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今週のひとこと

大きくするより中身を良くしよう。
企業体質を改善し、強みをさらに強化すれば、
結果として大きくなる。

強い現場の「生産性カイカク」

 時間外労働の上限規制、年5日の年次有給休暇の取得、同一労働同一賃金など、これらの働き方改革を進めるためには、現状の業務を改善し、生産性を向上させる生産性カイカクの仕組みづくりが必要です。

 そして、生産性カイカクを社内で推進していくためには現場力を高める必要があります。

 製造業A社の製造現場で行われていることをご紹介します。A社の工場では、若い工員がセル生産方式(一人屋台生産方式)で生き生きと働いています。一日の生産計画は、自らの責任、自らの判断で組んでおり、自ら立てた生産計画をホワイトボードに書き込み、途中で計画の修正を行ったり、作業時間を書き込んだりしながら、自らの生産性向上を確認して生産活動を行っています。

 作業時間短縮のための改善のやり方を自ら考える、業務改善リーダーの役割を一人一人が担っているのです。

 強い現場とは、働く人たちの自らの意思のもとでより良い仕事のやり方を常に考え、新たな価値の創出に向けた努力を怠らず、連帯を組んでいる現場のことを言います。

 ジャスト・イン・タイムやカンバン方式に代表される「トヨタ生産方式」は、効率的にものづくりを行う汎用的な考え方として国内・国外問わず多くの企業が採用している手法であり、このトヨタ生産方式に勝る生産手法はないと言っても過言ではありません。

 元トヨタ自動車名誉会長の張富士夫氏は「改善は永遠であり、無限である」と言い続けています。背景にあるトヨタの"哲学"が改善を生み出す原動力になり、強い現場を生み出しているのです。

 皆さんの会社でもぜひ、強い現場から生産性カイカクを実現していきましょう。

経営コンサルティング本部
コンサルタント
千葉 惟平

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フロイトやユングと並び心理学の3大巨頭と称されるアドラー。「人間の行動には目的がある」とポジティブに捉え、現在を未来へどう生かすかを考える手法は、企業経営にも多くのヒントを与えてくれる。アドラー心理学を学び、30年以上にわたって講演・研修を続ける"勇気の伝道師"・岩井俊憲氏に、そのポイントを伺った。

 
 
人間観察から生まれたアドラー心理学
 
若松 アドラー心理学は、フロイトやユングに並ぶ3大心理学といわれます。経営に携わっていると心理学からの学びも多いため、今回の対談を非常に楽しみにしていました。まず、アドラー心理学には、どのような特徴があるのでしょうか。
 
岩井 フロイトが書斎で思考を重ねて理論構築したのに対し、アドラーはウィーンのカフェでコーヒーを飲みながら雑談をしたり、カウンセリングをしたりと、「現場」での観察から生まれた心理学です。また、フロイトは原因論、アドラーは目的論と、視点が異なります。
 
アドラーは理論ありきではなく、観察に基づいて現実との整合性から考察した。この現場での観察を「臨床の知恵」と呼んでいます。
 
若松 岩井先生はアドラー心理学と、どのように出合われたのですか。
 
岩井 勤めていた外資系企業でリストラを主導し、その後に私も退職。今までの経歴が通じない世界に飛び込んでみようと考え、不登校の子どもを預かる塾の手伝いを始めてアドラー心理学に出合いました。
 
塾で知ったのは、子どもが不登校になった原因を探ろうと過去を掘り下げても解決にたどり着かないこと。しかし、アドラーの「人間の行動には目的がある」という目的論を用いると、その子が今後どうしていくかの援助ができるようになりました。現在を未来にどう生かすかというアドラー心理学の考え方がピタリとはまったのです。
 
若松 アドラー心理学は、タナベ経営のコンサルティングと同様に臨床から導き出した理論なので共感できる学びが多いのだと分かりました。
 
 
 

