価値訴求を行っていくことで、初めて効果が表れるのです。

 逆に、消費者が事前に自社商品を詳しく知る機会を多く提供すれば、新たな顧客に育つ可能性が高まります。そのような学習の場をどう提供し、ファンを増やしていくのか。商品を欲しい人を探して売るという従来の考えから脱却し、商品が欲しくなる仕掛け、人の欲望をかなえられる仕組みを構築することが求められます。
 かつて日本は大量生産・大量販売・大量消費の社会で、企業と個々の消費者の接点は限られていました。そのためマスメディアを通じてたくさんの人にリーチできれば、商品は売れました。しかし、ネットが普及してスマホが登場した現在、企業と消費者の接点は複数あり、その関係性も複雑化しています。
 企業は今後、個々の消費者が欲しい商品をリアルタイムに把握し、必要な人に必要な情報や商品をウェブとリアルを融合させた形で提供 していくことが、マーケティングの重要な鍵となるでしょう。

SPコンサルティング本部
副本部長
庄田 順一

consultant_reviewbanner


イノベーションを起こす"ゼロイチ人材"の育成へ

独創的な家電を燕三条から

日本屈指の"ものづくりの街"として知られる新潟県・燕三条地域。この地に本社を置くツインバード工業は、低糖質パンが焼けるブランパン対応ホームベーカリーや、コーヒー界の世界的レジェンドと共同開発した全自動コーヒーメーカー、360度首振り機能を持った秀逸なデザインの扇風機など、独創的な商品を有する総合家電メーカーである。2002年には環境に優しい完全脱フロンの冷却システム、「FPSC(フリーピストン・スターリング方式冷凍機)」の量産化を世界に先駆けて成功。事業拡大を加速させている。

同社の経営理念は「感動と快適さを提供する商品の開発」「相互信頼を通じた豊かな関係づくり」「快活な職場づくりへの参画と社会の発展への寄与」「自己の成長と豊かな生活の実現」であり、経営戦略として「お客様の満足を追求」「スピード経営の実践」「ネットワーク型経営の実践」を掲げる。ツインバードという社名には、「商品をお使いになるお客様と商品をつくる私たちを常に"一対の鳥"と考えたい」という思いが込められている。

同社の創業は1951年、野水重太郎氏がメッキ加工の下請け業として始めた。そのうち自社製品の開発を始め、ギフト向けの豪華な「ナポレオントレー」がヒット。続けて金属メッキとプラスチックの異素を組み合わせた「ワインクーラー」が大ヒットした。数年後、2代目の野水重勝氏は本格的に小型家電製品の開発に着手。自社設計の電子回路を搭載した「タッチインバータ蛍光灯」をはじめとするヒット商品を次々に発表して事業基盤を築いた。

ところが、2000年に東証2部へ上場すると業績が頭打ちとなり、5期連続最終赤字を計上するなど厳しい状況に陥ってしまう。そんな中2011年に3代目として代表取締役社長に就任したのが、野水重明氏である。

経営理念

感動と快適さを提供する商品の開発
人々に感動を与え、新しい生活の喜びを創り出す商品を創造開発し続けます。

相互信頼を通じた豊かな関係づくり
お客様との信頼関係を大切にし、一対の鳥となって相互繁栄をめざします。

快活な職場づくりへの参画と社会の発展への寄与
新しい仕事や可能性に挑戦し続けることにより存在価値を高め、社会の発展に貢献します。

自己の成長と豊かな生活の実現
仕事を通じ自己の成長を図り、豊かな生活を実現します。

顧客と一体になったものづくりで、数々のヒット商品を生み出してきた(写真は本社ショールーム)
顧客と一体になったものづくりで、数々のヒット商品を生み出してきた(写真は本社ショールーム)

カリスマ経営から価値共創企業へ転換

「先代の重勝は私の父で、当社をメッキ屋から家電メーカーへ転身させたカリスマ経営者でした。そんなやり手でも、成功体験から脱することができずに"昭和スタイル"の商品をつくり続け、事業が低迷してしまった。私は『すぐに代表権をください』と事業承継を申し出、先代は潔く道を譲ってくれました」と野水氏は振り返る。

