緊急提言 Vol.3 We are Business Doctors――
今こそ、経営者リーダーシップの発揮を
タナベ経営 若松 孝彦

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2020年7月号

 

 

1.「染後経済」が始まる
――感染後の休業不況を乗り越える

 

世界経済は引き続き不安定化しています。特に、世界経済に大きな影響を与える米国の雇用情勢が急激に悪化。米労働省が発表した2020年4月の非農業部門雇用者数(速報値)は前月比2050万人減と史上最大の減少で、失業率も前月比10.3ポイント増の14.7%と急上昇し、戦後最悪の水準となりました。

 

失業保険の新規申請件数も、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した3月中旬以降の7週間で合計3300万件を超え、米国人の5人に1人が職を失った計算になります(米労働力人口は約1億6000万人)。米国が構造不況に陥りつつあります。

 

日本経済も深刻です。内閣府が5月18日に発表した1~3月期の実質GDP(国内総生産、1次速報値)は、前期比年率で3.4%減と2四半期連続のマイナス。4~6月期はさらに悪化し、同20%以上減と予測している調査機関もあります。

 

4月の訪日外客数(推計値)は2900人、前年同月の1000分の1(99.9%減)にまで減りました。ここ数年、国内消費をインバウンド(訪日外国人観光客による消費)でカバーしていた経済の回復は、2019年10月の消費増税も重なり、遠いと言わざるを得ません。百貨店などの流通業も危機的状況に追い込まれます。ホテル、旅館などの観光産業も同様でしょう。

 

5月にはアパレル大手のレナウンが民事再生法の適用を申請しました。東京商工リサーチによると、4月の倒産件数は743件(前年同月比15.1%増)。本格的に増えるのはこれからです。本誌2020年5月号「緊急提言Vol.1」で申し上げたように、資金繰りは経済ショックの3カ月から6カ月後(コロナショックの場合は5月から9月)に最悪となるからです。

 

短期的に見れば、2021年7・8月に開催を延期した東京オリンピック・パラリンピックが開催できるように、あらゆる対策を尽くす必要があります。中止した場合、日本経済の回復のゴールは大幅に遠のきます。開催に向けた国民の合意形成と世界への発信が必要です。

 

中期的には2025年の「大阪万博」へとつなぐ、復活のグランドデザイン(日本の新中期ビジョン)を再策定することです。そのためにも「日本モデル」と呼ばれるような医療や感染予防体制が必要です。

 

ただ、今回の不況の起点が、戦争・紛争、金融危機、産業構造にはないことも事実です。本誌6月号「緊急提言Vol.2」で述べたように、私はコロナショックを「休業経済不況」と定義しています。世界中の国や地域が、経済を意図して止めざるを得なかったという現実から生まれた不況です。

 

したがって、新型コロナウイルス感染症の治療薬開発が待たれる今、経済回復にとって最も効果的な治療薬は「経済再開」であり、感染予防に万全を期しながら「経営を止めない、経済を止めない」ことしかないのです。完全休業し続ける国や地域、業種、会社、生活、教育は、例外なく崩壊します。

 

「感染で失われる命」と「経済不況によって失われる命」、さらには「自然災害や他の病で失われる命」は対立や選択の関係にあるのではなく、同じ「大切な命」です。どのような時代であっても、できるだけ多くの命が救われなければなりません。パンデミック(感染症の世界的大流行)は、今もアフリカ、南米、東南アジアなどで拡大しています。その中で、戦後ならぬ「染後経済」が始まるのです。

 

「朝の来ない夜はない」。人類は英知を結集してウイルスと共存する「withコロナの時代」を受け入れ、感染予防に徹底して取り組み、命を守りながら、経営や経済の段階的な再開とイノベーションによって、より多くの命を救うことを目指さなければなりません。

 

 

2.ニューノーマルという日常
――より多くの命を救うために

 

戦後最悪のパンデミックと休業経済不況の衝撃は、「パラダイムシフト(社会的な価値観の変容)」によって「ニューノーマル(新たな常識、新たな常態)」な社会や日常を出現させました。コロナショック以前には戻れません。より多くの命を救うために、私たちはニューノーマルな社会を受け入れるしかないのです。

 

【図表1】の事象は、私が考えるパラダイムシフトの一部です。「社会生活」「企業経営」「政治経済」「人材教育」などの変化を加速させるには、民間企業の経営者リーダーシップによる「貢献価値」の発揮が不可欠です。

 

 

 

【図表1】ニューノーマルな社会のパラダイムシフト

 

 

 

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