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今週のひとこと

人あることを知らず、能力ある人を
活躍させず、人材不足を嘆いてはならない。
不足しているのは経営者自身の度量である。

部下の「意欲」と「能力」を把握していますか?

最近、ある管理職の方からこんな相談がありました。「若手社員の育成がうまくいかない。複数の若手社員に勉強会も行っているが、営業成績が上がらない。どうしたものか」。
 部下育成と言っても、人それぞれ知識や考え方など、バックグラウンドが異なるため、教える内容は同じであったとしても、部下に合わせて個々に対応しなければなりません。
 加えて、成果を上げさせるには、部下の「意欲」と「能力」を高めていくことも必要です。そこで、まず、意欲と能力の高低を尺度に、部下を大きく四つに分類し、どこに当てはまるかを考えてみることにしました。

 1.意欲も能力も高い
 2.意欲は低いが、能力は高い
 3.意欲は高いが、能力は低い
 4.意欲も能力も低い

 次に、1~4の分類に合わせて、次の対応を決めました。

 「1」は、自ら道を切り開いていけるため、仕事の進め方を「任せ
   る」ことにしました。
 「2」は、「刺激と活躍の機会を与える」ことにしました。営業ツ
   ール開発の社内プロジェクトに参画させるなど、能力をより
   発揮できるチャンスをつくることにしました。
 「3」は、動きたくても動き方が分からないという課題がありまし
   た。勉強会において、より丁寧に説明をし、また質問を受け
   る機会を設け、能力を高める取り組みを行いました。
 「4」は、全面的なフォローが必要であったため、毎週、個別に面
   談時間を設けることにしました。より具体的に詳しく説明し、
   手取り足取り教えることにしました。

 これらのアプローチで約3カ月間、育成に取り組んだ結果、部下のスキルは飛躍的に向上し、全員が個人目標を達成するという結果を残すこととなりました。特に、著しく成長が見られたのは、「2」の「意欲は低いが、能力は高い」部下でした。もともと能力は高かった ため、活躍の機会を得たことでモチベーションが高まり、能力が開花したのです。

 部下育成にお悩みの方は、部下の「意欲」と「能力」を整理して考え、「個別に対応する方法」を考えてみてはいかがでしょうか。

経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント
大裏 宙

CONSULTING METHOD

働き方改革の本質は「見える化」を活用した"実行力"にあり!

【図表1】実行力強化ステップ 201909_01_method_01

PDCAの見える化で実行力を強化

決めたことが守られない、結果として成果が出ない――。このような課題を抱える企業は多い(皆さまはいかがだろうか)。

私はかねてより、「戦略は二流でも、実行力が一流の企業が生き残る」と提言している。不確実性の高い今の時代に必要なのは、まさに「実行力」である。

ここで留意いただきたいのが、「行動力」と「実行力」は違うということだ。行動力とは、「目的のために積極的に行動する力」。実行力とは、「計画などを実行に移し、達成する力」である。いずれも行動を起こすことが大前提だが、単に動いているか、計画を達成するかという本質的な違いがある。成果の出ない行動は無駄であり、逆にやらない方がよい。

例えば、PDCAサイクルを回そうと動いているつもりでも、実際にはまったく回っていないことがよくある。よくある症状が「PPPP病」。一般にPDCAサイクルは「計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)」という4段階を指すが、計画を実行に移す力が足りず、計画を作ることに満足して計画倒れで終わってしまう。計画策定が"目的"になっている人がいる。

もう一つは「PDPD病」。計画を行動に移すが、振り返りや改善がなく結果として成果が出ない。「とにかく何も考えず走ってみろ!」「行動すれば、その先に必ず何か得るものがある」という精神論で、「頑張る」の意味をはき違えている(そんな時代はもう終わっている)。

これら二つが、実行力未発揮の代表的な症状である。【図表1】を参考に、真の実行力強化を図っていただきたい。

【図表2】生産性の方程式 201909_01_method_02

「働き方改革」突破口は"生産性の見える化"にあり

「働き方改革」への取り組みが進む中、企業は"残業ゼロ"で今まで以上の成果(業績)を上げる必要が出てきた。ただ、経営陣も従業員も「総論賛成・各論反対」というのが本音ではないだろうか。

反対する理由はさまざまであるが、その多くは「どうすればよいのか分からないから」。すなわち、具体的な方法が見えないからだと思われる。ここで「見える化」の手法が大いに活用できる。見える化とは、「問題点を可視化して課題解決する手法」だからだ。

働き方改革の観点で考えると、まず生産性を定義する必要がある。生産性とはインプット(経営資源)とアウトプット(成果)のバランスであり、高い方が良い。そこで「総労働時間」を、「主体業務時間」(成果を出すための業務を行っている時間)と「付帯業務時間」(それ以外の業務を行っている時間)に分類すると、【図表2】のように表せる。