危機から脱するために野水氏が採ったのは、顧客を巻き込んだ社員全員での商品開発である。ブランドプロミスとして「一緒に、つくる。お客様と。」を掲げ、顧客と一体になったものづくりで、どこよりも顧客の声を大切にする"価値共創企業"を標榜している。

「家電のマーケットは7兆円、白物家電でも2.5兆円あります。当社の売り上げは100億円強ですから、伸びしろは十分あるはず。単身世帯や核家族にフォーカスし、お客様の期待値を超える圧倒的な美しさと先進テクノロジーを有する商品を提供したい」と野水氏。その思いに沿って最近ではグッドデザイン賞を連続受賞したり、大手メーカーの牙城だった冷蔵庫や洗濯機の分野に参入して業績を伸ばすなど、順調な成果を上げている。

ヒト・モノ・カネから"ヒト・ヒト・ヒト"へ

「家電業界は斜陽産業ともいわれますが、ビジネスの仕方や商品の企画などへの創意工夫は無限に存在するはず。ただし、かつての延長線上に家電ビジネスの未来はありません。だから、当社が真に必要とするのは、既存のものを成長・発展させる人材よりも、ゼロの状態から革新的な一歩を踏み出せるような"ゼロイチ人材"です。バブル崩壊後の30年間日本が負け続けたのは、そのような人材を育ててこなかったから」と野水氏は明言する。

デジタル化が進んで社会ニーズの変化速度が増すと、今まで存在しなかったような製品・サービスがいっそう求められる。それを創出するコアが、ゼロイチ人材なのだ。

「このような人材を育成する取り組みは、教育分野でも意欲的に行われており、新潟大学では学長が先頭に立って『創生学部』を新設。自らの力でイノベーションを起こせるような教育をスタートさせました。自ら文献を探して内容を咀嚼した上で、付加価値を加えてプレゼンテーションができる。そうしたAIに代替されないような人材の育成に、私たち民間企業も真剣に取り組むべきです」(野水氏)

それに伴い、経営資源も変わる。

「これまでは『ヒト・モノ・カネ』でしたが、ゼロイチ人材のイノベーションに期待する状況では"ヒト・ヒト・ヒト"。今まで以上に、人材の確保と教育が重要になるのは確実です」と野水氏が述べるように、成長著しいIT系企業の事業戦略は「人材獲得戦略そのもの」と言えよう。

ゼロイチ人材の育成に向けて、ツインバード工業がパートナーに選んだのはタナベ経営だった。

PROFILE

    • ツインバード工業㈱
    • 所在地:新潟県燕市吉田西太田2084-2
    • 創業:1951年
    • 代表者:代表取締役社長 野水 重明
    • 売上高:116億2500万円(連結、2019年2月期)
    • 従業員数:303名(2019年2月現在)

1_miraibanner

工場内オフィスの"見える化"で 「共創空間」を生み出す

寝屋川工場5階のオフィススペース。入ってすぐのリフレッシュスペースは、打ち合わせや出張者のワーキングスペースとして活用。
寝屋川工場5階のオフィススペース。入ってすぐのリフレッシュスペースは、打ち合わせや出張者のワーキングスペースとして活用。[/caption]

管理職のデスクは高さを調節でき、立って仕事をすることも可能
管理職のデスクは高さを調節でき、立って仕事をすることも可能

工場に併設した事務棟は、効率化が進む生産現場に比べると改革が遅れがちである。イトーキは大阪・寝屋川工場で徹底した"見える化"を図り、社員の働き方を抜本的に見直すオフィス改革に取り組んでいる。

オフィスが変われば働き方も変わる

管理部門のオフィス改革は数多いが、工場のオフィス改革はあまり例がない。工場の生産ラインなどでは現場の改革・改善が従来から重要なテーマとなっていたが、生産現場に隣接するオフィス改革は、コスト面からもあまり重要視されていなかった。

イトーキは旧本社ビル(大阪市城東区)の売却に伴い、2018年6月に生産関連部門を寝屋川工場(大阪・寝屋川市)へ移転・集約することを決定。事業部制で各所に分散していた拠点を整理統合するとともに、ものづくりの現場に設計・開発・調達・生産技術・品質保証・知的財産などの機能を集めることによって、よりスピーディーな開発・生産を実現することを目指した。