 
未来に向けて行動するには目的が必要
 
若松 アドラー心理学の基本的な考え方の一つ、「自己決定論」とはどういう概念でしょうか。
 
岩井 人間は自分の行動を自分で決められるという考え方です。反対概念は、生まれ育った環境が影響を与え続ける「環境支配説」です。
 
アドラーは、「環境の影響はあるだろうが、支配されるものではない。人生を建設的に歩むか、非建設的=破壊的に歩むかは、自分で選ぶことができる」と捉えました。つまり、自分で決定できるという点でポジティブであり、未来志向なのです。
 
若松 当社の田辺昇一ファウンダー(創業者)も、「人生は遺伝・偶然・環境・意志の産物である」とよく言っていました。中でも「意志」が大事だと。「あなたはあなたの人生で何をやりたいのか」という「志」の重要性です。
 
岩井 それは自己決定論と目的論のセットですね。意志があれば、未来志向で動くのです。
 
若松 私は仕事柄、優秀な経営者によくお会いします。その際、「能力と運」「運命」について尋ねることがあります。すると、名経営者ほど「私は運が良かった」と答えられます。こうした経営者心理をどのように捉えられますか。
 
岩井 一般的には「過去は変えられないが、未来は変えられる」と考えますが、アドラー心理学では「過去も変えられる」と考えます。
 
過去に大変なことがあっても、現在が良ければ「自分の運が良くなる材料になった」と見方が変わる。現在から未来をポジティブに見れば、過去もポジティブに見ることができるのです。つまり、原因論へのアンチテーゼです。
 
若松 俗に言う「カイゼン活動」の「なぜなぜ分析」では、「なぜ」を5回繰り返して問題の原因を追求します。大切な思考ですが、一方で私はリーダーに必要なのは「目的の5乗」であるとし、「何のために」を5回繰り返せば、目標が目的、使命に昇華されると提言しています。
 
私自身も実践しており、「原因を追究する思考」と「目的へと昇華させる思考」のプロセスは大きく異なると感じています。
 
岩井 「なぜなぜ分析」は、誤解が多いのです。これは現場の知恵であり、「なぜ不良が発生したのか」と原因を徹底的に究明する考え方ですから、マネジメントやリーダーシップには向いていません。
 
部下がミスを報告してきた際に「なぜ」と問い詰めれば、心を閉ざしてしまって、その後ミスを隠すようになります。「なぜ+否定形」を3回繰り返すと、行動の否定ではなく人格否定になってしまうのです。現象や出来事など、人間の意思が関与しないものには有効な手法ですが、未来に向けて行動するには「何のために=目的」が必要です。そこを切り分けなければならない。
 
私は「なぜなぜ5回」と「目的の5乗」の両方が必要だと思います。過去・未来に対して、現場・現象・出来事、経営ビジョンに対して、両方必要であって、片方を切り捨てては成り立ちません。
 
若松 同感です。原因分析だけが独り歩きしている感じがします。「目的の5乗」を強く意識するぐらいが、ちょうどいいのかもしれません。
 
自己決定論や目的論への理解について、多くの企業と接する中で、どうお感じになりますか。
 
岩井 どうしても「何が悪いか」という原因論が中心になってしまいがちです。しかし、重要なのは「何ができているのか」です。アドラー心理学には、成果を評価するという「勇気づけ」の発想があります。ポジティブな側面を見ることが、より良い未来を呼び込むのです。
 
 
 

 
志は夢と現実を結び付けるイメージで
 
若松 アドラー心理学の「全体論」とはどういった概念ですか。
 
岩井 多くの心理学では、"分かっちゃいるけどやめられない"ことを、意識と無意識、理性と感情、肉体と精神が矛盾・対立し、意識では理解できても無意識でつい悪い方向に手が出てしまうと説明します。
 
対してアドラー心理学は、矛盾・対立ではなく、目的に向かって互いが補い合うと考えます。つまり、「分かっているけど、やめようとしない」と考える。これが全体論です。その点では、「できないのではなく、やろうとしない」と突き付ける厳しさがあります。自分で矛盾を作り出すのではなく、統合させて言行を一致させようということです。
 