超過勤務時間(いわゆる"残業")を含む総労働時間に対して主体業務時間の割合が低い場合は、組織・マネジメント・オペレーションに課題がある。一方、主体業務時間に対して成果(業績)の割合が低い場合、ビジネスモデル(事業の仕組み)自体を見直す必要がある。

次に、それぞれの課題について見える化を行っていく。

(1)組織・マネジメント・オペレーション

こちらは業務フローやマネジメント、人材育成といった課題に区分されるが、特に見える化すべきは「業務フロー上の問題」である。

一連の業務で、不要な工程や非効率な工程が改善されずに放置されていることが多い。例えば、高付加価値の創造を期待されている人材が、付加価値の低いルーティン業務を担当しているなど、業務改善が行われていない。このような企業においては、役割分担が不明確であり、ミスが発生した場合の責任の所在や原因分析も曖昧である。

これを見える化するには、現状認識、すなわち業務の棚卸しが必要なことは言うまでもない。重要なポイントは、「幹」(全体像)から洗い出しを行うことである。"枝"(個別の業務、タスク)から議論すると、抜けや漏れが出て部分的な改善となる。ネックとなる工程はタスク単位よりも工程間のつなぎ目で起こることが多いからだ。

(2)ビジネスモデル

企業間のシェア争いが激しい、または特定顧客への依存度が高い収益構造で付加価値を維持するには、「量」の増加が必要となるため、長時間労働が発生しやすい。このような企業は、社長や経営幹部などトップ自身が目先の利益確保に追われ、ビジネスモデルを転換しにくい(転換を考える時間がない)。しかし、そのままでは「働けど働けどなお我が暮らし楽にならざり」(石川啄木)という負のスパイラルに陥ってしまう。

ここでも見える化が役に立つ。手法としては、「ビジネスモデルキャンバス」(【図表3】)が有用である。これは、ビジネスモデルをパートナー、主要活動、リソース、価値提案、顧客との関係、チャネル、顧客セグメント、コスト構造、収益の流れという九つの要素に分けて整理するものだ。複雑に絡み合ったビジネスモデルを"因数分解"し、可視化を試みれば各構成要素の相互関係を理解することができる。

改善・改革の"一丁目一番地"は現状の見える化に他ならない。ここを正しく実施しない限り、行動しても成果が出ず、実行力も不十分となる。現状を正しく捉え、膿を出し切ることで実行力が磨かれる。

見える化手法の活用が、実行力を強化するためには非常に重要であることをお伝えしてきた。しかし、紙やホワイトボードに記入する従来のやり方では、作業負荷や管理コストがかかって中途半端に終わったり、記入と更新が目的となってしまったりするケースもある。

【図表3】 ビジネスモデルキャンバス(BMC) 出典:アレックス・オスターワルダー&イヴ・ピニュール著、小山龍介訳『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』(翔泳社)を参考にタナベ経営作成
出典:アレックス・オスターワルダー&イヴ・ピニュール著、小山龍介訳『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』(翔泳社)を参考にタナベ経営作成

アナログとデジタルの融合による見える化で効率化

手書きで更新した進捗管理ボードの前でチームミーティングを行い、現状の課題と要因、対策を検討するなど、「全員参加活動」としての運用は大いに進めていただきたい。しかし、その判断の基となる業績資料の作成や更新、マーケットデータの収集などは自動化、効率化すべきである。つまり、アナログとデジタルが有機的に結合した、「進化型の見える化」に挑戦していただきたいのだ。

具体的な手法としては、AI、IoT、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などがある。RPAとは、ロボット技術を活用して単純なオフィスワークを自動化するテクノロジーだ。付加価値の低い定型業務を、24時間ミス知らず、疲れ知らずのデジタルレイバー(知的仮想労働者)に移すことで、本来、人が行うべき付加価値創造業務に時間を投下することが可能となる。

もっとも、先端技術を活用するといっても、あくまで基本はアナログ的な活動による全員参加の体質化である。どんなに優れたITツールが生み出されようと、それを使うのは人だからだ。業務の見える化を徹底し、正しいプロセスへ改善した上で、システムを導入する。属人化したプロセスを自動化しても、失敗するだけである。

なお、タナベ経営ではRPA導入支援事業を展開するキューアンドエーワークス㈱(以降、QAW)と提携し、RPAを活用した業務改善コンサルティングサービス「Robo Working」を共同開発した。中堅・中小企業の煩雑なオフィスワークに対し、タナベが業務フローの課題の洗い出しと改善計画を策定。その改善プロセスに沿って、QAWがRPAによる業務自動化を支援し、アナログとデジタルの両面から生産性向上に資する。