そこで、寝屋川工場では社員の働き方を抜本的に見直すオフィス改革を進めることを決めた。オフィス改革を指揮した本部久雄氏(常務執行役員・生産本部 本部長)は「当社は、ものづくりの現場において業界ナンバーワンのQCD(品質・コスト・納期)を掲げています。しかし、新商品開発のプロセスややり方は旧態依然としたものでした。旧本社の売却と寝屋川工場への移転・集約を機に、プロジェクトチームを立ち上げて働き方の刷新を目指しました」と話す。

寝屋川工場のオフィス改革は、SDGs(持続可能な開発目標)という世界レベルでの大きな潮流を受けて政府が推進する働き方改革(外的要因)と、旧本社売却に伴う寝屋川工場への移転(内的要因)といった二つの要因を推進力に実行されたのだ。

若手社員で編成するプロジェクトチームを立ち上げ、理想のワークスタイルの議論をスタートさせたのは、2017年12月。メンバーは自らの本業を行いながら、2018年6月の移転に間に合わせるという制約の中で、数々の改革案をまとめた。

プロジェクトチームが取り組んだのは、従来の仕事のやり方を抜本的に見直すこと。日々慣れ親しんだ仕事の空間・時間の使い方や作業のやり方を変えることには、つい二の足を踏んでしまう。そうした社員の固定観念をどう打破するかに苦労した。

本部氏は「開発担当者はブースにこもって仕事をするのが当たり前と考えており、抵抗勢力となりました。しかし、私は多様な部署と知見を共有しながらスピーディーに開発し、かつクオリティーを向上させる『共創空間』をどうつくり上げるかが、重大なポイントと考えました。そこで、それぞれの仕事の『見える化』をどう実現するか、考えるようにアドバイスしました」と振り返る。

画期的な新商品を世に出すには、豊富なアイデアとスピーディーな開発が欠かせない。そのキーパーソンたちがブースから出て交わることで、新たな思考が生まれる。さらにアイデアを商品として形にするまで、サポートができるようなオフィスづくりを目指したのである。

会議室はガラス張りで、中の様子がよく見える。部屋にはカラフルなイスを配置し、打ち解けた雰囲気を演出
会議室はガラス張りで、中の様子がよく見える。部屋にはカラフルなイスを配置し、打ち解けた雰囲気を演出

大会議室(写真右側)をオフィス中央部に配置して、すべての打ち合わせを見える化。この大小会議室を囲んだ回廊式動線でインフォーマルなコミュニケーションを生む
大会議室(写真右側)をオフィス中央部に配置して、すべての打ち合わせを見える化。この大小会議室を囲んだ回廊式動線でインフォーマルなコミュニケーションを生む

コンセプトは「集中と協働」「ワクワク」

寝屋川工場5階のオフィスに入るとまず気付くのが、動線スペースは木目調のフローリング、働くスペースはカーペットと、明確に区別されていること。入り口付近の来客用の会議室はガラス張りの部屋でポップなテーブル・イスがあり、打ち解けた雰囲気がある。複数の打ち合わせブースも配置され、来訪者の動線は入り口付近で管理される。

その奥にはカフェ&リフレッシュスペースがあり、セルフサービスのコーヒーやお茶も完備。同スペース中央のヒノキ材のテーブルには、パソコンなどをLANにつなげるシートが置かれ、社内の打ち合わせだけでなく出張者のワーキングスペースとしても活用できる。カウンター下にはロッカーがあり、出張者の荷物を入れられる。

各従業員のデスクは、目線の高さまでしかパーテーションがなく、島型の配置だが、スペースにはかなり余裕を持たせた。ペーパーレス化に伴う文書管理のデジタル化により、背の高いキャビネットがスペースを区切ることはなく、全体が一望できるようになっている。

管理職のデスクは高さを調節でき、立って仕事をすることも可能だ。本部氏は「私は70%くらい立って仕事をしています。フロア全体を見渡せるし、社員が管理職の在席を確認できるメリットもあります。目線が合って気軽に会話に入れますし、代謝が良くなり健康にも良いですよ」と説明する。

