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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2019.02.28

「ベンチャー型事業承継」で後継ぎの挑戦を支援:千年治商店 代表取締役 一般社団法人ベンチャー型事業承継 代表理事 山野 千枝氏 × タナベ経営 若松 孝彦

後継者が主役となるベンチャー型事業承継

 

若松 家業を継ぐと好きな仕事ができないと感じている学生は多いでしょうが、決してそんなことはありません。むしろ経営資源がある分、事業承継はベンチャーよりも恵まれた環境にあるとも言えます。事業の寿命は30年ですから、挑戦しなければ企業は生き残れません。本来の事業承継は、山野さんが掲げるベンチャー型事業承継にとても近いように思います。

 

山野 おっしゃる通りです。事業承継のネガティブなイメージは世の中が勝手につくり上げているだけ。跡取り社長が主導権を握って自分が熱狂できるビジネスに家業を寄せていくことは十分に可能です。

 

言葉は悪いかもしれませんが、「親の会社を乗っ取ってしまおう!」というくらいの意気込みを持って挑戦してほしいと思いますね。もちろん、会社の経営資源を使う以上は後継者として、新しい価値を生み出す使命はありますが、「経営資源を使って何をしよう」と考えた途端に、“野心スイッチ”が入ることは確かです。

 

若松 社長の仕事は新しい何かを生み出すことであって、引き継ぐことではありません。新規事業には失敗がつきものですが、若いうちの失敗は成功の種になる。その意味でも早い段階で挑戦することが重要です。山野さんが設立された一般社団法人ベンチャー型事業承継の「34歳以下」という参加要件には共感しますね。私たちの経験でも経営者のリーダーシップという「志」は、35歳までの「出会い」や「学び」で決まります。

 

山野 35歳を過ぎるとダメということはありませんが、若いうちに挑戦した方が、メリットは大きいと思います。関西でベンチャー型事業承継の成功事例を集めていくと、そのほとんどの跡取り社長が20歳代後半で新規事業を始めています。経験が少ない分、失敗を恐れずに挑戦できる点は彼ら・彼女らの強みです。

 

また、今の35歳より下の世代は、学生時代からインターネットを使いこなしていた「デジタルネイティブ世代」であり、業種の枠が崩れた後に社会に出ているため慣習にとらわれない自由な発想ができます。このため、程遠いように見える2つの要素を結び付ける能力に長けているように思います。加えて、親世代となる60歳代の経営者は大きな環境変化を経験しており、新規事業の必要性を感じていることもベンチャー型事業承継に向いている理由ですね。

 

 

後継者が新規事業を開発して会社を再生させた事例は
まさにベンチャーです

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「アトツギはカッコイイ」を広げたい

 

若松 ベンチャー型事業承継では親子承継を基本としています。同族承継にこだわる理由はどこにあるのでしょうか。

 

山野 事業存続の執念を誰よりも持てるのが、家業が生み出した利益で大きくなったという自覚を持っている「アトツギ」たちです。M&Aは最終手段に取っておいて、まずは同族承継ができないかについて検討してみていただきたいと痛切に思います。

 

若松 その自覚を持っているかどうかは大きいですね。また、会社が培ってきた歴史やストーリーは独自性が高いですから、M&Aで失われてしまうのは非常にもったいない。さらに、M&Aによる事業承継の問題は個々の企業だけにとどまりません。コンサルティングの現場から見えてくるのは、特に地方の企業がM&Aで数を減らしている現状。企業が減少すれば地域経済はおのずと小さくなり、地方の疲弊に拍車がかかっています。

 

山野 同感です。ここ数年の間でM&Aの流れはますます大きくなっているため、同族承継を諦める風潮が広がってしまわないかと危惧しています。仕事柄、事業承継セミナーに講師として呼んでいただく機会がありますが、ほとんどはM&Aをテーマとするイベントです。つい先日も、同様のセミナーでベンチャー型事業承継について講演したところ、終了後にある食品メーカーの社長さんが声を掛けてくださいました。「会社を売ろうと思って情報収集に来たけれども、講演を聴いてもう一度、息子と話してみることにした」とのこと。うれしかったけれども、同族承継の可能性がある会社であっても、初めから無理だと決め付けている人が多いことをあらためて感じました。

 

若松 事業承継についてのコミュニケーションが親子間で不足していることも問題を深刻化させています。ベンチャー型事業承継がもっと社会に浸透していけば、若い世代の家業への理解や興味が高まりコミュニケーションのきっかけになり得ると思います。

 

山野 同族経営は日本企業のスタンダードですから、その中からシンボリックな事例がいくつか出てきてベンチャー経営者のように注目される社会になれば、若い世代の見方が大きく変わるはずです。そうした跡取り社長に影響を受けて、会社を継ごうと思う人が数パーセントでも出てきたら世の中は確実に変わります。すでに資源があり、信用があり、歴史やストーリーを持っていますから、ベンチャーとして起業するよりも成功する確率は高いと思いますよ。起業家に注目が集まることは良いことですが、同じように後継ぎが注目されてカッコイイと認められる社会になるように活動を広げていきたいと考えています。

 

若松 企業が生き残っていくには、過去にとらわれずに変化するビジネスモデルのトランスフォーメーション(=変身)が必要です。跡取り経営者が新たな分野に挑戦するベンチャー型事業承継は、深刻化する後継者問題に光明をもたらすだけでなく、イノベーションを起こすパワーを大いに秘めている点からも期待が膨らみます。ベンチャー型事業承継が社会に広がり、優れた跡取り社長がより多く輩出されるように私たちもサポートしていきます。本日はありがとうございました。

 

㈱千年治商店 代表取締役
一般社団法人 ベンチャー型事業承継 代表理事
山野 千枝(やまの ちえ)氏

歴史を活用したブランディング、社史制作を手掛ける千年治商店を2016年に創業。大阪市経済戦略局の中小ベンチャー支援機関「大阪産業創造館」では事業部長やビジネス情報誌の編集長を歴任。多くの企業取材に携わる中で、同族承継の優位性に注目。近畿経済産業局の政策提言では、全国で初めてベンチャー支援の対象に中小企業の若手後継者を定めたアクションプランを提言し話題となる。2018年には、若手後継者の新規事業開発支援を行う「一般社団法人ベンチャー型事業承継」を設立、代表理事に就任。

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

PROFILE

  • ㈱千年治商店
  • 所在地:〒659-0074 兵庫県芦屋市平田町2-7-706
  • 設立:2016年
  • 資本金:600万円
  • https://1000nenji.com/

 

 

 

 

 

 

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