若松 非常に共感します。経営の究極は成果です。成果は行動の結果から生まれます。行動は思考の積み上げなので、「分かっているなら行動できる」「行動しないのは分かっていないから」と捉えることができます。半面、「念ずれば通ず」と志を貫く優秀な経営者は多い。経営とは、トップの方針、つまり志を社員の協力で実現することです。組織に全体論が浸透することが経営行動であるとも言えます。
 
岩井 志とは、夢と現実の乖離を解消する明快なビジョンやイメージです。イメージと行動を一致させるため、「As if――まるでそうなったかのようにイメージし、行動しなさい」とアドラーは言います。アドラー心理学は、志の心理学でもあるのです。目的論や全体論も、理性や感情を一つの志としてイメージすることから始めようということです。
 
若松 実は、私自身も全ては「イメージ」「デザイン」から入ります。出来上がっている姿、あるべき姿を「絵」として鮮明に描けない場合は必ず実行の際につまずきます。
 
企業経営を見て感じるのは、改善案はロジックではなくイメージであり、ストーリー(物語)であること。映像的というか、描写が具体的であることが、志には大事なのです。例えば映画製作は、多くの人が部分的にしか関わりませんが、最終的には一つのエンディングが導かれることと似ていると思います。
 
岩井 実際、多くの物事はイメージから始まります。戦略の体系にあるように、論理は計画段階のもので、目的レベルにはビジョンが重要となる。論理優先になると、無機質になって心が動かされません。ですから、経営者にはビジョン形成、つまり志をつくるトレーニングが必要なのです。「何のために」を5回考えると、論理を超えてビジョンになります。
 
 
 

 
尊敬ではなく「リスペクト」こそが、
求められるマインドです

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多様性を認めることがリスペクトにつながる
 
若松 「認知論」とは、どのような概念でしょうか。
 
岩井 人は「覚えたいもの」を覚え、「覚えたくないもの」は排除する。見方は十人十色で、客観的に全てを受け止めているわけではありません。誇張し、軽視し、見落とす。一緒に体験したことでも、記憶は全て違う。それが認知論です。
 
経営者は、自分が見ないものを見ている人をうまく使うことが大事です。独特の物の見方は個性であり、欠点ではない。違いを受け入れ、尊重することが大切です。
 
若松 今で言う「ダイバーシティー論」と同じように感じます。経営学的に言えば、私は「ダイバーシティーは戦略になる」と言っています。
 
岩井 多様性を認めることですね。その点においては同様です。
 
若松 違いを個性として認知し、補い合うのですね。先に協力を掲げると、無理に合わせることになる。では、望ましいリーダーシップの在り方とは、どういったものでしょうか。
 
岩井 リーダーシップとは、指導力ではなく「影響力」です。部下が経営者にリーダーシップを発揮するケースもある。信頼を基にした影響力の発信がリーダーシップです。
 
若松 リーダーシップは、信頼と敬意がなければ成り立ちません。
 
岩井 「リスペクト」こそが求められるマインドです。「尊敬」は仰ぎ見ることですが、リスペクトとは「距離を取って見つめ直す」こと。仕事においても家庭においても、リスペクトを持つことは大切です。
 
そのためには、違いを認め合うこと。チーム内に相性の悪い人がいても、目的・目標に向かって違いを受け入れ、認め合うことが必要です。相手の目で見て、耳で聞き、心で感じることで「共感」する。この共感に基づくリスペクトが信頼と協力に結び付きます。
 
若松 「対人関係論」とは、どういった概念でしょうか。
 
岩井 人間を考える際、フロイトはその人がどう考えるかを重視します。一方、アドラーは「人間のあらゆる行動は対人関係である」と言い切ります。人との関わり方の観察が、どういう人物かを理解する最大の鍵になるのです。
 