私の経験上、実行力のある企業は、アナログとデジタルの活用バランスが実に素晴らしい。自社なりの"黄金比"を持っており、日々の業務の中でPDCAを回して、継続的に改善を図っている。そのポイントを三つにまとめると、

①目的と手段を見失わないこと ②行動し続けること ③やりっぱなしにしないこと

――となる。この三つは、成果を出すための実行力強化のシンプルなツールである。働き方改革、イノベーションで大いに活用いただきたい。

タナベ経営 経営コンサルティング本部 本部長代理 チーフコンサルタント 武政 大貴 Hirotaka Takemasa

中期ビジョン、経営戦略~経営計画の策定、企業再生・再建支援コンサルティングにより、数多くの企業成長、収益体質改善を達成。また5S・VM活動支援においては、経営視点からの企業体質改革を実現している。現実・現場・現品主義を信条とする行動派コンサルタント。中央大学法学部卒業。経営の見える化研究会リーダー。  

MARKET STATS

「見える化」に潜む"見られる化"
3人に1人が「退職した職場の共有ファイルにアクセスできる」と回答

日本の製造業で「現場のデジタル化」が進んでいる。経済産業省がこのほど公表した2019年版「ものづくり白書(製造基盤白書)」によると、生産現場でのデジタル化に取り組んでいる企業(取り組む意向がある未着手企業を含む)の割合は86.1%に上るという。(【図表1】)


※経済産業省「2019年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」

また、デジタル化によって収集したデータの利活用も進んでいる。製造工程における機械の稼働状態の「見える化」やトレーサビリティー(生産履歴の追跡)管理など、収集データを具体的な用途に活用している企業の割合が、過去3年間で増加傾向を示している。

だが、こうしたデジタル主導の見える化が進むにつれ、「(見せたくない情報を)見られる化」のリスクが高まっている。

ロシアの情報セキュリティー大手・カスペルスキー研究所が世界14カ国のビジネスパーソン7000人を対象とした調査(2019年5月)によると、企業内でデジタル化された雑多なドキュメント(書類)が整理・整頓されず、積もり積もったデータ(デジタルクラッター)となってさまざまな混乱を引き起こしているという。(【図表2】)


※Kaspersky Lab「デジタルクラッター 職場におけるデータの溜め込みを整理する」(2019年5月)

例えば、33%のビジネスパーソン(日本では34%)が、退職した職場の共有ファイルや共同作業向けサービス、メールに「いまだにアクセスできる」と回答した。これはデジタルクラッターが適切に削除されず、またファイルの共有や共同作業をするサーバーへのアクセス権の管理も不十分だったことが原因だ。

同調査では、業務でファイル共有や共同作業向けサービスを使う人(5866人)のうち、退職者やプロジェクトから外れた人のアクセス権を削除すると回答した人は43%(日本は30%)を占めた。また、37%(日本は14%)の回答者が、社内の機密情報(同僚の給与・ボーナスや口座情報、パスワードなど)を共有文書やファイル類、メールなどから偶然見てしまったことがあると答えた。

こうしたあふれ返るデータに対し、従業員の大部分(80%)は自分で作成したかどうかにかかわらず、適切な管理を保証する責任を感じていなかった。その一方で、従業員の72%は個人を特定できる情報や機密データ(名前・住所・メールアドレス・生年月日・金融情報など)が含まれる文書を保存していたという。

職場のデジタル化と見える化の進展により、クラウド環境や社内サーバーに保存データがため込まれていく。保護すべき重要なデータが、会社のコントロールが及ばないところに出回るリスクが高まる半面、データの保護責任に欠けている人が多いという現状に、同社は懸念を示す。

ところで、データをため込む可能性が高い人は、どのような性質を持つ人なのだろうか。同社によると、従業員の日常生活の中にはファイルや文書、データの整理状態と相関関係を持つと考えられる習慣が見られるそうだ。

調査結果によると、「自宅の冷蔵庫が片付いている人の95%は、業務で使うデータも整理できている」ことが分かったという(【図表3】)。一方、冷蔵庫に入っている品物の存在に気付かず、同じものを再び買ってしまった人のうち66%は、「職場でファイルや文書を探すのが難しい」と感じていた。


※Kaspersky Lab「デジタルクラッター 職場におけるデータの溜め込みを整理する」(2019年5月)

職場の机上やキャビネットの中はきれいでも、個人のパソコンや社内サーバーの中まで整理・整頓されているとは限らない。社内のデジタルデータの見える化が、きちんと管理・統制されているか。生産性を維持しつつ、サイバーリスクが抑えられているか。その精度を確かめるためにも、職場に置いてある従業員用冷蔵庫の扉を開け、中身をのぞいてみてはいかがだろうか。

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