フロア中央にはガラス張りのミーティング室があり、社内会議や部門間の打ち合わせはここで行われる。その隣にはスダレ(ストリングカーテン)で空間を仕切った打ち合わせスペースがある。会議や打ち合わせなど、人の動きが視認できるよう工夫されている。

コピー・プリンターは中央1カ所にまとめ、取りに行く手間を設けることで、紙の消費量を削減した。また、共有スペースを設けることで、ちょっとした交流を生む機会にもなっている。

さらに、集中して仕事ができるようパーテーションで区切ったスペースや、数人で打ち合わせができるテーブルを配置。必要に応じて人が集まり打ち合わせをし、また自席に戻るということが繰り返されている。

会議室や打ち合わせのスペースは、全て通信機器やインターネット対応であり、壁面はホワイトボードとして活用できるようになっている。

4階には試作や金型製作、耐久試験などができるスペースを配置。それまで分散していた各機能を集約することで、仕事のスピード感を格段に向上させた。

打ち合わせスペースでは、必要に応じて気軽にミーティングができる
打ち合わせスペースでは、必要に応じて気軽にミーティングができる

リニューアルした食堂。木目調の床、温かみのある照明やソファ席など、レストランのようにくつろげる空間へ一新
リニューアルした食堂。木目調の床、温かみのある照明やソファ席など、レストランのようにくつろげる空間へ一新

工場のオフィス改革も環境投資の観点で

こうしたオフィス改革は、プロジェクトチームが部門ごとに在席する日数や時間を調査して詳細にデータ化し、働き方への要望やアイデアをヒアリングした上で実現させた。コンセプトは、「選ぶ:集中と協働」「ワクワク」だ。とはいえ、改革は終わったわけではない。

本部氏は「オフィスには社員で組織する『自治会』があり、日々の清掃を行うとともに改善項目を検討しています」と話す。自分たちが働くスペースを、自ら良くしていく取り組みは継続しているのだ。実際、作業ブースに「使用中」「集中して仕事をしている」などと書かれたサインボードを設置するアイデアは、自治会から生まれたという。

また、今年(2019年)の5月中旬には、別棟にある食堂をリニューアルした。長テーブルにイスというスタイルだけでなく、ファミリーレストランのようなベンチシートや丸テーブルを配置。壁紙や床を張り替えることでイメージを刷新した。本部氏は「食堂やトイレへの配慮が、社員の定着率に直結します。従来は工場に付随する設備は、コスト部門としていかに費用を削減するかを考えました。しかし、社員の働き方・満足度を高め、優秀な人材をどう確保するかとの観点から、投資と捉えることが重要です」と指摘する。

こうしたオフィス改革は、働く社員の生産性にどう影響しているのか。開発部門を集約し生産現場と隣接させたことで、タイムロスは大幅に削減。また、本部氏は「全体の生産性は向上していますが、個人の部分はまだ分かりにくいのが現実。ただ、離職率や体調不良での休業率、働く時間のコンパクト化、有給休暇の取得率は少しずつ改善しています」と話す。

そして「若い社員ほど、いろいろ考えて悩んでいる。また、技術職ほど『職人』となって仕事を隠しがち。上下・横・斜めのコミュニケーションを図り、いかに見える化できる環境をつくるかがポイントとなります」と強調する。

寝屋川工場の改革は、イトーキの他工場への横展開を図るだけでなく、情報発信の拠点としても活用されている。工場の生産ラインの見学だけでなくオフィスや食堂の見学も積極的に受け入れている。オフィス改革を提案するイトーキのモデルケースとして機能しているのだ。

イトーキ 常務執行役員 生産本部 本部長 本部 久雄氏
イトーキ 常務執行役員 生産本部 本部長 本部 久雄氏

PROFILE

  • ㈱イトーキ
  • 所在地:東京都中央区日本橋2-5-1 日本橋髙島屋三井ビルディング(本社)
  •     大阪府寝屋川市昭栄町17-5(寝屋川工場)
  • 創業 : 1890年
  • 代表者:代表取締役社長 平井 嘉朗
  • 売上高:1187億円?(連結、2018年12月期)
  • 従業員数:2007名(2018年12月末現在)
  • 問い合わせ先 : itk-ir@itoki.jp
  • お問合せ・資料請求
  • お電話でのお問合せ・資料請求
    06-7177-4008
    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所