若松 社員には家庭・仕事・個人という三つの顔があると感じています。経営者はこの三つの顔と付き合わなければなりません。
 
岩井 アドラー心理学においても、家庭・仕事・個人はその人を支える三つの柱であり、それを全人格的に捉えます。全人格的な成長を望むアドラー心理学を学び、職場でも家庭でも個人にとっても幸せになることが理想なのです。
 
 
 

 
事業承継期における同族関係の心理学
 
若松 多くの企業が今、事業承継を課題として抱えています。中堅・中小企業は同族経営が多いので、親子関係に起因する問題が発生しがちです。
 
岩井 経営者は自分の栄光と子のダメなところを比較し、引き算の発想をしてしまうのでしょうね。また、学歴は子の方が良いケースが多く、嫉妬の気持ちもある。嫉妬や羨望は、他者を引き下げる感情です。子を下げて自分の優位性を保つという、無意識の心の働きです。
 
アドラーは、第1子・中間子・末子という誕生順位を深く研究しました。例えば、第1子は期待に対する責任感が強い。それがプラスに働くと良いのですが。
 
若松 私の1000社超のコンサルティング経験のうち6割は、事業承継期のコンサルティングです。同族経営の場合、家族の関係性によって承継の成否が決まる現場を数多く見てきたので、非常に共感します。私は「兄弟経営は3代目までに80%失敗する」と注意を促しています。成功確率は20%なので、細心の注意が必要だという意味です。
 
岩井 子ども時代の関係の取り方は、人生に大きな影響を与えます。例えば、私は末っ子なので、「俺についてこい」というカリスマにはなれません。第1子は、良い"参謀"が付けばカリスマになれます。兄弟とその周りの関係性は、アドラー心理学でも理論展開があります。
 
若松 同族の事業承継は長子に目が行きがちですが、これまでお話ししてきた通り、経営は1人ではできません。チームで承継するスタイルがとれるかどうか、また、そのチームのチームワークが事業承継の成否と組織経営力を決めますから、そこに目を向けてほしいですね。
 
特に、右腕左腕となる参謀の育成は不可欠です。後継者1人だけを見て事業承継というテーマを考え過ぎると間違えます。大局的な視点から経営陣の組み合わせを考えることこそが大切です。
 
岩井 アドラー心理学は、別名「人間知の心理学」と呼ばれていて、人間を理解するのにとても有益な心理学です。経営者がアドラー心理学の知恵を経営に生かすと、大局的な視点から人それぞれの魅力を引き出せます。今日は、若松社長から「人間の魅力」を振り返るきっかけをいただきました。
 
若松 アドラー心理学について、経営者視点から分かりやすくお話しいただけたことに心から感謝を申し上げます。ありがとうございました。
 
㈲ヒューマン・ギルド 代表取締役
岩井 俊憲(いわい としのり)氏
1947年12月、栃木県生まれ。1970年早稲田大学商学部卒業。外資系企業(GE社、トヨタグループ、三井物産の合弁会社)の管理職などを経て、1985年4月、(有)ヒューマン・ギルドを設立、代表取締役に就任。アドラー心理学カウンセリング指導者。中小企業診断士。アドラー心理学に基づくカウンセリング、カウンセラー養成、各種講座、執筆活動などに従事し、30年以上にわたる研修・講演の受講者は18万人を超える。著書は『マンガでやさしくわかるアドラー心理学』シリーズ(日本能率協会マネジメントセンター)、『人生が大きく変わるアドラー心理学入門』(かんき出版)、『人を育てるアドラー心理学』(青春出版社)、『「勇気づけ」でやる気を引き出す!アドラー流リーダーの伝え方』(秀和システム)など50冊超。
 
タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
 
 

アドラー心理学とは

フロイトやユングと並び「心理学の3大巨頭」と称されるアドラー

「アドラー心理学」とは、ウィーン郊外に生まれ、オーストリアで著名になり、晩年には米国を中心に活躍したアルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870-1937)が築き上げた心理学のこと。
 
欧米では、「個人心理学」(Individual Psychology)と呼ばれているが、日本では「個人」と言うと、「社会」と対比した個人のための心理学のニュアンスが強いため、「アドラー心理学」として定着している。
 
従来のフロイトに代表される心理学は、人間の行動の原因を探り、人間を要素に分けて考え、環境の影響を免れることができない存在と見なす。このような心理学は、デカルトやニュートン以来の科学思想をそのまま心理学へ当てはめる考えに基づく。一方、アドラーは伝統的な科学思想を離れ、人間にこそふさわしい理論構築をした最初の心理学者である。
 
 

アルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870-1937)アルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870-1937)
出典:ヒューマン・ギルドのホームページ https://www.hgld.co.jp/出典:ヒューマン・ギルドのホームページ https://www.hgld.co.jp/

 

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2019年9月号


 
 
コンサルティングの現場で、最近よく「働き方改革に取り組んでいます」「一人一人の生産性向上に努めています」というフレーズを聞く。現在、企業に最も共通する課題は「働き方改革」と「生産性向上」のようだ。
 
2019年4月から、政府主導による長時間労働の是正、残業時間の上限規制、同一労働・同一賃金、年次有給休暇の取得義務化といった働き方改革が始まった。その経営環境の中、企業は今までより短い時間で業務を遂行しつつ、業績も向上させなければならない。だからこそ、労働の質を改善し、密度を濃くしていく必要がある。「働き方改革=生産性向上」なのである。
 
シンプルに言えば「時間は短く、付加価値はより高く」。実現の鍵を握るのは、生産性の視点からビジネスモデルや社員の働き方、人づくりの在り方をデザインし直すことだ。
 
現在はICT(情報通信技術)を活用することで、産業や業種の壁を超えたソリューションが生まれている。デジタル技術を最大限に利用して新たな仕組みをつくる、あるいはその仕組みを最大限に活用して生産性を向上させること――つまり、旧来の改革とは異なる「カイカク」を図ることが、企業に求められている。
 
タナベ経営では、生産性カイカクには三つのアプローチがあると提言している(【図表】)。これらのアプローチによって生産性を向上させ、自社の社風をもカイカクしていきたい。
 
 
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働き方・制度(仕組み)による生産性カイカク
 
1.5S・見える化
 
5S・見える化は、ムダ取りの代表例である。徹底した「整理」「整頓」で探すムダ、運ぶムダが解消される。また、基本であるワンロケーション、ワンファイルなどの「ワンベスト原則」を実施すると、効果がさらに高まる。
 
2.業務改善
 
最初のステップは業務フローの洗い出しである。顧客や商品・サービスごとに異なる業務フローを把握し、①重複、②過剰、③旧式、④不要の着眼でネックとなる業務(工程)を探し、改善する。システム改善の前に、社内ルールの改定、二重業務や価値の低い業務の改廃による業務時間の圧縮など、効率化できる内容がある。
 
次に、業務内容を洗い出して業務の価値評価を行い、社内マネジメントを確立する。そのためにも、業務の内容を、
 
①バリューアップ業務
十分な時間を費やし、最高のパフォーマンスを発揮するべき業務
 
②スキルアップ業務
業務時間を計画段階であらかじめ確保しておく業務
 
③スピードアップ業務
段取りよくこなして"合理的に手抜き"をする業務
 
④クリーンアップ業務
やめるか、社内外へのアウトソースを検討する業務
 
――に分類する必要がある。
 
3.人事制度改定
 
人事制度の改定も、生産性カイカクの一つである。最近、就業形態は「変形労働」「フレックス」「在宅勤務」「サテライトオフィス勤務」など、さまざまなタイプが登場している。いずれにせよ、企業の特性だけでなく、社員が働きやすい環境をつくり出すことが重要なのだ。
 
人の生産性は、モチベーションによって大きく変わる。個人のスキル活用、モチベーションアップ、生産性の高い社風づくりを目的に、人事制度を見直そう。
 
4.改善活動(チーム・プロジェクトなど)
 
チームやプロジェクトによる改善活動には、多くの企業が取り組んでいる。だが、長続きしなかったり、毎年同じ内容の繰り返しで活動自体が膠着していたりすることがよくある。
 
毎月の成果をモニタリングし、少しでも変化している部分を見つける。効果を見せることで、活動に意義を持たせ、「自分たちの職場は自分たちで改善する」という社風を醸成する。
 
 
 


 
 
デジタルテクノロジー・自動化による生産性カイカク
 
1.RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
 
一言で言うと、「デジタルレイバー」(仮想知的労働者)である。人が行う間接業務の定型プロセスをAIが反復学習し、より効率的な方法で自動的に再現するシステムだ。
 
定期販売商品の見積書作成、経理の月次処理、大量データ入力などの業務は、RPAによって自動化が可能である。ヒューマンエラーを防ぎ、業務処理スピードも圧倒的に上がる。
 
2.オートメーション化(無人化・省人化)
 
単に機械を入れて効率化するのではなく、「本当に人がすべき仕事は何か」を考えなければならない。設備投資は、投資額の大きさゆえにひるんでしまうことも多いが、人材不足や技能伝承、安全性の課題と捉えれば選択肢の一つとなる。
 
重要なのは、「人時生産性」という考え方だ。総労働時間を生産高や加工高、売上高で割る。「作業員1人が1時間当たりでどれだけの仕事をしたか」を示す指標である。機械化・自動化により、どれだけ人時生産性を高められるかが判断基準となる。
 
3.システム構築(生産管理・販売管理)
 
生産管理システムは、注文の変更や営業部門からの納期短縮要望など、生産計画の変更にも柔軟に対応し、生産計画を基に原材料の所要量を算出できるものでなくてはならない。
 
販売管理システムは、見積もりから受注、発注仕入れ、売り上げに至るまでのプロセスを一元化することによって、各部門の業務効率や業務フローの最適化をサポートできるようになっているかが重要である。
 
 
 


 
 
ビジネスモデル改革による生産性カイカク
 
自社のビジネスモデルを改革し、付き合う顧客を決める「ターゲット(顧客)変更」と、一連の流れを改革する「バリューチェーン構築」である。
 
1.ターゲット(顧客)変更
 
現在のビジネスモデルの「ターゲット(顧客)」を変更することで生産性の向上を図る。営業工数やノウハウ蓄積、業務の簡素化などによって、自社全体の生産性を上げるのだ。
 
顧客を、全業界から特定の業界だけに特化したり、個人客から法人客へ変えたりすることにより、業務自体の在り方を変える。
 
2.バリューチェーン構築
 
プロセス(機能)ごとで最大のバリューが発揮されるように仕組みを変え、全体の生産性を上げる。
 
バリューチェーンとは、「顧客にとっての価値を創造する活動」という切り口で事業を分解し、マーケティング、企画開発、営業、調達・購買、製造、物流といった各活動の特徴を正確に把握した上で、それらの活動の連鎖を再構築するフレームワークである。まさに「価値(バリュー)の連鎖(チェーン)」だ。企業の全ての活動が最終的な価値にどう貢献するのかを、体系的かつ総合的に検討し、より競争優位をもたらすにはどのような戦略をとればよいかを導き出す。
 
これからは「生産性向上」ではなく、「生産性カイカク」に取り組んでいただきたい。
 
 

  • タナベ経営
  • 経営コンサルティング本部
  • 本部長代理 戦略コンサルタント
  • 近藤 正晴
  • Masaharu Kondoh
  • トップ・幹部と一体になった経営視点からの生産性改革コンサルティングで幅広く活躍中。組織力を高めるマネジメントシステムの構築を通じ、人材の育つ社風と進化し続ける企業づくりを推進、多くの実績を持つ。「全ては基本動作から」を信条に、現場主義の取り組みで、社員のモチベーションアップや営業力強化を実現している。生産性カイカク研究会リーダー。
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